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38) 疾風迅雷


「しかしまあ、欲深いと言うか意地汚いと言うか……」


 リスタル山の南斜面、山頂方面から続く山道を下っているのはヨセフィーナ・キュトラ。獣人族の国『統一ハウトカンプ国』の近衛戦士の一人で、国王の命を受けて人間種の国に入国した。魔族やエルフ族が騒いでいる「龍脈の活発化」の調査に便乗する形で彼女も派遣されたのだが、人間種の国に入国した途端、なかなかにご機嫌斜めだ。


「手荷物以外は関税が掛かるから金払え、尚且つ手荷物以外は自治領側で運ぶから運搬費払えって、、、誰がこんな悪どい商法を思い付いたんだ?」


 人間種の国、ファウセレ王国オーストレム自治領に入国するには、入国ゲートが一つしか無いので、ドワーフの国を経由するしか無い。ヨセフィーナはその国境線上のゲートを通過する際に、入国審査官が手形を発行して入国を認められる代わりに、様々な制約を科されたのだ。

 ――今抱えているバックは所持を認めます、無償です。しかし貴方(あなた)の従者たちが運んで来た着替えの衣服、刀剣類、防具や糧食の入った箱には全て関税が掛かるのでお支払い下さい。尚且つ、個人で運べない荷物はエトホーフト商業連合が取り引き窓口となり、オーストレム自治領の荷運び人夫に運搬の発注を致しますので、経費込み運搬費をお支払い下さい――


「荷物を漁って盗むような命知らずもいないとは思うが、こんな事をしていれば陛下から頂戴した路銀も早々に尽きてしまう」


 山頂から降りて来る爽やかな秋風に、ピンクオレンジの髪をなびかせる彼女は(ひょう)の獣人。三角形の大きな耳はもちろん豹柄で、ズボンの臀部に穴が空いて豹柄の尻尾も生えている。旅服を着込んでいるので見た目からは想像つかないが、自軍の兵士たちからは美の化身や戦女神と謳われるほどに強く、そして賢く美しい。表向きは活性化した龍脈と人間の少年の関係性を調べると言うのが彼女の任務であるのだが、国王の勅命で秘密の任も受けている――


(おお、目印の看板が見えて来た。これを右に行くと里、左に行けばリスタル村と言う事か)


 心臓の鼓動が心なしか早まっているのが分かる。それはもちろん、山道を踏破した結果では無いと言うのも理解している。屈強な戦士がこの程度の山道を下ったところで息が上がるはずがないからだ。そう、彼女の心臓は「ラルフレインと言う名の少年」が住んでいる村、その村が近付いて来た事を起因として早まっている――つまりド緊張が始まっていたのだ。


(初対面……人間は初対面での第一印象が大事だと聞く。少年が私を見てどう感じるかで、今後の国の命運がかかっていると心せよ!)


 秋風に遊ばれていた髪を慌てて撫でつけ、上着やズボンに付いた埃を叩く。


(第一印象は大事だが、それが終着点ではない、あくまでも始まりに過ぎない。どう接して、どう会話を重ねるか……今のうちに考えておかないと!)


 岐路を左に向かい、林の先にいよいよ村も見えて来る頃合いなのだが、ヨセフィーナの足取りが急に重くなる。一刻も早く目的地に到着する事よりも、今は脳内に広がった様々な選択肢を辿る事に集中してしまったのか、まるで水中ウォーキングでもしているかの様に鈍重なのだ。


「あなたがラルフレインね、よろしく。あなたがラルフレイン君?どうぞよろしくね!……どっちだ?どっちの方が良いんだ!」


 クールで知的なお姉さん路線で接するか、優しくてとっつき易いほんわかお姉さん路線で接するのか、真剣に悩み始めている。


「あまり冷たいと距離を取られる、これは愚策だ。だが安いヤツとも思われたく無い。これは悩ましい問題だぞ!」


 ――あの境界連絡会議での席上、ラルフレインは一言も発さなかったが、年齢は十五、十六歳あたりと推察される。立ち上がって礼をしていた姿を思い出せば、ちょうど自分の首くらいに彼の頭が来る身長差。


「こう……こうか?ハグするとちょうど彼の顔が私の胸の谷間に入る感じか?」


 思考迷路で行き止まりに達すると、さすがの才女も形なし。横道に逸れ始めた思考は知識の域から欲の域へと到達し、まだ言葉を交わした事も無い少年を相手に脳内寸劇が始まった。それもミラーボールがフル回転するかの様なキラキラの世界で。


「ヨセフィーナさん、僕、、、初めてなんだ。ま、まてラルフレイン!私もその……初めてなのだよ」


 キャー!たまんねえー!と、林をつんざく黄色い声。驚いた野鳥たちが一斉に飛び立って散り散りに逃げて行く。


「ラルフレイン君、そんなに緊張しないで。慌てなくて良いから、君の好きにしていいのよ」


 ぶはあっ!このまんざらでもない感じ!今度はウサギや猪が全力疾走で逃げ出して行く。


 はあっ、はあっ、はあっ!妄想の極地で疲れてしまったのか、肩を荒く上下させながら、ヨセフィーナはとうとう立ち止まる。

 ……彼女の名誉のためにも付け加えておくが、豹の獣人ヨセフィーナ・キュトラ、二十五歳は、才色兼備の戦女神。後の世に「リスタルの五傑」と讃えられ『疾風迅雷』の異名を持つ豹の戦士である。……決してショタ猫ではない。



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