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後方へジャンプして躱すと、水蒸気爆発と共に、無数の魔幼虫が白い膜を纏った砲弾となって飛んで来た。
しまった。
魔幼虫の、数があまりにも多すぎる。
ですが風神の刃で切り裂けば、倒せない数ではありません。
「風神の刃!」
風神の刃を放つと、魔幼虫を一体減速させたが弾かれた。
まさか、金剛体表?
「クッ!」
私は風神の能力を使用し、翻って魔幼虫を躱した。
しかし、翻った先にも魔幼虫が。
「しまっ」
すると、風神の刃と共に放っていた天八岐が戻って来て魔幼虫に何度もぶつかった。
キィンキィンキィンキィン! キィンキィンキィンキィン!
「キャッ!」
すると甲高い音が鳴り響き、魔幼虫と魔幼虫の間に僅かな隙間が出来た。
その隙間に入ることで、私は辛うじて躱す事ができた。
駄目……魔幼虫が学習して、金剛体表状態で飛んできている。
周りも水蒸気爆発が起こり、砲弾状態の魔幼虫が私に襲いかかってくる。
この数、もう風神の刃では対応出来ない。
私は魔幼虫をギリギリで躱し、懐剣に神風を集めた。
ならば、竜巻で吹き飛ばす!
「風神の竜……」
私はこの時、竜巻で弾いた先のことを考えた。
駄目……竜巻で吹き飛ばせば、皆に被害が出てしまう。
やっぱり、攻撃回数が増えても風神の刃で対応すべき?
それとも……私は懐剣に纏わせている神風を前に持って来た。
ならば、風神の障壁で……。
私が障壁を張ろうとした瞬間、天八岐が八帖盾へと姿を変え、周りの魔幼虫を回転して叩き落とした。
『「主よ、我らの意思で姿を変えたことを謝罪する」』
『「えっ?」』
どういう、意味?
感謝の気持ちは有っても、怒ってなんていないよ?
『「我らは、主の意思を尊重する。よって、我らの意思で姿を無闇に変える事は無い。しかし主に危険が迫れば、姿を変え守護してしまうのだ」』
そうか。
私と繋がった事で、天八岐は私の思いを強く受け取るようになった。
そんな私が迷っていては、天八岐は本来の能力で動くことが出来ない。
私は懐剣に慣れすぎていて、自在にその姿を変える事が出来る天八岐の事を考えていなかった。
『「天八岐、守ってくれてありがとう。戦闘において、私はまだまだ未熟です。ですので、戦闘のアドバイスと形態変更の事を、天八岐に任せても良いですか?」』
『「その命、承知した」』
すると、天八岐が私を覆うように八方向に展開された。
『「主よ、全方向への防御陣形を取った。だが、奴は硬い。回転して衝撃を散らしてはいるが、念の為に風神の刃を付与してくれぬか? さすれば、我は攻防一体の盾となる」』
『「分かりました」』
天八岐に風神の刃を付与すると、大きく広がり回転し、私を中心に球体を描くように移動しだした。
そして、水蒸気爆発と共に射出される金剛体表状態の魔幼虫にダメージを与え、悉く叩き落としていた。
この回転とこの動き、計算して遠くに弾かないようにしてくれているようです。
これではまるで、攻撃可能な障壁。
すると移動する軌跡に、翡翠色の他に水色が混ざっている事に気がついた。
回転する天八岐をよく見ると、ウォータージェットカッターの刃でした。
二属性にして、攻撃力を高めたようです。
天八岐による攻防一体の二属性障壁が展開されると、怪力乱神融合の残り時間が十秒無い事に気がついた。
「怪力乱神分離!」
慌ててインカルナタを分離させると、小さな角が二本生えた幼くて可愛らしい少女が現れた。
このケモ耳の形と、上目遣いで私を見る行動。
「インカルナタ?」
私がそう言って確認すると、潤んだ瞳で見上げて来た。
「撫子様、おら暫ぐこの姿だ。役さ立だねぇげんとも、許してくんちぇ」
やっぱり、インカルナタだ。
インカルナタの角、私初めて見たかも。
髪を二つ結っていたのは、角を隠す為だったのね。
「気にしなくて良いですよ。だから、暫く休んでいてね」
「うんだ」
インカルナタは返事をすると、幼い少女からとても小さな狸に変化し、私の胸ポケットに入り込み顔を出した。
可愛い……手乗り狸さんだ。
だけど確か、共有していたHPとMPは等分される筈なのにどうして?
