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【ヘイズスターバーストSIDE】
一方ヘイズスターバースト達は、無限に湧きだす大蛇の軍勢と戦っていた。
増えに増えた大蛇の軍勢は、大凡一億。
だが、一気に片を付ける。
「インカルナタ殿、広範囲を巻き込む技を行う。我らの元に、参られよ!」
「うんだ。序でに、おらも掃除するだ」
我らの言葉で、チアを含む同胞達が中に退避した。
すると、インカルナタ殿が巨大竜巻を起こし大蛇共を巻き上げ、我らの元へ来た。
ならば、この大技が丁度良い。
「我らに従いし大地の力よ、岩漿を宿せ!」
この技は大地の深淵より我らの足下に岩漿を呼び寄せ、武王剣を通して気を打ち込む事で、我らを中心とした広範囲に岩漿の巨大剣を出現させる。
「深淵より来たれ! 【紅蓮斬!】」
武王剣を足場に突き刺すと、我らを中心に幾つもの岩漿の巨大剣が出現し、周りに居た大蛇の軍勢と空中から落ちてきた大蛇の軍勢を浄化した。
すると、瘴気が消え去り魔法陣が消失した。
大蛇がこれ以上復活しないのは良いが、一体何が起こった?
しかし、なぜ嫌な気配は消えない。
撫子姫達が魔法陣の核を破壊したとすれば、この気配は明らかに異常だ。
そして、不気味なのは石化している八頭龍の中から瘴気の気配を感じる事だ。
宰相、この状況をどう見る?
(陛下が、感じられる通りでございます)
やはり、魔法陣は八頭龍の中か……。
つまり、何者かが魔法陣の核を取り込んだと言うこと。
撫子姫が、心配だ。
腕輪を通して、我が部隊を派遣すべきか?
それとも、チアだけでも腕輪を通して行かせるべきか?
(陛下、インカルナタ殿がおいでです)
「インカルナタ殿、どうしたのだ?」
「ブルーローズ様の、清水の匂いが入口からするんだけんど……」
「援軍か?」
「ブルーローズ様が、石楠花様と雛菊様を乗せてるのは分かるんだけんど……」
「援軍が、多く来るのは嬉しいことではないか? 何をそんなに、脅えておる?」
「天狗水と清水に加えて、聖雪の匂いが多すぎるんだ」
天狗水と清水に加えて、聖雪の匂いが多い?
ブルーローズ殿は水神で、雛菊殿は雪女。
そして大天狗の石楠花殿が手伝ったので有れば、多いのは当然である。
インカルナタ殿は、何が言いたい?
(陛下、嫌な予感がします)
……うむ、我らも圧倒的な力を感じた。
すると、入口から異常な轟音が轟きだした。
大津波……いや、全てが清水で埋め尽くされている。
我らより遥かに巨大な、天狐の食道だぞ……何て激流だ!
「……何かにしがみ付かねば、飲み込まれるだ!」
我らは、直ぐにインカルナタ殿を胸の鎧の中に退避させた。
そして大蛇共を蹴散らせながら突起物につかまると、清水の激流に飲み込まれた。
我らの予想を上回る、豪快さ。
天狗と水神に雪女が加わると、こうなるのか……。
もはや、大蛇の軍勢は残っておらぬだろう。
八頭龍以外、天狐の中を全て浄化したと言っても過言ではない。
「カッカッカ!」
すると、石楠花殿の笑い声が聞こえた。
そして身体が自由に動けるようになると、ブルーローズ殿に乗って石楠花殿と雛菊殿が、渦巻く激流の清水の中に見えた。
「ヘイズスターバーストよ、無事か?」
ブルーローズ殿、涼しい顔をしてよく言うものだ……だが、来てくれて助かった。
撫子姫と薺殿のお陰で、体力と魔力が大幅に増えたが、流石に心許なくなってきていた。
魔力は攻撃すれば尽きることはなかったが、我が部隊も限界だったからな。
「……見ての通りだ。流石に、我らも驚いたぞ!」
少し愚痴を言うと、龍化しているブルーローズの背から石楠花殿と雛菊殿が顔を出した。
「ヘイズスターバーストたん、ごめんね」
「雛菊、何を言っているのじゃ? これなら天の中も浄化出来るし、一石二鳥じゃろ? のぉー、ヘイズスターバースト」
雛菊殿が謝り、ブルーローズ殿が申し訳ない顔をしている。
なのに、石楠花殿の無邪気な顔。
雛菊殿の方が、常識面では大人だ。
「つまり、これらの所業は天狗の悪知恵か……」
「ヘイズスターバーストよ、可愛いわしに、何か言ったかのぉー?」
「……いや、何でもない。それより、我らに羽団扇を振り上げるな!」
「カッカッカ! 冗談じゃ。じゃが……まだ、天の腸の中に数十兆を越える大蛇が潜んでおるやもしれぬ」
「何だと……」
石楠花殿曰く、天狐の身体は山のように巨大である。
その為、食道から胃にかけて湧き出た瘴気は、八頭龍の影響を受け、大蛇の大群となった。
しかし天狐の尻から出てきた瘴気は、その姿を闇の野狐に変えていた。
つまり最も長い天狐の腸の中で、瘴気の性質と姿が、大蛇から闇の野狐へと変貌を遂げたと考えられる。
