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 漆黒の翼と毛に覆われた烏天狗が、綿菓子が吹き荒れる中こちらを覗いていた。

 ですが、私達の姿があまり見えていないようです。

 頻りに、匂いを嗅いで確認していた。

 恐らく、外と中の光りの差で見えていないのだと思う。



「イグルーかと思ったが、ここだったのか。味な真似を、しやがって。お陰で、気づくのに時間がかかったぜ!」



 木の間に作った結界や折れたお菓子の木と綿菓子が絡みつき、良い具合に巨大なイグルーの様になっていたようです。

 そう言えば、マシュマロで作られた巨大な窯倉(カマクラ)が周りに幾つか見えていました。

 このお菓子達が、私達に味方してくれたようです。


 ですが結界が破壊された今、イグルー状に出来た綿菓子も、吹雪く綿菓子の中では長くは持たない。

 先ほどから、ミシミシと音を立て始めました。

 恐らくお菓子の木が折れると、綿菓子で包まれたイグルーは崩壊するでしょう。


 ですが、外は綿菓子の猛吹雪。

 そして前には、3mは有ろうかと思われる烏天狗。

 烏天狗に、攻撃を仕掛けるか……。

 弓に手を添えていると、石楠花(シャクナゲ)が前に出て私を止めた。



「撫子、わしの後ろに下がるのじゃ。足止めになるか分からぬが、式神で仕掛けてみる」

「お願いします」



 式神に前衛を任せて、私達が後方から攻撃する。

 いくら烏天狗の弱点が無くなったとは言え、協力して攻撃すれば、きっと奪われた羽団扇を取り戻せるはずです。



(キノエ)(キノト)(ヒノエ)(ヒノト)(ツチノエ)(ツチノト)(カノエ)(カノト)(ミズノエ)(ミズノト)、式神天后(テンコウ)、式神玄武(ゲンブ)よ、参るのじゃ!」



 石楠花(シャクナゲ)が上、左下、右、左、右下、上、右、右下、左下、左、上と印を刻み、手を叩き合わせた。

 すると周りのお菓子が集まりだし、女性と足が長い亀のような物を形取った。


 そして、その式神達が烏天狗に向かっていった。

 イグルー内で作り出したので大きさは私達と変わりませんが、その式神達からは凄まじい力を感じました。

 この式神達が居れば……



石楠花(シャクナゲ)、私達も攻撃を」

「いや、待て撫子。その前に、あ奴に名を知られぬ方が良いじゃろ?」

「えっ?」



 どういう事、でしょうか? 

 不思議に思っていると、心に伝わって来ました。

 石楠花(シャクナゲ)は、最悪の状況を考えたようです。


 もし最悪撤退し烏天狗に名を知られていると、石楠花(シャクナゲ)の様に神通力で場所を特定されてしまうようです。

 場所を特定されると、私達が巻き込まれた様に、今度は私の家族や学校などに被害が行くかもしれないそうです。

 確かに、私の家族や学校の皆を巻き込むわけにはいきません。



「撫子、テリトリーにいるうちは名を常夏(トコナツ)とするが、それで良いかのぉ?」

「はい、お願いします」



 返事をすると石楠花(シャクナゲ)が振り返り、隣にいるメイドさんと私の足下に隠れた雛菊(ヒナギク)に眼を向けた。



「他の者も、それで頼む」

「常夏(ニャン)(ニャン)ですね。承知致しました、石楠花(シャクナゲ)様」

石楠花(シャクナゲ)おねぇたん、ピィ分かった。常夏おねぇたん、ね」

「うむ」



 二人が返事をすると、石楠花(シャクナゲ)は頷いて前を向いた。

 烏天狗を見ると、式神達の形が崩れていった。

 なぜ、あんなに力を持った式神が何も出来ずに崩れたの? 



「むう……やはり、無駄じゃったか。せめて、方角と季節が合えば簡単には解けぬのにのぉ……」



 方角? 季節? 

