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しかし次の瞬間、黒焦げになった魔幼虫と魔虫が、バアルゼ・プリンセスを守るように覆い被さりだした。
「嘘? でしょ……」
雷光の一撃で全身が焼き尽くされ、紫色の核が瞬時に押し潰される程の風ですよ。
なぜ、動けるの?
それにいくらバアルゼ・プリンセスでも、この攻撃に耐えられるはずがありません。
そう考えていると、周りの歪みと雷光が消え去った。
そして、炭と灰だけが残っていた。
「倒せた……の?」
灰となった魔虫達を見て、私は胸を撫で下ろした。
だけど、今の奇っ怪な行動は何だったの?
しかもオーバーロードの次代を担うかもしれないバアルゼ・プリンスが、バアルゼ・プリンセスを守ろうとした。
ですが、魔虫の生態を知る術が無い以上、その行動の意味は分かりません。
そう思っていると、水蒸気爆発が起きた。
砲弾となる魔幼虫を躱すため、後方に翻ると魔幼虫と共に炭の粒と灰が舞った。
風を操り灰を纏めようとすると、炭の粒が全て一匹の魔幼虫に吸収されたのが見えた。
何か、嫌な予感がする。
ですが風雷神の裁きは、両手に風と雷を溜めなくては放てない。
「【風神の刃!】」
私は、直ぐに放てる風神の刃を左手で放った。
すると、その魔幼虫が真っ二つになった。
しかし紫色の核が、中心に無いことに気がついた。
その瞬間、真っ二つになっていた魔幼虫が二体となった。
核を切れなかったとしても、あまりにも再生が早すぎる。
ですが、攻撃は今のだけではありません。
私が放った風神の刃と共に、天八岐がそこにいます。
『「天八岐!」』
天八岐と繋がった私の『心』で叫ぶと、その姿を双刃刀に変えた。
『「心得た!」』
そして『心』に返事を返してくると、凄まじい勢いで回転し、二体となった魔幼虫を風神の刃で切り刻んだ。
ここまで切り刻めば、核も切り刻めたはず。
そう思った次の瞬間、切り刻んだものが一塊となり一瞬で魔幼虫へと再生した。
しかも、地面に落ちず空中に浮いている。
羽も無いのに、なぜ?
不思議に思っていると、戻って来た天八岐が『「手応えが無い。まるで、空を切っている様で有った」』と言った。
すると、魔幼虫が一瞬でバアルゼ・プリンセスへと姿を変え、周りにバアルゼ・プリンスが出現していった。
そしてバアルゼ・プリンセスの守護に一部を残し、残りのバアルゼ・プリンスが襲いかかって来た。
私は直ぐに、神眼鑑定LV10を使用しつつ攻撃を躱す。
すると、一瞬ノイズが走った様に感じられた。
ですが、先ほど神眼鑑定を行ったのと同じ結果が出た。
「もしかして……」
同じ結果が出たことで、私は一つの可能性を考えた。
確かめる為には、攻撃するしかありません。
そう考えていると、後方からも別のバアルゼ・プリンスが襲いかかって来た。
すると天八岐が、八帖盾へと姿を変えその攻撃を全て防いだ。
「主よ、何か分かったのか?」
「ごめんなさい。今は、確信がもてません」
「そうか……」
「ですが、確信するために攻撃を繰り返しても良いですか?」
「我らは、主を守り支えるもの。好きにするが良い」
「ありがとう、天八岐」
お礼を伝えていると、全方向から無数のバアルゼ・プリンスが襲いかかって来た。
今は貴方達の相手をしている暇はないのですが、ここは魔虫の群れの中。
先ずは、周りに居る邪魔なバアルゼ・プリンスを倒さなくては、バアルゼ・プリンセスに攻撃が届きません。
ですが、もう少し雷の力を溜めたい。
そう思っていると、天八岐が刀へとその姿を変えた。
「主よ、我を使って攻撃し隙を窺うのだ」
「はい」
私は全神経を研ぎ澄まして、下着の能力を発動した。
そして、バアルゼ・プリンセスを注意深く窺いつつ、襲いかかって来る無数のバアルゼ・プリンスを懐剣と天八岐で切り倒す。
下着の能力を、常に継続した状態での攻撃は私の精神負荷が大きい。
ですが、並列思考を使用すればそれも可能です。
ただ、怪力乱神融合の残り時間を考えると、三分数十秒でバアルゼ・プリンセスを見極めなければなりません。
それにもしも何かあった時の為、イベリスとの怪力乱神融合を温存したいですしね。
「雷神の数珠、展開!」
右手を掲げると、九本の尻尾に嵌まっていた琥珀色の数珠が、空に舞い上がり252個の玉に別れて展開された。
今は九本の尻尾に嵌まっていますが、雷神の数珠は元々、雷神の能力を向上し様々なサポートをしてくれる姫立金花の耳に付けるアクセサリーでした。
