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【薺SIDE】
姫から情報を聞いたことで、魔幼虫が執拗に攻めてくる意味が分かった。
そこで僕は前衛で立ち回り、後方を桜に任せることにした。
レベルが上がった事に加え、新たなスキルを取得した事で、以前とは比べものにならないほど戦いの質が向上した。
四神相応の極意を取得したことで、切り返しの技の早さ、的確な弱点への攻撃、相手の動きの予想、基本技の連携、秘技の使い所、攻撃リスクの回避など全てが向上した。
それに加え初志貫徹一騎当千を取得したことで、全ての能力が倍になり、基本的な技さえも秘技に匹敵する能力が出せるようになり、MP回復力が二倍となったことでMPを気にして戦わなくてもよくなった。
しかも僕と共に戦ってくれる桜は、あやかし達全ての能力を真似する事が出来る。
特殊能力は使用出来ないと言っていたが、真似した能力を応用して使用する事が出来るので、真似した能力以上のものとなっている。
例をあげると、ブルーローズの水鏡と波紋だ。
それが桜の場合は、万華鏡の様に広がりを見せる能力となり、同時に聖、雷、水、風、火、土、時の属性が付与される。
その能力によって、平面的な技が立体的な技へと変化し、上下左右を囲まれようと、一度に弱点を攻撃出来るようになった。
そして桜は更に、未来予知の神眼を僕の額に眼の文様として付与してくれた。
この眼の文様は、五秒先の未来を僕に見せてくれる。
その能力に四神相応の極意と合わせると、金剛体表の弱点すらも狙うことが出来る。
金剛体表の弱点とは、魔幼虫が攻撃する際に生じる一瞬の強張り。
その強張りの瞬間だけ、金剛体表状態であっても、体節の一部が裂けやすくなる。
そこを突けば、簡単に切り裂くことが出来るのだ。
加えて僕と連絡を取り合うために、桜は小さな分身体である小桜を授けてくれた。
因みに、小桜は胸ポケットに入るくらい小さいけれど、僕よりもHPとMPは遥かに上だ。
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LV99
薺 HP 1508/1508 MP 492/467
(初志貫徹一騎当千LV1 発動)
姫のあやかし(あやかし能力解放前)
野湯ブースト
桜 HP 3109990/3109990 MP 3275981/3272001
(稲成天空九尾の狐)
小桜 HP 31099/31099 MP 32759/32509
(桜の分身体)
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これらの能力のお陰で、僕達は水蒸気爆発の地点を予測し、効率的に魔幼虫を倒す事が出来るのだ。
「桜、後方の事は任せたよ」
小桜に話しかけると、執事服のポケットから僕の顔を見上げて来た。
「うちに、任せときぃ。せやけど、魔幼虫がぎょーさんおるよって、薺さん気ーつけてなぁ」
分身体は姿が本人とそっくりで、桜と通じ合えるだけではなく、独自のHPとMPを持っており、桜の能力の一部が使える。
なので、僕の攻撃に合わせて補助攻撃をしてくれるのだ。
「ありがとう、桜」
小桜にお礼を伝えると、可愛らしい笑みを向けてきた。
実は、桜本人と違う所が少し有る。
小さいからかもしれないが、声と仕草が可愛らしいのだ。
僕だけにと桜が言っていたけれど、姫が見たらきっと可愛いと言って喜ぶだろうな。
今度、桜に頼んでみるか。
「じゃー、行くよ。小桜、僕にしっかりつかまっていてね」
そう言って、小桜の頭を撫でると「おーきにぃ」と言って可愛らしく笑った。
小桜がお礼を言って、ポケットの縁につかまるのが見えたので、水蒸気爆発の中に自ら飛び込み、魔幼虫を倒していった。
倒していると、遠方から近づいているブルーローズと雛菊の援軍が見えた。
「桜、援軍が来たよ」
小桜にそう伝えると「薺さん、少し待っとおくれやすぅ」と言ってきた。
なので周りの魔幼虫を倒しつつ待っていると、水蒸気が漂う場所から羽の生えた成虫が出てきた。
「魔虫?」
いや、今は考えるより先にこの魔虫を倒す。
瞬歩を使って一気に肉薄すると、魔虫の下に潜り込む。
そして、弱点の体節に木刀を突き刺した。
魔幼虫より、少し硬い……だけど、弱点は同じ場所だ。
僕は木刀と同じ場所に脇差しを突き刺すと、一気に切り裂いて中の魔石を叩き切った。
だけど、いつの間に成虫になったんだ?
