その81 「10月/静けさ/また今日も」
40代半ばの超純情男?は世間的にどうなんでしょうか。
10月。
ロンドンの夜は早く冷える。
窓の外は静かで、
夏の喧騒が嘘みたいだった。
ドイツの出張は終わった。
噂も、一応は落ち着いた。
爆弾も、一応は封じられた。
仕事はいつも通り回り、
本社のフロアも平常運転に戻った。
合理。
秩序。
静けさ。
……静けさ。
悠馬はそれが苦手だった。
忙しい時は考えなくて済む。
胃が痛いのはいつも通りだ。
世界は勝手に進む。
自分も勝手に動く。
それでよかった。
なのに。
静かになると。
遅れてくる。
(……なぜ今さら)
悠馬はベッドの中で目を開けた。
時計は深夜。
枕元には胃薬。
いつも通り。
完全にいつも通り。
そして。
スマホ。
(……また今日もやっている)
悠馬は思った。
昨日も。
一昨日も。
多分、その前も。
”夏が終わってからずっと”
眠れない理由が、
胃だけではなくなってから。
悠馬は静かにスマホを取った。
検索窓を開く。
手が止まる。
止まるが動く。
結局動く。
(あるいは友人がいれば聞けたのかもしれない)
でも。
悠馬には友人がほとんどいない。
同僚はいる。
部下はいる。
爆弾もいる。
でも、親しい友人はいない。
だから。
検索するしかない。
また今日も。
悠馬は慎重に打った。
『恋とは』
検索。
画面に答えが溢れる。
「特別に思う感情」
「一緒にいたい気持ち」
「落ち着かない状態」
悠馬は眉を寄せる。
(落ち着かない)
それは胃だ。
いつもだ。
恋ではない。
次。
『部下 上司 気になる』
検索。
「職場恋愛」
「好意」
「距離感に注意」
悠馬は即座に画面を消した。
(違う)
(業務上の観察だ)
(合理だ)
昨日も同じことを言った。
さらに。
『心拍数 上がる 原因』
検索。
「ストレス」
「緊張」
「睡眠不足」
悠馬は静かに頷いた。
(ストレスだ)
(爆弾のせいだ)
(胃のせいだ)
(合理的に説明がつく)
昨日も同じ結論だった。
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安心する。
……はずだった。
なのに。
閉じても残る。
名前が。
困った顔が。
「承知しました」
承知していない顔が。
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悠馬は布団をかぶり直した。
四十代が。
布団をかぶり直した。
(……なぜ今さら)
(恋ではない)
(恋ではないはずだ)
(そもそも恋とは何だ)
胃が痛い。
心も少し痛い。
検索結果にはまだ載っていなかった。
そして多分。
明日も載っていない。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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