13
漆黒の影は、ブルーローズの尻尾から細い糸の様に四頭四尾狐の足下まで続いていた。
しかも地面には漆黒の瘴気が渦巻き、ブルーローズの身体を少しずつ引き寄せられていた。
ここまでの力、どこから?
「しまっ……」
天を見ると、七本有った尻尾が一本減っていた。
奴め、強大な瘴気の固まりを巨大化として使わず、このような能力として使ったか。
じゃが、ブルーローズには空間と空間を繋げる水の龍穴が有る。
水の龍穴を使えば、漆黒の瘴気に取り込まれる事は無い。
「ブルーローズ、水の龍穴じゃ!」
能力を使用するよう伝えると、ブルーローズが首を横に振った。
「漆黒の瘴気が、我の身体をしっかりとつかんでいる」
その言葉にブルーローズの身体を見ると、尻尾まで漆黒の瘴気が幾つも張り付いていた。
尻尾に付いた斑な瘴気を見て錫杖を確認すると、錫杖にも黒い斑点が付いていた。
小癪な奴め、わしらが何度も攻撃するうちに少しずつ瘴気を……。
この漆黒の瘴気は、わしらの魔力を合わせた程の力をもっておる。
浄化の力を凝縮した、流星聖火しか浄化出来ぬ。
じゃが、小さな物なら辛うじて作れるぞ。
「流星聖火よ聖なる力を凝縮し、わしの指先に宿れ!」
聖火を指先に灯し、聖なる炎を激しく燃え上がらた。
そして、その聖火で錫杖に付いた漆黒の瘴気を浄化させた。
しかし、ブルーローズに付いた瘴気はあまりにも多い。
地面の瘴気に到達する前に浄化するには、ブルーローズごと聖火を燃やすしか無い。
わしは多量の水は作り出せるが、闇を浄化出来るほどの清水は得意ではない。
それに、ブルーローズごと聖火で燃やせば気化してしまう。
気化……そうじゃ。
ブルーローズは、浄化の清水で出来ておる。
水は、水蒸気や固体などあらゆる物に変化出来る。
「ブルーローズ、霧化するのじゃ!」
助言をすると、ブルーローズが再び首を横に振った。
なぜじゃ?
霧化すれば、つかむところが無くなるぞ?
「駄目だ、漆黒の瘴気に取り込まれる」
そうか……霧になるとその分細かくなり、浄化作用も弱くなる。
今は、浄化し続ける事で均衡が保っておる。
しかし、天の尻尾の瘴気を使用した事で力が増しておる。
つまり、浄化作用が弱くなると一瞬で取り込まれるのじゃな……。
「むう……わしの、暴風で吹き飛ばす!」
「無駄だ、石楠花! 引きずり込まれる前に、我から飛び立て!」
「嫌じゃ! わしは、ブルーローズをおいてなど……」
そう言って角に抱きつくと、ブルーローズがチラリとこちらを見た。
「石楠花、忘れたのか? 我は、清浄の化身! 瘴気の渦に引きずり込まれようと、染まる事は無い! 逆に、浄化してくれようぞ!」
ブルーローズに張り付いた瘴気は、張り付きながらも浄化と再生を繰り返していた。
じゃが、ここまで浄化の作用を強めると、同時にブルーローズの魔力も削れておる。
このまま飲み込まれると、漆黒の瘴気を全て浄化するか、それともブルーローズの魔力が先に無くなるかじゃ。
賭けになるかも、しれんのぉ……。
じゃが、ブルーローズ。
「わしは、信じておる!」
そう言ってわしは、ブルーローズの魔力と体力が最大値となるよう水をかけ飛び立った。
するとわしが飛び立つと同時に、白いものがブルーローズに降り立った。
「……」
白いものを確認しようとしたが、ブルーローズが無言笑顔を向け、野湯が入った小瓶を五本投げてきた。
そして、そのまま地面に渦巻く漆黒の瘴気に飲み込まれた。
地面に渦巻く瘴気は、ブルーローズがもつ一本の野湯では足りぬ。
この状況でブルーローズは、わしの事を案じたのか?
どこまでも、わしの乙女心を擽ってきおって……
ブルーローズよ、直ぐにそこから助け出してやる。
そして、覚悟するのじゃ。
助け出した後に、わしがたんまり愛でてやるからのぉ。
「四頭四尾狐よ、天狗を怒らせたらどうなるか篤と味わえ!」
わしはそう言って、奴を睨みつけた。
すると奴は、見境無しに漆黒の瘴気の固まりを吐いてきた。
その瘴気の固まりを躱して近接し、わしは奴に錫杖技を使い攻撃する。
少しでも隙が出来たら、強烈な神通力を喰らわせてやる。
「ほれほれ、そんな攻撃は当たらんぞ!」
わしは、上回撃、腰回撃、袈裟回撃、肩回撃、逆袈裟回撃、突天連続突を繰り返し隙を待った。
しかし、奴は瘴気の固まりを吐くだけ。
こ奴、風や火を織り交ぜた瘴気を使うのを止めたのか?
確かに、効率は良いかもしれん。
じゃが、何を考えておる?