 私には、理解出来ません。

 ですがきっと、式神の能力に関係あるのでしょう。



豊前坊(ブゼンボウ)、俺様を舐めてるのか? 何度やっても……クソッ! 綿菓子が、邪魔だ!」



 烏天狗を見ると、綿菓子の猛吹雪が急に吹き荒れて纏わり付き瞬く間に白くなった。



「羽団扇よ、暴風を消し去れ!」



 烏天狗が羽団扇を掲げると、綿菓子の猛吹雪が収まった。

 すると、烏天狗に大きな綿菓子が降ってきた。



「ブハッ! 前が、埋まった! 豊前坊(ブゼンボウ)、出てこい! 素直に負けを認め、人との契約を破棄しろ!」



 どうやら綿菓子のイグルーが、烏天狗側から崩壊しているようです。



「常夏、雛菊(ヒナギク)、メイド……で良いのか?」



 石楠花(シャクナゲ)は、メイドさんを見てヘイズスターバーストと言って良いか悩んだようです。

 ですが結局、メイドさんで良いと思ったようです。



「はい。石楠花(シャクナゲ)様」



 メイドさんも、その名で承知したようです。



「では皆の者、後ろに有る木々の間を突っ切るのじゃ!」

「「はい!」」

「うん。ふわー、メイドたん?」



 私とメイドさんが返事をすると、石楠花(シャクナゲ)が木々の間の綿菓子を吹き飛ばし、メイドさんが雛菊(ヒナギク)を抱きかかえた。

 私が雛菊(ヒナギク)を抱きかかえようとしていたのですが、メイドさんが気遣ってくれたようです。

 すると、雛菊(ヒナギク)が雪だるまを指さした。



「だるまたん、守って」



 すると、烏天狗が入口の綿菓子を吹き飛ばした。

 その瞬間、雪だるまが烏天狗に取り付いた。



「雪ん子、へばり付くな!」



 烏天狗が雪だるまを相手している間に、私達は木々の間をすり抜けた。

 すると同時に、綿菓子のイグルーが崩壊した。



「何!」



 崩壊の最中、烏天狗の声がした。

 ですがなぜ、雪だるまを雛菊(ヒナギク)と間違えたのでしょう? 

