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天命ロボット発進中

作者: 上山藤緒

「おばあちゃん、しっかりして!」

お正月にボクの目の前で、おばあちゃんがもちをのどにつまらせた。

一緒にいたさなえ姉ちゃんはすぐに『ご長寿センター』に電話をかける。

すると何分もしないうちに『ご長寿ロボット』がやってきて、おばあちゃんののどに管をさし込みあっという間にもちを吸い取った。おばあちゃんはちょっとせき込んだけど、みるみる顔色も良くなった。

ホントに便利だとボクは思う。『ご長寿センター』は国が始めたサービスで、そこに登録しておけば『ご長寿ロボット』というのが困ったときに助けてくれるんだ。

小学五年生のボク須藤瑛太すどうえいた、中学二年生のさなえ姉ちゃんと65歳になるおばあちゃんとの3人暮らしだ。

パパとママは2年前交通事故にあい、天国に行ってしまった。そのときにご長寿ロボットができてたら絶対助かったのにと、ボクは思う。

近所に住む親友の加藤つとむ君とそのおじいちゃんもご長寿ロボットに助けられたけど、当時だいぶ話題になった。

お父さんのタバコの火の不始末で、3階に部屋があるつとむ君と、1階の奥で寝ていたおじいちゃんが逃げ遅れたんだ。

でもその時2台のご長寿ロボットが出動し、2人を炎の中から素早く救い出した。

超合金で作られてるようなご長寿ロボットはなんだってできるし、どこでも活躍している。

そのサービスに登録している人はすごい勢いで増えてるんだ。

総理大臣は専門の役所としてロボット省を設け、毎日どんどん工場に注文して作らせている。

身長175cmくらいの、ガッシリしたロボットが並んでいる様子をテレビでやってたけど、頼もしさと怖さが入り交じったおかしな気持ちになるんだ。まるでSF映画を観てるみたいでワクワクする。

いつもすぐに駆けつけてくれるかっこいいご長寿ロボットはその名前を抜かせば、今のところボクのあこがれだ。このロボットは人が死ぬのを防ぎ、日本の人口を減らさず、国が栄えるために作られたらしい。

それもいいことだと思うし、その性能も世界一だからすごい。ロボットだから当然疲れないし、ミスしないし、いつも超スピードで動けるから最高だと思う。 それに、役所のコンピューターが常にコントロールしてるから安心だ。そうしないとロボットたちが言うことを聞かなくなって暴れ出したら困るから。

あとご長寿ロボットが何でできているかはひみつなんだ。弱点がわかると、いたずらしたりする人が出るからだと総理大臣が言ってた。

あんなにすばしっこくて強そうなロボットにも弱点があるなんてちょっと意外だ。人間みたいに感情があってもおもしろいから、もっと開発が進んでくれたらいいとボクは願っている。

つとむ君も自分が助けられてからご長寿ロボットのファンで、国が作った登録キャンペーン用のポスターを部屋に貼っている。そのサービスに登録した時に無料でもらえる大きなポスターだ。ボクの部屋の壁にも当然あるし、クラスでも人気だ。これがあると仲間意識が生まれるところも全国共通だと思う。

ところが半年後、ボクたちの生活をゆさぶる大問題が起きた。

それはその日のトップニュースだった。

『ご長寿退治用ロボット現わる!』

新聞の見出しはこんな感じで、テレビのワイドショーでもこのニュースがひっきりなしに流れた。

なんでも56歳の会社員のおじさんが、心筋梗塞しんきんこうそくという病気の発作で倒れたらしい。そこへご長寿ロボットが到着して心臓マッサージをやりだしたら、もう1台ロボットが来てじゃまをしたんだとか。

「考えられない。」と、ボクはつぶやいた。

今までそんなことは一度もなかったんだ。

結局そのロボットが救助活動をさせなかったために、倒れたおじさんは病院に運ばれる前に死んでしまった。そしてロボットは、あっという間に姿を消したらしい。

学校に行ってもその話題で持ちきりだった。

「ご長寿ロボットをじゃましたやつはどこから来たんだろ?」とボクが口にすると、

「おれ知ってるよ。政府のロボット工場から来たって話だ。」とクラスの1人が答えた。

「じゃあ、それもご長寿ロボットなの?」

「いやちがう。新しく開発したものだって聞いたよ。」

「政府が開発したの?でもなんでじゃましたのかな?手伝うならわかるけど。」

「さあな、警察が調べてるからそのうちわかるさ。あっ、先生が来た!」

ガラッとドアを開けて、いつもちょっとぼーっとした感じの担任の川野拓二かわのたくじ先生が入ってきた。

先生は32歳の独身で、彼女もいないらしい。となり町のマンションで一人暮らしをしているけど、それ以外はみんな知らない。自分のことはあまりしゃべらないし、みんなも特に興味がわかないから聞きもしなかった。