不思議に思いインカルナタのHPとMPを確認すると、502と496になっていた。
これって、私のHPとMPを基準に当分と言う意味だったのですね。
ポケットのインカルナタを指で撫でつつ、石楠花が張っている多属性絶対障壁に入ると、展開していた天八岐が私の後方で浮遊した。
「撫子、戻ったか。わしの特殊結界は、もう暫くかかる。じゃが、安心するのじゃ。頼もしい、救援が来たぞ」
そう言って石楠花が、私の後方を指さした。
すると、琥珀色の髪と双眸を持ち左のケモ耳にすっぽりと嵌まる琥珀色の数珠を付けた少女と、艶のある美しい白髪に金色の双眸を持ち金色の鈴が付いたチョーカーを付けているケモ耳少女が手を振っていた。
二人とも白さん達と同じ浴衣を着ていますが、ケモ耳と尻尾が妖狐の物ではありません。
そう思った瞬間、二人の後方で水蒸気爆発が起きた。
「天八岐、二人を助けて!」
『「心得た!」』
そう言って天八岐が瞬時に移動した瞬間、二人の周りに琥珀色の数珠が展開され、目が開けられないほどの目映い光が地に落ちた。
刹那、砲弾となった魔幼虫が打ち落とされた。
今のは、姫立金花の爆雷。
そして天八岐が二人を覆った瞬間、二人が消えた。
この能力は、イベリスの虚空の猫足?
そう思って暫く見ていると、急に抱きつかれた感触に襲われた。
「キャッ!」
一体、なに?
そう思って下を見ると、小さな二本の角が琥珀色の髪の隙間から見えた。
そして、フェレットの様なケモ耳がヒョコヒョコ動いていた。
「ふわぁー、安心する。イベリス、やっぱ誰よりも落ち着くぞ。撫子様、金花が来たからもう安心だぞ!」
「金花、おらが居るのに抱ぎづぐど危ねぇだ」
「インカルナタ、どうしたんだ? 何か、小っちゃいぞ?」
この子、やっぱり姫立金花だ。
そう思っていると、姫立金花を引き剥がす手が現れると同時に、頬をほんのり染めたネコ耳少女が現れた。
「金花は、もぉー。撫子ちゃんに、迷惑かけたらダメにゃ」
「うわぁー、イベリス離せよ! 撫子様のここは、もう譲らないぞ!」
「金花ばかり、ズルいにゃ」
やっぱり、この子がイベリスだ。
すると、天八岐が私の後ろで出現し笑った。
『「フフッ。この娘達は、強いな。我が、行く必要無かったぞ」』
『「いえ、助かりました。イベリスが虚空の猫足を使う一瞬、魔幼虫の攻撃を防いでくれていましたよね。ありがとうございます」』
天八岐にお礼を伝えていると、石楠花が張っている多属性絶対障壁が揺れ、轟音が木霊した。
音のする方を見てみると、赤、青、緑、茶のオーラを纏った巨大な蠅が、体当たりを繰り返していた。
神眼鑑定LV10で確認すると、異界の魔虫バアルゼ・プリンスであることが分かった。
しかも四種の体表を常に纏っており、HPとMPは幼虫であった時の五倍でした。
その事から、恐らく能力も五倍だと考えられる。
多属性絶対障壁をも揺らす体当たり、薺君達が心配です。
バアルゼ・プリンスの情報を見ていると、イベリスが猫の姿に変化し私と姫立金花の間に入り込んで顔を出した。
「イベリス、変化して入り込むなんてズルい! ここは、金花のだぞ」
そう言って、姫立金花もフェレットのような姿に変化した。
ここって、私の胸なんですけど……。
変化した姫立金花に苦笑いしていると、イベリスが肉球を押しつけてきた。
「ミャウミャウ、ミュウ?」
