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【薺SIDE】
白狐の鳥居に向かっていると、白狐がブルーローズに事情を話していた。
どうやら各地で発生していた地震により、野湯のエネルギーが流出。
流出したエネルギーが、災厄を封じていた封印へ流れ込んだ。
天狐はその事に危機感をいだき、一人で八つの封印の地へと向かい災厄を対処した。
しかし夜になると、聖域で闇の野狐が多数現れるようになった。
不審に思った白狐が、聖域を調査。
すると、天狐が眠っている時に口から瘴気が発生している事が分かった。
天狐にその事を尋ねると、浄化する為に災厄を喰らった事が分かった。
白狐は天狐と話し合い、天弧が居る聖域が有る神社全体を、善なる者以外通られない結界を施し、浄化の時を待った。
そしてもし友人の石楠花が来たら、現状を見てもらうよう言付けされたようだ。
白狐曰く、もし浄化出来ず災厄にその身を乗っ取られた時は、石楠花の手によって倒されたかったのではないかと言っていた。
天狐が、簡単に浄化できない災厄。
いつも以上に、気を引き締めないと……。
姫、僕が行くまで絶対無茶な事はしないで下さいね。
心の中で姫の無事を祈り、白狐の後を追いかけていると、ブルーローズが並走してきた。
「薺、外套を羽織っておけ! 恐らく、中は瘴気で溢れている」
「分かりました」
「むっ! 我の能力が、上がっている。薺、レベルを確認するのだ」
「えっ? これは?」
レベルを確認すると、84だったレベルが89になっており、今またレベルが90になった。
一体どれだけ闇の野狐と戦えば、これだけ上がるんだ?
それに高レベルに成る程、レベルは上がりづらくなる。
なのに、この異常なレベルの上がりよう。
恐らく姫達は、数万どころでは無い闇の野狐と戦っているに違い無い。
ブルーローズと話をしていると、雛菊とチアさんが追いついて来た。
すると、ブルーローズが雛菊達の方へ並走した。
「雛菊、並走しながらになるが我と共に合同で強力な衣を作るぞ。闇の野狐の数が、分からぬ。それにこの様子だと、聖域で何が起こっているか不明であるからな。衣は、何が有っても対処出来るよう皆へ着させる必要が有る。MPをかなり消費することになるが、手伝ってくれるか?」
「うん。ブルーローズたん、ピィ頑張る」
ブルーローズ達が後ろで合同作成の事を話していると、チアさんが嬉しそうな顔で雛菊に近づいた。
「雛菊様、では私とお揃いですね」
「うん。ピィも、チアたんとお揃い」
二人がメイド服の事を嬉しそうに話していると、ブルーローズが間に入った。
「我は、衣でよ……」
「ブルーローズたんも、一緒ね」
すると、言葉を遮られ雛菊に笑顔を向けられた。
しかしブルーローズは、衣で良いと言いたいようで口ごもっていた。
「我は……」
すると、チアさんにも笑顔を向けられ何も言えなくなった。
「感謝します。皆様で、メイド服を着られるなんて。私は、凄く嬉しいです」
姫からチアさんの経緯を、それとなく聞いた。
もしかするとチアさんは、腕輪の中で一人寂しかったのかもしれない。
「チアさんに、付き合ってあげましょうよ」
ブルーローズは溜め息を吐くと、雛菊と一緒に人数分のメイド服を作っていった。
白狐の鳥居前に着くと、翡翠色の髪をした裸の美少女が、鳥居の周りをウロウロしていた。
髪の色から考えると、緑狐だろうか?
でも、なぜ服を着ていない?
白狐達は、着物を着ているのに?