理科が専門でその時間はわりとはりきるけど、他の授業はなんだかたいくつで眠くなるほどだ。

けれども、今日のみんなはそんな先生を待ちかまえていた。先生がご長寿ロボットの例のニュースについてどう考えているのか、専門家の意見を知りたかったからだ。

「先生、じゃましたロボットが政府のロボット工場から来たってホントですか?」

「どうしてじゃましたのか、くるっちゃったのかな?先生どう思う?」

いつになく先生に向かって次々に質問が飛んだが、答えはいつも通りの気がぬけてぼんやりしたものだった。

「ロボットは狂っちゃいないさ。政府の専用ロボット工場では何種類か試験的には作っているが、おかしなのが外に出ることはありえないな。セキュリティーがしっかりしてるだろうから。まあ、そんなに心配したものではないさ。ご長寿ロボットの手伝いをしただけじゃないか?じゃましてるようでも本人は手伝ってることってあるだろ。みんなも手伝いしたのに、お父さんやお母さんにじゃまだって言われたことないか?」

先生はそう言うと、じぶんのじょうだんにウケて一人でケラケラ笑った。

そしてふだんと変わりなくのんびりしたペースで授業を始めた。

しかしその日をさかいにじゃまをするロボットがひんぱんに現れ、その行動はエスカレートしていった。

テレビのニュースでは、毎日新しいロボットが引き起こした事件で持ちきりだった。

マスコミはそれを天から与えられた寿命という意味の、『天命てんめいロボット』と呼んで新聞の見出しとして大きく取り上げていた。

「いったいどうなってんだろう。昨日ビルの火災現場で攻撃こうげきした天命ロボットもいたらしいし。」

「総理大臣は何やってんのかな?なんで天命ロボットを処分しょぶんしないのか不思議だよな。」

ボクとつとむ君も多くの生徒たちと同じく、学校からの帰り道でも天命ロボットの話をしながら歩いていた。

家までの途中にある公園にさしかかると、つとむ君が急に「あれ、じいちゃんだ。」と(さけ)んだ。

見るとつとむ君のおじいちゃんが、少し片足をひきずりながらゆっくりとボクらの方へ歩いて来るところだった。

しかしそのとき何かがすごい勢いで前を横切り、おじいちゃんはバランスをくずして前のめりに倒れてしまった。

「じいちゃん!」

つとむ君はランドセルをガタガタいわせておじいちゃんのもとへ走っていき、ボクも急いであとを追った。

しかし運よく、地面についた両手のひらをすりむいたくらいで済んだ。

つとむ君がおじいちゃんをゆっくりと助け起こす間、ボクはあたりを見回してみたけど、ぶつかったものの正体はわからなかった。

けれどもおじいちゃんが倒れた地面には三センチ四方の金属片へんが落ちていて、拾い上げてみると、それは油で黒くよごれていた。そして、裏面に小さく『TK-12』と刻印されていた。

「これってなんだろう?」とボクがつまんでつとむ君に見せると、

「えっ?あっ、それはあの天命ロボットの部品だよ。」とおどろくような返事が返ってきた。

「えっ、ホント?なんでわかるの。」

「最近の科学雑誌で読んだんだ。天命ロボットのしるしとして『TK』って刻印されてるって解説があったんだよ。外見的にはご長寿ロボットと区別がつかないけど、それでわかるって。でも表側には刻印されてないんだよ。だから実物を見た人は少ないんだって。」

「へぇー。『TK』か。」

「ホントかウソか知らないけど、『長寿ロボットを殺す』の略『TK』だってうわさされてるんだ。」

「まさか。それはこじつけだろ。」

ボクはちょっと身ぶるいした。

「まあね。マスコミがかってにつけたとは思うけど。」

「とにかく、おじいちゃんたいしたことなくてよかったね。」

「ありがとう。最近は公園もうかうか歩いていられんわ。凶暴なロボットが急に突進してくるんじゃな。」

「ホントだね。気をつけなきゃ。」

ボクは部品のかけらをポケットに入れると、

おじいちゃんを支えながら歩くつとむ君と別れて家まで走って帰った。

自分の部屋に入ると机の前に座り、ポケットからあの天命ロボットの部品を取り出してながめた。

「TKか。ホントは何の略なのかな?12は12体目のロボットってことだろうけど。イニシャルだったりして。『つとむ・加藤』もTKだな。なんてそんなこと言ったらつとむ君に怒られそうだし。もう考えんのやめとこ。よくわかんないや。」

ボクはまたその部品を引き出しにしまった。次の日学校に行くと、なぜかつとむ君は欠席だった、

先生はかぜをひいたと連絡を受けたらしいけど、気になって帰りに家に寄ってみることにした。

つとむ君の家は火事で焼けたあと建て直して、以前よりピッカピカの真っ白な豪邸ごうていだ。

「いつ見てもスゲーな。」

昔からこの一家を知っているボクはなれっこだけど、初めての人は入りにくい家だと思う。

「ピンポーン」

りっぱな白い門についているインターホンを鳴らすと、上品な感じのつとむ君のお母さんが出た。

「はい、どちらさま。」

「あっ、ボク瑛太です。つとむ君のお見舞みまいに来たんですけど。」

「あら、瑛太君。今出るから待ってね。」

つとむ君のお母さんはそう言うと、すぐに出てきて門を開けてくれた。

「つとむ君、かぜだいじょうぶですか?」

「ええ、それがね。ふとんにもぐったきりで出てこないのよ。頭が痛いって言うから薬は飲ませたんだけどね。様子見てやってくれる?でも瑛太君がうつっちゃうといけないからあんまり長くはね。よくないけど。」

