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39) 揃い始めた英傑たち


 リスタル山も本格的な秋の季節に突入し、山頂から里へとどんどん紅葉の輪が広がって行く。青々とした力強い緑は、眩い紅や黄色へと徐々にその色は変化を重ねて行く。それに伴いこのリスタル村の農作物も実が育ち、後は収穫を待つのみとなっている。


 太陽が天頂を越えて西に傾き始めた頃、眩い陽光に照らされ頬に熱量を感じながらも、山頂から吹き下ろす秋風に冬の訪れを予感する……。そんなリスタル村の道を歩く女性の影が見える。集落の中心にある集会所を出たその女性は、何か釈然としない経験をしたのか幾分(いくぶん)前のめりで、肩をいからせながら鼻息も荒そうだ。

 使い込まれた擦り切れの長靴、くたびれたマントと、埃だらけのズボンに上着。この時代においては違和感の無い旅装束の女性なのだが、何と頭に大きな獣耳がある。――そう、この女性はリスタル村入りした統一ハウトカンプ国の調査員。豹の獣人ヨセフィーナ・キュトラだ。


「ちいい!全くもって忌々(いまいま)しい。人間共もよりによってドワーフ共と手を組むとは。商魂たくましいのも、ほどほどにしてくれ!」


 やれ関税だの荷物の運搬費だのと請求され、すったもんだの挙げ句やっとオーストレム自治領への入国が認められたヨセフィーナ。不満タラタラのままリスタル村に入ったものの、再び彼女を待ち構えていたのは請求の嵐。「集会所宿泊費!」「食費!」「(まき)や蝋燭の光熱費!」と怒涛のごとく請求され続け、入村初日にして辟易となってしまったのだ。


「自治領の政務官が取り仕切り、現地で手の空いた農民を雇用しつつ、物資はドワーフの国が調達する……。経済モデルとすれば成功なのだろうが、払わされる側の身にもなってみろと言いたい!」


 陛下から頂戴した路銀が底を付いたら、どうすりゃ良いのだ?と、恨み言をブツブツ言いながら彼女が歩き続ける方向は、村の外れにある墓地。ラルフレインはどこにいる?と、集会所で村の者に尋ねたところ、彼は(ほこら)を作ってる最中だと言われたのだ。

 初めて足を踏み入れた人間の国は、彼女にとって最悪の印象を覚える事となったのだが、そんな些細な事もやがて霧散する――何故ならば、この木立(こだち)抜けると彼に会えるからだ


(抜けた!)


 村の中心からそれ程距離がある訳でもないのだが、林に囲まれた村中心部とここでは大違い。木立を抜けて来た道を見下ろすと、リスタル村の先には雄大なオーストレム自治領が広がっているのが垣間見れる。森や荒野が広がる野性味溢れる荒々しい自然と違い、集落や畑が点在する「人の営み」を感じる事の出来る穏やかな平野だ。


「……おっと、のんびり眺めてもいられない。早く彼に会わなければ」


 と、(きびす)を返してものの数分。ヨセフィーナはようやく少年の元にたどり着いたのである。

 場所は墓地より西側の山の斜面、何やら複数の人影がスコップを手に土をいじっているのだが、ちょうど西に傾いた太陽を背にしており、逆光で誰が誰だか分からない。それでもその中に間違いなくあの少年がいると感じたヨセフィーナは、おもむろに駆け出しながら「き、君がラルフレインか?」と大声を張った。――期待に胸を膨らませながらのファーストコンタクトだ


「あ?」

「ああん?」

「よよよ」


 複数の人影はピタリと動きを止めて声の方向に目を凝らす。そしてヨセフィーナもそこに集まっていた人影が、一体何者であるのかをようやく理解する事となる。何故ならば、泥だらけになったドワーフ、泥だらけになったエルフ、そして泥だらけになった蒼白い男と、いかにも人間では無い者たちがそこにいたからだ。

 ――ドワーフ、魔族、エルフ!ここで勢揃いして一体何をしてる?――

 知る者であるならば、それが土木作業であると理解出来るのだが、さすがに今のヨセフィーナには無理と言うもの。だがその不信感も瞬時に消え去る、その複数の人影の奥から、見覚えのある少年が現れたのだ。


「あっ、あんたは統一ハウトカンプ国の調査員かな?俺がラルフレイン、よろしくな!」


 片手でスコップを掲げて振る少年は、上半身裸で汗びっしょりの泥だらけ。だがその裸の上半身は、見せるために鍛えた身体とは違い、生きるために必然的に鍛えられた様な細くて美しい絞り具合。獣人のヨセフィーナが見ても、少年と言うフィルターもかかっており、思わずうっとりと眺めてしまうほどだ。


「わ、私の名前はヨセフィーナだ。ラルフレイン殿何卒よろしく……って、ええええ!」


 自己紹介の途中でありながら、ヨセフィーナはそれを中断して大絶叫で驚く。何故ならば、ラルフレインはこれが見たいんでしょ?と、いきなり身体を捻り背中をまざまざと見せつけたのだから。そこには大きな(あざ)、それも神聖文字で大地母神アデライードを表す印がデカデカと浮き上がっているではないか。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待てラルフレイン!」

「やっぱり獣人でも驚くか、ワシも最初見た時は膝を折って頭を下げたわい」

「リィリ知ってた」

「俺もさっき来た早々に見せられてさ。笑っちまうよな、この状況、どう報告すんだよ」


 アゴが外れそうに驚くヨセフィーナを見て、腕を組みながらウンウンとうなづくドワーフたち。だが当のラルフレインは真剣な瞳で彼女を見据えている――これは冗談や悪戯(いたずら)で見せたのではなく、見せた上で話があると言う強い意志の現れだ。


「話は全て後だヨセフィーナさん。手伝ってくれ、村の収穫までに間に合わせたいんだ」


 こうしてなし崩しではあるが、ラルフレインを班長とする土木作業チームが、一班誕生したのである。



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