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【石楠花SIDE】
わしと、ブルーローズの相性は良い。
こ奴の魔力量が少なくなろうと、水属性の神通力を使えば魔力量と体力すらも全回復するからのぉ。
しかも、野湯で増幅されとる有り余る体力。
久方ぶりに、錫杖技を使っても良い。
わしらの武器は、神通力だけでは無いからのぉ。
ブルーローズが龍の姿となると、わしはその上に飛び乗った。
先ずは、擬似的では有るが羽団扇で雨雲を作る。
天空は見えておるが、ここは現世とは逸脱しておる。
普通の雨雲は、呼べぬのじゃ。
「羽団扇よ、積雲と積乱雲を呼び激しく対流を起こせ!」
天空に、幾つもの雨雲を呼び寄せた。
すると、次第に重なり合う分厚い雲が出来た。
意図を読み取ったブルーローズは、わしら全員に清水の水鏡を付与し波紋を広げた。
これで、わしの錫杖技も薺のように十重二十重の攻撃や技が繰り出せる。
ブルーローズは、ほんに気がつく奴よのぉ。
ただ少し気になるのが、雛菊の譫妄状態が、ちと長いことじゃ。
恐らく、雪ん子から完全な雪女になる前触れじゃろうがの……。
ブルーローズも、わしと同じ考えのようじゃな。
野湯で起こさず。雛菊の様子を伺っているからのぉ。
そう思い、ブルーローズを見ているとチラリとこちらを見た。
「石楠花、行くぞ!」
「うむ」
返事をすると、ブルーローズが空を飛んだ。
すると、瘴気を纏った大野狐が巨大な火炎弾を口から幾つも放って来た。
狐め、わしらを舐めておるのか?
そんなもの、効かぬわ!
「【超ゲリラ豪雨!】」
天から放たれた幾つもの鉄砲水のような豪雨が火炎弾を貫通すると、大野狐の火炎弾を一瞬で消し去った。
同時にこちらにも雨が降り注ぎ、ブルーローズの体力と魔力が一瞬で最大量となった。
野湯の吸収率が良いブルーローズは、わしの能力すら越えておる。
水を得た魚のようと言う諺があるが、豪雨の降りしきる中での水神は、わしら天狗よりも強い。
何せ、魔力と体力が尽きぬからのぉ。
威圧してくる大野狐が、今度は瘴気の渦巻く巨大な火炎弾を放ったが、ブルーローズは物ともせず尻尾で薙ぎ払った。
瘴気を纏った火炎弾は、豪雨では消せぬ。
じゃが、瘴気が渦巻いていようとブルーローズ自体が聖なる清水じゃからのぉ。
火炎弾を、瘴気ごと浄化して消し去ったようじゃ。
わしも、負けてはおれぬ。
「羽団扇よ、巨石を呼べ! 【岩石落とし!】」
天より2m級の岩石が無数に落ちてくると、大野狐に幾つか直撃した。
狐めに、幾つか躱されるのは計算のうちじゃ。
そして、岩石を躱した大野狐が泥濘んだ足場に足を取られた。
泥濘んだこの場で、飛んではおらぬ狐よ。
この時を、待っておったぞ。
「羽団扇よ、広がる泥水と岩石を集めよ! そして喰らえ【超土石流!】」
この超土石流は、見た目が汚れている様に見えようと、ブルーローズが居る限り全て浄化の清水になっておる。
つまり、この豪雨すらも浄化の清水と化しているのじゃ。
周りから、瘴気を集め守る術しか知らぬ狐には効果覿面じゃろ。
岩石と浄化の清水をまともに喰らった大野狐は、首から下が浄化され消滅した。
じゃが、頭部のみ濃い瘴気で守るとは……狐め、何をするつもりじゃ。
「……石楠花、直ぐ周りの十二天将を強化せよ!」
「ん?」
闇の野狐如きに、わしの式神がやられる訳がなかろう。
じゃが、ブルーローズが焦ると言う事は何か有るかも知れぬ。
「分かった。羽団扇よ、十二天将を強化するのじゃ【式神強靱武装!】」
ブルーローズの言っている意味が一瞬分からず、式神を強化するのを一瞬躊躇すると、天を守る四神だけが強靱武装された。
しかし、他の式神から反応が消えた。
そして四方から大野狐が現れ、頭部だけとなっていた大野狐を覆った。
「なぜ、四方から大野狐が?」
大野狐は、先ほどの奴だけでは……そうか。
他の場所から瘴気が集合し、新たな大野狐が誕生しておったのじゃな。
むう……判断を誤って躊躇するとは……ブルーローズが側にいて、わしは気が緩んでおったようじゃの。
「やはりか……浄化の清水よ、凝縮し爆ぜろ【拡散超圧縮清水弾!】」
ブルーローズが浄化の清水弾を、四方から現れた大野狐に、爆発させるように放った。
「済まぬ、ブルーローズ」
「いや、我も判断が遅かった……」
ブルーローズがそう言って前を睨むと、一体の大野狐が浄化され消え失せようとしていた。
どうやら一体が盾となり、浄化の清水弾を全て防いでいたようじゃ。
そして三体の大野狐が渦巻く瘴気となると、漆黒の瘴気を纏う巨大な四頭四尾狐へと姿を変えた。
冥府の番犬は知っておるが、このような異形の物は見た事も聞いたことも無い。
