表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/126

 ブルーローズに乗って野湯(ノユ)に向かっていると、急に石楠花(シャクナゲ)が慌てだした。



「何じゃ? 一体、どうなっておる?」

石楠花(シャクナゲ)、どうしたのですか?」



 石楠花(シャクナゲ)曰く、近隣に有る一部の人間が管理する野湯(ノユ)の殆どから、大地のエネルギーが消失しているそうです。

 人にとって影響は皆無ですが、天狗や能力の高いあやかしにとって、エネルギーの恩恵が受けられない只の湯となっているそうです。



「気になりますね……」

「うむ、そうなのじゃ」



 ですが、一体誰がそのエネルギーを消費したのでしょうか? 

 是界(ゼガイ)(ボウ)のように、何か企んでいる天狗の仕業でしょうか? 

 それとも、傷ついたあやかしが傷を癒すために吸収したのでしょうか? 


 石楠花(シャクナゲ)に聞いてみると、この地にいる天狗は八天狗に従っているので有り得ないそうです。

 それに例え、あやかしが傷を負い治療の為に大地のエネルギーを吸収しようと、野湯(ノユ)のエネルギーが消失するまでの事は、余程の大あやかしで無い限りないそうです。


 大あやかしが野湯(ノユ)のエネルギーを一カ所消失させたとしても、一カ所だけで十分事足りるそうです。

 ですが、八つの野湯(ノユ)のエネルギーが消失させられていると言うことは、通常では有り得ないのだそうです。


 もし魔法陣が出現し、魔物がそのエネルギーを吸収しているのなら、私達で倒さなくてはなりません。

 ですので、ヘイズスターバースト達に頼んでエネルギーが消失した野湯(ノユ)を調査して貰った。

 ですが、野湯(ノユ)の近辺では魔法陣はおろか、魔物すら確認する事は出来ませんでした。



「じゃが、わしの野湯(ノユ)は無事じゃろう。あ奴らも、おるからのぉ」

「どなたか、知り合いがいらっしゃるのですか?」



 元々石楠花(シャクナゲ)が神通力で隠した秘密の野湯(ノユ)は、善なるあやかし達が修行する山の一角に有った。

 しかし、その野湯(ノユ)は大地のエネルギーがとても少なく効果がなかった。

 ですが有る時、善なる妖狐の頭領が修行中に大怪我を負った。


 頭領は傷を癒すため、毎日その野湯(ノユ)(カヨ)ったが傷は簡単には治らなかった。

 傷が治らなかった事で、妖狐の頭領は頭領の座を子に譲った。

 そして時が過ぎ、空を飛んでいた石楠花(シャクナゲ)野湯(ノユ)で傷を癒していた元頭領と出会った。


 野湯(ノユ)好きな石楠花(シャクナゲ)は、元頭領と話していくうちに元頭領のことを不憫に思えてきた。

 そこで見兼ねた石楠花(シャクナゲ)が、神通力を使用し野湯(ノユ)を活性化。

 活性化させた事で、その野湯(ノユ)は大地のエネルギーが溢れ出るようになった。

 元頭領の傷が癒え、石楠花(シャクナゲ)は感謝された。


 そして石楠花(シャクナゲ)は、元頭領とその野湯(ノユ)をいつでも使用して良いように契約した。

 しかし大地のエネルギーが溢れ出るようになった野湯(ノユ)は、悪しきあやかしに使用される恐れが有る。

 その為、石楠花(シャクナゲ)は元頭領に頼まれ神通力を使用しその野湯(ノユ)を隠した。


 それ以降、その野湯(ノユ)は妖狐の元頭領の一族が管理している。

 その為、神通力で隠した秘密の野湯(ノユ)の近くに魔法陣が出現したとしても、魔物が現れる前に妖狐の一族が破壊してくれるそうです。

 ましてや、悪しきあやかしでは近づく事さえ出来ない特別な野湯(ノユ)なのだそうです。



「恐らく、一時的な消失じゃろう。地震が起こった時、稀に有るのじゃ」

「そう言えば、温泉宿を出立する前に少し揺れましたからね」



 人の管理する野湯(ノユ)では、地震が起こると危険な場所も有るようですが、今から行く野湯(ノユ)は神通力で守られているので大丈夫なのだそうです。

