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16

 水が……私は、息を止めて眼を瞑った。



「姫、どうされたのです?」



 えっ? 

 清水(セイスイ)の中の筈なのに、なぜ薺君の声が普通に聞こえるの? 

 ここは、清水(セイスイ)の中じゃないの? 

 そう思って閉じていた瞼をゆっくり開くと、薺君が心配して覗き込んでいた。

 私は息が出来るか少し不安で、薺君の左腕に抱きついた。



「息が出来る? の?」



 そして、薺君を見上げ聞いてみると「はい」と言って頷いた。

 私の身体(カラダ)を包み込む、清水(セイスイ)の感覚は有るのに? 

 そっと息をしてみると、普通に呼吸が出来た。

 清水(セイスイ)の中で呼吸が出来るなんて、とても不思議な感覚です。


 ブルーローズは、こうした場合、水を感じさせないよう気遣ってくれていましたからね。

 薺君の顔をよく見ると、鼻や口に清水(セイスイ)が入る様子は見えず、気管支にも清水(セイスイ)が進入している様子は見えなかった。

 水と風の(イタ)りという能力が有れば、繊細な水と風の操作が可能なようです。

 私もここまでの水と風を極める事が出来れば、もっと多才な神通力を使えるのですけれどね。


 周りを見ると、ゆっくりと流動する清水(セイスイ)がキラキラと輝き、言葉では言い表せない美しさでした。

 移動しているという体感を殆ど感じませんが、清水(セイスイ)の流動で下に降りて行っていることが分かった

 美しい光景に見とれていると、長兄が右手を横へ移動させた。


 すると、清水(セイスイ)に包まれていた場所から外に出た。

 清水(セイスイ)の中にいたのに、髪や肌も濡れていない。

 薺君の髪を触ってみると、私と同じ様に濡れていませんでした。

 寧ろ、サラサラしています。


 薺君の髪を触っていると、お兄ちゃんの髪をよく触っている事を思い出した。

 あんちゃん、今頃なんしようと? 

 撫子、頑張るけん。



「姫?」



 そうしてお兄ちゃんの事を思い出していると、薺君が顔を赤くしていた。

 しまった。

 また、薺君に変な事していた。

 そう思い、私は触っていた手を引っ込めた。



「ご、ごめんなさい。何でも、有りません」



 最近薺君に慣れてきたせいか、ふとした時に、お兄ちゃんにしていた行動をする事が有るのです。

 お兄ちゃんの様に、薺君に安心感を感じる様になったからかもしれません。



「コホン!」



 二人して頬を染めていると、長兄が咳払いをした。



「……(ワラベ)達よ、我の前で戯れるのは良いが、ここが弟達の隔離器官へ通じる扉だ」

「「はっ、はい」」



 あまりの恥ずかしさに、二人して声が上擦ってしまった。

 長兄によると、隔離器官へたどり着くまでの扉は全部で九つ有るそうです。

 そして、その扉の先には二つの鳥居が有るそうです。


 一つ目の鳥居は、浄化の水が清流する清水(セイスイ)の鳥居。

 二つ目の鳥居は、清浄な炎が燃えさかる忌火(イミビ)の鳥居です。

 その鳥居をそれぞれ九回(クグ)る事で、中へ入る場合は封印された呪いによる(ケガ)れを抑制する事ができ、外へ出る場合は封印された呪いによる(ケガ)れを祓う事が出来るそうです。


