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9) 融合


 ――あれ?どちらが本物だ?――

 深い深い意識の底で自問自答するラルフレイン。何がきっかけでこの深層意識にたどり着いたのかまでは分からないが、今彼が酷く動揺しているのに間違いは無い。何故ならば、自分自身の事をラルフレイン・ベイルだと認識していたはずなのに、深層意識部に潜んでいたのはもう一人の人格。その別の人格までも、やはりそれは間違い無く自分自身だと認識してしまったからだ。


 オレはラルフレイン・ベイル、このリスタル村で産まれ育った十六歳だ。

 俺は藤間博貴、東京で夢破れて故郷に帰って来た二十八歳だ。

 ――あれ?どっちもオレだ。間違いなく本物の意識だ。一つの身体に複数の意識を持つ多重人格?それとも一つの意識に複数の身体持つ多重人物?


(いやちょっと待て、時系列で組み立てられるかも!)


 自意識の古さ、記憶の曖昧さを加味すれば、先ずは藤間博貴。藤間博貴の自意識の方が古い。つまり俺は藤間博貴としての時間を経て、ラルフレイン・ベイルに転生した……?

 ここで彼は藤間博貴の結末にようやく気付く。都会に裏切られ失意のまま帰郷し、田舎で再スタートしながらも結局どう言う最後を迎えたのかを。神社の階段を転げ落ちた時の全身の痛み、そして致命傷を予感させる頭部への激しい衝撃。つまり藤間博貴は既に死んでいる事と、その魂がラルフレイン・ベイルとなって再び生を得たのだと理解したのだ。


(今まで気付かなかったが、これが輪廻転生なんだ。前世の記憶が意識の奥底に眠っていた事、今気付いたよ)


 ただ、自分が置かれた現状に理解は示したものの、そこで意識が立ち止まってしまう。過去に囚われずに今を生きるしかないのだと気付いた転生博貴が、今を生きるラルフレインの軌跡、十六年間を振り返り、そして何を思ったかピタリと足を止めてしまったのだ。


 早くに両親を亡くして天涯孤独となった哀れな少年ラルフレイン、その境遇については同情出来る。藤間博貴だった頃の記憶も蘇り、今また前を向いて歩き出す決意もある。ただ……ラルフレインが今の今までどう生きて来たかの記憶を思い出せば思い出すほどに、『彼』は赤面してしまったのだ。


 ――いや、あり得ない!あり得ん!老人たちに向かって平気でジジイ!ババア!と吐き捨てる姿。ガキ大将を棒で滅多打ちにする姿。女の子の服にカエルを入れて喜ぶ姿。病気で寝てる母親に向かい、村の仕事をしない怠け者と罵った大人を半殺しにする姿――


(ラルフレイン・ベイル、村の厄介者じゃないか!これからは俺が俺らしく生きるとしても、これは恥ずかしい!黒歴史そのものじゃないか!)


 だが、やがては融合する

 荒々しくて直情的、そして攻撃的なラルフレイン・ベイル

 穏やかで思慮に富み、融和的だった藤間博貴

 両者は両者であり、そしてそもそもが一つの意識である。二つは一つに融合され、第三の意識として新たなラルフレイン・ベイルが確立される。いや、確立されたのだ。


 やがて目は覚める。無意識下の奥底に今はいても、心臓は間違い無く鼓動を続けており、生きる意志に満ち溢れている。だからラルフレインは再び生きる。

 ――本人はまだ気付いていないが、今まさに早すぎる死を迎えようとする博貴を見て『不憫な』と嘆いた、大いなる存在の祝福を背に受けて――



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