考えていると、援軍がいた場所からあやかし達の悲鳴が聞こえてきた。
不味い……僕が感じた、体節の硬さ。
援軍のあやかし達には、硬すぎたか。
瞬歩を使用して一気に援軍の元へ行くと、五十匹の魔虫とあやかし達が戦っていた。
たったこれだけの魔虫に、半壊させられたのか?
あやかし達を見ると、能力の高いあやかし達以外の殆どが重傷を負っていた。
その時、一体の魔虫が介抱している妖狐に突撃したのが見えた。
「忍法 【残像空蝉!】」
瞬歩で一気に近づき、残像で身代わりを作り出した。
すると、魔虫は地面に衝突した。
その間に、僕は妖狐と負傷者を離れた場所へ移動させた。
「済まない。若き武人よ、恩に着る」
「いいえ、気にしないで下さい。僕が魔虫の相手をしますので、妖狐さん達は生存者と共に桜の元へ避難して下さい!」
「ああ、分かった」
直ぐに妖狐から離れると、僕は地面から這い出る魔虫を叩き切った。
すると、四十九匹の魔虫が一斉に襲いかかって来た。
その魔虫目掛けて、迅雷瞬歩を使用する。
そして四神相応の極意の道筋に沿って移動し、魔虫の体節に木刀と脇差しを突き刺し切り裂いて行く。
すると、通ってきた道筋に魔虫達の魔石が見えた。
再び迅雷瞬歩を使用し魔石を叩き切っていくと、魔石を失った魔虫が地面に伏していた。
しかし周りを見ると、水蒸気に隠れて留まる魔幼虫が見えた。
「まさか、一時もせず成虫に?」
留まる魔幼虫を切り裂いていくと、中から孵化する寸前の魔虫がいた。
幼虫を早く倒せずにいると、成虫になるのか。
ブルーローズ達にも、直ぐに知らせないと……。
そう思い、斬撃で水蒸気を切り裂くと援軍が辿ってきた道のりにも、留まる魔幼虫が見えた。
「不味いな……」
少し桜から離れる事になるけれど、倒さないと被害が出てしまう。
そう思い、斬撃を再び水蒸気が漂う場所に放った。
すると、水蒸気と魔幼虫を飲み込む大津波と大雪崩が遠くで見えた。
しかも大津波と大雪崩が地面を覆う度に、分厚い氷に変化して地面を覆い尽くし、水蒸気爆発と、そこから放出される魔幼虫や留まる魔幼虫ごと氷漬けにし、無理矢理押さえ込んでいた。
後方回転し、残っていた魔虫に止めをさし上を見上げると、大津波と大雪崩の上に人影が見えた。
「ブルーローズと雛菊?」
そして二人の後ろにも、白狐と黒狐が率いるあやかしの軍勢が見えた。
確か一部の部隊を僕達の元に送って、姫の所へも援軍に向かわせると言っていた。
だけど一部ではなく、全軍で来ているように見える。
桜を通して、連絡が行ったのかな?