成る程……今も尚、まだ数えきれぬほどの大蛇と闇の野狐が、天狐の腸の中に潜んでいてもおかしくはない。
人で言うと、腸の中の悪玉菌の量に匹敵すると言う事か。
確かに、その事を考えると数十兆は控えめの数字とも言える。
石楠花殿が考えた、多量の清水で一気に清浄させるのは、案外良い案だったのかもしれない。
「それにのぉ、八頭龍の封印が解けかけておる。じゃから、ヘイズスターバーストよ、わしらを手伝え! チアは、八頭龍の石化が解けた瞬間捕縛するのじゃ! わしらは残りの野湯と魔力を使い、天の中を八頭龍ごと清浄し押し流す。それにのぉ、時間を考えると天の凍結がソロソロ解けるやもしれぬのじゃ」
確かに、時間を考えると凍結が解けてもおかしくはない。
それに流石の天狐も、この豪快な天狗達の所業には暴れだすだろう。
何にせよ、人で言うと麻酔をされていない状態で身体の中を、多量の精製水で清浄される事になるのだからな。
「つまり、時間がないのだな」
「カッカッカ! まあ、そういう事じゃ」
「撫子姫の、為である。あい、分かった。我らは、石楠花殿の指示に従おう」
残りの野湯を渡すと、ブルーローズ殿が少女化して石楠花殿と雛菊殿と共に、我らの肩に乗った。
成る程、我らは石化している八頭龍につかまり離さないようにするのだな。
ブルーローズ殿がいれば、我らは自在に水の中を動ける。
その役、心得た。
石楠花殿達が準備をしていると、インカルナタ殿が顔を覗かせた。
「おらも、石楠花様達を手伝うだ」
石楠花殿達にインカルナタ殿の風を自在に操る力が加われば、更なる激流となる。
これなら激流が更に加速し、間違いなく残りの瘴気と大蛇も一掃できる。
「ああ、任せた」
インカルナタ殿に返事をしていると、チアが我らの中から出てきた。
「陛下、私はどこにいれば宜しいですか?」
「チアは、石楠花殿が仰った通りだ。我らの胸部より、八頭龍の石化が解けると同時に、作法の糸をメイド達と協力して放て! 但し、撫子姫達が脱出するまで捕縛し続ける一番重要な役だ。チア、心せよ!」
チアに説明をしていると、魔力が充実した事で、自らの魔力で受肉したメイドスケルトン達が集まって来た。
こうしてみると、生きていた頃を思い出す。
これも、撫子姫と契りを交わした恩恵。
我らは撫子姫のレベルによって、大きさ、能力、体力、魔力、スケルトンの部隊及びメイドの人数が増える。
本来の我らの能力だけでは、ここまでの魔力と体力はなかった。
それに、ここまでメイド達の嬉しそうな顔を見るのは初めてだ。
すると、チアがメイド達の中から一歩前に出た。
「撫子娘娘は、私達にとって希望の女神です。この任、私が……いえ」
そう言ってチアがメイド隊に笑顔を向け、メイド隊の元へ行った。
「「「「「「「「「「私共メイドが、承りました」」」」」」」」」」
そして、メイド達が揃って深くお辞儀をした。
「ああ、頼んだぞ。我らの……いや、撫子姫のメイド隊よ!」
チアを筆頭にメイド隊が配置につくと、石楠花殿達が天狗水と清水と聖雪を作り出した。
すると、インカルナタ殿が暴風を巻き起こした。
インカルナタ殿の暴風に加え、石楠花殿が天狗風を巻き起こすと、凄まじい激流の渦が出来た。
すると、石化している八頭龍が激流の渦に乗り腸の方へ移動を開始した。
あの巨体を、水と風の力で動かすとは……。
「石楠花様、おらここまで力使ったの初めてだ」
「インカルナタ、何を言っておる。まだまだ、先は長いぞ。わしなんて、水と風と火じゃぞ? それにのぉ、ここから更に加速せねばならん。天の腸は、信じられん程長いからのぉ。雛菊、聖雪の光角の能力を限界まで引き出し、可能な限り聖雪を作り出すのじゃ。わしが、聖火で聖雪を聖水に変えてやるからのぉ」
「うん、分かった。ピィ、頑張るの!」
石楠花殿から聞いたが、これが雪鬼神角乙女となった雛菊殿の能力……もはや、地祇を越えているのではないか?
「ブルーローズは、清水は少なくてもよい。じゃが、水流操作を誤るでないぞ。流石に、この勢いで衝突すると、天が死んでしまうからのぉ」
石楠花殿は、我らを見てそう言った。
「言われなくても、心得ておる」
ブルーローズ殿が返事をしていたが、我らも絶対に手を離すなと言うことだろう。
この様子だと恐らく、石楠花殿は我らの負担を軽減する為、重力や遠心力なども神通力で操っているのだろう。
そうでなければ、ブルーローズ殿の水流操作をもってしても、我らの力だけでは八頭龍にしがみ付く事などできやしない。
激流渦巻く清浄の水の中で、八頭龍にしがみ付いていると、腸の中を突き進み、隠れ潜んでいた大蛇と瘴気を浄化していった。
すると、八頭龍の石化が解け始めた。
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