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3) 二十三歳の受難


 藤間博貴(ふじま ひろたか) 二十八歳

 兄の背中を追い続け、そして挫折した青年。

 天才の片鱗こそ無いものの秀才の最たる典型例であった兄、善美に憧れた博貴は、兄の足跡を辿り彼の後を追い続けるような子供時代を過ごした。秀才の兄に並ぼうとした凡才の『努力家』である。

 凡才が秀才に追い付くには気持ちや努力だけでは実らない事もあり、トップの国立大からキャリア官僚の道筋に乗った兄に対して、博貴は有名私立大学から外資系の証券会社に就職するのがやっとであった。ただ、博貴が兄との差に腐る事無く己の人生を前向きに歩き続けたのは、兄が残した結果だけでなく、兄自身の生き方に影響を受けた結果であるとも言える。挫折が彼の心を(くじ)く事は無く、出た結果に一喜一憂するよりも、ひたすら前を向いてあがき続ける姿勢にこそ博貴の本質があったのだ。

 結果として兄のようなキャリア官僚にはなれなかったが、このまま自分の仕事に邁進すれば、やがては経済アナリストや経済研究所の職員としての、花開く未来が待っているはずだった。だが、博貴が勤め始めて半年もした頃、その夢はポキン!と綺麗さっぱり折れてしまう。博貴の人生において最大の試練が訪れたのである。

 ――その外資系の証券会社が長年に渡り、法人同士で組織的なインサイダー取引を行なっていた事が白日の元に晒され、世界的なニュースになってしまったのだ――


 入社して間もない博貴は完全にカヤの外で罰せられる事など無かったのだが、複数の役員たちは刑事訴追され業務は停止。一般社員たちの心配をよそに騒動はそれだけに留まらず、現地法人としての証券会社はあっという間に廃業・解散し、親会社が日本から完全撤退してしまったのである。

 ……新卒入社一年目と言うか、まだ半年しか社会で活動していないのに、博貴は『無職』の烙印を押されてしまった。もう新卒ではない事、そして就職活動をしたところで履歴書には悪名を轟かせてしまった証券会社の名前がある。容易に再就職先など見つかる訳が無かった……


 とりあえず蓄えた多少のお金で食い繋ぎ、派遣社員で日銭を稼ぎながら就職活動をしようとあがく博貴に対して、更に死体撃ちとも言って良いダメージが襲った。それが大学時代から付き合っていた彼女との悲しい別れである。別れと言うか、彼女から一方的に縁を切られたと言った方が正しい。つまり博貴は捨てられたのだ。


 ある日を境に彼女と連絡が取れなくなり、SNSもメッセージを入れても返信が無く既読のみの状態。心配に思った博貴が彼女のマンションを訪ねてみると、連絡は一切つかないのだが電気は点いており、賑やかな談笑の声が扉からかすかに漏れて来る。激昂して玄関のチャイムを鳴らしたり、扉を叩いたりはせず、博貴はすごすごと来た道を帰って行く。この時点で疑問は確信に変わり、そして悟ったのだ――『彼女は一流企業で働く俺が好きで、無職の俺は嫌い。肩書が無いと相手にされないんだ』と


 兄に肩を並べて活躍する夢はついに潰え、更に昼も夜も無い大都会に居場所はもう無いのだと悟った。それが分かるまでに事件からもう半年ほどはもがき続けたのだが、その後博貴はひっそりと故郷へと戻る。……博貴二十三歳の受難は、その後の人生を変える岐路となったのだ。



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