白狐を見ると、警戒するように僕達を手で制し一人で前へ行った。
「貴女は、どなたですか?」
白狐が声をかけると、翡翠髪の美少女は慌てだした。
「ハワ、ワワ! 狐に、見つかっただ」
そして鳥居の裏に隠れ、顔だけ覗かせた。
すると、白狐が剣を鞘から抜いた。
「怪しい奴め! なぜ、この鳥居の前に居る?」
そう言って翡翠髪の美少女に近づいた。
すると、翡翠髪の美少女が鳥居の後ろから出てきた。
「おら、撫子様を探しに来ただ」
僕達も近づいていくと、翡翠髪の美少女と目が合った。
「薺様、助けて」
そして瞳を潤ませ、僕に助けを求めてきた。
このシチュエーション、前も有った気がする。
確か、姫を探しに行ったインカルナタが……。
「もしかして、インカルナタ?」
すると翡翠髪の美少女が、いつものインカルナタの姿となった。
「はぁー。……驚かさないでください。水神様達の、お連れの方だったのですね」
白狐が剣を鞘にしまうと、ブルーローズが側まで行った。
「済まない白、うちのが迷惑をかけたな。あ奴は、撫子を探しに行く癖が有るのだ」
「いえ。水神様、お気になさらないで下さい。見破れなかった私が、いけないのです」
ブルーローズと白狐が話していると、インカルナタが僕に抱きついて来た。
「インカルナタ、探したよ?」
「キュウーーン、キュウーーン、キュウーーン!」
そして、僕に訴えるように何度も鳴いた。
だけど、インカルナタの言葉がサッパリ分からない。
分かったのは、姫を探してここまで一人で探しに来ていた事だ。
それにしても、インカルナタも変化出来るようになるとは思わなかった。
姫のあやかし達は、見る間に成長するな。
「インカルナタ、ごめんね。僕では、言葉が分からないよ」
そう言ってインカルナタを下に降ろすと、再び翡翠髪の美少女となって抱きついて来た。
「薺様、おら怖かっただ。撫子様が、帰って来ない気がしただ」
「よしよし。分かったから、泣き止んでね」
インカルナタを慰めていると、雛菊とチアさんがやって来た。
「インカルナタたんにも、メイド服作ったよ」
雛菊がメイド服を手渡すと、インカルナタが僕の方を向いた。
まさか、僕が着させるの?
僕も、メイド服なんて着たことが無いよ?
「薺様、私が着させますね」
困っていると、チアさんが助けてくれた。
なので、チアさんにインカルナタの服の事は任せることにした。
「チアさん、お願いします」
僕もチアさんに教えてもらい、メイド服をどうにか着る事が出来た。
それぞれがメイド服に着替えると、ブルーローズが再び溜め息を吐いた。
「この姿、先代には見せられぬな……」
「僕も、出来れば姫に見せたく有りません。ですが、雛菊とチアさんの笑顔を見て下さい。きっと、姫も喜びます」
「そう思うと、我も気が晴れるな」
鳥居の中に入る準備を整えると、ブルーローズが雛菊に湯をかけていた。
どうやら、天狐の野湯から湯を拝借してきたようだ。
湯をかけた瞬間、かなり減少していた二人のMPが最大値まで戻った。
そして元の姿に戻っていた雛菊が、再び雪女の姿となった。
皆で鳥居の前に立つと、白狐が鳥居に光りを灯した。
「私は、これより先へは進めません。水神様、皆様、天様の九尾化を止めてください」
「白よ、約束は出来んが善処する」
こうして僕達は、白狐の鳥居から姫達が居る場所へ向かった。
※ ◇ ※
【撫子SIDE】
「石楠花、鳥居が!」
急に光りを放ちだした鳥居を見ていると、石楠花の顔が笑みを浮かべた。
「撫子、安心するのじゃ。この波長は、薺達じゃ。これで、天を押さえられる」
解決策を見出した私達が安堵の表情を浮かべていると、私達を攻撃していた闇の野狐達の矛先が鳥居に向いた。
「奴らめ、薺達に感ずきおった。撫子、鳥居に向かうぞ!」
「はい!」
早く後方の鳥居に行かなければ、薺君達がこちらに来たと同時に攻撃されてしまう。
いくら薺君でも、数万に増えた闇の野狐達を倒す事は困難。
それに、ここには海水が満ち溢れていない。
つまり、ブルーローズの海水陣は使用不可能。
私達の様にブルーローズが水の障壁を事前に張ってくれていれば、不意の攻撃を防ぐことが出来ますが、まさかここまで攻撃してくる闇の野狐がいるとは思わないと思う。
「くっ! 間に合わぬ! 撫子、出来る限り聖属性の矢を放つのだ! わしも、聖炎の渦巻きを放つ!」
「はい!」
私達が攻撃しようとした瞬間、数万いた闇の野狐が一瞬で雪に包まれ凍り付いた。
「何? 雪じゃと?」
「これは?」
二人して驚いていると、フワフワなメイド服を着飾った白銀の髪を靡かせる女性が現れ指を鳴らした。
その瞬間、凍り付いた数万の闇の野狐達が砕け散った。
すると、同じメイド服を着た薺君達と共に翡翠色の髪をした少女が姿を現した。
二人は、天狐側の援軍でしょうか?