お母さんに連れられて、つとむ君の部屋がある3階へとエレベーターで上がった。

「つとむ、瑛太君来たわよ。ちょっと起きたら?今お茶とお菓子でも持ってくるから。」

お母さんはボクを部屋に案内すると、すぐに下へ降りていった。

「つとむ君、見舞いに来たよ。だいじょうぶ?昨日元気だったからびっくりしたよ。」

ボクが盛り上がったふとんに向かって声をかけると、つとむ君がいきなりガバッと起き上がった

「瑛太、大変なことになったんだよ。」

そう言うつとむ君の顔が、めずらしく青ざめている。

「どうしたの?そんなにぐあい悪いの?」とボク。

「ちがうよ。母さんにはかぜって言ったけど、そうじゃないんだ。昨日公園でうちのじいちゃんが『TK12』とぶつかっただろ?あれでさ、おれたちねらわれてんだよ。」

「なんのこと?」

ボクはいまいちつとむ君の話がわからなかった。

「部品持ってるだろ?瑛太持ち帰ったろ?あれをあいつが探してるんだよ。今朝じいちゃんが、いつも聞いてる『若者たち』っていう年寄り向けのラジオ番組聞いたら言ってたんだって。」

「『若者たち』なのに年寄り向けなの?」

とボク。

「昔活躍した若者を紹介するものらしいけど、そんなことはどうでもいいんだよ。それよりその中のニュースで、天命ロボットの一体が破損はそんして、取れた部品をロボット省が探してるって言ってたんだって。それで、見つけた方は届けてください、謝礼を差しあげますとかって言ったらしいよ。」

「それのどこが変なの?別に普通じゃない。」

「だってロボットは何でできてるかは秘密なんだろ?部品を分析したら弱点がわかっちゃうなら、へたに届ければ殺されんじゃねえの?おれたちがなんかしたかもしれないわけだから。」

ボクはそれを聞いて思わず笑ってしまった。

「なんかしようもないのは、向こうもわかるよ。それにそんなの昔のスパイ映画かなんかの世界じゃない。だいじょうぶだよ。ボクが届けてくるよ。謝礼もらえるんだろ?ご長寿ロボットのカードゲームとかだったらいいんだけどなあ。」

「だめだよ。そんな単純な話じゃないんだぞ。いいか、『TK-12』は消されるんだ。一度でも関係者以外の手に部品がわたったら、そのロボットはこわすって聞いたことがあるし。弱点がわかっちゃうと、ロボットを悪用されることがあるからって。だから消されたくないTK-12は、自力じりきでとことん追いかけ回すだろううよ。」

つとむ君は今度は顔を赤くして、興奮ぎみに話した。

「そんなに簡単に分析できるとも思えないし、もしほんとにTK-12が追っかけてくるなら、その前に届けるかしないと。それで警察に守ってもらえばいいじゃない。天命ロボットとなんか戦えないよ。」

「瑛太はなんにも知らないのな。警察はロボットを傷つけちゃいけないんだぞ。ロボット法に違反いはんするからな。総理大臣はこんなことを考えてなかったんだ。まったくぬけてるよな。」

ボクは話を聞きながら、一つ疑問が思いうかんだ。

「ねぇ、そもそもなんで君がねらわれんのさ。拾ったのはボクだよ。」

「いや、あのときぶつかったのはじいちゃんで、おれたちはそばにいなかった。だからじいちゃんのいるこの家に来るんじゃないかって思うんだ。公園からも近いし。」

「じゃあどうするのさ。ずっとかくれてるわけにもいかないだろ?」

ボクはとまどいながらも、なんとなく心配になって部屋の窓から外をのぞいてみた。

すると日差しのなかで、何か銀色のものがキラリと光った気がした。

『つとむ君、『TK-12』は本気かもな。でもロボットは人間みたいな感情は持ってないはずだろ。それにそんな高性能なら、なんで君のおじいちゃんとぶつかるようなへまをしたのさ。そっちの方がおかしいだろ。』

「それはおれにもわからない。でもじいちゃんの動きは予測不能だったのかもしれないし。うちのじいちゃんはちょっと変わってるからな。」

ボクは吹き出しそうになるのをかろうじてこらえた。そしてとにかく今後どうするかを話し合うことにした。

「あら、つとむ。起きられるの?頭痛はどう?やっぱりお友だちが来ると元気になるわね。おじいちゃんも心配してたわよ。急に具合い悪いなんて言うから。」

「だいじょうぶだよ。そうだ、じいちゃん呼んできてよ。あとじいちゃんの分のお茶も持ってきてくれる?」

「いいわよ。人使いあらいけどね。」

つとむ君のお母さんはニコニコしながらそう言うと、軽い足取りで部屋を出て行った。

「お母さん、優しいな。全部言った通りにしてくれるなんて」

ママを亡くしたボクは、うらやましくてしかたがなかった。

しかしつとむ君はなんでもないように、

「エレベーターをつけたからさ。前はそんなこと言える雰囲気じゃなかったんだよ。そんなこと言ったらすげぇ文句言われるとこさ。」とすましている。

「つとむ、だいじょうぶか?」

またエレベーターが上がってくる音がして、今度はおじいちゃんが顔を出した。

それから約1時間、ボクとつとむ君とおじいちゃんは話し合った。TK-12にねらわれてるらしい話をすると、おじいちゃんは目を丸くして驚いていた。そして、今後どうするか、思いつく限りのアイデアを出し合ったんだ。

