15
「これは、雪氷獄の楽園……」
まさか、雛菊?
天障壁を見ると、雛菊が消えていた。
成る程のぉ。
ブルーローズの背に隠れた白いのは、雛菊じゃったか。
じゃが、雛菊に野湯のエネルギーは過剰すぎる力じゃった。
また、譫妄状態になっていなければ良いのじゃが……。
漆黒の瘴気が氷片となって砕け散ると、美少女となったブルーローズと美女となった雛菊が抱き合って左手と右手を合わせているのが見えた。
「ブルーローズたん、天狗の鬼たんがいるよ?」
雛菊が、わしの鬼天面に気がついたか。
じゃが、元気で何よりじゃ。
雛菊の身体と魂の成長が、野湯のエネルギーに追いついたと言うことかのぉ。
つまり、完全な雪女となったようじゃな。
妖力も、何故か異常に上がっておる。
身体と魂が、無理に抑え込んで蓄積していたエネルギーを解放したのかもしれぬ。
ふむ……ここまでの妖力が有れば、渦巻く漆黒の瘴気など簡単じゃったか。
「雛菊、心配するな。あれは、石楠花だ」
この姿でも、ブルーローズはわしと気づいたか。
流石、ブルーローズじゃ。
まあ、これだけ妖力を解き放っておれば、わしだと波長で分かるかのぉ。
二人に感心していると、雛菊が雪で出来た白銀の翼を広げて飛んできた。
「石楠花たーん」
雪女となった事で、雪を自在に操れるようになったか。
じゃが、言葉使いと行動は変わらんようじゃのぉ。
それに、身体の方が色々と成長しすぎじゃ!
「ふにゅ……」
雛菊、胸を押しつけるでない!
筋肉質となったわしが、恥ずかしくなるじゃろ!
「石楠花たん、カチカチだよ?」
「鬼天面で、肉体を強化したからのぉ」
……雛菊、わしの腕にぶら下がるでない。
メイド服を捲り上げて、わしの腹筋と見比べるな!
「こりゃ、雛菊!」
わざわざ、ブルーローズとも比べんでよいわ!
「えへ、へへへ」
むぅ……中身は、まだ幼い雪ん子のようじゃの。
それにしても、四頭四尾狐の様子が変じゃ。
覇気を放って、威圧はしておるが……大人しすぎる。
なぜ、奴は隙だらけのわしらに手を出さずにいるのじゃ?
今のうちに、鬼天面解放を解いておくか。
一日に一度しか使えぬし、残り四分しかないしのぉ。
鬼天面を外して懐に入れると、メイド服を整え、顔を赤くしたブルーローズが側に来た。
「石楠花、待たせたな」
「いや、待ってはおらん。それより、奴の様子が変じゃ」
四頭四尾狐の状況を伝えると、ブルーローズの眼が青く輝いた。
神眼鑑定を、発動させおったか。
「……石楠花、奴の尻尾を見よ」
ブルーローズに言われて尻尾を見ると、四本だった尻尾が八本に増えていた。
「……尻尾が、増えておる!」
「石楠花、次は天の口を見よ」
「瘴気が、出ておらぬな……」
「恐らく、撫子達が口からの瘴気を絶ったのだ。だが、瘴気の出口は口だけではない」
ブルーローズが指さす方向を見ると、天の尻尾の付け根から瘴気が出ていた。
しかも悟られぬよう、地面を伝って四頭八尾狐が吸収し続けていた。
あ奴め、瘴気を凝縮させ一頭づつ個々の能力を高めおったか。
妖狐は年を重ねて妖力が増し、自在に神通力を使いこなすほど尻尾が増える。
その中で、善に目覚めたものは尻尾が四本となり天狐となる。
そして、他のものは更に年を重ねて神通力を自在に操れる様になったものが空狐となり尻尾が消失する。
その中で、更に年を重ねて神通力を極めたものが稲荷空狐となり、善や悪を拘らず、強大な妖力を受け入れ神通力を極めたものが九尾となる。
四頭八尾狐は特殊じゃが、一頭づつ個々の能力が増し尻尾が増えたのは同じ。
あれ以上、増えねば良いのじゃが……
奴の尻尾を見ていると、雛菊がブルーローズの側に来た。
「ねえねえ、ブルーローズたん。狐たん、黒くなったよ?」
「うむ。奴の妖力が、一気に濃厚になりおったからな」
確かに……言われてみれば、先ほどまでは毛と瘴気の境目が見えていた。
じゃが、奴を取り巻く瘴気が濃厚になり全身の毛まで真っ黒に染めていた。
奴は、どこまで瘴気を取り込むつもりじゃ。
それに、あそこまで濃厚となった瘴気は、恐らく触れただけでダメージを受ける。
もう流石に、素手では攻撃出来んのぉ。
ブルーローズは龍化するか、それともこのままの姿で戦うつもりか?
