幕間 「包囲/救世主」
ドイツ語と英語、ロッテちゃんのいまいちわかりにくい英語、の区別に途方にくれました。
分かるかなぁこういうの。。。
その頃。
ルイスはマダム軍団に包囲されていた。
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レセプション会場の片隅。
小さな少年は取り残されていた。
蝶ネクタイは完璧。
姿勢も完璧。
礼儀も完璧。
ただし――”言語”が絶望的だった。
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年配の婦人たちが扇子の影で囁く。
『まあ、なんて可愛らしいの』
『例の子でしょう?』
『本当にそっくり……』
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ルイスには何を言われているのかわからない。
笑顔なのはわかる。
だがそれが一番怖い。
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(……助けて)
(父上)
(叔父上)
(おじい様)
誰もいない。
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婦人の一人が屈み込む。
『ねえ、小さな王子様?』
ルイスは固まった。
返事ができない。
泣きそうだった。
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「……えっと」
精一杯の英語が喉につかえる。
言葉が出ない。
包囲が濃くなる。
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(だめだ)
(処される)
なぜかロッテの言葉が脳をよぎった。
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その時。
低い声が割って入った。
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『ご婦人方』
空気が変わる。
包囲が一瞬でほどけた。
現れたのはレオンだった。
完璧な微笑。
完璧な威圧。
取引先の頂点。
ホストの頂点。
『この子は私が預かります』
マダム軍団が一斉に姿勢を正す。
『もちろんですわ、ヴァイスハルト様』
『失礼しましたわ』
潮が引くように散っていく。
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ルイスは震えたまま見上げた。
レオンは静かに屈み込み、
今度は英語で言った。
「大丈夫かい、ルイス君」
「……はい」
やっと息ができた。
「君は……本当に似ているな」
「……叔父上に?」
「そうだ」
そして誰にも聞こえない声で付け足した。
「佐伯悠馬に」
その時。
規則正しい足音が近づいた。
「パパ?」
若い声。
鋭い声。
シャーロッテ・フォン・ヴァイスハルト。
ロッテだった。
ドレスは完璧。
表情は完璧に不機嫌。
ウサギ処すモードである。
ロッテはルイスを見た。
一瞬で理解した。
(ああ)
(これが)
(例の子)
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ロッテは短く尋ねる。
「…コノコハ?」
発音が硬い。
単語が少ない。
ルイスは一瞬聞き取れなかった。
「……え?」
ロッテの眉が動く。
「コドモ、アナタ」
言い直す。
少し訛っている。
ルイスは慌てて頷いた。
レオンが淡々と答える。
「ルイス君だ」
ロッテは少年を見下ろした。
値踏み。
審査。
処す前の確認。
ルイスは小さく頭を下げた。
「はじめまして」
礼儀だけは完璧だった。
ロッテの眉がわずかに動く。
「…レイギタダシイ?」
褒めているのか疑っているのかわからない。
ロッテは小さく呟く。
「フシギ」
変ね。
その一言に全部入っていた。
レオンは会場を一度見回した。
主催者の目。
頂点の目。
彼はここを離れられない。
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レオンは娘を呼んだ。
『ロッテ』
『なに?パパ』
レオンは淡々と言った。
『この子をホテルへ送れ』
『私が?』
『私が離れられないからだ』
正論で殴ってくる。
ロッテは一拍黙った。
そして顎を上げた。
『…了解』
素直すぎて逆に怖い。
レオンは低い声で付け足す。
『余計なことはするな』
『刺さないわ』
『刺すな』
『刺さない』
信用はない。
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ルイスは不安げに尋ねた。
「……ホテルに戻るんですか」
ロッテは短く答える。
「ホテル、カエル」
単語だけ。
発音が硬い。
だが不思議と強かった。
ロッテはルイスの手を取った。
小さな手。
噂の中心の手。
二人が歩き出す。
その背を見送りながら、
レオンは静かに思った。
(佐伯悠馬)
(君は面倒なものを抱えている)
(いや)
(抱えているのは――伯爵か?)
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世界は早い。
噂はもっと早い。
”そしてロッテの審査は、これから始まる”
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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