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48) 驚天動地 前編


「に、にれいにはくぅ……じゃと?」

「二礼二拍一礼な、再拝二拍手一拝とも言われてる。二回お辞儀して二回手を叩く、最後にもう一度お辞儀するんだ」

「ふうん、まるで所作が呪術のようじゃな」

「そんな仰々しいもんじゃないよ。神聖なものに接するって意識に、気持ちを切り替えるための所作(しょさ)さ」

「ラルフ、その手をパンパンって叩くのは意味あるの?」

「拍手って……リィリは知らないのか?」

「うん、した事ないよ」

「拍手ってのは、尊敬する相手に対して、手の中に武器は持ってませんよって仕草なんだ。言い伝えだけどね」

()れの言いようも変だな、手の中に収まる武器などたかが知れてるではないか」

「あはは、そりゃそうだけどね。武器も持ってないし、腰の武器を抜く気もありませんって意味なんだよ」


 リスタル神社の本殿前。本殿と言っても人の背丈の二倍ほどの石柱がそびえ、その前に「御供物(おそなえもの)」を置く石の棚が一つあるだけ。それでも建立して初めてのお参りだからと、ラルフレインたちは襟を正してその場に臨んだ。

 木の皮を剥いだだけの生々しい丸太で作られた鳥居。その鳥居を前にうやうやしく一礼したラルフレインたちは、田舎道の傍らに(まつ)られた道祖神よりも簡素な単なる石柱を御神体とした。宗教を普及させるため、宗教儀式を行うためにこのリスタル神社は建立されたのではない。あくまでも村の人々が一年のサイクルを充実した生活が送れるように、「メリハリ」を作るための神社。――ただそれでも最初だけはと、ラルフレインの前世の知識を元に、礼儀を欠かさないようにと配慮したのだ。


 一礼した後にくぐった鳥居、ただ鳥居をくぐっただけなのに、何故か空気が澄み渡るような感覚を覚える。鳥居から先は神様の領域が始まるのだとラルフレインが最初に説明していたが、なるほど何故か清々しいと亜人たちは納得する。ただ単に彼の説明によるプラシーボ効果なのかも知れないが、亜人たちの背筋がピンと伸びた事に間違いは無い。

 そして石柱、いや御神体の前に立つ。「みんな横一列に並んで」とラルフレインの言葉に従い横に並んだ一同は、彼の号令に従いつつ、所作を真似る。


 背中を丸めて首を垂れるのではなく、背筋を張ったまま腰から折れるように頭を下げる。これを二度行う事で『二礼』は終わり。次に自分の肩幅ほどに両手を広げて、パン!パン!と手を叩く。最後にまたゆっくりとお辞儀して、二礼二拍一礼は終了した。


「さて、各自手を合わせて。自分勝手な想いで良いから神さんに願うんだ」


 仲間たちにそう促しながら、自分も手を合わせて目を瞑る――その時だ、ラルフレインはストンと身体の力が抜けて、暗がりだけの(まぶた)の裏が星空のようにキラキラと輝き出したのだ――


(おわっ!何だこれ?立っていられない、と言うか身体の感覚が無い!おまけに目も開けられないし、どうなってんだ!)


 彼が自覚したのは宇宙。白く熱く輝く星々だけでは無く赤や青に彩られた星が散らばり、遠くには無数の星雲の渦巻きまでも見て取れる。「ああ、これは現実世界じゃなくて精神世界だな」と冷静に判断出来れば落ち着くのだが、壮大な宇宙のあまりにもリアル過ぎる描写を目の当たりにしたラルフレインは、飲み込まれてしまうと恐怖を覚え、いささか混乱をきたしていた。


 ――坊……坊よ……私の声が聞こえるかい?……――


 鼓膜を通じてではなく、脳裏へダイレクトに呼びかけて来るその声は、艶やかさを含めた大人の女性の声。(ぼう)とは、男の子を親しみを込めて呼ぶ時の言葉で、間違いなく自分に向かって呼びかけて来ている。十六歳だがそこそこ成人を気取っていたラルフレインに向かって『坊』と呼ぶのだが、不思議なことにその子供扱いにまるで嫌悪感が湧いて来ない。むしろこの女性の声に安らぎと包容力を感じるほどだ。


(あなたは……一体?)


 ――私は坊の前世を、いや、坊の輪廻転生を見続けて来た者ぞ。人は私を宇迦之御魂神(うかのみたま)と呼ぶ事もあれば、お稲荷様と呼ぶ時もある。大地母神と呼ばれたり豊穣神と呼ばれたり、今はアルフリーダとかアルフリーデとか言われちょるが、名前などどうでも良い。坊とようやく話が出来た事を嬉しく思う者じゃ――


(か、神様……なんですか。神様が俺みたいなのと話して嬉しいって……?)


 ――輪廻転生のたびに不憫を繰り返していた坊が心配でな、ついつい見守っておったのじゃ。背中の(あざ)にようやく気付いてくれたし、ここで柏手(かしわで)も打ってくれた。坊と会えて嬉しいぞ――



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