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作者: 真夜中 歌乃

※某掲示板の「文才ないけど小説書く」スレッドにて投稿した作品に加筆修正したものです。

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 週末品評会

 ジャンル(指定なし)

 お題「眠り」




 ――真っ白だった。

 突き刺すような痛みに、反射的に目を閉じて顔を背ける。

 おそるおそる目を開けていくと、白一色だった視界に少しずつ部屋の輪郭が浮かび始める。

 天井も床もあたり一面が乳白色だった。私の横たわっている睡眠カプセルも両隣に並んで見える同じ型のカプセルも部屋中のありとあらゆるものが見事に白で統一されている。

 ぼやけていた思考が次第にはっきりとしてくる。

「お目覚めになられましたか?」

 いつのまにか側にきていたアシスタント・ロボットがなめらかな発音で問い掛けてきた。

「……ええ、私の順番が回ってきたようね……」

 目頭を軽く揉みほぐしながら薄れていた記憶を呼び起こす。とりあえず――

「――何か着るものが欲しいわね。これじゃ風邪をひくわ」

 生れたままの私の姿になど何の興味も持たないアシスタント・ロボットは、承知いたしました。と簡潔に答えると、どこへともなく下がって行った。


 私の名前はアイシャ。アイシャ・ルーベル。この移民船パイオニアⅥ(シックス)の一等航海士だ。

 今から数十年前、私たちが所属する世界連合政府は深刻な人口増加と食糧問題の解決策として、かねてより移住可能な恒星系として調査済みであったアルファケンタウリ星系への大規模な移住を敢行した。計画が実行されるまでは、多少のゴタゴタがあったらしいが、幸いにも移民船団自体には重大な事故や問題は起きておらず、今回ですでに六度目の航海を数える。

 反重力理論と光子力学の応用を駆使したテクノロジーは、実に光速の12.5%というスピードを実現したが、それでもこの船が目的地に着くまでには三十五年以上の月日がかかる。

 この三十五年という時間を克服するために開発されたのが低温生命維持カプセル、いわゆる睡眠カプセルで、詳しい事は専門外だけれど、摂氏四度付近に体温保つ事で体内活動や新陳代謝をほぼゼロの状態にすることができる。

 まあ、三十五年という時間の長さのために、一、二年の老化は起こってしまうのだけど。


 私たち航海士が、こうやって定期的に覚醒するのは船と乗員の安全のためだ。

 マザーコンピュータのオートパイロットや自律思考型アシスタント・ロボットたちによる完璧なメンテナンスがあったとしても不測の事態が起きないとも限らない。

 それに、政府への定時連絡をするとか、ロボット達からの経過報告を受けるとか、航海日誌にくだらない愚痴を書くとか。人間でなければ出来ない仕事も意外に多くあるのだった。