どれも結局は役に立ちそうもなかったけど、「天命ロボット」について調べればなんとか解決できるかもしれないというのが共通の意見だった。

「たしかじいちゃんの行ってる囲碁クラブにえらい人がいるとか言ってただろ?その人に協力してもらったどうかな?だって、特にじいちゃんを探してるんだよ。TK-12は。わけを話したら助けてくれるんじゃない?」

「そうだな、間島ましまさんなら何かわかるかもしれない。科学省の中にいたらしいからな。ロボットのことを何か聞いてる可能性もあるし。さっそく連絡してみよう。」

おじいちゃんはまたエレベーターに乗り込むと、間島さんに電話するため下におりていった。そして少し経つと、つとむ君の携帯電話が鳴った。

「あっ、じいちゃん。どうだった?うん。じゃおれらも下におりるよ。了解。」

「どうなったの?」

「うん。間島さんと連絡がとれて、何か知ってるらしいんだ。それでこれから車で迎えに来てくれるって。」

「やったあ、なんかドキドキするね。」

「うん。TK-12をやっつけないとさ、おれとじいちゃんが安心して暮らせないならな。」

「でもご長寿ロボットだけじゃなくて、民間人まで攻撃するロボットなんておかしいよ絶対。」

「ホントだよね。あぶなくてしょうがないよ。なんたって超合金だぜ。まともに戦ったら殺されちゃうよなあ。」

ボクもつとむ君も興奮しながら、上がってきたエレベーターに乗りこんだ。

「まあ、とにかくTK-12の弱点を探そうぜ。調べれば絶対わかるよ。あの部品を間島さんに見せよう。もしかしたらTK-12だけじゃなくて天命ロボット全部をやっつけられるかもしれないぞ。ちょっと怖いけど、ワクワクするな。」

そんなことを二人で言いながらおじいちゃんの待つ玄関ホールに向かうと、すぐにインターホンが鳴ってうわさの間島さんが到着した。

「やあ加藤さん、驚いたよ。昨日囲碁クラブで会ったばかりだってのに今日は天命ロボットにねらわれてるって言うんだから、毎日忙しいね。ハハハ。」

現れるなりそう言うと、大声で笑った。

間島さんはつとむ君のおじいちゃんより年上とは思えないぐらい、元気でがっしりした体格だった。

白髪しらがじゃなかったら、かなり若く見えると思う。頭もよさそうだ。しゃべり方が自信まんまんって感じだったから。

「いやあ、大変な目にあって。人生何が起こるかわからんね。とにかく協力してくれると助かるよ。あんたの力が必要なんだ。こっちは孫のつとむ。そしてつとむの友だちの瑛太君だ。この子が例のTK-12っていう天命ロボットの部品を拾ったんだよ。何かわかるといいんだがな。」

ボクは間島さんに向かって頭をさげた。そしてポケットから部品を取り出して見せようとすると、

「瑛太君、それはまだしまっておきなさい。これからみんなで私の家に行くから、向こうでじっくり見せてもらうよ。部屋にたくさん資料があるんだ。とは言っても科学省のものじゃないがね。政府の物は持ち出せませんから。あくまで趣味しゅみのロボット研究の資料さ。でも少しは役に立つかもしれんよ。なんせ私はロボット省を作った一人だからね。」と言われた。

「へぇーそうなの?すごいや。早く話が聞きたいな。」

つとむ君は目を輝かせて興奮ぎみにしゃべった。

間島さんはつとむ君の言葉に気をよくしたのか、「いやあ、加藤さんの友人として光栄の至りだよ。」と大げさなことを言って、つとむ君のおじいちゃんと固い握手あくしゅをかわした。

それからすぐに間島さんの車に向かったが、みんなは急いで乗りこみ、家を出てしばらくの間は座席にうずくまるような姿勢でいた。

それはもちろん近所をうろついているはずのTK-12に見つからないためだ。ロボットの弱点を知ってどうするか思いつくまでは、絶対に見つかるわけにはいかなかった。

ただボクのことはまだ知られてないみたいだから安心だ。このままかくれてなきゃいけなかったら、おばあちゃんやさなえ姉ちゃんが心配するだろし、あのぼんやりの川野先生もさすがにびっくりするだろう。それにTK-12には、ボクがつとむ君と友だちだってこともばれないように気をつける必要がある、だから、つとむ君の家にはしばらく行かないほうがいいと思った。

間島さんの家までは車で20分くらいで、よくある普通の一戸建てだそうだ。でも実際に見たら、家の周りにはたくさん木が茂っていてちょっとかくみたいだった。

中も一人暮らしだというわりにはかたづいていてきれいだと思ったけど、ボクたちが案内されたリビングの奥の部屋は、大きな机と本棚の周り一帯に書類が山と積まれごちゃごちゃしていた。

