表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/48

12) 境界連絡会議


 ファウセレ王国において『北端の守護者』と言えば、辺境伯としても讃えられるコニー・オルストレーム伯爵の事を指す。貴婦人たちにとどまらず、世のご婦人たちまでもがザワつくのは、容姿端麗である他に公言出来ない秘密の出自がある事。それが伯爵をよりミステリアスな美男子に仕立て上げている。だがそれだけではない、辺境伯と讃えられるにはそれだけの実力が要求される。それはもちろん、ファウセレ王国の国境を護り抜いていると言う、純然たる事実が招いた結果なのだ。

 ――亜人や獣人たちの国家との境界線、人間種と他種族との境界線、それがリスタル山―― コニー・オルストレーム伯爵は、軍事力に頼る事無くその類まれなる知略で外交を重ねた結果、見事に国境線を維持しつつ王国の今がある。

 リスタル山は人間にとっては里を囲む山々の一つに過ぎない、何ら変わり映えのない山の一つであるのだが、他の種族にとってはいささか価値観が違って来る。亜人などの異種族は各々に聖地や霊山や希少鉱物の鉱床としての価値をリスタル山に見出しており、種族ごとに分かれて国境線を設定している。つまり亜人種たちも一枚岩ではなく、微妙で絶妙なバランスの上で各国は現状維持に努めていたのである。


 リスタル山の山頂から南斜面 ――ファウセレ王国、コニー・オルストレーム伯爵自治領

 リスタル山の山頂から西斜面の荒地 ――ドワーフ族のエトホーフト商業連合による統治

 リスタル山の山頂から西北西斜面の枯地 ――魔族のブラウエルス帝国による統治

 リスタル山の山頂北から北東斜面 ――獣人族の統一ハウトカンプ族による統治

 リスタル山の山頂から東、(ふもと)まで続く森 ――エルフ族のホーデリーフ皇導国による統治


 日照条件の良い南斜面を人間種が独占し、そしてそれを維持し続けるのがオルストレーム家の役目。当代領主のコニーは一切の荒事も起こさず、一滴の血も流さずに維持し続けているからこそ、万民から尊敬されていたのだ。


 だが、この年、この月。

 リスタル山の南斜面にある人類最北端の村"リスタル村”で異変が起きた。雷に打たれた少年が、自分に秘められた事実に気付き、この時代・この社会とは一線を画した生き方を始めようとしていた。まだ少年自身が全ての秘密にたどり着いてはいないものの、既に影響は出始めていたのである――


  ◆  ◆  ◆


「……気に入らんな、全くもって気に入らん」


 遥か高く見上げても木々に覆われた深い深い森の奥、巨木の横腹に据えられた大きなツリーハウスの窓の奥から、そうため息混じりの声が聞こえて来る。その声は女性、少女のような高くて軽やかな声色ではなく、憂いを秘めたような大人の声だ。


「イサベラ、何が気に入らないの?」


 その大きなツリーハウスの広間、赤い絨毯が敷かれた先の「一段高い」ところから、気品に満ちた声が返って来る。草色の混じった細い金髪の髪、華奢な細い身体に透き通るような白い肌、そして特徴的な鋭く尖った耳から、彼女がエルフ族の者だと想像される。たま、派手派手しくは無いものの細かな技巧が施された王冠が彼女の頭に乗っている事から、彼女がエルフ族の女王であるのが伺えた。

 そして対照的だったのが女性からイサベラと名前を呼ばれた女性、窓の外に広がる深い森を睨みながら「気に入らない」と口にした女性だ。


「密偵が帰って来ない、そして龍脈は今も歓喜に満ち溢れながら脈動を続けている。……これが気に入らんでどうするよ?」

「あら、龍脈が元気なのは良い事よ。聖地に龍脈の気が溢れるならば、森も森の民も安泰でいられるわ」

「腑抜けた事を。問題なのは何をきっかけとして龍脈が騒ぎ出したかと言う事。主導権が我らに無いのはつまり、外交的敗北を意味する」


 女王に向かって(こうべ)も垂れず、平然と批判すら言ってのけるこの女性もやはり尖り耳のエルフなのだが、様相がまるで違う。燃えるような真っ赤な髪を腰まで垂らす褐色のエルフ、つまりは荒地に住むダークエルフ種のようなのだが、右目を塞いだアイパッチと腰の幅広剣がものものしい。そしてその不遜な態度と相まってか、高貴なエルフの女王と対比するとあまりにも禍々(まがまが)しいのだ。


「……あの山を欲しているのは我々だけではない。世の有象無象が山の所有地域を少しでも広げようと今も蠢いている。だからこそ常に皇導国が主導権を握らねばならないのだ」

「イサベラ、あなたなら出来るわ。同盟を組んだ後、あなたの背中を押したのは私。あなたなら貪欲に勝ちに行くと見込んだからこそ、私は元老院の提言を全て無視してあなたに託したの」


 ふん!と鼻息であしらうイサベラ。そんな彼女の不敬な態度すら可愛く見えるのか、女王は偽りの無い笑顔をたたえている。


「いずれにしても、目的のためには正道だけでなく邪道もやると決めている。あの凍姫(とうき)ですら私は使いこなすぞ」

「あらあら、それは楽しみね。あの子が働く姿は私も見てみたいわ」


 臆面もなく剣呑な気配をぶつける執政官イサベラ

 挑発的な空気を一切不敬と思わず、笑顔で包み込む女王

 対照的な二人ではあるが、会話の最後に口にした言葉が両者同じ内容であった事で無益な雑談は終わりを告げる。

『いずれにしても、来月には境界連絡会議が行われる』――その言葉には二人とも並々ならぬ意志を秘めていたのだ。


 ◆ オレ、転生してたらしい(過去形)

       終わり



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