その7 「馴染むという恐怖」
仕事の日はなかなかアップできないので休日にまとめて載せる癖がついちゃった
エレノア・ローズは、音もなく生活に入り込んだ。
最初の日、僕は完全に借りてきた猫だった。
彼女は何も言わない。
余計な質問もしない。
ただ、淡々と仕事をする。
玄関に積まれていた郵便物は分類され、
キッチンのシンクに放置されていたカップは洗われ、
冷蔵庫の中には“食べ物”が現れた。
食べ物。
久しぶりに見た。
僕は思った。
(……なぜここに食べ物がある)
恐怖だった。
エレノアは僕を見ない。
見ないのに、全部見えている。
「コーヒーだけでは倒れますよ」
淡々。
責めない。
心配もしない。
事実だけを置く。
僕は小さく頷いた。
「……はい」
返事ができただけで偉い気がした。
翌週。
洗濯物の山が消えた。
書類の雪崩が整理された。
寝室のカーテンが開いていた。
朝の光が入ってくる。
それが一番怖かった。
世界が明るい。
僕の生活が、戻ってくる。
戻ってきてはいけない気がする。
崩壊している方が楽だったのかもしれない。
エレノアは淡々と台所に立ちながら言った。
「胃薬、減りが早いですね」
僕は固まった。
「……見ないでください」
「見てません」
「見てるでしょう」
「仕事です」
彼女は振り返らない。
振り返らないのに、逃げ場がない。
そして数日後。
僕は気づいてしまった。
彼女がいると、眠れる。
食べられる。
生活が回る。
恐怖なのに、安堵が混じる。
それが一番まずい。
ノアは笑いながら言った。
『兄さん、よかったね。人間みたいな生活してる』
「殺すぞ」
『エレノアさん、すごいね!』
「お前が言うな」
僕は思った。
整えられるのは、怖い。
でも。
このままでは僕は本当に死ぬ。
生活が戻り始めた瞬間、
仕事の異常さが、より鮮明に見えてきた。
そして僕の中で、何かが限界に近づいていた。
次に爆発するのは、たぶん。
ノアだ。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
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