「わあ、これが全部その資料ですか?」と

つとむ君が驚きの声をあげた。

「そうだよ、長年やってるからたまってしまってね。亡くなった妻にあきれられたよ。でも退職してからもロボット研究は続けたくてね。もう少し若かったらロボット省で活躍できたんだがな。」

間島さんはそう言うと楽しそうに笑った。

ボクがさっそくポケットからあのTK-12の部品を取り出し間島さんに渡すと、机の引き出しに入ってたルーペを手に取り 真剣な顔で見始めた。

みんなは間島さんが見てる間、じっと立って待っていた。このロボットの専門家に今後の運命がかかってる気がして、ボクは妙にドキドキしたんだ。

10分くらいしてようやく間島さんが口を開いたが、それは意外な言葉だった。

「TK-12はいわゆる超合金といったものではないな。ご長寿ロボットと見た目はそっくりだが、こっちのほうが耐久性に少し欠けるようだ。まあ造られた目的がちがうんだろう。ご長寿ロボットは長期間過酷な状況でも使うから丈夫じょうぶにできていて、天命ロボットは言ってみれば短期の戦闘型ロボットというところかな。」

「じゃあつまり、天命ロボットはご長寿ロボットを減らすためのものってわけか。」とつとむ君のおじいちゃんも話に加わった。

「えっ?それじゃあつとむ君の言うようにボクらを攻撃してくるの?そんなにあふないものなの?」

ボクは少し怖くなって間島さんに質問をぶつけてみた。

「いや、天命ロボットはご長寿ロボットのじゃまをしたり、場合によっては攻撃するようにプログラミングされてはいるだろうが、人間をおそってくることはないはずだ。だからねらうというより、君らの行動を監視かんししてるのではないかな。」

「でもTK-12は部品を落としたことで消される運命でしょ?それがいやだから必死なんだって気がするんだけど。ロボットにはそんな感情ってないのかな?」

またも興奮ぎみのつとむ君は、間島さんに対してすっかりタメ口になっている。

しかしそんなことは気にならないのか、

間島さんも根気よくみんなの疑問に答えてくれた。

「つとむ君の考えも一理あるかもしれないな。人間の感情が何かの目的でインプットされたとも言えるから。すでにTK-12は政府がコントロールできていないロボットだからね。そういう意味では想定外で危険かもしれないな。」

「じゃあ逆に、TK-12をつかまえたらどうだ。そして秘密を突きとめ、それをみんながコントロールできるようにしたら?」

みんなはつとむ君のおじいちゃんの言葉に驚いた。

つかまえるってどうやって?変なことしたら暴れて向かってくるんじゃないの?」とボク。

「いやそんなことはないさ。TK-12は何か特殊な頭脳がありそうだ。加藤さんと公園でぶつかったのにもわけがあるかもしれないし。人間とぶつかるなんてなんか不自然だしな。」と間島さんもTK-12にかなり興味を持ったようで、つかまえることに賛成みたいだった。

実際に、怖いからといってずっと逃げ回ったりするのはあまり現実的な話じゃない。つとむ君は学校があるんだし、おじいちゃんも家にとじこもってばかりいるわけにもいかないだろうから。

「でもつかまえられるかな?網をかけるわけ?それじゃムリだよね。」と今度はつとむ君から質問が飛んだ。

「まあ、網とかの原始的な方法ではムリだろう。そこらへんはよく考えないといけないな。」

間島さんを中心にしばらく話したけど、どうしたらいいか結論は出なかった。結局間島さんにロボットをおびき寄せる方法を考えてもらうことになり、そこで話し合いは終わった。そしてボクは歩きで、つとむ君とおじいちゃんは間島さんに呼んでもらったタクシーでとバラバラに帰った。

