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佐伯悠馬の結婚事情(仮)  作者: 雪森蓮


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その82 「ちかごろ/距離/気のせいではない」

この二人がくっつくまで何話かかるんだろうと最近考えています

最近。

悠馬は思っていた。


(……距離を置かれている気がする)


もちろん気のせいだ。


業務だ。

上司と部下だ。


距離など変わらない。

合理の世界に誤差などない。


気のせい。

気のせい。

気のせいだ。


そう言い聞かせて、

数日が過ぎた。


そして今朝。

本社の廊下。

曲がり角。


足音。

規則正しい。

無駄がない。

仕事の歩き方。


『エレノアだった』


「おはようございます、佐伯さん」


「……おはようございます」


声はいつも通り。

表情もいつも通り。


完璧に。


なのに。

距離が違う。


紙一枚ぶん。

いや、昨日より少しだけ遠い。


合理の誤差。


(気のせいではない)


悠馬はそこで初めて理解した。

気のせいではない。

”現実”だ。


「……何かありましたか」


口をついて出た。


業務の確認。

合理の言葉。


「いいえ」


即答。


「何も問題はございません」


完璧な返答。

完璧すぎる壁。


悠馬は頷いた。


「承知しました」


それで終わる。 

終わるはずだった。


ーーーーーーーーーーーーーー


すれ違う瞬間。


悠馬の喉が詰まった。

言いかけた。


やめた。


言う理由がない。

聞く理由がない。


エレノアは歩き去った。


距離を保ったまま。

合理のまま。


悠馬だけが立ち尽くした。


(……なぜ)


(困る)


(困る理由がわからない)



胃が痛い。

いつも通りだ。

いつも通りのはずだ。


そのとき。

最悪の声。


「兄さーん!」


爆弾だった。

ノア・ハミルトンが現れた。


伯爵の顔。

爆弾の笑顔。

反省ゼロ。


ノアは悠馬の顔を覗き込む。


「兄さん」


「……何ですか」


「最近さ」


一拍。


「エレノアさんに距離置かれてない?」


悠馬が死んだ。


「……は?」


声が裏返った。

やめろ。

爆弾が正解を引くな。


ノアは首を傾げる。


「兄さん、なにかしたの?」


悠馬は即答した。


「してません」


即答すぎた。

怪しい。


ノアの目がきらきらする。


「あ、即答」


「してません!」


「即答って怪しいよね」


「怪しくありません!」


「怪しい」


爆弾が楽しそうだ。


悠馬は胃を押さえた。


「……ノア」


「なに?」


「黙れ」


「ひどい!」


世界は早い。

爆弾は最悪に早い。


悠馬は遅い。

致命的に遅い。





ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


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