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「女、俺様を虚仮に出来るのはここまでだ! 羽団扇よ、女共を吹き飛ばせ!」
烏天狗が右手で仰ぎ、暴風を起こそうとした。
しかし、暴風は起きなかった。
「何?」
暴風が起きないことで、烏天狗は右手に持っていた筈のあべこべの羽団扇が、木の枝に変わっている事に気づいた。
すると、いつの間にか髪の長い美少女が石楠花に羽団扇を渡していた。
どうやら先ほどの忍術で烏天狗を攪乱し、隙を見て羽団扇をお菓子で出来た木の枝にすり替えていたようです。
「是界坊よ、あべこべの羽団扇でお主の弱点を元に戻しておいた」
「何だと!」
「素直に、降参するのじゃ!」
「……甘いな、豊前坊。俺様には、能力減少封じの羽団扇がある。それに弱点など、錫杖技と羽団扇を駆使して躱せば良いだけだ」
そう言って右手の枝を捨てると、左手の錫杖を右手に持ち替え、漆黒の毛から能力減少封じの羽団扇を取り出した。
確かにあの羽団扇を奪わなければ、烏天狗は錫杖と羽団扇を併用し再び攻撃をしかけて来る。
それに再び、石楠花が持つあべこべの羽団扇を奪われでもしたら……。
烏天狗は右手で錫杖を構え、左手で羽団扇を掲げた。
「羽団扇よ、俺様に暴風を宿せ!」
烏天狗が自身に向けて羽団扇を仰ぐと、烏天狗に暴風が宿った。
「あれは、ちと厄介じゃのぉ」
石楠花によるとあの暴風は、烏天狗の錫杖技の威力と回避力を最大まで向上させる神通力のようです。
「フハハハ! これで、素早い動きにも対応出来る」
烏天狗はそれだけ言うと、錫杖を私達ではなく髪の長い美少女に向けた。
「素早い女! もう一度、俺様と勝負しろ!」
どうやら烏天狗は、少女に翻弄された事が許せなかったようです。
すると、少女が再び烏天狗の前まで行き脇差しを構えた。
その瞬間、烏天狗と少女の激しい攻防が始まった。
烏天狗の激しい錫杖技に対し、少女は様々な忍術を使用して対処する。
残像、分身、空歩、空蝉、変わり身、徒手空拳、脇差しによる斬撃。
変幻自在の動きは、暴風を纏った烏天狗にも引けを取らなかった。
「クソッ! 目を瞑っていては、俺様が不利だ。かと言って……豊前坊、俺様は真剣勝負をしている。その姿を、何とかしろ!」
烏天狗が少女の攻撃を躱わしながら、石楠花に愚痴を言ってきた。
「不利じゃからと言って、敵のわしを頼るな!」
「チィ! クソッ! この女、なぜ俺様の攻撃をこれ程までに躱せる?」
戦いが進むにつれて二人の動きが早まり、目を集中させていても動きが少ししか見えなくなってきた。
その時、少女が脇差しを手放した。
「忍法 【残像分身! デコイ! 水鏡 徒手空拳残像 白波!】」
そして、様々な技を駆使して烏天狗の羽団扇を奪い取った。
「何!」
すると、思わず烏天狗が瞑っていた目を開いた。
「……ブホッ!」
そして気絶しかけたが、下を向いて耐えた。
「豊前坊、卑怯だぞ! そっ、その破廉恥極まりない衣は……だが、負けん! 豊前坊よ、俺様の勇姿を最後まで見ろ!」
「もう、お主の負けじゃ。それにお主が何と思おうが、わしと人との契約は八天狗の太郎坊総大が認めた正式なものじゃ」
「……俺様は、豊前坊の事を思って言っているのだ! 天狗は、天狗同士契るものだ! 人の男と交われば、俺様のように惨めな天狗が生まれるのだぞ!」
烏天狗は石楠花と私では無く、男性と契約したと思っていたようです。
しかも契約を、石楠花との契りだと勘違いしていたようです。
「俺様は、有能な豊前坊と契る事で、次の世代に希望を託したいのだ!」
「お主は、しつこいのぉ。わしは何度も何度も、お主とは契らんと申しておろう。それにお主は、全くわしの好みでは無い!」
「おっ、俺様が? 好みでは、無いだと……」
石楠花にハッキリと言われた烏天狗は、両手と両膝をついて頭を垂れた。
成る程、烏天狗は石楠花が好きだったのですね。