次の日朝学校に行くと、川野先生からつとむ君がインフルエンザにかかりよくなるまで欠席するということが伝えられた。

つとむ君は安全のため、少しの間学校を休んだ方がいいだろうと昨日みんなで決めたからだ。

しかし休み時間になると、なぜかめずらしく川野先生がボクに声をかけてきた。

「須藤、つとむと友だちだろ。どんな様子か知ってるか?見舞いには行ったのか?」

「いえ、インフルエンザみたいだってつとむ君のお母さんから聞いたんで行ってません。うつっならいけないからって言われたし。」

「そうか、加藤の家も災難続きだな。この間はおじいさんが公園でこけたそうだし。」

「えっ?どうして知ってるんですか?」

意外だった。川野先生が、つとむ君のおじいちゃんのことまで知っているとは思わなかったからだ。

「いや、加藤が教室で話してるのを聞いたんだよ。」

先生はそう言うと、さっさと行ってしまった。

ボクはそれがなんだか気になって、家へ帰ってからつとむ君に電話して確かめてみたんだ。

「おれ、じいちゃんがこけたなんてだれにもしゃべってねえよ。」

「やっぱりそうか。急にそんなこと言うなんておかしいと思わない?公園にはボクらのほかにだれもいなかったよね?」

「と思うけど。あのさ、川野は特に関係ないんじゃない?」

「そうかな?でも、川野先生って理科っていうか科学が専門じゃない。」

「瑛太、だからって小学校の教師が政府のロボットとどう関係あるんだよ。」

「わかんないけど、川野先生ってふだん何してるかボクらも知らないじゃない。だからもしかしたらって思ったんだ。」

「じゃあ調べてみようぜ。川野のこと。裏の顔を持ってるかもしれないしな。」

電話を通してつとむ君が興奮しだしてるのを感じた。

「ボクが探ってみるよ。つとむ君が動くとTK-12に絶対わかっちゃうから。それにインフルエンザってことになってるのに、学校にばれちゃうよ。」

ボクは明日学校が終わってから、川野先生のあとをつける計画を話して電話を切った。

そしてつとむ君に言った通り、翌日先生が学校を出るまで校舎のかげで待ち、さっそくあとをつけた。

川野先生は自宅から徒歩で通勤している。先生はとなり町のマンションに住んでいるということだけど、学校からは時間にして15分か

20分くらいでいける距離きょりだ。スクーターとか自転車を使ってもよさそうなのに、歩いてるのは健康のためだと聞いた。あとをつけやすくて助かるけど、ボクなら自転車通勤にするだろうなと思った。

先生はあんがい早足だ。まっすぐ前を見て、手にさげたカバンをあまりゆらさないようにスタスタと歩いていく。となり町へは大きな道路沿いに出て歩くと速く着ける。先生の通勤コースもそうみたいで、車がたくさん通る道沿いを歩いていた。

ボクは探偵たんていごっこなんて初めてだから、先生につかずはなれず歩いていくのがむずかしかった。ボクの家はこっちの方向じゃないから、もし先生に見つかったらうまく言いわけしなきゃいけなくなる。だから気をつけなきゃと思ってると先生にだいぶはなされたりして、その繰り返しがしばらく続いた。

そうこうしてるうちに一本奥の道に入り、ようやく先生の歩き方が遅くなって、目の前の白い5階建てのマンションに入っていった。

「ここか。」

ボクが見上げていると、先生は3階のいちばん奥の部屋へと向かい、特に周りを気にする様子もなくカギを開けて入ってしまった。

「あやしいところはないな。ホントに一人暮らしみたいだし、でもせっかくここまで来たからしばらく見張ってみるか。」

ボクはマンションの前にある一戸建てのへいかげから、少し様子を見ることにした。

30分が過ぎてあたりが暗くなり始めると、寒いせいもあり、ボクはなんだか心細くなってきた。

「つとむ君がいっしょだといいんだけどな。」

そうため息をついたとき、だれかが前を横切った。

「あれっ?」

ボクが顔を上げたときにはマンションに入ったあとだったが、再び先生の部屋のほうを見ていると、なんとロボットが一体向かって来た。

「ご長寿ロボット?それともTK-12?わかんないな。でもなんで先生の家に来たんだろ。」

ボクはなやみながらもとにかく見張りを続けた。

すると1時間くらいしてからまたさっきのロボットが出て来た。もういちどよく見てみたが、ご長寿ロボットか天命ロボットなのかボクには区別がつかなかった。

ご長寿ロボットをマッサージ師の代わりに呼ぶ人もいるので、先生もそういった目的かもしれないとボクは思い、本格的に暗くなる前に帰ろうとした。

そのときまたもロボットが横切り、見ているとやっぱり先生の部屋に入っていった。

「おかしいな。もしかしたら天命ロボットなのかも。先生が関係してるのかな?」

ボクは道の暗さと先生に対する不安な気持ちで背中がゾクゾクしてきて、とにかく来た道を走って帰った。

帰ってからつとむ君に電話連絡したあと、間島さんにも意見を聞いてみた。

「その先生、大学では科学を専攻せんこうしてたとか言ったね。もしかしたら、まあかなり突飛とっぴな発想ではあるけど、政府のロボット省が本部だとしたら、先生の家が支部になってるかもしれないな。たとえばそこで天命ロボットの簡単な修理をしてる可能性もあるぞ。」

「天命ロボットかどうかわからないんです。ボク、ご長寿ロボットとは区別がつかなくて。もちろん刻印とかも見えないし。」

薄暗がりだということもあるけど、ご長寿ロボットのファンとしてはなさけなく感じていた。

「わからなくてもしかたがないよ。ご長寿ロボットをゆだんさせて攻撃するために、外見はそっくりに作ってあるんだからね。1つだけわかっているのはからだの重さのちがいだよ。土の上とかなら足あとのつきぐあいで判別できるらしいよ。つまり天命ロボットの修理をしてるならTK-12を探していて、いち早く見つけようとしてるんじゃないかな。たぶん先生の知らない特殊なものがTK-12の中にプログラミングされていて、それに気づいたのかもしれない。まずいぞ。TK-12を先につかまえないと、ご長寿ロボット退治の真祖もなんで加藤さんにぶつかってきたのかも、なぞのままになってしまう。」

ボクは間島さんとの話をすぐにつとむ君に電話で知らせた。そしてまた間島さんとも話して、TK-12に近づく方法を考えた。

それはつとむ君のおじいちゃんをおとりにしめ、TK-12をおびき寄せるというものだった。つとむ君たちをなんでねらっているのかがわからないから、これはかなり危険なかけだ。しかしTK-12は、つとむ君たちに対して何か用があるのはまちがいない。部品を取りもどすだけならおそってうばいとってもいいのに、そうしないのはそれなりのわけがあるとしか思えなかった。

