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5) 二年参り



 日付けが変わったあたりで気象は急変し、正月元旦から数日間に渡って降雪の予報が出ており、瞬間的な豪雪の可能性もあると気象アプリでは解説されている。しかし今博貴の目の前に広がるのは満天の星空。底も測れないような真っ黒な天幕を舞台に、一等星だけでなく二等星や三等星までもが眩いばかりに輝いている。標高の高い田舎ならではの星空であり、後数時間もすれば雪が降って来ようなどとは信じられないくらいの見事さだ。

 ただ、その分放射冷却現象が厳しいのか、二年参りで神社に向かう博貴の口からは、もうもうと白い息が吐き出され、防寒着をまとっているはずなのに、肩を縮めて猫背がちになっていた。


 星空に照らされて青白く輝く雪化粧した田畑。その先の山肌に神社の鳥居と参道が見えて来た。

 神社と言っても神主や宮司が常駐するような規模のものではなく、村の自治会が管理するこぢんまりとした神社で、田舎らしく豊穣の神を祀っている。だが遥か昔から村を守って来た鎮守様である事に間違いは無く、夏祭りや秋の豊穣祭、はたまた日々の遊び場として利用して来た博貴は、幼い頃から密接な関わりがあったと言えた。


「やあ博貴君、今日は早いね」


 拝殿も本殿も一緒くたになった簡素な神社だが、全ての扉が開け放たれ煌々と電気が点いている。人気(ひとけ)が無く薄ら暗い普段の姿と比べても、清廉さが溢れる立派な佇まいだ。そして雪が残る参道の階段を昇りきった先で、博貴は自治会長に声をかけられたのである。


「会長、お疲れ様です。雪の予報が出てますから、今日は早く寝ないと」

「おお、そうか。今年は除雪もやってたね」


 自治会でテントを設営し、そこには自治会の役員数名が集っている。二年参りに来た参拝客に対して、御神酒(おみき)を振る舞うべく準備しているのだ。


「博貴君、御神酒を用意するからやって行ってくれ」

「ありがとうございます。では先にお参りを済ませて来ますね」


 丁寧な言葉遣いの博貴の容を優しげに見詰める自治会長。村の名士藤間家の次男坊である博貴が、長男善美の後を追って都会に行った際は、若者減少で過疎が加速すると寂しげな感情も抱いたのだが、帰郷して地元に根ざした生活を送り始めた事が嬉しくてしょうがない。

 ――博貴君が分家として家を出るのではなく、もう彼が本家で良いじゃないか。あの長男はもう帰って来ないのだから―― 老いた自治会長の眼差し、それが本音だった。


「ささ、御神酒をやってくれ!」


 お参りを終わらせた博貴がテントに赴くと、会長だけでなく役員たちも博貴の回りに集まって来る。みな老いたご近所の旦那さんたちだが、彼を自分の息子のように可愛がっているのだ。


「おっとっと!これで充分、もうこれで充分ですから」


 公民館から持って来た湯呑み茶碗を渡されて、そこへ日本酒を並々と注がれる。


「博貴君若いんだから、ただ酒だと思って好きなだけ飲んで行きなさい」

「いえいえ、御神酒ですから。気持だけで」

「不作法も作法だから、遠慮なんてしてちゃダメだよ」

「いやいや、家で飲んで出来上がってるもので、もうこれで充分ですから」


 自治会長と役員たちと言っても、要は過疎の村の老人たち。普段から若者と接する機会が乏しいから嬉しくてしょうがない。結局のところ老人たちの談笑に取り込まれながら、博貴は御神酒を二杯も飲み干す結果となった。



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