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佐伯悠馬の結婚事情(仮)  作者: 雪森蓮


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その76 「言われない/困る」

更新話数と頻度、落としたほうがいいのかなぁ、、もし見ている方がいらっしゃったら教えていただけると嬉しいです。何日おきに何話くらいが適切なのでしょうか・・・_| ̄|○

噂はまだ完全には消えていなかった。


燃え上がることはない。

ただ、薄く漂い続ける。


煙のように。


ーーーーーーーーーーーーーーー


佐伯悠馬は机に向かっていた。


書類。

決裁。

数字。


すべて正常。

胃だけが異常。


いつも通りだ。

いつも通りであるはずだった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


控えめなノック。


「失礼いたします」


入ってきたのはエレノアだった。


整った表情。

整った距離。

淡々とした声。


部下として完璧な温度。


「佐伯さん。ルイス様の件ですが」


胃が反射で縮む。


「……はい」


「社交界の方は落ち着きつつあります」


「そうですか」


助かった。

……はずだった。


エレノアはそこで言葉を切った。


資料を持ったまま、ほんの一拍。

何か言いたそうに見える沈黙。


(……来る)


悠馬は内心で身構えた。


(身辺整理)


(またその話だろう)


(また言わされるんだろう)


胃が先に痛む。


でも。


エレノアは言わなかった。


噂の話を続けない。

合理を積まない。


ただ、悠馬を見ている。


悠馬の方が耐えきれず視線を逸らした。


沈黙が妙に長い。

仕事の沈黙ではない。


そして。


彼女が静かに言った。


「……佐伯さん」


「はい」


「お顔が青いです」


悠馬の脳が止まった。



噂ではない。

整理でもない。

胃薬でもない。


顔色。

人間の話だ。


「……いつもです」


反射で返す。

逃げるための言葉。


エレノアは淡々と首を振った。


「いつも、では困ります」


困る。

困る?


なぜ。


その一言が胸に落ちた。


合理ではない形で残る。


悠馬は何か言わなければと思った。


礼か。

否定か。

冗談か。


分からない。

言葉が出ない。


エレノアはすぐに距離を戻した。


「では、失礼いたします」


静かに出ていく。

ドアが閉まる。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


ドアが閉まる。


残る沈黙。

残るのは噂ではなく、


言われなかった言葉と、

余計な一言だった。


(……困る、って何だ)


悠馬は胃薬を握りしめた。


(関係ない)


(部下だ)


(仕事だ)


(合理だ)


そういうことにしておく。

そういうことに――


ーーーーーーーーーーーーーーーー


次の瞬間。


乱暴なノック。

叩き割る勢い。


嫌な予感しかしない。


「……はい」


ドアが開く。


ノアだった。


にこにこしている。

最悪だ。


「兄さん!」


「帰れ」


「ひどい!」


「爆弾は帰れ」


「爆弾じゃないよ!」


「爆弾だ」


悠馬は即答した。


ノアはまったく気にしない。

気にしろ、すこしは。


「ねえ兄さん、聞いた?」


「聞きたくない」


「噂!」


「聞きたくない」


「落ち着いたんだって!」


「……そうらしいな」


悠馬は低く返す。

落ち着いた。


落ち着いたのに胃が痛い。


ノアは嬉しそうに続けた。


「よかったね!」


「よくない」


「え?」


「よくない」


「なんで!」


「なんでだと思う」


「兄さんが胃薬を増やしたから?」


「殺すぞ」


ーーーーーーーーーーーーーーー


ノアはきらきらしている。

何も見えていない。


最悪だ。


「でもさ!」


ノアが身を乗り出す。


「社交界ってほんと暇だよね!」


「お前が言うな」


「僕は忙しいよ!」


「爆弾は忙しくするな」


「爆弾じゃないって!」


「爆弾だ」


悠馬は譲らない。


ノアは急に声を潜めた。


「ところで兄さん」


嫌な予感しかしない。


「何だ」


「エレノアさん、さっき出ていった?」


悠馬の胃が跳ねた。


「……仕事だ」


「ふーん?」


その顔をやめろ。


「兄さんさ」


ノアがにやにやする。


「最近ちょっと顔色悪いよね」


悠馬が固まる。


同じことを言うな。

刺さる。

余計に刺さる。


「……いつもだ」


「いつもじゃ困るよ」


ノアがさらっと言った。


悠馬の脳が止まった。


「……は?」


「だって兄さん死にそうじゃん」


「死なない」


「死ぬよ」


「死なない」


「死ぬって!」


軽い。

軽すぎる。


なのに。

同じ言葉が重い。


ノアは何も知らずに笑った。


「兄さん、ちゃんと休みなよ!」


「お前が言うな」


「俺、優しい弟だから!」


「爆弾だろ」


「爆弾じゃない!」


「爆弾だ」


悠馬は胃を押さえた。

ノアは満足げに頷く。


「ま、噂も落ち着いたし」


一拍。


「これで兄さんも安心して恋できるね!」


「黙れ」


即答だった。


「恋ではない」


「えー?」


「恋ではない」


「じゃあ何」


「仕事だ」


「仕事で顔色困るって言われる?」


「言われてない!」


「言われてるじゃん!」


「違う!」


「兄さん、かわいいね!」


「殺すぞ」


悠馬は椅子に沈み込んだ。


爆弾は空気を読まない。


世界は速い。

噂は速い。

爆弾は速い。


そして自分だけが遅い。


胃が痛い。

いつも通りだ。


……いつも通りで、困る。


ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

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