 しかも石楠花(シャクナゲ)の式神とは違って、戸惑っているように見えた。


 私には戸惑っている意味が分かりませんが、何か意味が有るのかもしれません。

 距離を取るため走っていると、すっかり綿菓子の吹雪が収まっている事に気がついた。

 そして辺りに見える窯倉(カマクラ)が、先ほどまで私達が居たイグルーの様になっていた。



「あっ、だるまたん溶けちゃった」

「えっ?」



 どうやら力が強い雪だるまは、雪兎と違って雛菊(ヒナギク)から離れすぎると、溶けてしまうようです。

 しかも雪だるまは、攻撃する相手に自身の姿を雛菊(ヒナギク)に見せる能力が有るようです。


 だから烏天狗が、雛菊(ヒナギク)と間違えたのですね。

 後ろを振り返ると、そこにはお菓子の山が出来ていた。

 しかし次の瞬間、お菓子の山から烏天狗の腕が出てきた。



「洒落臭いわ!」



 そしてお菓子が辺りに飛び散ると、漆黒の翼を広げた烏天狗が空に舞った。

 漆黒の翼を広げると、烏天狗が更に巨大に見えた。

 石楠花(シャクナゲ)は、一人であんな巨大な烏天狗と戦っていたのですね。

 ですが、今は私達がいます。

 それに、奪われた羽団扇を取り戻せる方法がきっと有るはずです。



豊前坊(ブゼンボウ)、ぶが悪いからといって女天狗と……ブホッ!」



 烏天狗が私達を睨みつけると、なぜか綿菓子の山に墜落した。



「何じゃ、あ奴? なぜ、ダメージを受けたのじゃ?」

「分かりません。ですが石楠花(シャクナゲ)、今のうちに距離を取って対策しましょう」

「うむ」



 ですが、何かが烏天狗に作用したのかもしれません。

 もし作用した物が弱点なら、奪われた羽団扇を取り戻せるかもしれない。

 こうして私達は弱点を分析する為に、その場から距離を取る事にした。


 私は距離を取っている時、石楠花(シャクナゲ)から烏天狗の弱点になりそうな情報を聞いた。

 すると烏天狗が一番初めにしたことは、最大の弱点であった火の攻撃を軽減するため、あべこべの羽団扇を使用し向かう先々を全て冬に変更した事。


 この世界では季節を冬にする事で、自然の摂理に影響を与え、火の神通力を弱くすることが出来るそうです。

 そしてその場所が冬になれば、冬だった場所がその場所の季節となるそうです。


 二つ目はこのテリトリーの女性化を、自身だけあべこべの羽団扇を使用し解除した事。

 これはテリトリーの性質であり、そのまま性質を残したのは、男性が多い天狗の救援を阻止したものだろうと言っていた。


 三つ目はこのテリトリーに入った男性の強者を弱者にさせる力を、自身だけあべこべの羽団扇を使用し解除した事。

 男性の強者を弱者に逆転させるテリトリーの性質は、元々男性だった者にだけ作用する。

 これもテリトリーの性質であり、そのまま性質を残したのは、救援に駆け付けた男性の弱体化を狙った物だろうと言っていた。


 他にも、このテリトリーには色々と性質が有るそうです。

 持ち物を限定させる為、能力で作り出した物以外の衣服は持ち込み禁止。

 被害を最小限にする為、この世界を作り出した時に、元々現実に有る物をお菓子にした事。


 (ヨコシマ)な考えを持つ男性に、男性の(ヨコシマ)な妄想で魔物を作り出し警告するなど。

 このテリトリーは、男性にとって不利になる性質が有るように作ったそうです。

 それは全て、烏天狗と話し合う為だったようです。



「……ちょっと待って下さい、石楠花(シャクナゲ)。と言うことは、もし薺君達が来たら?」



 私が素朴な疑問を問いかけると、石楠花(シャクナゲ)がニヤリと笑い何かを口に含んだ。



「ムシャムシャ、ゴックン。当然、女子(オナゴ)になるじゃろうのぉ。じゃが、安心せい。入口は、簡単には入れぬ」



 簡単に入れないとしても、薺君達にはブルーローズがついています。

 ブルーローズなら、簡単に入れない場所で有っても、能力を駆使して入ろうとしてくる筈。

 況してや、私達の別邸に張られた結界なら尚更。



「でも、ブルーローズなら入れるのでは?」



 私が指摘すると、石楠花(シャクナゲ)が無いとでも言うように手を振った。



「……あ奴は、賢い。是界(ゼガイ)(ボウ)に入口を改変されていなければ、第一の世界に入った時点で、わしのテリトリーだと気づく。プライドの高い、奴の事じゃ。余程でない限り、第二の世界には入っては来ぬだろうしのぉ」



 そうは言っても、ブルーローズはプライドよりも私達の事を優先すると思う。

 なぜなら、今までそうでしたからね。



「それに、極端に弱くなるのは男のあやかしだけじゃぞ? 人は、わしが思い描くめんこい女子(オナゴ)になるだけじゃしのぉ。ホッホッホッ」



 石楠花(シャクナゲ)が思い描く、女の子? 



「常夏? ちと聞くが、(ウイ)な娘となった薺達を見てみたくはないか?」



 ……正直言うと、見てみたい。

 だけど、石楠花(シャクナゲ)は急にどうしたのでしょう? 

 しかも、なぜこんな時に笑って? 

 不思議に思っていると、石楠花(シャクナゲ)がまた何かを口に含み舌なめずりした。



石楠花(シャクナゲ)、それは?」

「これはのぉ、お土産の中に有ったのじゃ。他のお土産も食べてみたが、これが(スコブ)る美味いのじゃ。しかものぉ、わしの能力を(スコブ)る向上させるのじゃ」



 あれ? 初めに、聞いた話と違います。

 石楠花(シャクナゲ)は大人のお菓子を一口食べて、能力を向上させたのではなかったのですか? 

 すると、ボロボロとお土産の空箱が落ちてきた。


 えっ? これって、洋酒入りのチョコレートの箱。

 一体どこに、隠していたのでしょうか? 

 後ろを見ると、落ちた空箱は巨大となってお菓子となった。


 色々と腑に落ちない点が有りますが、それは後から石楠花(シャクナゲ)に聞けば良いです。

 なぜなら後方で墜落していた烏天狗が、お菓子の山から出てきて、怒ったように顔を赤くして眼を瞑っていたからです。


 そして持っていた羽団扇を漆黒の毛にしまうと、代わりに錫杖を出して打ち鳴らした。

 あの錫杖が、烏天狗本来の武器なのでしょうか? 

 それにしても石楠花(シャクナゲ)といい烏天狗といい、二人ともどこから出し入れしているのでしょうか? 



「メイドさん、雛菊(ヒナギク)と一緒に離れて下さい」



 メイドさんに雛菊(ヒナギク)と一緒に逃げるよう伝えると、フライパンを二つ出してきた。



「常夏(ニャン)(ニャン)、私も戦います」



 ……メイドさんも、どこからフライパンを出してきたの? 

