その68 「相談/言えない相手」
悠馬よ。。何故そっちに行く
カードを握ったまま、悠馬は固まっていた。
明日。
夕食。
私邸。
『レオン・フォン・ヴァイスハルト』
地元の頂点。
そして。
エレノアの元夫。
(……相談すべきだ)
悠馬の理性が言う。
(エレノアさんに)
(上司として)
(部下として)
(業務として)
正しい。
正しいのに。
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悠馬の喉が詰まった。
(元旦那)
その単語が胃に落ちる。
重い。
意味が分からない重さだ。
(……どこへ行くんだろう)
昨日も思った。
私用。
外す。
誰と。
なぜ気になる。
”意味が分からない”
悠馬は首を振った。
(関係ない)
(仕事だ)
(僕はただの上司だ)
自分で自分に言い聞かせる。
効かない。
悠馬はカードを裏返した。
端正な文字。
余裕。
圧。
『断れないやつ』
(……凛)
爆弾処理班。
拳の人。
今もホテルにいる。
相談するなら――
あの人だ。
違う気もするが。
悠馬は廊下に出た。
エレノアの部屋の前で一瞬止まる。
ノックしそうになる。
指が浮く。
そして。
下ろす。
(……言えない)
理由は分からない。
分からないのに言えない。
ーーーーーーーーーー
悠馬は反対方向へ歩いた。
凛の部屋。
ここは安全ではないが確実だ。
ーーーーーーーーーーーーーー
ノック。
即座にドアが開いた。
凛だった。
早い。
「悠馬」
「……凛」
名前を呼ばれるだけで胃が縮む。
部屋の中ではカイルがソファに座っている。
コーヒーを飲んでいる。
平和そうだ。
場違いだ。
凛が眉を上げる。
「どうしたの」
悠馬はカードを差し出した。
「……これが来ました」
凛が目を通す。
一秒。
二秒。
そして。
目が冷える。
「私邸」
「……はい」
「夕食」
「……はい」
「元旦那」
単語の並べ方が怖い。
カイルが顔を上げる。
「Amazing…」
「黙って」
「Yes…」
即停止。
凛が悠馬を見る。
「行くの?」
「……断れますか」
「断れると思う?」
「……思いません」
即答だった。
凛はため息を吐いた。
「あなた、本当に」
一拍。
「爆弾がいないと余計なものを拾うわね」
「拾いたくて拾ってません」
「拾ってる」
確定。
悠馬は小さく言った。
「……本当は、エレノアに言うべきなんでしょうけど」
「けど?」
凛の目が鋭い。
悠馬は視線を逸らした。
「……部下ですから」
「部下?」
「僕が上司なのに、元旦那の話を振るのは…」
言葉が詰まる。
「業務でもないのに」
凛が一拍置く。
「つまり」
「……変に意識してるみたいで嫌なんです」
凛が無言になる。
カイルも無言になる。
空気が一段階変わる。
凛が静かに言った。
「悠馬」
「はい」
「それは」
一拍。
「面倒ね」
「……はい」
自覚はある。
凛は腕を組んだ。
「分かった」
一拍。
「私も行く」
「えっ」
「護衛」
「護衛!?」
「あなた一人で行かせたら死ぬ」
胃が。
悠馬は枕を抱えたくなった。
「……ありがとうございます」
「礼はいい」
一拍。
「生きて帰りなさい」
護衛の言葉が物騒だ。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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