どうしたのかな? っと思い小首を傾けると、イベリスが虚空の猫足使っても良いか聞いてきた。
ですので、お願いすることにした。
「イベリス、お願いするね」
「ミャウ」
イベリスが虚空の猫足を使用すると、攻撃対象が消えた事で、バアルゼ・プリンス達は薺君達の方へ方向転換した。
「イベリス、ありがとう。だけど、今度は薺君の所へ向かわないとね」
「ミュウ」
イベリスが返事をすると、石楠花が「フゥー」っと溜め息をついた。
「助かったわい。イベリス、礼を言うぞ」
そして、お礼を言ってきた。
不思議に思い、石楠花のMPを確認すると急に減ったことが分かった。
つまり、先ほどのバアルゼ・プリンスの攻撃はMPを消費してまで多属性絶対障壁の能力を向上させないと防ぎきれなかった攻撃だったと言うことです。
「撫子、イベリス達と共に薺の所へ向かってはくれぬか?」
「石楠花は、どうするのです?」
「わしは、特殊結界が完成するまでここを動けんのじゃ」
「えっ? それでは、石楠花が……」
「安心せい、イベリスのお陰で障壁を気にする必要は無くなったからのぉ」
石楠花曰く、天狐の社を特殊な結界で覆うためには、ここを中心として周りに五つの強力な陣が必要なのだそうです。
現在、式神と協力して三つの陣を完成させたそうです。
全ての陣が完成すれば、例え天狐の社であろうとミステリアス ワールド テリトリーにする事が出来るそうです。
ミステリアス ワールド テリトリーにする事が出来れば、こちらの思い通りに地形や物事を操る事が出来る。
そうすれば、例えバアルゼ・オーバーロードの封印が解かれようと、バアルゼ・プリンスが魔王に成り代わろうとも、こちらが圧倒的に有利になるそうです。
『「姫、そちらは大丈夫ですか?」』
石楠花の説明を聞いていると『コーナーワイプ』から薺君の声が聞こえてきた。
『「はい。私はイベリスと姫立金花と合流し、石楠花の多属性絶対障壁内で、イベリスが虚空の猫足使ってくれたので大丈夫です。薺君達は、大丈夫ですか?」』
『「こちらは、あやかしの軍勢が半壊しました」』
半壊?
やっぱり、増え続けるバアルゼ・プリンスの攻撃に対応出来なくなったんだ。
ですが、この社をミステリアス ワールド テリトリーにすれば、恐らく増殖を止める事が出来る筈。
『「ですが、ブルーローズが逸早く異変に気づき、雛菊の部隊と合流してこちらに集結してくれました」』
『「それは、良かったです」』
ブルーローズは、機転が利きますからね。
『「現在、桜の多属性絶対障壁で周りを取り囲み、魔虫の群れに対応している所です」』
良かった。
多属性絶対障壁、桜も張れたんだ。
『「分かりました。私達も、直ぐにそちらに向かいます」』
『「済みません」』
薺君とのコーナーワイプでの通信を終了させると、桜のMPを確認した。
すると、MPがジワジワと減っていっているのが分かった。
もう、数の優勢は無くなってしまいました。
バアルゼ・クイーンの姿を確認し攻撃する事が出来ない以上、出来るだけバアルゼ・プリンスを倒し、石楠花の陣が早く完成する事を祈るしか有りません。
私達は石楠花を残し、薺君達がいる場所へ向かう事にした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
一日置きの更新とさせて頂きます。
不定期な時間になるかも知れませんが、何卒ご容赦下さい。




