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「撫子、奴は彼の国から来訪した三代目是界坊じゃ」
石楠花が、なぜ要注意人物と言われているのか教えてくれた。
それは遙か昔、彼の祖父がこの国に来訪した時に遡ります。
祖父は、彼の国にいた烏天狗の総大将だった。
凄まじい神通力で、近隣の国を単独で掌握。
次に、この国を支配下にしようと企んだ。
しかし、この国の神々によって強度の弱点を数々と付与された。
それでも祖父は、この国を支配しようと暴れた。
すると、この国を愛する女天狗達が現れ立ち向かった。
その時、女天狗達に弱点を狙われ祖父は瞬時に敗北。
敗北した祖父は、彼の国に逃げ帰った。
そして彼の国の娘と結ばれ、子を授かった。
しかし生まれた子は、能力と共に強度の弱点を受け継いでいた。
祖父は怒り苦しみ、神々に復讐しようと心に誓った。
そして子が二代目是界坊となった時、祖父は子に復讐の事を打ち明けた。
しかし子は、復讐を望まなかった。
なぜなら、絶大なる力を持つ神々に、復讐をしようと考えること自体が正気では無いと考えたからだ。
そして女天狗達に力添えをしてもらい、祖父を封印した。
三代目是界坊も例外では無く、祖父の能力と強度の弱点を受け継いだ。
しかも二代目のように平和的な考えを持ってはおらず、祖父のように方々で暴れていた。
二代目は再び女天狗達に力添えをしてもらい、三代目是界坊を厳しく処罰した。
三代目是界坊は暴れなくはなったものの、それ故に彼は祖父の意思を受け継いだ者として要注意人物となったのです。
石楠花が情報を伝え終えると、私が着ている雪のケープを触ってきた。
どうやら、先ほどから気になっていたようです。
「撫子、この衣フワフワじゃのぉ。しかも、よい性能をしておる」
「そうなんですか?」
「うむ」
石楠花曰く、このケープにはあらゆる物理耐性大、魔法耐性大、雪属性完全無効、氷属性完全無効、水属性完全無効、火属性無効、風属性無効、それに雪と氷と水に関しては吸収する能力を持っているそうです。
どおりで、雛菊が雪のケープを一着作るのにMPを500も消費したわけです。
「それに、何より可愛いのぉ」
そう言えば石楠花は、可愛い物が好きでした。
それによく見ると石楠花の衣が透けており、神通力で幻影として見せている事が分かった。
つまり石楠花は今、裸なのです。
しかも石楠花は、なぜか大人の女性に変化している。
もしかすると、相手に侮られないよう対策したのかも知れません。
「雛菊、ケー……」
雛菊にケープをお願いしようとすると、既に石楠花の足下に行っていた。
「ピィ?」
「ううん、何でもなよ」
どうやらケープの事を石楠花に可愛い衣と言われ、雛菊は嬉しかったみたいです。
「うん。……ねえねえ、石楠花おねぇたん?」
そして少し恥ずかしそうに、雛菊は石楠花を見上げると声をかけた。
「何かのぉ?」
すると、石楠花は優しい瞳を雛菊に向けた。
「おねぇたんも、ピィのケープ着る?」
「わしは、可愛い衣が大好きなのじゃ。雛菊、良ければお願い出来るかのぉ」
石楠花にそう言われると、雛菊が笑顔になって雪のケープ作り出した。
それから雛菊は石楠花が気に入ったようで、私の後ろに隠れなくなった。
あやかしにも相性があると思うのですが、雛菊と石楠花は会ったばかりですが、もう仲が良くなったようです。
大人の石楠花が雪のケープを着ると、思っていた以上にセクシーでした。
ですが、これで防御対策も完璧です。
ただ、これからどうやってあべこべの羽団扇を取り戻すかです。
是界坊の弱点は、あべこべの羽団扇によって逆転し、今は無くなっている。
因みに弱点だった属性は、火属性・水属性・風属性・土属性・雷属性・光属性・闇属性だったそうです。
ですが石楠花曰く、是界坊が気づいていない弱点が何か他に有る筈だと言っていた。
なぜなら、神々によって強度の弱点を数々と付与されたからです。
しかし、それ故に不明なのだそうです。
「そうじゃ、撫子。念の為に、わしが持つ天狗の面を被っておけ。これは、人である事を知られなくなる物じゃ。面識は無くとも、是界坊は人と天狗が契約した事が許せんと言っておったからのぉ」
「はい、分かりました」
私は石楠花から天狗の面を受け取り、被ることにした。
そして準備が整い石楠花が結界を解こうとした瞬間、私と石楠花の結界が砕け散った。
すると、漆黒の翼を持つ烏天狗が姿を現した。
※ ◇ ※
【薺SIDE】
ロープウェイに乗り込み、三つ目の次元世界に入ると、周りの景色が先ほどまでとはガラリと変わった。
「ブルーローズ、ここは心地よい次元世界ですね。まるで、春のように感じられます」
しかも、下を見ると春を彩る花々が咲いていた。
恐らく、全てお菓子で出来ているのだろうけれどね。
「そうであるな。確かに、ここは春を現している。だが、季節と方角がバラバラで狂っている。石楠花の式神が何も出来ずに術を解かれたのは、この季節と方角が一致しない事も関係する」
ブルーローズ曰く、先ほどの場所は本来東に位置しており、春を現さねばならなかった。
そして春を現していれば、六合と青龍が石楠花の式神として居たはずだと言っている。
他にも、冬と北に位置する場所では天后と玄武。
そして、夏と南では騰虵と朱雀が式神として守護していた筈だったらしい。
それが全く違っていたので、本来の能力を出せず、術を解除された一つの原因だったらしい。
ブルーローズの説明を聞いていると、急に雲行きが怪しくなり、ゴンドラの飴で出来た窓に雪と共に風が当たり出した。
そして、ゴンドラが奥に進むにつれて激しく揺れだした。
ロープで吊られたゴンドラは、風の影響をまともに受ける。
このままでは、ゴンドラが真っ逆さまに落ちてしまう。
「インカルナタ、ゴンドラの周りの風を制御して下さい」
「キュウーーン!」
インカルナタにゴンドラの周りの風を制御してもらうと、ゴンドラの揺れが少し治まった。
しかし、雪がゴンドラを包み込む風に影響を及ぼしだした。
これは、本当に雪なのか?