そう思いブルーローズを見ると、清水の刀を作り出した。
こ奴が、刀を持つところなど初めて見たわい。
「雛菊、我のように武器を作るのだ。但し、聖なる力を増幅させた白雪でだ。そして奴の攻撃は、受けずに躱せ」
あそこまでの、瘴気。
清水と雪で作ったメイド服でも、どうなるか分からぬか。
「うん、分かった」
雛菊が聖なる白雪で、真っ白な弓を作り出していた。
万一を考え、強化した天障壁も併用しておくほうが無難じゃろう。
天障壁を皆に施すと、四頭八尾狐の眼が赤黒く光り咆哮を上げた。
奴め、また巨大化しおった。
流石に、あれは厄介じゃのぉ。
ピリピリと、奴の濃厚な妖力がここまで伝わって来おる。
今の奴はランクで言えば、恐らくSランク以上。
じゃが、こちらも妖力が異常に上がった雛菊が増えた。
わしも、鬼天面を被れば能力が上がる。
三人で力を合わせれば、あ奴とほぼ同じじゃろうて。
「ブルーローズ、雛菊、奴を倒すぞ!」
「石楠花たん、ピィに任せて」
「うむ。よもや、清水神龍刀を使う時が来るとはな……」
天狗、鬼、水神、雪女、これだけのあやかしの能力で倒せぬ奴なぞおらぬ。
鬼天面を再び被ると、わしは奴を睨んだ。
「四頭八尾狐よ、鬼天草薙剣の錆となるのじゃ!」
そして、それぞれが野湯を飲んだ。
因みに、野湯の本数は合わせて残り五本じゃ。
内訳は瘴気の渦で二本、そして今飲んだのが六本。
ここまで能力が上がると、一本では流石に全快せんかったからのぉ。
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野湯ブーストのあやかし
戦神清水神龍刀解放
清水神龍刀装備
ブルーローズ HP 117318/117318 MP 115873/115873
(神龍戦神化)
鬼天面解放
鬼天八咫鏡、鬼天八尺瓊勾玉、鬼天草薙剣装備
石楠花 HP 92726/92726 MP 137375/137375
(鬼天神化)
地祇の祝福解放
白銀之弓箭と白銀之羽々矢装備
雛菊 HP 102984/102984 MP 171773/171773
(雪女地祇化)
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四頭八尾狐がわしらを睨み返すと、四頭から瘴気の固まりを吐いてきた。
「白銀たん、ピィの言う事聞いてね」
それを見て鬼天草薙剣を構えると、雛菊が白銀之弓箭と話していた。
「地祇弓箭 【銀世界!】」
次の瞬間、白銀之弓箭が輝き、雛菊が射った白銀之羽々矢が無数に分かれ、空に銀色の世界が生まれたかのように錯覚した。
刹那、瘴気の固まりを全て消し去った。
雛菊の白銀之羽々矢は、聖なる白雪で作っておる。
じゃから雛菊の魔力が尽きぬ限り、射続けられるのじゃ。
四頭八尾狐が瘴気の固まりを浄化されるのを見て、大きく躱した。
奴にとっても、ここまで聖なる力を込めた攻撃は、脅威じゃろうしの。
「ブルーローズ、奴の遠距離攻撃は雛菊に任せる。わしらは、近接するぞ」
「うむ」
わしらが近接しようとすると、奴が尻尾を無数の槍にして攻撃してきた。
その攻撃を、二人で舞って躱し切り裂いていく。
二人で共に舞って切り裂いていると、何故か胸が高ぶってきた。
この胸の、高ぶりようは何じゃ?
そうか……これは、わしの友が嘗て神社で見た神楽舞を思い出してるのじゃな。
……ただのぉ。
少々メイド服と、似合っておらんかもしれぬ。
じゃが、致し方ないじゃろう。
その情景が、鬼天面の思いと共に剣の技として伝わって来た。
「鬼天流 鬼 【聖火剣舞!】」
無数の槍となった奴の尻尾を、善鬼の炎で火祭にし浄化していくと、奴が尻尾を切り離した。
そして瞬時に、天から出てきた漆黒の瘴気で再生した。
「こ奴、トカゲか!」
再生した尻尾に文句を言っていると、奴が瘴気の竜巻を作り出した。
すると、雛菊が既に白銀之羽々矢を天に放っていた。
「地祇弓箭 【白魔招来!】」
次の瞬間、一本の矢が巨大な雪の塊となり竜巻を押し潰し凍らせた。
しかし奴は押し潰される瞬間、影のように薄くなり巨大な雪の塊を躱した。
こ奴、瘴気の影にもなれるのか。
じゃが、薄くなればその分浄化しやすくなる。
「我が行く! 明鏡止水」
もう一度技を繰り出そうとすると、ブルーローズの声がした。
「【清水瀑布!】」
そして次の瞬間、飛び上がったブルーローズが清水神龍刀を振り下ろした。
刹那、幾つもの清水の斬撃が滝のように落ちて四頭八尾狐の一部を浄化した。
じゃが、再び天から出てきた漆黒の瘴気で再生した。
ここまでの力を得ても、再生するか……。
しかも凍らされると、途端にトカゲの尻尾のように切り離しよる。
ならば、天を天障壁で覆うか?
いや、それはダメじゃ。
撫子達の方に、逆流しかねん。
やはり、天の中の魔法陣を何とかせねば奴は復活する。
じゃが、鬼天面はもう長くは持たない。
クッ! それに、わしが弱体化すれば均衡が崩れてしまいかねない。
わしが考えている間にも、ブルーローズと雛菊が攻撃の手を緩めずにいる。
残り時間は少ないが、短い時間の間に何か良い方法を考えるしか無いのぉ。
こうして石楠花達は、強力になった四頭八尾狐と、残り時間が迫っている中、再び戦い始めた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
一日置きの更新とさせて頂きます。
不定期な時間になるかも知れませんが、何卒ご容赦下さい。




