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26) 呼び出し


 河川や治山などの土木工事に限らず、家屋などの建築工事現場においても、木の杭が刺さっているのを目にした事は無いだろうか?もっと言えば、その刺さっている杭に木の板が打ち込まれ、スプレーで色付けされたり油性ペンで数字が書き込まれている物……それは『丁張(ちょうは)り』と呼ばれる工事の初期作業の一つで、設計図を元に測量の結果導き出した、配置・高さ・水平の基準となる目に見える指標である。

 例えば、大きな河の河川敷の外側に、大きな堤防があるとする。その堤防を更に大きく高くする計画の工事が始まったとする。設計図の図面に従い測量を行い、その基点基点に杭を打ち、その杭に対して木の板を斜めに打ち付ける……。その杭は堤防の補強工事の基点を意味し、斜めに打ち付けた板は、その傾斜になぞって土を盛り付けて、新たな堤防の斜面となるその角度を表す。つまり『丁張り』とは、設計図に描かれたポイントを現実世界に投射するための指標であるのだ。

 そしてリスタル村に住むラルフレイン・ベイルもこの丁張りを利用する事で、より立派な祠……神社を作ろうと腐心していた。


「正直なところ、文字や数字はしらばっくれて前世の言葉使っちまえば良いけど、紙が無くて図面が引けないのはホント深刻だよ。全部頭の中で進めなきゃならないから……」


 神社建設予定地を前に、冴えない顔のラルフレインがボヤき続けている。墓地に隣接したこの建設予定地はリスタル山の緩やかな斜面をそのままに残している。つまり計画無しに神社を建立してしまうと、全てが斜面の下り方面に向かって前のめりの傾いた施設が出来上がってしまう。それではあまりにもマズいと悩みに悩んだ末、図面は諦めて全て脳内のイメージに頼り、イメージのまま丁張りを打って水平を取りつつ工事を進める事を決断したのである。


(……えっと、えっと……盛り土して水平値を出して……盛り土の周りは石積み……?)

(ねえキク、ねえねえ。その盛り土って何の事よ?盛り塩みたいなもの?)

(そうよ、絶対そうよ!だってアイツ怪しいじゃない。杭を打ち込んだり紐を引っ張ったり、アイツ呪術師か何かよ)

(もう……ミルもユウも静かにして!アイツが何を言ってるか聞こえないよう!)


 思い通りにいかないもどかしさを胸に、ラルフレインが顔をしかめながら悪戦苦闘していると、その姿を合計六つの瞳が近くの林から見詰めている。林の暗がりに同化しながら彼を監視し、そして彼は一体何をしてるのかと仲間内で喧々轟々と議論を重ねているのは、黒装束を身にまとった魔族の三人娘。そう、境界連絡会議に出席するためブラウエルス帝国からやって来た使節団のメンバーで、ナンバー2のレオニート船長から命令を受けた隠密部隊であったのだ。

 人間と先祖を同じくする魔族だが、体内に魔素を取り込むその特異体質がきっかけとなり、魔族は独立した進化を確立させた。この魔族の三人娘も取り込まれた魔素により特異な能力を個々に持っており、絶対的君主である魔王と、魔王が統べる帝国の繁栄に日夜邁進していたのである。


 今、とんがり耳をピクピクと動かして、遠くに臨むラルフレインの独り言を察知しているのは三女のキク。聴音能力に特化した、言わば隠密部隊の集音マイク役である。そしてその隣で目をギラギラと凝らしてラルフレインを見詰め、彼の一挙手一投足を細かに説明するのは長女のミル。「アイツ一体何してるの?」論争に参加しながらも、時折小声で指揮官であるレオニートの名を呟いて報告しているのは次女のユウ。

 長女のミル、次女のユウ、三女のキク……見ざる言わざる聞かざるのまさに正反対を行く、「見る!言う!聞く!」の隠密姉妹は、この時間がゆっくりと流れるリスタルの農村で、一人だけ理解に苦しむ行動をしていた特異な存在に着目したのである。――龍脈の異常な変化に、この少年が関わっているのではないかと。


(あああ!クソ、丁張りのトップから水糸張ったら、腰の高さまで勾配あるじゃないか!盛り土作業だけで何年かかるんだよ!)

(レオニート様、言ってる意味が分からないけど盛り土作業だけで何年もかかるらしいです)

(……あれ、あの子良く見ると……結構良い男よ。年頃から見ればユウとお似合いかも)

(レオニート様、対象は良い男らしいです。私とお似合いかも!)


 報告を受ける方が頭をかきむしりたくなるようなお花畑な内容だが、テンションの上がった三姉妹はノリノリで報告を続けている。やはりオーガ戦争が終結して十数年、訪れた平和の中で人々の緊張も緩んで来たのかも知れない。

 だがほどなくして、苦悩する若者とそれを人知れず遠くから見詰める美女たちの構図は、第三者の登場をもって幕引きとなった。このリスタル村を統べる自治領主、コニー・オーストレム伯爵の従者が、早馬に乗って駆けて来たからである。伯爵の従者はラルフレインを探してたどり着き、そして要件を伝える。「伯爵が到着したので、境界連絡会議に随行せよ」と。

 ――いよいよラルフレインが世界の舞台に登る。いくら本人が嫌がろうとも、自分の能力に懐疑的だったとしても、否応無く幕が上がる。『祝福されし者』として、己の(まなこ)で世界を見る日が来たのだ――



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