 幾つもの深い山が見えて来ると、石楠花(シャクナゲ)がブルーローズの鼻先まで行って座った。



「ブルーローズ、次の山じゃ。わしが結界に触れた瞬間、直ぐに入ってくれ」

「うむ」



 ブルーローズが加速すると、石楠花(シャクナゲ)が右手を前に出した。

 その瞬間、空が虹色に変化して空間が歪み一瞬で元に戻った。

 すると、辺り一帯が湯気に覆われた。



「その辺で、良いじゃろう。ブルーローズ、降りてくれるか?」

「うむ」



 ブルーローズが巨大な野湯(ノユ)の前に降りると、美しい毛並みの、白狐(ビャッコ)黒狐(コクコ)銀狐(ギンコ)金狐(キンコ)がやって来た。

 そして白狐(ビャッコ)が前に出ると、白髪(ハクハツ)の美少年に変化し、石楠花(シャクナゲ)の前で頭を垂れた。



豊前坊(ブゼンボウ)様、お久しぶりで御座います」

「久しいのぉ、(ハク)(テン)は、息災か?」

「それが……豊前坊(ブゼンボウ)様、お願いです。(テン)様の元へ、来て頂けますか?」



 (ハク)が急ぐように案内しようとしていたので、石楠花(シャクナゲ)(ハク)に少し待つよう手で制した。



「ブルーローズ、他の者と少し待ってくれるか?」

「うむ、我らに気にせず(テン)の元へ行ってやれ」



 石楠花(シャクナゲ)がブルーローズに皆の事を任せていると、石楠花(シャクナゲ)が私の元に急いで来た。



「どうやら、(テン)は急を要する様じゃ。撫子の、力がいるやもしれん。済まぬが、わしについて来てくれるか?」

「はい」



 私が返事をすると、(ハク)が私に深くお辞儀をした。



豊前坊(ブゼンボウ)様、お嬢様、こちらにお越し下さい」



 私達は(ハク)に案内され、野湯(ノユ)から少し離れた鳥居まで案内された。

 そして(ハク)が指を鳴らすと、鳥居の中に小さな光りが現れた。

 その光りに導かれ、(ハク)と共に鳥居を(クグ)ると、急に大きな神社の前に出てきた。

 どうやら鳥居は、転送先に繋げる門だったようです。



豊前坊(ブゼンボウ)様、お嬢様、(テン)様はこの社の最も奥です。私は、これより先へ行く許可を頂いておりません。どうか(テン)様を、何卒お願い申し上げます」

「うむ」

「はい」



 私達が返事をすると、(ハク)は頭を下げたままの姿勢でいた。

 こうして私達は、神社の最も奥へ向かう事になった。

 神社の扉を開けると、瘴気と思われる真っ黒な闇が渦巻いていた。

 普通なら外に溢れ出ると思うのですが、神社の扉に結界が張られているようで、瘴気は神社の中に留まっていた。



「何じゃ、この瘴気に入り交じった妖気は? (テン)のものとは、到底思えぬ」



 石楠花(シャクナゲ)曰く、以前有った(テン)と言う妖狐は天狐であったそうです。

 天狐であるなら、私達からすればそれは神使に等しい存在。

 それがまるで今は、白面(ハクメン)金毛(キンモウ)九尾(キュウビ)の様な瘴気と妖気の圧を放っていると言うのです。



石楠花(シャクナゲ)、早く(テン)さんの元へ行ってあげませんか?」



 もし私の癒やしの光りで治せるものなら、(テン)さんを治してあげたい。

 (テン)さんが石楠花(シャクナゲ)と、親しい間柄なら尚更です。



「いや待つのじゃ、撫子。念の為に、外套を纏うのじゃ」

「はい」



 外套をネックレスから取り出していると、石楠花(シャクナゲ)が炎を纏う鳥を作り出した。

 炎を纏う鳥は巨大でしたが、石楠花(シャクナゲ)に甘えるように頭を下げてきた。



「おー、よしよし。此奴(コヤツ)は図体がデカいのに、甘えん坊じゃからのぉ」

石楠花(シャクナゲ)、その子の炎は触れても大丈夫なのですか?」

此奴(コヤツ)は、わしの式神朱雀(スザク)じゃ。敵対する者以外は、消し炭にせんぞ? ほれ、撫子も撫でてみるかのぉ?」

「あっ、はい」



 恐る恐る朱雀(スザク)に近づくと、纏っている炎に触れても熱くありませんでした。

 寧ろ、フワフワの羽毛が心地よかったです。