そう思っていると、小桜がポケットの縁に手をかけ肩まで登ってきた。
「えらい、はよおすなぁ」
小桜が額に手を当てると、大津波と大雪崩の上にいるブルーローズ達を見ていた。
「桜、ブルーローズ達に連絡してくれたの?」
僕は肩に乗る小桜を左手で支え、木刀だけで水蒸気と共に発生する魔幼虫や留まる魔幼虫を切っていった。
すると小桜は、僕の手の平に腰掛けた。
軽くて邪魔にはならないから良いのだけれど、出来れば危ないのでポケットの中に入って欲しい……。
僕の願いが通じたのかは不明だけど、小桜が僕の親指に尻尾を巻き付け、左頬に身体を寄せてきた。
「ブルーローズさんがなー、嫌な予感するさかい、うちに未来予知するよう言ってきたんどすぅ」
「そうなんだ」
僕は返事をしつつ、迫りつつある大津波と大雪崩に巻き込まれないよう、大きく距離を取った。
「せやから、ほんの少し先見に行ったら大きな蠅が見えたんどすぅ」
桜曰く、その事をブルーローズに伝えると全軍で来る事になったようだ。
だけど、ここまで急いでくるとは思いもしなかったらしい。
桜に言わせると、幼虫が成虫になったくらいでは魔王には及ばない。
しかも、僕が簡単に倒しているのが見えたそうだ。
それよりも、姫から聞いたバアルゼ・クイーンを見つけだして倒さなければ「埒あきまへんわぁ」と言っていた。
確かにその通りではあるのだけれど、ブルーローズの判断は正しい。
強いあやかし達は残ったものの、援軍に来ていた半数以上が重傷を負い半壊したからだ。
その事を考えていると、小桜が小さな手で僕の頬を突いてきた。
「薺さん、ソロソロうちの結界どすぇ」
小桜に言われて後ろを見ると、結界の周辺にも留まる魔幼虫がいた。
桜は結界に近づきすぎた魔幼虫と魔虫を倒してはいるが、これではブルーローズ達が結界内に入るには狭すぎる。
「小桜、ごめんね。危ないから、僕のポケットに入ってくれるかな?」
「堪忍えー。薺さんの手ー、座り心地ようてほっこりしてたんどすぅ」
小桜はそう言ってポケットに滑り降りると、顔を出し「おーきにぃ」と言って可愛らしく笑った。
僕はブルーローズ達を桜の結界に招き入れる為、結界を覆うようにいる魔幼虫と魔虫、それに留まる魔幼虫を秘技を使って一掃した。
すると、ブルーローズ達が一斉に桜の結界近くになだれ込んできた。
僕は津波と雪崩を避ける為、後方に大きく飛び退くと、桜が結界を広げて全部隊を覆った。
すると、桜の本体が僕の元へ来て腕を触った。
「薺さん、冗談抜きに凄おすなぁ。せやけど、薺さんと撫子さんはうちらの要どす。魔力消費量は、出来るだけ抑えとおくれやす」
そう言って、封印されているバアルゼ・オーバーロードを見た。
「ごめんね、桜」
現在封印されてはいるけれど、封印が解かれる若しくは、魔幼虫や魔虫が魔王に成り代わると、魔虫やバアルゼ・クイーンを越える驚異となる。
神器天佑神助の能力を持っているのは、僕と姫だけだ。
僕は改めて、気を引き締めた。
すると、桜が首を横に振った。
「かまへん」
そして頬を染めると、微笑んだ。
「……薺さん、うちの子に優しゅうしてくれておおきに」
それだけ言うと、元の位置に戻っていった。
僕も、凄く助かっている。
「ありがと、桜」
小声でそう呟くと、ポケットの小桜が微笑んだ。
小桜を撫でていると、ブルーローズが僕の元へ来た。
「薺、朗報だ。イベリスと姫立金花が、撫子達と合流した。現在、イベリスの能力を使用しこちらに向かっている」
「良かった……」
今から姫の元へ向かおうと考えていたが、イベリスの能力ならここまで安全に来られる。
こうして僕達は、桜やブルーローズ達の援軍と共に協力し、何度も湧き出てくる魔幼虫や魔虫を倒しつつ姫達を待つこととなった。
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