ボクたちは明日の日曜日の夕方6時に川原かわら近くの土手どてで待ち合わせることにした。ボクと間島さん、それにつとむ君とおじいちゃんだ。そこでTK-12を待っていれば、必ず姿を現すだろうと間島さんは言った。人があまりいない見つけやすい場所だからだ。TK-12がなんの目的で接近してきたのかがいよいよわかる。ボクが拾った部品からTK-12を通して天命ロボットの弱点も見つかるかもしれないと思うと、怖いながらもワクワクした。

「瑛太、電話終わったんならちょっとコンビニ行って牛乳買って来てよ。おばあちゃんの牛乳今日買い忘れちゃったの。」

さなえ姉ちゃんの言葉にわれに返ったボクは、お金を受け取るとすぐにコンビニへと出かけた。

牛乳を買うと雑誌のコーナーがすいてるのを見て、少し立ち読みして帰ることにした。

すると表紙に『天命ロボットのなぞ』と書かれている雑誌を見つけたので、なにげなく手に取った。ページをめくるとそこには『ロボット開発担当者川野文子ふみこ』という名前と顔写真がのっていた。写真の感じだと、うちのおばあちゃんくらいの年れいだ。

「川野?」

先生と同じ名字だ。出身地もこの町からそんなに遠くない。

「もしかしたら…。」

ボクはその雑誌を買って帰ると夢中になって読んだ。そしてボクはまたつとむ君の家に電話をかけていた。今度はおじいちゃんと話す必要があったからだ。

「じゃ、明日の朝ラジオ聴いてね。その人かどうな確かめなきゃ。」

電話を切ると自分の部屋にもどり、ベットに横になった。

「すべては明日だ。TK-12のことや、天命ロボットがなんで現れたのかもこれでわかる。」

ボクはいつの間にか寝てしまい、夢の中でもTK-12の部品をにぎりしめていた。

次の日朝6時ちょうどに目覚めし時計に起こされて、そのあとさっそくラジオをつけた。

「みなさまおはようございます。『若者たち』の時間です。今日はロボット省の女性開発担当者として活躍中の、川野文子さんに起こしいただきました。」

ボクは川野さんの声をつとむ君のおじいちゃんに聞かせたかった。もしおじいちゃんの知ってる人なら、声を聞けばわかると思ったからだ。

番組が終わるとすぐにおじいちゃんから電話がかかってきた。

「わしの知ってる川野文子さんにまちがいないよ。あれは中学生のときで初恋だった。文ちゃんは卒業する前に、親の転勤で引っ越してったんだよ。久しぶりに声を聞いたが優しい感じが昔のままだったな。」

おじいちゃんはだいぶ興奮していた。

やっぱり川野文子さんとおじいちゃんは知り合いだった。川野さんはきっと、天命ロボットの開発もしてるはずだ。たぶんあのTK-12も。

夕方の6時になると、ボクたちは懐中電灯を持って川原近くの土手に集合した。ボクが持ってきた科学雑誌をおじいちゃんに渡すと、

つとむ君がそれを明るく照らしてあげた。

おじいちゃんは

写真を見ると、「やっぱり文ちゃんだ。ふたり手をつないでこの土手を歩いたもんさ。そうか、文ちゃんはあのころから頭が良かったからな。」となつかしそうに言った。

そのときボクたちの後ろで何かが動く気配がした。みんながいっせいにライトをあてると、目の前に一体のロボットが立っていた。

「TK-12だ!」とつとむ君がさけんだ。

ボクたちが緊張きんちょうする中、ロボットは静かに右腕うでを曲げてみせた。するとその一部がはがれているのがわかった。

ボクは部品を取り出し光をあてると、ちょうどその欠けてるところと大きさ的にぴったり合うように見えた。

「加藤だが、何かメッセージがあるのかね。」

おじいちゃんが少しふるえた声で、ロボットに言った。

ロボットは返事をする代わりに、横を向いていきなり明るい光線を出した。

そしてその1メートルくらい先に、白衣を着た上品なおばあさんの姿が浮かび上がった。

「加藤君、川野文子です。驚いたでしょう。ほかにたのめる人がいなくて、優しかった加藤君なら助けてくれるんじゃないかと思って。だからそのロボットを使いに出したの。」

おじいちゃんもボクたちも驚きで、ただだまって見ていた。

「おまごさんは大きくなったでしょうね。息子むすこの拓二から、自分のクラスにあなたのお孫さんがいるって聞いたの。それも何かのえんだと思って。実は私がお願いして、息子をうちのロボット開発チームに特別に参加させてもらってたの。その席で息子は、このままだと人口が増えすぎてしまうから、ご長寿ロボットを減らすべきだと提案したのよ。いわゆる天命ロボットの開発プランを考えたの。そしてそのプランが採用されてね。それで拓二は、ロボットの簡単な修理などを頼まれるようになったのよ。でもあんなロボットをたくさん作るべきじゃなかった。それに息子は修理だけじゃ満足まんぞくできなくなり、わからないように少しずつ攻撃型に改良してたの。だから早くそれを止めないと、もっと世の中が混乱してしまうわ。」