そう思っていると、白銀髪の女性が私の側に来た。
「撫子おねぇたん、ピィ助けにきたよ」
「雛菊?」
あまりの変わりように驚いていると、薺君達も私の側に来た。
「雛菊に、驚かれているようですね。実は、野湯のエネルギーを吸収して一時的に雪女の能力が使えるようになったようです」
「そうだったのですね。薺君、来てくれてありがとう。雛菊も、ありがと」
「エヘヘ、ピィ良い子。撫子おねぇたん、撫でて」
薺君にお礼を伝えて雛菊を撫でていると、同じメイド服を着た翡翠髪の少女が急に抱きついて来た。
白狐、黒狐、銀狐、金狐は見ましたが、こちらの方は翠狐でしょうか?
狐さん達の事を考えていると、翡翠髪の少女が潤んだ瞳を向けてきた。
「撫子様、おら心配で心配で……グスン」
「えっと、ご心配かけて済みませんでした」
いつまで経っても離れようとはしない翡翠髪の少女を見ていると、チアさんが側に来た。
「撫子娘娘、そちらはインカルナタ様です」
「えっ?」
雛菊の雪女化に続いて、インカルナタの人型化まで?
野湯のエネルギーは、あやかし達にここまでの影響を与えるの?
野湯の不思議な力に驚いていると、チアさんが服を広げた。
「それより、撫子娘娘。こちらに、お着替え下さい」
「チアさん、このメイド服にですか?」
「はい、そうです。これは、ブルーローズ様と雪女となった雛菊様が作られた特別製です」
「ですが、闇の野狐が」
闇の野狐は、絶え間なく瘴気から発生している。
覚えたばかりの多属性絶対障壁の広さを考えると、残り二名しか入れません。
メイド服に着替えるのを躊躇っていると、ブルーローズと雛菊とインカルナタが私達の前に出た。
「撫子、我らに任せよ」
「撫子おねぇたん、ピィに任せて」
「撫子様、おらも頑張るだ」
「ありがとう」
皆にお礼を伝えていると、チアさんが石楠花にもメイド服を手渡していた。
「ささ、石楠花様もどうぞ」
「こりゃまた、可愛いメイド服じゃのぉ」
二人してメイド服に着替えていると、天狐が先ほどより大きな物を嘔吐した。
その嘔吐物は、肉塊では無く大蛇だった。
「不味いのぉ。天が、弱ってきておる」
「早く、中に入らないと」
「じゃな」
二人で天狐の様子を見ていると、ブルーローズが闇の野狐を浄化しつつこちらを向いた。
「石楠花、天の中に入るのか?」
ブルーローズに説明をすると、石楠花に湯をかけた。
「ブルーローズ、何をするのじゃ!」
すると、石楠花が怒った。
どうやら、少女化している薺君を元に戻すために野湯の湯を石楠花にかけたようです。
文句を言いつつ石楠花が、薺君を男の子の姿に戻してくれた。
「石楠花、ありがとう」
薺君がお礼を伝えると、石楠花がブルーローズに舌を出した。
「じゃが、ブルーローズは戻してやらん」
「……我は、このままで良い。それより石楠花、薺を連れて行くとして残りは誰を連れて行く?」
「中へは、撫子、薺、チア、インカルナタじゃな。そして、わしはここへ残る」
「どうしてだ?」
「わしと撫子以外は、多属性絶対障壁を作れぬ。それにのぉ、天の中で元凶を見つけるのは容易くない。インカルナタなら、恐らく見つけるじゃろう。チアは、力だけでは倒せぬ者が現れた時、作法の糸が役に立つ。天狗さえも、操れたからのぉ。後は、天をどうやって止めるかじゃ」
「それなら、考えがある」
ブルーローズはそう言うと、いつもの姿に戻っていた雛菊に湯をかけた。
すると、雛菊が再び大きくなった。
「ピィ、復活なの!」
石楠花と違って雛菊は怒ってないようですが、せめて湯をかける前に教えてあげて欲しい。
ブルーローズ曰く、今の雛菊なら最大の猛吹雪で、巨大な天狐を一瞬だけ凍らせる事が可能なのだそうです。
「作戦は、以上だ。薺、チア、インカルナタ、天の中は我でも何が起こるか分からぬ。撫子を、くれぐれも頼むぞ」
「はい」
「ブルーローズ様、承りました」
「うんだ。撫子様は、おらが守るだ」
ブルーローズ、心配しすぎです。
ですが、ありがとうございます。
「ブルーローズ達も、気をつけて下さいね」
こうして私達は、天狐の中に四人で入ることになった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