 私達は、他にも外套を付けているので余程の事で無い限り問題は無いはず。

 因みに、(ケガ)れを祓わずにいると精神が汚染され錯乱状態になるそうです。

 扉を開けると、清水(セイスイ)の鳥居が有った。



「では、我について参れ」



 長兄の言葉に返事をし、二人で清水(セイスイ)の鳥居を(クグ)った。

 すると、清水(セイスイ)の壁に入った時の様に清水(セイスイ)に包まれた。

 ですが、先ほどの壁とは違い薄い膜が張られていた。

 この薄い膜が、(ケガ)れを抑制する働きが有るようです。


 次は、忌火(イミビ)の鳥居です。

 忌火(イミビ)の鳥居を見ると、虹色の炎が(クグ)る場所にも燃えさかっていた。

 清水(セイスイ)は平気でしたが、清浄な炎といえ少し怖い。

 私や石楠花(シャクナゲ)の炎は、自身や味方に熱が伝わらないですし、触れることも有りません。


 それは、自身の炎を操る事が出来るからです。

 ですが、ここに有る虹色の炎は操る事が出来ない。

 なので、少し怖いのです。

 恐る恐る近づいて行くと、薺君が手を差し出してきた。



「姫」



 どうやら薺君は、察してくれたようです。



「薺君、ありがとう」



 お礼を言って手を取ると、一緒に忌火(イミビ)の鳥居を(クグ)った。

 すると、七色の炎が薄い膜の様に全身を覆った。

 少し暖かさを感じましたが、熱くはありませんでした。

 私は、薺君と手を繋いだまま先を進む事にした。


 薺君の手を握ると、お兄ちゃんのように安心出来たからです。

 鳥居と門を進んで行くと、進む度に後ろの扉が閉まっていった。

 こうして最後の扉前に立つと、長兄が険しい表情をした。



「おかしい……なぜ、我が来たのに開かない? 九姉妹は、何をしている?」



 そう言って左手を(カザ)すと扉が開き、稲荷空狐九姉妹達が錯乱状態に(オチイ)り、互いに攻撃しあっているのが見えた。



其方(ソナタ)らは、何をして……むっ、瘴気! これが原因か? 【多重清水(セイスイ)壁!】」



 長兄が多重清水(セイスイ)壁で瘴気を押さえ込むと、多重清水(セイスイ)壁を少しずつ瘴気が浸潤していた。

 そして中心にある魔神の呪いが黒い光りを帯び、濃厚な瘴気を発生しているのが見えた。



(ワラベ)達よ、暫し待て」



 長兄がそう言って、隔離器官の中を清水(セイスイ)で満たした。

 しかし瘴気は浄化出来ず、稲荷空狐九姉妹達の錯乱状態は治らなかった。



「……今まで、こんな事は初めてだ。封印されているのに、なぜ活性化している? 何だ、この瘴気は? 我の清水(セイスイ)が、浸潤するなど……」



 長兄が瘴気の侵入を多重清水(セイスイ)壁で拒んでいると、九姉妹の矛先がこちらに向いた。

 そして、多重清水(セイスイ)壁を破壊し襲いかかって来た。



「クッ! 【多重清水(セイスイ)壁! 多重清水(セイスイ)壁! 多重清水(セイスイ)壁! 多重清水(セイスイ)壁!】」



 長兄は九姉妹を攻撃せず、防御に徹していた。

 しかし九姉妹の攻撃は凄まじく、次々と多重清水(セイスイ)壁を破壊されていった。

 すると、薺君が私の方を向いた。



「姫、魔法陣の赤核は今どこに?」



 神眼鑑定(シンガンカンテイ)LV10で確認すると、まだ隔離中でした。

 ですが隔離中にも拘わらず、魔法陣の赤核が近くに有るだけで、魔神の呪いの影響が凄まじい。

 もし赤核がここに隔離されると、呪いにどのような影響が起こるか分かりません。



「まだ、隔離中です。ですが、後二分も有りません」

「僕はデコイを使って、九姉妹を引きつけ、水神様の負担を減らします」

「お願いします。私も、長兄様と共に浄化を試みてみます」

「姫、よろしくお願いします」



 二人で頷き合うと、それぞれ行動を開始した。



「スキル デコイ!」



 薺君がデコイを三体呼び出すと、九姉妹の矛先がデコイに向いた。

 すると、薺君と三体のデコイが九姉妹と戦い始めた。

 九姉妹に対して、薺君とデコイは圧倒的なスピードとパワーで相手の武器や爪を攻撃。

 しかも手加減して技を使用せず、デコイが受ける攻撃までも、木刀と脇差しで()なし躱させていた。

 剣鬼と剣聖は、こんなにも違うのですね。



「長兄様、私も浄化を手伝います」



