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佐伯悠馬の結婚事情(仮)  作者: 雪森蓮


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その91 「許可/譲歩/鎖つきの救い」

エドワードの譲歩

翌日。


ハミルトン邸は何事もなかったように朝を迎えた。


何事もない顔をするのが貴族だ。

何事もないふりをするのが伝統だ。


ルイスは黙ってパンをちぎっていた。


昨夜泣いたことなど、

なかったことにされる空気。


それが一番つらい。



ノアはその隣で、珍しく静かだった。


爆弾が沈黙している。

沈黙は決意の前兆だった。


「ルイス」


ノアが小さく声をかけた。


ルイスが顔を上げる。

目が揺れる。

期待と恐怖が混ざっている。


ノアは一拍置いた。

伯爵の一拍。

父親の一拍。


「……母上に会いに行くか?」


ルイスの手が止まった。


「かあさま……?」


「うん」


ノアは頷いた。


「アメリカにいる」


ルイスの顔がぱっと明るくなる。


すぐに。

すぐに曇る。


「……でも」


「うん」


「おじいさまが……」


ノアは息を吐いた。

爆弾が伯爵になる。


「父上には僕が話す」


その日の午後。

ノアは書斎の前に立っていた。


扉の向こうは静かだ。

静かすぎる。


父の静けさはいつも圧だった。


コツコツ。


ノック。


「入れ」


低い声。

絶対の声。


ノアは入った。


エドワードは書類を読んでいる。


いつも通りの姿。

いつも通りの圧。


「父上」


「何だ」


視線は上がらない。


ノアは一歩進んだ。


逃げない。

今日は逃げない。


「クリスマス休暇の件です」


エドワードの手が止まった。


「休暇とは勉強だ」


反射。

伝統。


いつも通り。


ノアは頷いた。


「承知しています」


伯爵の返事。

だが続けた。


「ですが」


エドワードの視線が上がる。

圧が刺さる。


「ルイスは蘭に会いたがっています」


沈黙。

ほんの一瞬。


家族という言葉は厄介だ。


「蘭はアメリカにいます」


「ルイスは今年、ほとんど会えていない」


エドワードは淡々と言った。


「蘭は帰ってこないのか」


「仕事があります」


ノアは即答した。


「時差越しに出来ることにも限界がある」


エドワードの目が細くなる。


合理の目だ。


「……お前も行く気か」


ノアは一瞬詰まった。


あわよくば行きたい。

だが今日は父親だ。


「父親として同行します」


正解の答えを出した。


沈黙。

長い。

冬の沈黙。


エドワードは変わらない。

劇的に優しくならない。


ただ。


”ほんの僅かに譲る”だけだ。


「条件がある」


ノアの背筋が伸びる。


「はい」


「クリスマスが終わったらすぐ戻れ」


救いに鎖がついた。

最大の譲歩だ。


「休暇は休暇ではない」


「戻ればすぐ再開だ」


ノアは頷いた。

伯爵の頷き。

父親の頷き。


「……ありがとうございます」


エドワードは視線を戻した。

許したようには見えない。


だが。

許可は落ちた。


ノアは書斎を出た。

廊下の空気が少しだけ軽い。


(最大の譲歩だ)


爆弾は知っている。

父上がこれ以上譲らないことを。


一方。


ルイスは階段の下で待っていた。

子供の祈りの顔で。


「とうさま……?」


ノアはしゃがんで目線を合わせた。


「行ける」


ルイスの目が大きくなる。


「ほんと……?」


「母上に会いに行こう」


ルイスは息を呑んで、

次の瞬間。

泣きそうな笑顔になった。


クリスマス休暇は近い。


ルイスは泣かなかった。

泣くのは昨夜で終わった。


今日は笑った。

笑ってしまった。


ルイスの顔がほどける。


「……ほんとに?」


まだ信じていない声。


「ほんとに!」


ノアは頷いた。


爆弾が父親をしている。

ルイスは小さく息を吐いた。


息ができた。

冬の朝に。


でも。

鎖は見えないところで鳴っている。


「クリスマスが終わったらすぐ戻れ」


エドワードの声がまだ残っている。


自由ではない。

救いでもない。

最大の譲歩。


鎖つきの救い。


それでも。

母に会える。


海がある。

家庭教師が遠い。


ルイスの世界は少しだけ広がった。


ルイスは袖で目を擦った。


泣いていない。

泣いていないが。

忙しい。


「準備しよう」


ノアが言った。

軽い声で言った。


軽く言わないと崩れる。


その背中は少しだけ軽い。

勝ったのではない。

譲歩を拾っただけだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方。

合理の女はスーツケースを閉めていた。

ドイツ行きは決定事項。


距離は現実になる。


悠馬だけが遅い。

致命的に遅い。


冬は並走している。


クリスマス休暇は近い。

救いは決まった。

鎖も決まった。


冬はまだ終わらない。






ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

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