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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

桃太郎

作者: 葉蔵
掲載日:2025/11/30

 今は昔、とある人里に、桃太郎と言う子供がおりました。桃太郎は、お婆さんが川で洗濯をしている時に、どんぶらこ、どんぶらこ、と流れてきた桃の中に居た赤ん坊でした。お爺さんとお婆さんは、桃から出てきた赤ん坊に驚くも、その赤ん坊を二人で育てようと決めました。

 桃太郎はすくすくと、元気に成長しました。二人に迎えられてから一週間後には立ち上がり、五つを迎えた頃には野兎や狸を捕まえて家に帰って来る事がありました。そして桃太郎は力が強く、体力もあったので、大人の男が半日はかかる水汲みを、その半分にも満たない時間でやってのけました。その姿を見た里人は、桃太郎を守り神のように扱っておりました。何しろ、この人里ではここ数年、女子供や老人は疎か、屈強な男までもが攫われてしまう事件が多く起こっていましたので、里人達は「遂に鬼ヶ島から鬼が渡って来たんだ」と、とても恐れていたのです。里人にとって桃太郎は、鬼を退治してくれるかもしれないという、希望の星となっておりました。

 桃太郎が成人しようかという頃、三人の住む人里に鬼がわらわらとやって来ました。その異変に気付いたお爺さんとお婆さんは、桃太郎を他所へ逃がそうとしました。しかし、桃太郎は「自分は誰よりも力が強いから」と、決して逃げようとはしませんでした。そんなやり取りをしていると、三人の家に鬼がやって来ました。怒り狂うような赤い肌に立派な一本の角、石をも砕けそうな牙を持つ巨大な鬼。その姿を見ても、桃太郎は勇猛果敢に立ち向かいますが、鬼相手に力で敵う筈も無く、簡単に放り投げられ、気絶してしまいました。

 目を覚ました桃太郎が辺りを見ると、足元には、お爺さんとお婆さんの服を着た”肉”が転がっていました。桃太郎はたちまち崩れ落ち、鬼への復讐を誓いました。思い立ったが吉日、桃太郎は血の付いた額を拭い、直ぐに鬼ヶ島へと向かいます。その道中、桃太郎は、犬、猿、雉と出会いました。桃太郎は三匹に境遇を喋りました。

「桃太郎さん。私を家来にして、共に連れて行ってくださいませ。きっとお役に立てましょう」

三体の動物達はそう言い、桃太郎に着いて行こうとします。動物達の暖かい心に感銘を受けた桃太郎は三体のお供を、引き連れて行く事にしました。

 里の人々に”鬼ヶ島”と呼ばれていた島に着いた桃太郎は、血眼になって鬼を探します。それから一刻程が経って、桃太郎はやっと鬼らしき生物が住む里を見付けました。ですが、その鬼らしき生物は、里を襲ったそれとは似ても似つきませんでした。外見は殆ど人間に近く、牙も無ければ肌の色も人間そのもので、角はありましたが、桃太郎が見た立派な一本の角では無く、ただのこぶのような、目立たない二本の角でした。定義によって、鬼とも人間とも呼べるような、そんな鬼だったのです。しかし桃太郎は「きっと、この里を進んで行けばあいつに出会える。そうに違い無い」そう考え、目に入った鬼を無惨に殺しながら、再度歩み始めました。無論、平民の桃太郎が鋭い刀を持っている筈もありません。拾った石で鬼の頭を力強く叩き、遠くに鬼が居た時はそれを投げて殺すのです。若しくは鬼の体を掴み、木や岩に叩き付けるのです。勿論鬼も抵抗しますが、力の強い桃太郎には、それで十分でした。

 そうして進んでいると、里で見た赤鬼程では無いものの、明らかに桃太郎よりも体格の良い、屈強な鬼と出会いました。桃太郎が「もうすぐあいつへ辿り着けるのか」とほんの一瞬だけ考えていると、その鬼が声をかけてきました。

「貴方様は何故、この里で虐殺を行うのですか」

これを聞いた桃太郎は嘲笑して答えます。

「お主らが海を渡って、俺の里で虐殺の限りを尽くしたからであろう」

すると、鬼は今にも情が零れ出しそうな声で言います。

「私共はそのような事、致しません。貴方様の言う、虐殺を行った者というのは、確かに私共なのですか」

頑なに認めないその姿勢に腹を立て、桃太郎は声を荒らげて言います。

「嘘を吐くな!あの赤い鬼は奥で控えているのであろう!俺はお主ら鬼を討伐するために、この三匹と共にここまで来たのだ!」

鬼は不安定な声で言います。

「三匹というのは、”それ”の事ですか」

蒟蒻問答などするつもりの無い桃太郎は、いよいよ呆れてしまいました。

「見れば分かるであろう。この三匹は、俺が鬼退治に行く旨を話したら、協力すると言ってくれたのだ」

鬼は言います。

「それなのに何故そんな……それに、動物と話せる訳が」

そこまで聞いたところで、桃太郎はその鬼に石を投げ、殺してしまいました。

 結局、どれだけ探しても、桃太郎は赤鬼を見付ける事が出来ませんでした。赤くなっていく海を眺めながら、桃太郎はふと疑問に思いました。あの鬼は、家来の動物達を何故、”それ”と呼んだのだろう。と。そして、桃太郎が家来達の方を振り返ってみると、そこには、蝿が集り縄に繋がれた、禿げた動物の死体が三体ありました。

 桃太郎は小さな頃から、力が強く、凶暴な子供でした。野兎や狸を捕まえては意味も無く殺すので、お爺さんとお婆さんは桃太郎を連れ、里から少し離れた所に住まざるを得なくなりました。桃太郎が成長すると、そういった行動も起こさなくなり、三人は元居た里へと戻る事が出来ました。

 そして数年が経ったある日、一人の里人が桃太郎へ罵声を浴びせました。それに怒った桃太郎は、その里人を殺してしまいました。しかし、予期せぬ出来事が起こりました。その現場を、別の里人に目撃されていたのです。この事が里中に広まるのを恐れた桃太郎は冷静さを欠き、遂に、里人を皆殺しにしてしまいました。血塗れの桃太郎が家に帰ると、お爺さんとお婆さんは腰を抜かしました。桃太郎は心配しますが、里人を皆殺しにしたばかりで力加減が分からず、お爺さんとお婆さんまでもを殺してしまいました。自分のした事を受け入れられなかった桃太郎は、里人を殺したのは鬼だと思い込みました。そして、道中に出会った三匹の動物を縄に括り付け、家来として”引き”連れて鬼ヶ島へ向かったのです。

 全てを思い出した桃太郎は、酷く泣きました。そして、もう誰も殺してしまわないよう、誰も居ないこの鬼ヶ島で、独り暮らしていく事にしました。

 悔恨と悲愴に叫ぶ桃太郎のその顔は、まるで赤鬼のようでした。


日本語学習において、助数詞というものは大きな壁だとよく聞きますが、こうやって物語の闇を暗に示せるというのは、なんとも日本語の奥深さを感じさせられますね。

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