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42) 労災


「ねえねえ!五十ラルフくらいの石が欲しいって!」

「五十ラルフって言うと……これくらいかな?」

「そのくらいので、四角いのって無いの?」

「そうか、積み上げられないか。それならリィリも手伝って探してね」


 リスタル村のはずれを流れる沢、その沢のほとりで獣人のヨセフィーナが石をかき集めている。かき集めた石は小粒ではあるものの、石を組み上げた時に噛み合わせが良いのか、わざわざ割れた石を好んで集めていた。そこへ現れたのがカゴを担いだエルフのリィリ。――どうやら二人は神社の本殿を作る目的で、ラルフレインから石を集めてくれと依頼されたようだ。


 ドワーフのタルボに渡された『一ラルフレイン』の紐、タルボは夜のうちにその紐の長さを木の棒に移し替えた。紐は湿度で伸び縮みし易く、木の方が安定しているから……ゆくゆくは鉄を利用して歪みの無い完璧に近い原器を用意すると、任されたタルボ本人はそう息巻きながら、喜んで作業に没頭している。どうやらこの尺度についての考察など、緻密な手作業の大好きなドワーフの琴線に響くのか、タルボは一ラルフレインだけでなく、五十ラルフとそれを寸分違わず五等分した十ラルフの紐も開発。翌日からさっそく神社建設の現場で活用し始めたのである。

 造成工事が終わった事で、神社建設は次の段階である本殿の建設と鳥居の設置工事に移る。石畳を敷く外交工事は村の収穫完了までに間に合わないと判断、先にシンボルだけでも完成させようとラルフレインは班を二つに分け、本殿と鳥居建設の作業を同時に行う事で期間短縮を図った。――本殿の建設はリィリとヨセフィーナ、鳥居建設はタルボと船長。総監督はラルフレインで、彼は二つの工事を仕切りながら身体も動かすのである。


  【本殿建設】

 木材加工による建築物は時期尚早だと諦めたラルフレインは、石を積み上げた『(ほこら)』タイプにしようと決断する。人がそこで生活出来るほどの大きな建物ではなく、田舎道の道中に良くある道祖神、人の背ほどの大きさの(やしろ)を作り、その中に御本尊を(まつ)るタイプだ。周りの壁を石ブロックで積み上げ、屋根だけ木材で「合掌(がっしょう)造り」にすればそれらしくなるとの考えだ。


 合掌造りの屋根は個人的に夜でも出来る、先ずは石積み、出来るだけ形の整った石を確保して、ジャンジャン積み上げよう!ラルフレインが水糸を張って設置場所を整えている間に、沢の河川敷に派遣したヨセフィーナが材料を集めてリィリが運搬。役割分担さえしっかり行えば完成も早いだろうと始めるも、工事は早速暗礁に乗り上げてしまった。――ブロックとして利用するために集めた石が、思いの外小さかったのだ。


 河川敷に堆積している、いわゆる玉砂利と呼ばれる石は、角の取れて丸みを帯びている。川の流れに逆らったり流されたりして自然と角が取れるのだが、先ずこれが積み上がらない。設置面・接触面を増やせば安定するかと、半分割れたような石を集めてみても、やはり二十ラルフくらいの小粒の石では、曲面が急過ぎて割れた面以外が全く安定しない。途方に暮れたラルフレインはリィリを遣いに出して、ヨセフィーナに「五十ラルフくらいの大きさ」と注文を出したのだが、今度はヨセフィーナが参ってしまったのだ――重くて動かせない!と。鎧をまとい、剣を掲げる百戦錬磨の戦士であっても使う筋肉が違えば話は別。普段鍛えていない筋肉を酷使すれば当然の事だが、筋肉が痛みを発しながら早々にギブアップを宣言したのである。


「ヨセフィーナさん、ゴメン!本当に申し訳ない!」

「大きいの持って来いって無茶言ったのラルフだから、ちゃんと責任取りなさいよ」

「いや、いいんだ。リィリよ、ラルフレイン殿を責めないでくれ。我れが不甲斐ないのだ!」


 河川敷でくの字に横たわり、自ら腰をさするヨセフィーナ。どうやら無理を重ねて石を持ち上げ続け、腰の筋肉を痛めたらしい。


「千騎長を束ねるべき立場の我れが、こうも情け無いとは思わなかった」


 ウギギギと口から悲鳴を漏らしながら立ち上がろうとするも完全に腰砕け。慌てたラルフレインとリィリが肩を貸すも、今すぐ第一線に復帰するのは難しそうだ。


「ヨセフィーナさん、背中貸すから。とりあえず集会所に帰ろう」

「い、いや待て!こんな事で脱落するのは申し訳ない。我れはまだやれるはずだ」

「腰に効く薬草集めてくるから、ラルフにおぶってもらうのだ」


 ラルフレインに頼むと言われ、リィリはつむじ風のように森へ飛び込んで行った。当のヨセフィーナは、国の代表としてこの地を訪れた手前、自分自身の現状を失態と考えているのか、なかなか素直にラルフレインの背中に身を委ねようとはしない。……だが、しゃがんで待っているラルフレインの背中を目の当たりにしたヨセフィーナは、突如生唾を飲み込む事態へと心境が変わる。そう、彼女は国王の最優先命令を思い出したのだ。


「す、すまぬラルフレイン。(なれ)の申し出に甘えようと思う」


 ――これは労災だ。石を積むって気軽に考えてた俺が悪い。朝の作業開始の時点で『KY(危険予知)』含めた朝礼をやらなかった俺が悪い。朝礼の際にラジオ体操やらなかった俺が悪い、と、終始ブツブツ繰り返しているラルフレインの背中に、頬を紅潮させたヨセフィーナが覆い被さった。


「ちょっと揺れるけど、しっかり掴まっててくれ」


 ヨセフィーナが落ちないようにと、背中を気持ち丸めて前のめりになって歩き出す。背後から回した両手どころか、ラルフレインの首元に自分の顔が来るような状態となり、頬どころか顔が真っ赤になったヨセフィーナは、まるで頭から湯気が噴き上がりそうだ。


(くんかくんか……これが男の子の匂い。汗と泥臭さと、そして私の身体の芯を熱くする何とも表現のしづらい成分の匂い。それらが混ざったこれは、これは……正直たまらん)


 まるで夢見心地のような彼女の表情をよそに、ラルフレインは必死に小走りで集会所を目指すのだが、ここで背後からリィリの声が轟く。どうやら何かを発見して、ラルフレインを求めて戻って来たようなのだが、実はこのリスタル神社の本殿建設にあたり、一番の功労者となったリィリの、これが第一声だったのだ。


「ラルフ、ラルフうううっ!すごいの見つけたよ!これなら、これなら石積まなくて良いんじゃないのおおお!」



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