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35) 各国の思惑②


「クソいまいましい!まさか人間ごときにしてやられるとは!」


 ペスクトゥスの北棟、ホーデリーフ皇導国の代表団が詰めているのだが、その最上階が何やら騒がしい。エルフの国代表として会議に参加していた執政官、イサベル・アルシェが荒れに荒れているのだ。

 ――今年になって異常なほどに活発化した地面を流れるエネルギー『龍脈』、その原因を探るために尽力した結果、各地の龍脈の流れがリスタル山の南斜面で収束している事が判明した。何故リスタル山の南……人間種が統治する国に、人間の生活や社会にまるで密接に関わっていない龍脈が集まっているのか。それが今回の境界連絡会議で判明するはずだったのだ――


「だがしかし!あの伯爵は見せびらかすだけ見せびらかしておいて、少年の秘密を温存した!ふざけるにもほどがある!」


 室内の高価な調度品に八つ当たりする訳にもいかず、眉間にシワを寄せ、苛烈な敵意を瞳にたたえるイサベルは、ガシガシと頭をかきむしり、真紅の髪を波立たせている。――そこへコンコンコンと扉をノックする音と共に、エルフの少女が入室して来た。まだイサベルから「入れ」と許可すら貰ってないのに堂々と入室して来るあたり、イサベルにかなり近しい者と言えた。


「リィリ……私の部屋を訪ねて来るのは問題無いが、せめて食べ終わってから入って来い!」


 怒りに満ちた表情が、何とも情けない表情に変わる。部屋に入って来たのはラルフレインと面識を持ったエルフのリィリ。彼女は今宵の晩餐に出されたニンジンスティックを、ぽりぽり食べながら部屋に入って来たのだ。


「だって呼んだのイサベルだし、私お腹空いてたから晩餐会のお裾分け食べてたし」


(お前の隣のウサギの獣人、哀しそうな顔してたけど理由はそれか!無理矢理奪ったんだな、奪ったんだろ!)


 リィリの緊張感の無さに拍子抜けしたのか、憤怒のパワーに満たされていたイサベルは、シュルシュルと空気が抜けるように萎んで行く。


「決めた、決めたよ。はなはだ心配ではあるが、リスタル村への調査団として、我が国はお前を派遣する」

「ほへっ?私て良いほ?」

「食べながら喋るなよ」


 ――ファウセレ王国オーストレム自治領は、龍脈の調査団を受け入れるーーと、領主のコニー・オーストレム伯爵が公式に宣言した。ただし村人を刺激しないよう配慮を求め、各国一名のみと言う条件を提示して、それも認められ一段落した。調査団とは聞こえが良いが、やる事は既に決まっている。ようはあの少年の素性を暴けば良いだけの話で、その後少年の措置をどうするかに各国の焦点はシフトしていた。


「お前も色々と私に隠してるようだが、彼は精霊王アルフリーデの息吹きを秘めていると確信している。私の目にそう映るんだ、お前が気付かない訳は無いよな?」

「うん」

「…………」


 会話が成立しないほどの噛み合わせの悪さに苦悶するイサベル。だが以前、エルフの女王に向かって『使いこなす』と豪語した手前もあり、癇癪(かんしゃく)を起こして打ち切る訳にもいかない。つまりリィリは、イサベルが無視出来ないだけの能力を持っている事の裏付けでもあるのだ。


「今から言う事を良く聞け、あのラルフレインと言う名の少年を、精霊王の息吹き受けし者だと認定した上で行動する。彼は我ら皇導国の玉座(ぎょくざ)となった、言ってる意味が分かるか?」

「ラルフレインが……玉座?」

「真剣に悩むな、言葉のアヤだ。あの少年を誰が味方につけるかで、我が皇導国の指導者が変わる。まだ部族間の紛争が絶えない我が国で、女王陛下以外の部族の長が少年と通じたらどうなる?王家の血が絶えるどころの話ではない、少年を玉座とした全く別の国が誕生するのだぞ」

「ふむ……」

「今の陛下には私の部族を救って貰った恩がある。だから私は魔族より獣人よりも先に少年を()る。奪って女性陛下に捧げ、国の礎にする積もりだ。リィリ、自分の役目が分かるか?」

「ラルフと仲良くなって国に連れて行く」

「そうだ、部族間での争いを止めるには彼しかいない。分かるな?殺戮の凍姫、耳長族最後の姫、リィリ・ビッセリンクよ」


 忘れていたのか、それとも忘れた振りをしていたのかは定かではないが、イサベルの言葉にリィリの身体が一瞬だけ緊張する。


「でもでも、ラルフが嫌だって言ったらどうするの?」

「……殺せ」

「殺せ?殺せってどゆことよ」

「言葉通りだよ。我ら広義の精霊族の頂点は精霊王、その精霊王の息吹き受けし者が人間であってはならぬ、言語道断だと知れ。だから我らになびくなら生かし、なびかぬなら殺す。精霊族に恵みを与えぬ者など、最初からいらぬ」


 真剣なイサベルと対照的に、どこ吹く風だったリィリだが、執政官の苛烈とも言える指令に何か思うところがあったのかしばし沈黙する。そして自分なりの結論が出たのか、ポワポワした雰囲気と愛らしい表情が消え、鋭利な雰囲気を隠すこと無く全身から放ち始めた。つかみどころの無い陽気な少女から、冷酷で残忍な空気を辺りに放つ戦士へと様子を変え、彼女はこう答えたのだ。


「分かった、ラルフが言う事聞かないなら殺す。でもラルフを殺したらイサベルも殺す、ついでに皆んな殺す。だってラルフを殺すようなエルフ族なんて、生きててもしょうがないから」

「ふふっ、やれるものならやってみろ。返り討ちにしてお前の首を前王の墓に献上してやる」


 バチバチと火花を散らす両者だが、それ以上の刃傷沙汰になる事は無い――(いびつ)で殺意に満ちた感情が互いに湧いていたとしても、それもまた信頼関係の一端なのかも知れなかった。



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