今は九本の尻尾にそれぞれ嵌まっている事で、数が凄いものとなっている。
これだけの数が有れば、直線的な雷の攻撃に、様々な変化を起こすことが出来ます。
因みに、インカルナタが付けていた翡翠色のリボンは、翡翠色のストールとなって首から両脇を通して私を浮かせています。
この風神のストールも、風神の能力を向上し様々なサポートをしてくれるのです。
私は展開した雷神の数珠に、移動するよう命令した。
すると、雷神の数珠が命令に従いバアルゼ・プリンセスと守護していたバアルゼ・プリンスを覆った。
一先ず、布石を打てた。
これは守護していたバアルゼ・プリンスと、周りのバアルゼ・プリンスを区別するため。
案の定、攻撃に来ていたバアルゼ・プリンスが戻って警戒しだした。
その間も、周りのバアルゼ・プリンスの攻撃が激しくなってきた。
「成る程。主よ、我らは理解した」
「えっ?」
天八岐がそう言ってくると、四束剣と四帖盾にその姿を変え、私の攻撃と防御のサポートをしだした。
これは、本当に有り難いです。
これで、私は他にも強い意識を向けられる。
天八岐に「ありがとう」と伝えると、この能力の事を語り出した。
この能力は元々、水神達の能力では無かったそうです。
八頭龍となる遙か昔、神々の戦いに巻き込まれた。
その時、異世界の女神から賜った能力なのだそうです。
その女神は数多の武器を所持し、その武器を様々な形へと変化させ、眷属達と共に闇の魔神と戦っていた。
そして、闇の魔神から闇を討ち滅ぼした時「ある戦いに、必要となる」そう言って、女神はその武器を新たに作り出し能力として変換させた。
そして、水神達に授けたそうです。
今は八つの形に加え、もう一つの形に変わることが可能となったが、私との繋がりと信頼が強くなれば、新たな形へと変わることが出来るそうです。
その女神様に名を尋ねると、少し困った顔をしましたが、鈴蘭と仰ったそうです。
鈴が付いていた事で、恐れ多いと存じますが、私はお兄ちゃんの事を思い出した。
あんちゃん、待っていてね。
撫子、頑張るけん。
私は心にそう誓い、右手にしていた天八岐を手から離した。
そして左手の懐剣でバアルゼ・プリンスを倒しつつ、天八岐にサポートしてもらい、右手を胸の前に持って来た。
「姫立金花、貴女の強力な雷を放つわ。だから、私に力を貸してね」
そう言って言葉にすると、融合した姫立金花から『「勿論だぞ!」』と伝わって来た。
私は溜めていた雷を右手に集め、雷神の玉に放った。
すると、雷神の玉に溜めていた雷が行き渡り、増幅され轟音が轟き光りを帯びだした。
「【雷神の雷嵐!】」
そして手を閉じた瞬間、強烈な轟音と共にバアルゼ・プリンセス達が目映い光に包まれた。
私はその光景を、雷神の眼を使用してしっかりと見つめた。
見えた!
バアルゼ・プリンセスが極小の魔虫となり大きな雷を躱し、小さな雷は極小となったバアルゼ・プリンスがその身に受けてバアルゼ・プリンセスを守っていた。
しかも、水蒸気爆発と共に砲弾となって下から飛んでくる魔幼虫に、極小のバアルゼ・プリンセスが進入する様に入り込もうとしているのが見えた。
「させません!」
私は、下にも雷神の数珠を持って来て阻んだ。
駄目!
小さすぎて、雷嵐の隙間を躱された。
もう、雷嵐が消えてしまう。
ですが、まだ四束剣の攻撃がある。
お願い、天八岐。
天八岐が放つ雷が、それぞれ四束剣に行き渡り、数百匹の魔幼虫を雷で攻撃し灰にした。
しかし、別の場所から飛んできた魔幼虫に侵入された。
「そんな……」
雷を慌てて放とうとしましたが、バアルゼ・プリンセスとバアルゼ・プリンスが復活した。
それらの事から、殆どの極小となったバアルゼ・プリンセスを倒す事が出来たとしても、たった一体を倒し損ねると復活してしまうようです。
ですが、神眼鑑定LV10の情報と違っている事は分からなかった。
もし何らかの方法で偽りを見せられているとしても、直接触れて神眼鑑定を行えば見えるかもしれない。
それに近づけば、もっと早く攻撃を放つ事が出来る。
怪力乱神融合の残り時間は一分数十秒、迷っている暇はありません。
私はバアルゼ・プリンセスに、もっと近づくことにした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
一日置きの更新とさせて頂きます。
不定期な時間になるかも知れませんが、何卒ご容赦下さい。