 そう言って、手を翳し多重清水(セイスイ)壁を通して清水(セイスイ)散弾を瘴気に放った。

 すると、部分的に瘴気が消え去った。



「我とは違い、何と凄まじい浄化の清水(セイスイ)だ」



 私には長兄の方が卓越している様に見えますが、浄化の力はどうやら私の方が上のようです。



「やはり、認められし申し子の力。申し子よ、そのまま浄化をお願いしたい」

「はい」



 私は返事をすると、瘴気を浄化させていった。

 しかし、魔神の呪いを浄化することは出来なかった。

 瘴気の発生は、私の神通力で押さえ込む事が出来たのですけれどね。

 ですが、急に九姉妹の攻撃が激しくなり薺君のデコイを全て倒されてしまった。

 助けに入ろうとすると、薺君に手で制された。



「姫、技を使用するので大丈夫です」

「分かりました」



 薺君に返事をして、再び魔神の呪いの浄化を試みていると、フワフワした感覚が『心』を擽ってきた。

 どうやら、桜のようです。



『「撫子さん、共有魔力の事、忘れてへん?」』

『「桜、共有魔力は有り難く使わせて頂いていますよ?」』



 そのお陰で、この広い空間を浄化する事が出来る。

 ただ魔神の呪いが、簡単には浄化出来ないだけです。



『「堪忍なぁー。うちの言い方、あかんかったわー。どー言うたら、ええやろかー? 撫子さん神通力、魔力少ない分、かいらしい使い方なんどす」』



 確かに私は、一つの神通力に必要以上の魔力を込めず制限している。



『「神通力に対する、魔力の込め方の事でしょうか?」』



 ですがそれは、MPの総量が少ない分、身体(カラダ)が自然とそうしてしまっている。



『「そうどす。魔力発動前に、並列思考振り分けるんどす。ほんで、英傑(エイケツ)神導師(シンドウシ)の能力つこうて、ぎょうさん向上するんどす。最後合わせてー、ドカンと放つんどす」』



 そう言えば、共有魔力を有している今は放てる。

 ですが、並列思考と英傑(エイケツ)神導師(シンドウシ)の能力を、あまり意識していませんでした。



『「桜、並列思考と英傑(エイケツ)神導師(シンドウシ)の能力を合わせて放つの?」』

『「そうどす」』



 以前、石楠花(シャクナゲ)から教わった神通力を合わせる方法に似ているかもしれません。

 並列思考を使用して複数の浄化可能な神通力を作り出し、同時に英傑(エイケツ)神導師(シンドウシ)の能力を使用して向上に向上を重ね魔力を凝縮した融合物を作り出し、それを全て合わせる事によって作り出す激上凝縮融合合体神通力。

 並列思考が無ければ、流石に難しすぎます。



『「せやけど、魔神の呪いに、神通力どうやろかぁー? いや、効果無いとちゃいますよって。けんど、効果薄いんどす」』



 桜曰く、闇の魔神の能力は、唯一神の能力で打ち消すことが可能で、唯一神に与えられた能力であれば、同じ様に打ち消す事が可能なのだそうです。



『「では、向日葵様に賜った能力。癒しの光りは、どうでしょうか?」』



 向日葵様から、あやかし召喚士の能力も賜りましたが、癒やしの光りは恐らく……。

 その考えにたどり着いたのは、水神の長兄が浄化出来ない瘴気を、私のあやかし達は普通に浄化する事が出来た事。

 つまり、私のあやかし達は、私と契約した事で、少なからずその恩恵を受けていると言う事です。



『「聞ーてる限り、呪いを消せるかもしれまへんなー」』



 私は桜の教え通り、癒やしの光りの使用方法を改め、並列思考と英傑(エイケツ)神導師(シンドウシ)の能力を駆使し強力に凝縮された幾つもの集合体の光りを合わせた物として、魔神の呪いを覆った。

 刹那、魔神の呪いが消滅した。

 そして同時に、魔法陣の赤核が隔離器官の中に隔離された。



「しまっ」



 薺君が叫んだと思うと、錯乱状態の九姉妹のうち四人が薺君の横を通り抜けた。

 その瞬間、四人が魔法陣の赤核を飲み込んでしまった。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

一日置きの更新とさせて頂きます。

不定期な時間になるかも知れませんが、何卒ご容赦下さい。

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