ボクらの担任の、あの川野先生が天命ロボットを考え出した。そのことにボクもつとむ君もショックを受けていた。さらに先生は勝手かってに改良したり悪いことをしている。今先生を止められるのはボクたちだけだと思った。

ロボットからの光が消えて闇にもどったあと、間島さんを中心にその場で話し合った。

その結果TK-12は安全だとわかったので間島さんの家にかくし、ボクとつとむ君は明日学校に行ってクラスのみんなに全部話すことにした。そして、先生にロボットの改良をやめるように言うことにしたんだ。

次の日教室は大さわぎで、みんなを静かにさせ協力してもらうよう話すのは大変だった。でもなんとかまとめることができたのは、ボクとつとむ君の真剣さが伝わったからだ。

川野先生はまず、みんなに秘密がばれたことに驚いていた。それから先生のお母さんが、つとむ君のおじいちゃんに改良を止めてくれるよう頼んだことを知ると、がっくり肩を落とした。

それを見てボクは、「先生が今までのことを悪いと思っているなら、ちゃんと反省してその証拠を見せてよ。」とせまった。

「TK-12は特別なことができるんでしょ?先生ならそのプログラムを始動できるって、先生のお母さんが言ってたよ。」とつとむ君も加わった。

「TK-12は改良された天命ロボット対処のために、母さんたちのチームが急きょ作ったものらしい。つまり、TK-12だけが、同じ天命ロボットをやっつけることができるんだ。そのことに気づいたのは最近だよ。先生が改良したロボットが、次々におそわれ出したから。」

「先生、『TK』って『川野拓二』のイニシャルだったの?」

ボクはもう一つずっと気になっていたことを聞いてみた。

「そうだよ。母さんが優秀な息子を自慢じまんに思ってつけたんだ。」

そう言うと、先生は子どもみたいにめそめそ泣き出した。

だけどそれを見て、今までだまっていたおじいちゃんが突然大声でどなった。

「文子さんに心配かけるとは、なんたる親不孝者!TK-12はわしの友だちの間島さんが預かってくれてるぞ。それを使って、早くおまえが悪くした天命ロボットをなんとかせんかいい!」

そこからボクたちは、先生の手によって特別プログラムが始動されたTK-12のすごさを知ることとなった。すばらしいスピードで、確実に改良型の天命ロボットたちをやっつけていった。そしてこの大がかりなロボット退治はあっという間にニュースになり、新聞には『暴走ロボットの天敵現る!』

といった記事がでかでかのった。

その結果総理大臣が会見を開き、ついにロボット省の解体を発表した。

「どういうこと?ロボット省がなくなるって、ご長寿ロボットはどうなるの?」

つとむ君の家でいっしょにニュース番組を観ていたボクは、おじいちゃんにたずねた。

「ご長寿ロボットもなくなるってことだよ。コントロールする役所が消えるからな。」

「ええ、それじゃ何かあったとき困るじゃない。またもしうちのおばあちゃんがもちをのどにつまらせたら...。」

ボクは急に不安になった。

「そのときは救急隊員が来てくれるさ。瑛太、あとは人間同士の助け合いだよ。」と

おじいちゃんに肩をたたかれたけど、ボクはまだなっとくできなかった。なんか不便になる気がしたからだ。

でも今回のことで、ロボットに怖さを感じもした。それにおじいちゃんの言うとおり、結局クラスみんなが協力してくれたから解決できた。

それから1週間後に、ボクたちを助けてくれたあの元気な間島さんが突然亡くなった。自宅で心臓発作を起こしたらしい。

ご長寿ロボットは出動しなかった。ロボット省の解体により、そうしたシステムがなくなったからだ。

ボクは複雑な気持ちだった。間島さんのことを思うと、ホントにこれでよかったのかとちょっぴり落ちこんだ。

ロボットのいない生活にもなれてきたころ、つとむ君のおじいちゃんからボクとつとむ君はある場所へとさそわれた。それは科学省により、新しく作られたロボット博物館だった。

出迎えてくれたのは、あのロボット開発担当者だった川野文子さんだ。事件の責任をとって退職したけど、今日はボクらにお礼を言いに来てくれたらしい。

「はじめまして、よく来てくれたわね。あなたたちのおかげで、ロボットにとりつかれ世間をさわがせてしまった息子を救えたわ。ありがとう。」

ボクとつとむ君はなんだか照れくさくなって、おじぎをしたあとはおじいちゃんだけを残して奥の部屋へと移動した。

するとそこには大きなガラスケースが2つあって、『ご長寿ロボット』と『天命ロボットTK-12』が並べて置いてあった。

「寿命を終えたロボットかあ。」とボクが言うと、「ロボットにも寿命があるなら人間にあっても不思議じゃないな。」とつとむ君が返した。

ボクもそう思った。この2体のロボットも命を吹き込まれて動いてたけど、今はここでこうして静かに眠っている。

「瑛太はご長寿ロボットな。おれは天命ロボットTK-12だ。じいちゃん、写真撮ってくれよ。」

つとむ君はちょうど入ってきたおじいちゃんに、そう声をかけた。

ボクたちがケースの前でそれぞれかっこよくポーズを決めると、おじいちゃんは笑顔でカメラを向けた。









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