だから攻撃して痛みつけても、殺そうとはしなかった。
それに力を見せつけることで、振り向いて欲しかったのかもしれません。
「是界坊、じゃからお主は女天狗に嫌われるのじゃ。しかも、わしがちと親切にしただけで、好いていると勘違いするか? お主は、もううんざりじゃ。やっておれんわい……こうなったら、やけ菓子じゃ!」
そう言って石楠花が洋酒入りのお菓子を食べようと懐に手を入れた。
すると、幼い美少女がお菓子を取り上げた。
そう言えばこの子、ブルーローズですよね。
ブルーローズが女の子になると、こんなにも可愛らしくなるんだ。
「石楠花、いい加減にせぬと我の清水を飲ませて浄化するぞ!」
「わしの、お菓子を返せ! 何じゃ、お……」
そしてお菓子を取り上げられた石楠花が、振り返ると何かを言いかけて、ブルーローズに抱きついた。
そう言えば、ここに来た男の子は石楠花の思い描く可愛い女の子になると言っていました。
もしかするとブルーローズは、石楠花にとって一番理想の「可愛い」なのかもしれません。
「何じゃ、この可愛い生き物は! ういの、可愛いさじゃ! おおー、また嫌がる仕草がたまらんのぉ。可愛いのぉ、可愛いのぉ」
「石楠花、我にくっ付くな! フニャー! 我の胸に、顔を埋めるな! フニャァー、耳を舐めるな! フニャァァァ……」
ブルーローズが石楠花に色々とされて悶えていると、髪の長い美少女が私の元にやって来た。
「姫、無事だったようですね」
この雰囲気と、言葉使い。
そして、自然と私に笑顔を見せてくる行動。
やっぱり、薺君だったんだ。
「姫、あまり見つめられると恥ずかしいです。僕のこのような姿、本当は見せたくは有りませんでした」
薺君のあまりの美少女姿に驚いていると、空間が歪みだした。
まさか、新手?
そう思って武器を構えていると、八天狗達が現れた。
そして、天狗の総大将である太郎坊が私の元まで獅子に乗ってやって来た。
「撫子、妾達の問題に其方達を巻き込んで迷惑をかけた。是界坊を二度と近づけさせぬ故、許せ。是界坊は、妾達がきっちりと処罰する」
是界坊がしてきたことは許されないことですが、石楠花にも問題が有った気がします。
「太郎坊様、出来れば寛大な処罰をしてあげて下さい。是界坊さんも反省していると思いますし、石楠花の断り方にも問題が有ったと思いますので……」
「撫子、変な事を申すな!」
石楠花が太郎坊に睨まれ慌てていましたが、太郎坊が私に笑顔を向けてきた。
「ふふ、撫子は優しいのだな。妾達が、認めただけのことはある。……詫びと言って良いか分からぬが、其方の持つあやかしの毛玉に妾の力を注いでやろう」
そう言って太郎坊が、私に手を差し出した。
「えっ? 良いのですか?」
私が持つあやかしの毛玉は、レベルが84になっても未だに何の反応も示さない。
高位のあやかしだと思いますが、太郎坊に力を注いで頂いて、生まれる切っ掛けになってくれたら嬉しいです。
「太郎坊総大、それは……」
ネックレスからあやかしの毛玉を取り出すと、治朗坊が何か言いかけた。
すると、太郎坊が手で制した。
「治朗坊、良い。妾は、撫子が甚く気に入ったのだ」
太郎坊の言葉を聞いた治朗坊は、「分かりました」と言って一歩後ろに下がった。
すると、太郎坊があやかしの毛玉に神通力を注ぎだした。
神通力を注ぎだすと、あやかしの毛玉が赤色、白色、銀色、金色と輝いた後にピンクゴールドになって一段と輝いた。
「うむ、これで良い。ちょうど、其方の名に相応しい撫子色となった。あやかしの毛玉が目覚めれば、恐らく妾の様に自在に神通力を使いこなす大神となる。撫子よ、あやかしの毛玉を大事にするのだぞ」
「太郎坊様、ありがとうございます」
お礼を伝えると、八天狗達は烏天狗の是界坊を連れて去って行った。
こうして私達は、天狗達の騒動を解決したのであった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