やはり、異界の魔法陣から放たれた瘴気による魔物のようじゃ。
体躯は大凡、先ほどの十倍といったところか……。
四頭四尾狐の大きさを考えていると、ブルーローズが降り続ける豪雨を集めた。
「豪雨清水陣! 【超圧縮清水誘導放出超加圧圧縮破壊放射!】」
刹那、四頭四尾狐に貫くことに長けている水のレーザーを幾つも放った。
しかし、貫かれる度に漆黒の瘴気で再生し続けた。
「石楠花、我が集中砲火で四頭四尾狐を暫く押さえる。その間に、名案が有るなら頼む」
「うむ」
ブルーローズがわしに、考える時間をくれたようじゃ。
四頭四尾狐を完全に浄化出来ずに、一部だけ浄化しようものなら先ほどの様な事がまた起こるやもしれぬ。
今も浄化する度、直ぐに再生しておる。
野湯が有ると言っても、これだけの巨体を全て浄化するには、どれだけの魔力量が必要かわからぬ。
しかも、浄化の貫通レーザーをものともせずにいる。
どうやら、四頭四尾狐は先ほどの大野狐とは格が違うようじゃ。
こ奴の数値が正確に分かれば良いのじゃが、この世界に個々の能力を数値化する事は、この世界の唯一神にしか出来ない。
わしらは、大凡これ位の強さと分かる程度じゃ。
じゃが、撫子や薺の能力。
つまり唯一神の使いの能力により、わしらは体力と魔力量が数値化され目にする事が出来る様になった。
個々の能力の数値は分からぬが、わしとブルーローズと天狐を大凡でAランクとすると、先ほどの大野狐はBランク程度じゃった。
じゃが漆黒の瘴気が有る限り、この四頭四尾狐は、わしらと同じAランク……若しくは、それ以上かもしれぬ。
今のわしらは野湯のお陰で、能力が+Aランク程度にはなった。
所持している野湯の量が、どれ程残っておるか分からぬが、ブルーローズが警戒しているところを見ると、エネルギーを凝縮した野湯は恐らく十本以下。
わしらの魔力量を考えると、残りの野湯を使い切って倒せるかどうかじゃ……。
むっ! ……ブルーローズの清水陣が、空になってしもうた。
ここまで清水を喰らっても、再生するのか?
ブルーローズは、再び清水の豪雨を集め始めた。
クッ! 考えを巡らせながら、神通力で疑似流星を作ってみたが、これでいけるか?
じゃが、ブルーローズが清水を集めている間はわしが攻撃をせねば……。
「羽団扇よ、聖なる流星を呼べ! 【流星聖火!】」
天より、巨大な白き流星が炎となって四頭四尾狐を襲った。
しかし、聖なる流星の炎を喰らっても四頭四尾狐は再生した。
……やはり、漆黒の瘴気の供給源を絶たねば無理か。
ブルーローズが再び清水のレーザーを放とうとすると、四頭四尾狐が空を飛び急接近してきた。
「石楠花、来るぞ!」
「ブルーローズ、耳を塞げ!」
ブルーローズにそれだけ伝えると、錫杖を上に掲げた。
「錫杖技! 【爆轟天狗倒し!】」
そして四頭四尾狐が肉薄した瞬間、錫杖を鳴らした。
すると、爆発と轟音が轟き四頭四尾狐の一つの頭が吹き飛んだ。
「まだまだ! 錫杖技! 【巨錫落とし!】」
錫杖を巨大化させると、天より四頭四尾狐の残り三つの頭目掛けて打ち落とした。
すると、四頭四尾狐は地に落ちた。
それを見たブルーローズが、清水竜巻で追い打ちをかけた。
やはり、頭は再生が少しばかり遅いのぉ。
しかし再び再生し、四頭四尾狐は四尾の毛を逆立たせて毛を放って来た。
すると、一本一本の毛が大野狐となり襲いかかって来た。
「ブルーローズ、野湯をくれ」
ちと、魔力を使いすぎた。
「うむ」
ブルーローズから野湯を貰うと、一気に飲み干した。
身体にかけるより、吸収率が良いからじゃ。
ちと濃かったが、これでブルーローズの魔力量を超えた。
屈辱をはらせ、十二天将。
「甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸、大天狗石楠花が命ずる。天后、貴人、騰虵、太裳、六合、勾陳、太陰、天空、参れ! 初めから、全開じゃ! 【式神・滅・強靱武装!】煩わしい大野狐を、蹴散らせ!」
全ての十二天将に滅するのに特化した強靱武装を纏わせると、大野狐を相手しだした。
「邪魔者は、わしの式神が相手をする。ブルーローズ……」
ブルーローズに氷を作る様に伝えようとすると、上を向いた。
「石楠花、上を見よ。既に、清水で氷山を作った」
流石じゃのぉ。
火、土、水、の浄化が出来ぬと有れば、凍らせてみるのも一つの手。
天さえ、凍り付いたからのぉ。
じゃが、雛菊の真似は流石に出来ぬ。
じゃから……
「行くぞ、ブルーローズ!」
「うむ」
「「【琥珀の雹災旋風!】」」
ブルーローズと協力し、四頭四尾狐にほぼ全ての魔力を使用して凍て付く暴風を喰らわせた。
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