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佐伯悠馬の結婚事情(仮)  作者: 雪森蓮


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その65 「八日目/噂の完成式典」

ノア君またそういうことするから・・・

最終日。


レセプション会場は華やかだった。


灯り。

音楽。

香水。

笑顔。


そして――噂。


噂だけが妙に生き生きしている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


悠馬は壁際にいた。

できるだけ目立たない位置。

できるだけ人混みを避ける位置。


胃薬が恋しい位置。


(終わったら帰る)


それだけを目標にしていた。

なのに。


少し離れたところで、

扇子の影が揺れた。


年配の婦人たちの囁き声。

社交界の自然現象。


「つまり」


「伯爵夫妻は偽装結婚で」


「佐伯様の隠し子を」


「伯爵が溺愛している」


「……愛している(笑)」


くすくす。

笑い声。

もっともらしい物語。


”最低の完成形”


ーーーーーーーーーーーーーーー


悠馬の動きが止まった。

脳が止まった。


ささやき声が届く。


(……え?)


今。

僕の話をしていないか。


している。

確実にしている。


悠馬は一歩後ずさった。

聞かなかったことにしたい。


だが耳が拾う。

拾ってしまう。


「佐伯様にはアメリカで関係のあった女性が――」


「表に出せない事情が――」


「だから伯爵が――」


やめてくれ。


悠馬の顔が引きつった。

胃が限界を迎えた。


そして。

思わず。


本当に思わず。

口が開いた。


「……あの」


声が出てしまった。

婦人たちが振り返る。


噂の本人だ。

目が輝く。


ーーーーーーーーーーーーー


「僕は」


悠馬は必死だった。

真剣だった。

命がかかっていた。


「僕は!」


一拍。


「女性と!」


二拍。


「そういうことを!」


三拍。


「したことが!」


四拍。


「まったく!」


五拍。


「ないです!!!」


沈黙。


会場が静まり返る。

完璧な否定。


完璧な絶叫。

完璧な――自爆。


ーーーーーーーーーー


「まあ……!」


婦人が息を呑む。


「そこまで……!」


「徹底して……!」


「隠していらっしゃるのね……!」


「違います!」


悠馬は真っ赤になる。


別の婦人が扇子を口元に当てた。


「……でも」


一拍。


「まさか、そのお歳でそんな……」


くすくす。

笑いが広がる。


「まあ……!」


「かわいらしい……!」


「純情……!」


「魔法使い……!」


やめろ。


悠馬の顔が限界まで赤い。


「違います!!!」


「なるほど……!」


「守っていらっしゃる……!」


「いえ、守ってません!!!」


守る以前に何もしてない。


悠馬は息ができなかった。


喉がからからだった。

胃もからからだった。

とにかく何かを流し込みたかった。


ふと視界の端にグラスがあった。


テーブルの上。

透明な液体。


水だろう。

たぶん。

きっと。


悠馬は反射で掴んだ。


そして。

一気に飲んだ。


「兄さん待っ――」


ノアが止めようとした。

だが間に合わない。


ーーーーーーーーーーーーーー


ごく。

ごく。

ごく。


ーーーーーーーーーーーーーー


次の瞬間。

悠馬の目が見開かれた。


(これ……)


(水じゃない)


(酒だ)



ノアが小声で言った。


「兄さん、それ、白ワイン」


「……は?」


悠馬の脳が遅れて理解した。

最悪だ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


悠馬は酒が飲めない。

飲めないというより、


飲むと終わる。

体質が終わっている。

胃も終わっている。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「兄さん……?」


ノアの声が遠い。

婦人たちの笑い声も遠い。


灯りが滲む。

音楽が歪む。


ーーーーーーーーーーーーーーー


(あ)


(終わった)


何が終わったのかはわからない。

だが終わった。


悠馬はふらりと一歩下がり、


そのまま。

静かに。

きれいに。


倒れた。


ーーーーーーーーーーーーーー


「兄さん!!?」


ノアが叫ぶ。

エレノアが即座に動く。


「誰か医師を」


レオンが目を細める。


(本当にウサギだな)


ロッテが呟く。


「処す前に倒れた……」


ーーーーーーーーーーーーーー


次の瞬間。


ノアがしゃがみ込み、

ためらいなく悠馬を抱き上げた。


軽々と。

あまりにも自然に。


「運びます!」


「待ちなさいノア!」


凛の声が遠い。

ノアは止まらない。


爆弾は止まらない。


悠馬は意識が朦朧としながら思う。


(違う……)


(僕は……)


(女性と……)


(そういうことを……)


(本当に……)


(まったく……)


(ない……)


架空の相手にすら申し訳なくなる潔白。

誰も聞いていない。


ーーーーーーーーーーーー


婦人たちは扇子で口元を隠した。


「まあ……!」


「ご覧になって……!」


「否定するほどに真実味が……!」


「そして伯爵が……!」


別の婦人がうっとりと囁く。


「そんな事実は無いとはっきり叫ぶくらい、


 相手の女性を思いやる佐伯様……」


「その隠し子を引き取ったノア卿……」


一拍。


「軽々と愛する(笑)兄を抱き抱え、


 ホテルへ連れ去ったのよ……ホホ」


最悪である。


ーーーーーーーーーーーーーーー


世界は早い。

噂はもっと早い。

悠馬は遅い。


そしてノアの腕力は容赦がなかった。


『噂だけが――完成した。』




ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

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