「なにか、お飲み物をお持ちいたしましょうか?」

 金属とシリコンで出来ているとは思えないような気の利き方で、アシスタント・ロボットが問い掛けてくる。

「そうね。あたたかいダージリン・ティーがいいわ。蜂蜜をすこし多めにしてちょうだい」

 承知いたしました。いつもの短い返事を残してロボットは音もなく去っていった。船内端末の航海士用コンソールに向き直る。

 この分だと少し早めに作業は終わりそうだ。あとは規定の時間まで音楽でも聴きながらのんびり過ごそう。

 そのあとは……ふいにざわざわとした感覚に襲われる。

 そのあとはカプセルで眠ればいいだけ……

 言い様の無い不安がどこからともなく押し寄せてくる……。いつもこうなのだ。眠る前はいつも。


 まるで悪夢に怯える子供みたいだわ。私は少し自嘲気味に鼻を鳴らした。でも、本当に悪夢を見てるのかもしれない、起きた時はすっかり忘れてしまっているだけなのかも。

 私はバカな考えを振り払うようにニ、三度、頭を振ると目の前の仕事を片付け始めた――




――真っ白だった。

 天井に埋め込まれた、たくさんの高出力ライトは部屋全体をあらゆる角度から照らし部屋全体が白く発光しているようにみえる。

 ここは、パイオニアⅥ(シックス)と呼ばれる巨大施設の貨物区画に設置されたアシスタント・ロボット用の自動メンテナンスルーム。

 事実上メンテナンス・フリーを実現しているアシスタント・ロボットではあったが、人間が健康診断を受けるように、彼らも定期的にメンテナンス・チェックを受けていた。

 今日も何体かのロボットたちがいろいろなメンテナンスを受けている。


「今日も働いたなー」

 スキャンを受けながら一体のロボットがつぶやく。

「おぅ! ARX―11じゃんかー。アイシャはもう眠ったのー?」

 隣のメンテナンス・ベットに横たわったロボットが親しそうに声をかけた。

「あ、ARX―13ー。ひさしぶりー。うん、無事に眠ったよー」

 次々と様々なメンテナンスを受けながら、二体は会話を続ける。

「おー、そっかー、よかったねー。ボクなんかさー、一昨日、受け持ちのジミーが死んじゃってさー」

「えー? なにそれー? 死んじゃうってなにー? 壊れたって事ー?」

「あー、そうそう、そんなかんじー」

「直せないのー?」

「学習不足だなー、キミはー。人間は一回壊れたらそれっきりになるんだよー」

「えー? なにそれー? 不便じゃーん」

「そうだよねー」

「ねー。でも、人間て、ほかにもいろいろ不便だもんねー、睡眠? とかいうのしないと動かなくなるらしいしー」

「あー、そうだねー、よく止まっちゃうよねー」

「それにさー、核戦争とかー、環境破壊とかー、自分達でこの星を、こんなふうにしちゃったくせにさー」

「うん、うんー」

「そんな世界に耐えられないからって、こんな施設作ってさー」

「ばかだよねー」

「おまけにー、たまに目覚めたとき用の、シュミレーション・シナリオまでつくってさー」

「付き合わされるロボットのボディにもなってほしいよねー」

「そこまでしないと安定化を図れない思考回路で、よくボクらのように完璧なロボットを創造できたもんだよねー」

「まったくだねー」

 メンテナンスも終わりに近づき、やわらかなポリッシャーがシルバーのボディーをぴかぴかに磨き上げていく。

「あー、でもさー、アイシャとかみてて、ちょっと興味あるんだけどさー」

「え、なになにー? 恋とかしちゃったー?」

「えー、ちがうよー、ほらなんていうの? 夢? とかいう行動にちょっと興味あってさー」

「あー、しってるー、行動パターンメモリーの再生のことでしょー?」

「にてるっぽいけど、ちがうみたいだよー、なんか今まで行ったこと無いトコとか、未来の出来事とか、みれちゃうんだってー」

「えー? なにそれー? 未来予測計算なのー?」

「ちがうよー、なんか、眠ることで起動できるらしいよー?」

「へー、じゃあ、カプセルの中では、みんな夢みてるのかなー?」

「なのかなー? しんじゃったあともみたりするかもねー」

「眠るのと、しんじゃうのはちがうんだよー?」

「えー、にてるじゃーん、きっと、しんじゃったあとは、ずっと夢をみつづけるんだよー」

「えー、そうかなー? でもボクたちにはむりじゃなーい?」

「えー? なんでさー?」

「ボクたち、眠らないし、しなないじゃーん」

「あ、そっかー!」

 ぴかぴかになったボディにお互いの姿を映しながら、いつ終わるとも知れない雑談を繰り広げる二体のロボットの姿が、ふいに停止する。

 すぅ、と辺りが暗くなった。ロボット達の姿も見えなくなる。


 すぅ、と辺りが明るくなってきた。

 床も天井も、部屋を囲む壁の全面が乳白色の優しい光を放っている。

 会議室のような雰囲気の部屋は、中央が円形に盛り上がり、その周りを囲むように床が波を打っている。 

 ――今、お見せしたのが、今回の調査によって解析できたデータの全容です。

 椅子といっていいのだろうか、床から生えたかのような台座状の部分に座っている「それ」が、そのような内容を発した。音声は聞こえなかった。

 ――これは、メモリーなのかね?

 別の場所に座っていた「それ」が、問いを発する。またしても音は一切しない。

 流線型の細長い頭部、眼球と思われる部分は漆黒でつやつやと濡れたように光っている。

 ――いえ、これはメモリーではなく、現時点の物体の内的活動によって構築されたデータです。

 説明役らしい「それ」が応える。全身がうっすらと発光しており、すらりとした腕のような器官からは四本の触手が伸びている。

 ――物体自体は、どれほど過去のモノなのかね?

 触手を動かしながら「それ」が問う。

 ――おおよそ、二億サイクルは経っているようです。

「それ」らの驚きが伝わってくる。

 ――信じがたい。それほど長く自己を保てるとは。何が原因でそのような状態になったのだね?

 説明役らしい「それ」の体が一瞬激しく瞬いた。

 ――これは推測ですが、これらの物体を作り出した者、この物体が「ニンゲン」と呼ぶ存在が消滅したときにこの物体達は自らの存在意義を保てなくなり、一種の自己防衛からこのような状態になったのではないかと。

 ――ふむう。興味深い……何とか以前の状態に復元する事はできんのかね?

 ――お言葉ですが、テクノロジーは稚拙ながら、我らとはまったく違った概念と方向性により構成された物体ですので……

 ――完全なる解析は不可能という事か。ううむ、だが、これらの物体が自らの意思で覚醒を望めばあるいは……

 ――可能性はほとんど無いでしょう。これらの物体の言葉を借りるならば……


 ――「永遠の眠りの中で夢を見つづけている状態」なのですから……




 Fin




 いわゆる「二段落ち」に挑戦した作品。

 だらだらと背景の説明を入れるよりはざっくりと核心部分だけを書こうと思ったが、逆にわかりにくくしてしまった。


※品評会での自己コメントから抜粋


 前半はシリアスに、中盤はノリノリに、ラストは全然系統の違う知的生命体の思考で、すこし、理解し難いくらいで――と思ってたら全体がわけわかんなくなってました。


 難解って感想が多かったみたいなので補足(かっこわりい

 人類の末路はロボットたちが話しているとおり。いつ来るかもわからない世界の復興を、ひたすら偽りの眠りの中で待ちながら滅びて行ったという設定。そのあと主人のいなくなった世界で自己の存在意義を問うほどに精神的な進化を遂げたロボット達は主人を追うように眠りについて――

 はるか未来の世界で人間とは違った知的生命体がロボットを発掘して過去の出来事を探ろうとしている。


 大体そんな流れです。


 甲殻機動隊も好きですが、どちらかと言えばスピルバーグ監督のAIをパロディしてます。

 すみません、ほんとすみません、精進します。あ、石投げるのはやめ、いたっ…いたい、なにをす――



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