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佐伯悠馬の結婚事情(仮)  作者: 雪森蓮


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その90 「叱責/エド/贖罪」

エドワードは拓海に勝てません

通話を切ったあとも、

拓海はしばらく動けなかった。

受話器を置いた机の上が妙に冷たい。


悠馬の声が残っている。


『逆らう選択肢がありませんでした』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


知っている。

知っていた。


知っていたのに。


拓海は目を閉じた。


イギリスに来てからの年月が浮かぶ。


仕事。

社交。

責任。


エドワードから押し付けられたもの。

”迷惑をかけた”と思って引き受けたもの。


その間に、

家庭が薄くなった。

息子が薄くなった。


見てるつもりで、

見てなかった。


結果。


堤防が出来た。

悠馬が立った。


ノアが守られた。

当たり前にしてしまった。


そして今。

”その矢がルイスに向いている”


(繰り返すな)


拓海は低く息を吐いた。


番号を押す。

躊躇はない。

躊躇している場合ではない。


ーーーーーーーーーーーーーー


呼び出し音。


一回。


二回。


『拓海?』


すぐに繋がった。

驚きが混じる声。


エドワードの声。


「エド」


拓海は短く言った。

昔からそう呼ぶ。


友人の呼び方だ。


『どうした』


「話がある」


沈黙。

向こうも察したのだろう。


『……ノアか?』


「ルイスだ」


拓海は淡々と言った。


「泣いてたそうだ」


電話の向こうで空気が止まる。


『……何故』


「お前が比べたからだ」


拓海は感情を乗せない。

乗せたら崩れる。

これは怒鳴る話じゃない。


回収の話だ。


『比べた?』


「悠馬とだ」


数秒。

エドワードが息を吐く。


『事実だろう』


拓海の目が細くなる。


「事実でも言うな」


静かな声。

だが刃がある。


『拓海……』


「エド」


拓海は名前を呼び直した。

それだけで圧が増す。


「悠馬は“出来た”んじゃない」


「出来るしかなかっただけだ」


沈黙。

エドワードが返さない。


「好きでやってたと思うか?」


「楽しく勉強してたと思うか?」


『……』


拓海は低く続けた。


「……あいつの性格もある」


「元々、真面目で」


「黙って抱え込むやつだ」


「だから全部を俺たちのせいにはしない」


そこで一拍。

言葉を選ぶ。


「でも」


拓海の声が沈む。


「そうなる方向に押したのは」


「……俺たちだ」


「一端は確実に」


エドワードは否定しなかった。

出来なかった。


冬の沈黙が落ちる。

責任の沈黙だ。


拓海は続けた。

ここからが贖罪だ。


「俺が止めなかった」


「見なかった」


「仕事を理由に逃げた」


沈黙。

冬の沈黙。


「……正直に言う」


拓海は低く言った。


「俺は優等生が苦手なんだ」


電話の向こうが止まる。

エドワードは言葉を待っている。


「正しくて」


「出来て」


「何も言わなくて」


「崩れない子供を前にすると」


拓海は息を吐いた。


「俺は逃げられると思った」


「ノアは放っとくと爆発する」


「だから俺はノアばっか見た」


「悠馬は爆発しない」


「壊れるだけだ」


声が沈む。


「それを」


「お前が相手にしてるのを」


「俺は放置した」


沈黙。

エドワードの沈黙は重い。


「便利だっただろ」


拓海は静かに言った。


「出来る子供は」


「教材にしやすい」


『拓海……』


「だから今度は止める」


拓海は淡々と言った。


「ルイスに同じことをするな」


『殴ってなどいない』


「同じだ」


「伝説で子供を殴るな」


「比較で子供を追い詰めるな」


長い沈黙。

冬の沈黙。


ーーーーーーーーーーーーーーー


”エドワードは拓海に弱い”


だが拓海は気づいていない。

ただ言うべきことを言っているだけだ。


『……わかった』


ようやく出た声。

少し掠れている。


拓海は息を吐いた。


「わかればいい」


『悠馬は……』


エドワードが言いかける。


「悠馬は俺の息子だ」


拓海は遮った。


「お前の教材じゃない」


沈黙。

電話の向こうで何かが折れる音がした気がした。


『……すまない』


小さな謝罪。

エドワードにしては珍しい。


拓海は答えない。

許す話ではない。

終わらせる話だ。


「クリスマス休暇の話もだ」


「ルイスが母親に会いたがってる」


『休暇とは勉強だ』


反射。


「休暇は休暇だ」


「遊ぶことも学びだ」


拓海は即座に返した。


「子供だぞ」


沈黙。


『……条件付きで許可する』


最大の譲歩。


「条件?」


『クリスマスが終わったらすぐ戻れ』


『戻ればすぐ再開だ』


救いに鎖がついた。

エドワードらしい。


拓海は短く息を吐いた。


「それでいい」


通話が切れた。


拓海は受話器を置いた。


胸の奥が苦い。

勝った気はしない。

ただ。


ようやく前に立っただけだ。


一方。


エドワードは電話を握ったまま動けなかった。


拓海の声が残っている。


『一端は確実に俺たちだ』


事実だ。

事実だった。


だからこそ痛い。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


クリスマス休暇は近い。


最大の譲歩は落ちた。

鎖も落ちた。

冬はまだ終わらない。





ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

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