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22) 駒となるか独り立つか



『近々、再び私はこの地を訪れる。五カ国の代表が集う境界連絡会議が開催されるからね。ラルフレイン、君もその境界連絡会議に出席してくれ。なあに、私の後ろに座っていてくれるだけで良いから』


 ――大丈夫だからとか、顔だけ出してくれれば良いからとか、そう言う誘われ方は怪しさ満点。注意するに越した事は無い――

 コニー・オーストレム伯爵に呼ばれたラルフレインは、保養所で伯爵とドワーフの商人タルボと面談した。その面談の別れ際に、伯爵からそう言って誘われたのだが、一夜明けた今もラルフレインの表情は晴れていない。


 太陽が昇り始める直前、辺りが白み始める(あかつき)の時間に目を覚まし、焼いた芋をかじるだけの朝食を済ませて自分の畑を手入れする。それが終われば村長宅へと赴いて「本日のお手伝い」の内容を確認し、日替わりメニューで村人たちへのボランティア活動を行う。それが終わる頃には太陽は空の頂点から西に傾きかける頃。――その後は自分なりの奉仕活動、つまりは自分で計画した土木作業である。

 村道一号線……ラルフレインが勝手に命名した道の名前だが、要は里のニーハルーツ村とここを繋ぐ一本道の事。途中でYの字に分岐して片方は山頂近くの国境へと向かうのだが、先ずは村の中心から里の村に伸びるこの道を整備しようと決意して着工した。

 着工したと言っても協力者などいない孤独な作業、独りでやれる作業を思案し、第一に水捌けを良くする暗渠を随所随所に埋設し、第二に暗渠を通じて出て来た水をコントロールする用水路の設置……今はこれが精一杯の状況である。


「本当はさ、下層路盤から入れ替えたいんだよな!下層に四十ミリの砕石入れて、上層路盤に二十五ミリの粒度調整砕石。そして表層はアスファルト合材……いや、せっかく生コン屋に努めてたんだから舗装用の曲げコンクリートを!」


 用水路の石を積みながら独りでテンションを上げて盛り上げるのだが、やがてそれも(しぼ)んでしまう。


「はは……そうだな。どう考えても田舎の農道。市が支給する農道舗装の強度十八、スランプ八のBBセメント……」


 自分の行いを卑下している訳ではない。誰も喜ばない、誰も気付かない、無意味な活動だとも思っていない。何故ならば、「盗む、荒らす、ケンカする」のラルフレインは姿を消し、今では村人たちがあれやこれやを差し入れして来る、村の便利者へと変わったのだから。

 今日、イマイチ作業が捗らないのは、昨晩の事が頭から離れないから。伯爵とドワーフのタルボが言った言葉が脳裏にこびりついたままだから。


「俺は知らない内に、祝福されし者になっていた」


 ――人間にはあまり馴染みないが、大地母神アルフリーダとは、精霊信仰をする種族にとっては最高神じゃ。また精霊信仰を持たぬ魔族や獣人族にとっても大地を豊かにする大地母神は尊敬の対象であるのじゃ――


「その大地母神が現世に代理人を置いた。それが祝福されし者の俺って事なのか」


 ――ラルフレインよ、考えてもみろ。神を体現する者、奇跡の代弁者が、精霊を信仰する種族からではなく、異種族の人間から誕生したら、それは災禍の火種だとは思わんか?――


「俺には見えないけど……タルボが言うには、俺の周りでは精霊たちが歓喜に打ち震えているらしい。だからあのエルフも俺の前に現れたのかもな」


 伯爵は多分、俺を駒として扱うのだろう。境界連絡会議で議事進行の主導権を握るには、様々な能力に恵まれた種族と違い人間はあまりにも無力。そんな人間の中から祝福されし者なんてのが誕生すれば、そりゃあ権力を使ってみたくもなる。……悪い人じゃないだろうが、俺に会議に出ろって事はつまりはそう言う腹なんだろう。


「あああ!めんどくせえ!チート能力なんか無いのに、何で俺が巻き込まれる!」


 石を積んでいた手を止め、道に大の字となって倒れ込む。自分に能力があると自負しながらも評価されない悲しさと真反対に、自分に能力が無いと自覚しているのに周囲が(はや)し立てるもどかしさ。ロクな結末を迎えない自分が見えてしょうがない。


 その時だ、ラルフレインはタルボとのやり取りの一端を思い出す。自分には能力が無いと強弁した時のいきさつだ。祝福されたと言っても何も無い、お前は知ってるのかと逆に問い詰めた時に、タルボはこう答えたのだ――ワシだって知らんわい!(ほこら)で何か啓示でも受けんかったのか!――と


「この村に祠なんかある訳無えじゃねえか」


 ……あれ?祠って要は神社だよな……


 勝手に作っても良いんじゃね?ラルフレインがその答えに辿り着くのに、ものの五分も経たなかった。


  ◆ 伯爵と行商人 編

    終わり




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