 メイドさんがフライパンを両手に持つと、雛菊(ヒナギク)が雪だるまを作り出した。



「常夏おねぇたん、ピィも一緒」



 二人からは、私を守りたいと言う気持ちが、ひしひしと伝わって来た。

 二人がその気なら、無碍には出来ません。



「分かりました。ですが、決して無理はしないで下さいね」

「はい」

「うん」



 二人が返事をすると、烏天狗が錫杖を掲げた。



「やはり俺様は、人と豊前坊(ブゼンボウ)が契約した事を認めん!」



 そう言った瞬間、落雷が辺りに落ちた。

 一体何が、烏天狗を怒らせたのでしょう? 



是界(ゼガイ)(ボウ)、なぜ分からぬのじゃ。八天狗も、認めたのだぞ!」



 すると石楠花(シャクナゲ)は、印を刻んで烏天狗に巨大な火山弾を放った。

 放った巨大な火山弾が、烏天狗を襲う。

 しかし火山弾が直撃したのに、烏天狗は無傷だった。


 大人のお菓子で石楠花(シャクナゲ)の能力が向上しても、烏天狗を取り押さえたり気絶させたりしなくては、羽団扇を取り戻すことは出来ません。

 先ほどは、なぜあれ程までダメージを受けたのか不明です。


 あの時、羽団扇を取り戻していれば良かった。

 私達は、烏天狗に警戒し過ぎて見誤りました。

 それに、なぜ烏天狗は眼を瞑っているのでしょうか? 

 意味が、分かりません。



「どこの馬の骨かもしれん奴が、俺様の……五月蠅い! 豊前坊(ブゼンボウ)、俺様は認めんと言ったら、認めんぞ!」



 烏天狗は顔を横に向けると、鉄砲水を私達に放って来た。

 どうやら眼を使用せずとも、耳で私達の位置が分かるようです。

 それに、烏天狗の言いかけた言葉が気になります。



「そんな事を申しておると、其方(ソナタ)の祖父の二の舞になるぞ!」



 すると、石楠花(シャクナゲ)が印を刻んで手を地に付け、壁を作り出して鉄砲水を防いだ。

 私も石楠花(シャクナゲ)の補助で矢を放ちましたが、錫杖で(コトゴト)く打ち落とされた。



「五月蠅い、五月蠅い! 俺様は、先代とは違う! 人と関わり、人の娘を娶ったから悪いのだ! 豊前坊(ブゼンボウ)、直ぐに契約を破棄しろ!」



 烏天狗がそう言って錫杖を振り回すと、竜巻が起こった。



「わしは、契約の破棄は絶対にせぬと言っておろうが!」



 すると石楠花(シャクナゲ)が印を刻んで手を交差させ、竜巻と逆方向の渦を作り出し、竜巻を打ち消した。

 そして更に印を刻み、天を指さすと落雷が烏天狗に落ちた。

 しかし烏天狗に雷が落ちた瞬間、漆黒だった翼と毛が金色になった。



「ならば豊前坊(ブゼンボウ)、俺様が力ずくで分からせるまでよ! 【迅雷翼(ジンライヨク)!】」

「不味い! 常夏、わしと共に結界を張るのじゃ!」

「はい」

「ピィも、雪の結界するの!」

「私は、フライパンで!」



 石楠花(シャクナゲ)の結界と私の水の結界を張った瞬間、結界が破壊された。

 どうやら迅雷翼(ジンライヨク)は、雷の様な凄まじい早さを烏天狗の翼に宿す神通力のようです。

 メイドさんを見ると、フライパンで烏天狗の錫杖を防いでいた。


 その瞬間、烏天狗が凍り付いた。

 これは、雛菊(ヒナギク)の結界? 

 二人とも、もう連携している。


 凄い。

 でも今なら、羽団扇を取り戻せるかもしれない。

 そう考えた瞬間、雛菊(ヒナギク)の結界にヒビが入った。



「常夏、メイド、深追いするな!」



 石楠花(シャクナゲ)雛菊(ヒナギク)を抱きかかえて離れたので、私達も離れようとすると雛菊(ヒナギク)の結界が爆風を伴い砕け散った。

 咄嗟に弓を懐剣にして防いだが、私とメイドさんは爆風で吹き飛ばされた。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

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