そして錫杖技の千手白蓮突を使ったとき、異変に気がついた。
四頭四尾狐の中身が、空洞だったのだ。
「まさか?」
周りを見ると、疎らな漆黒の瘴気が当たりを覆っていた。
【ブルーローズSIDE】
クッ! 瘴気の濃度が、異常に高い。
我の魔力がもつか分からぬが、このままではおれん。
超圧縮した清水の球体を重ねて作り出し、その中に身体を入れた。
そしてその中に、多重渦清水竜巻を作り出し身体ごと瘴気を削り取っていった。
「どうにか、瘴気を削り取れたか……」
周りを見ると、漆黒の瘴気の再生と清水の球体の浄化が拮抗していた。
少しでも魔力を抑えるため、龍化を解き人型に姿を変えた。
すると、髪からフワフワしたものが現れ頬を突いてきた。
「ピィ、ピィ、ピィ、ピィ」
雛菊……寄りにも寄ってこんな所に。
我の耳元が擽ったかったのは、雛菊が居たせいか。
だが、
「何故、来た?」
「ジュリィィィッ、ジュリィィィッ」
「何? 野湯を、持って来ただと?」
雛菊が人型に変化すると、メイド服のポケットに野湯が入った五本の小瓶が入っていた。
これだけ有れば、漆黒の瘴気を消し去ることが出来る。
しかも、雛菊は完全な雪女となっていた。
我の清水と、相性も良い。
「ブルーローズたん、ピィ来ちゃダメだった?」
「いや、感謝する。雛菊、来てくれてありがとう」
「えへ、へへへ。ピィ、褒められちゃった」
こうして雛菊と合流出来たブルーローズは、漆黒の瘴気を攻撃しだした。
【石楠花SIDE】
使いたくはなかったが、致し方あるまい。
懐から鬼天面を取り出すと、被って羽団扇を掲げた。
羽団扇を通し、この鬼天面に神通力を流し込む為じゃ。
鬼天面はその名が示すとおり、鬼と天狗の力を面に宿す。
この鬼天面には、強大な烏天狗の神通力と鬼の力を宿しておる。
そして、わしの神通力を流し込む事で鬼天面が活性化され身体能力と神通力の能力が三倍となる。
但し、使用時間は五分間。
じゃがこの力で、四頭四尾狐を滅ぼしたとして、ブルーローズがあの瘴気から出てこられるとは限らん。
それに、そのまま神通力として渦巻く瘴気に使うと、ブルーローズまで巻き込む恐れが有し、慣れんと調整が難しいからのぉ。
先ずは、ブルーローズを渦巻く瘴気から助け出す。
奴を倒すのは、それからじゃ。
「鬼天面よ、わしの魔力を糧とせよ! ハァァァァァァ!」
鬼天面を被り神通力を通すと、一気に能力が向上し、気合と共に疎らな漆黒の瘴気が吹き飛んだ。
「わが友よ、智、仁、勇を有す神器を呼べ!」
更に鬼天面は、擬似的な三種の神器を作り出す事が出来る。
鬼天八咫鏡は邪悪なものを跳ね返し、鬼天八尺瓊勾玉は邪悪なものから我が身を守り、鬼天草薙剣は邪悪なものを全て切り裂くことが出来のじゃ。
但し、ちと筋肉質になるのが好かんのじゃ。
この能力は、わしの友の能力じゃったから仕方がないのじゃが……。
嘗て求菩提山には、わしと仲が良い烏天狗の友がいた。
友は人が好きで、人へ姿を変え下山し、近くにあった村へ遊びに出かけていた。
しかし突如として鬼が現れ、村を滅茶苦茶にした。
そこで友は烏天狗となり、その鬼を完膚無きまでに打ちのめした。
次の日、打ちのめした鬼が七体の仲間を連れて現れた。
友は再び烏天狗となり、七体を相手にした。
しかし一体の鬼が予想以上に強く、友は苦戦を強いられた。
傷つきつつも友は、八体の鬼を全てを天狗の面に封じ込めた。
しかし鬼の能力は凄まじく、神通力を常に使って面を封じ続ける必要が有った。
そこで友に頼まれ、あべこべの羽団扇を使用し、鬼を善なるものへと変えた。
善なるものへと変えたことで、その面を付けると鬼の力を宿すことが出来るようになった。
しかし、怪我が原因で友は少しずつ能力が減退していった。
友は能力減退を恐れ、わしの目の前で自らを面に封じ込めた。
自らを面に封じたことで、友の減退は止まった。
じゃが、たまに力を面に注いでやらなければ面ごと朽ちてしまうし、自らを封印しおったので動けん。
友人ながら、馬鹿な奴じゃと思う。
もっとよい考えが、有ったじゃろうに。
じゃから、わしがこの面を受け継ぐ事になったのじゃ。
「どうした、四頭四尾狐?」
睨みを利かせると、奴は少しずつ後退していった。
今のうちに、ブルーローズを救出じゃ。
鬼天草薙剣で渦巻く漆黒の瘴気を祓おうとすると、漆黒の瘴気が浄化した。
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