「ちと、朱雀(スザク)に先行させ様子を見る」

「分かりました」



 朱雀(スザク)石楠花(シャクナゲ)が持つもう一つの依り代と繋がっており、何か有ればその依り代が燃えてしまうそうです。

 そして、朱雀(スザク)に先行させ暫くすると依り代が燃えてしまいました。



「わしの式神を、攻撃するとは……。どうやら、歓迎されておらんようじゃのぉ。撫子、今から絶対障壁を教える。これは、八天狗の上位の者しか使えん。じゃが、信頼を得た撫子なら使えるじゃろう。先ずは、この妖気の圧に当てられぬよう、周りを覆うイメージを思い浮かべるのじゃ。そして、邪気を払う聖光、闇夜(ヤミヨ)を照らす迅雷、闇を浄化する清水(セイスイ)、魔を退け身を守る大地、魔を切り裂く烈風(レップウ)、魔を滅する劫火(ゴウカ)、魔を凍らせる白魔(ハクマ)で更に覆うのじゃ」

「……はい」



 返事をしたものの、これだけの能力を同時に操るのはかなり大変です。

 私一人だけでは、困難だと思う。

 ですので、それぞれの能力を(ツカサド)るあやかし達の顔を強く思い浮かべ、あやかし達の力を借りなければなりません。

 瞼を閉じ集中する様に力を入れ、能力を司る皆の顔を思い描いていた。

 すると、石楠花(シャクナゲ)が私の手に手を添えてきた。



「撫子、力む必要は無い。わしらは、いつも側におると思えばよいのじゃ」



 そう言われて肩の力を抜き、ゆっくりと瞼を開けると、あやかし達の幸せそうな顔が見えてきた。

 その瞬間、白色、金色、水色、黄色、薄緑色、朱色、銀色をした虹色の薄い膜が私達を優しく包み込み透明化した。



「うむ。初めてにしては、上出来じゃのぉ。ちと弱いが、これが多属性絶対障壁じゃ。一つの属性の障壁と違い、お互いの劣る力をそれぞれがカバーする。一つの属性を何重にも貼る多重障壁よりも、遥かに強固で柔軟じゃぞ」

石楠花(シャクナゲ)、教えてくれてありがとうございます」



 石楠花(シャクナゲ)にお礼を伝えると、二人で闇が渦巻く神社の門に入った。

 その瞬間、数体の妖狐が一斉に襲いかかって来た。

 しかし、私が張った多属性絶対障壁に弾かれ闇となって消え失せた。



「撫子、今のは闇の野狐(ヤコ)じゃ」

「闇の野狐(ヤコ)とは、何ですか?」



 石楠花(シャクナゲ)によると、瘴気で作られた悪しき魂となった妖狐の亡霊なのだそうです。



「じゃが、多属性絶対障壁が有る限り、奴らは攻撃出来んから気にするでない。それより、先を急ぐぞ」

「はい」



 奥へ進むと、所かしこに鳥居と(ホコラ)があった。

 そして同時に、闇の野狐(ヤコ)の数が数十体へと増えていった。

 闇を照らす多属性絶対障壁の光りで、辺りをよく観察すると、闇の野狐(ヤコ)は鳥居で通じる祠から溢れ出てきており、奥へ進むにつれて鳥居と祠も増えて行った。


 石楠花(シャクナゲ)曰く、これらの鳥居と祠は天狐が住まう祠を守り隠す為にある物で、本来は一本道なのだそうです。

 そして奥へ進むにつれて、闇の野狐(ヤコ)の数が数百体から数千体へと次第に増えて行った。


 しかし、その度に多属性絶対障壁に弾かれ消滅していった。

 いくら悪しき魂となった妖狐の亡霊でも、私は少し気が引けてきました。

 石楠花(シャクナゲ)にその事を打ち明けると、多属性絶対障壁により悪しき魂が浄化され、善なる魂となって生まれ変わることが出来るそうです。

 つまり、闇の野狐(ヤコ)を倒せば倒すほど結果的に、救っているのだそうです。



「撫子、そろそろ最奥の筈じゃ。じゃが、わしの式神が倒されたことを考えると、(テン)がどうなっておるか分からぬ。故に、対処出来るよう武器を持つのじゃ。(テン)は、山のようにデカいからのぉ」

「はい、分かりました」



 返事をして武器を構え正面を見た瞬間、多属性絶対障壁ごと私達は吹き飛ばされた。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