糸の様に、伸びて絡まっている。
まさか、これもお菓子?
そう思った瞬間、ゴンドラが一回転した。
「クッ! 不味い。ブルーローズ、僕につかまって下さい」
ブルーローズを抱き寄せると、インカルナタがゴンドラの滑車に、風を凝縮させた物で補助具を作り出し、外れないようにしてくれた。
もしも滑車が外れたら、僕達はゴンドラごと下に叩きつけられてしまう。
「インカルナタ、風で滑車を重点的に守って下さい」
「キュウーーン!」
インカルナタにお願いをしていると、ブルーローズが暴れ出した。
すると、再びゴンドラが強烈な暴風に煽られ一回転した。
「薺、我を胸に押しつけるな! フモォ、フモォ、フモォ!」
再び力強く抱きしめると、ブルーローズが顔を左右に振り藻掻きだした。
するとゴンドラが一回転した拍子に、インカルナタが僕の頭の上に乗ってずり落ちてきた。
「ブルーローズ、僕の胸で藻掻かないで! ヒィヤンッ! インカルナタ、僕の顔にしがみ付かないで。尻尾で、前が見えないよ!」
そして急に前が見えなくなり、力を緩めるとブルーローズが身体を前に向けた。
「プファー! やっと、出られた。って、こらインカルナタ! 折角、薺の胸から出られたのに、今度は我の胸にフニャー! ハァーハァー……インカルナタ、顔を埋めるな! 擽ったい、では無いか!」
ゴンドラが暴風で回転し続け、上下左右が分からなくなってきた。
このままでは、ロープが切れてしまう。
しかし、どうやってゴンドラの体勢を保てるか?
いや、もうゴンドラの体勢を立て直す事などできない。
激しく背中を強打しながら考えたが、何も思いつかない。
するとインカルナタの尻尾が、やっと僕の視界から消えた。
「プハー! エッ?」
その瞬間、身体が宙に浮いた。
これは、まさか?
ロープが、切れた?
「キュウーーン! キュウーーン! キュウーーン!」
「薺の方が、気持ちが良い? 我の胸が、小さいだと! 五月蠅いわ!」
「それより、ブルーローズ緊急事態です!」
「薺、分かっておる! だが、今の我ではゴンドラごと浮けぬ! インカルナタ、何とかせい!」
「キュウーーン! キュウーーン! キュウーーン!」
「異常な暴風で、能力を使用してもゴンドラを風で制止できぬだと? フニャー! インカルナタ、我の背中から衣に潜り込むな!」
「そんな……ブルーローズ!」
「薺!」
「「ウワアァァァー!」」
ブルーローズとインカルナタを抱きしめ、二人で叫び声を上げた瞬間、額にプニッとした感触がした。
「ミャウ、ミュウミュウ?」
そしてイベリスの声がしたかと思うと、ゴンドラから僕達は擦り抜けた。
「……イベリス?」
これはイベリスの能力、虚空の猫足か?
そう思った瞬間、姫立金花を右肩に乗せている裸の少女と眼が合った。
「イベリスを追いかけて追いついたと思うと、巨乳美少女と幼い美少女が絡み合って抱き合ってるだと? インカルナタは分かるが、髪が伸びているけど、巨乳美少女は薺だよな? って事は、こっちの幼い美少女がブルーローズか……お前ら、一体何が有った?」
恥じらいもしないこの少女は、一体誰だ?
イベリスが飛び上がった方向を見ると、花ちゃんがいた。
「イベリスちゃんが急に走り出すから来てみたけど、花は今の状況の方が驚いちゃった。それにしても、ブルーローズちゃん可愛すぎだよ! 薺君が抱きしめちゃうの、花は分かるよ!」
そう言えば、ブルーローズを抱きしめたままだった。
ブルーローズも必死に抱きしめていたようで、僕の胸から顔をだした。
「「……何も聞くな!」」
そして、僕と言葉が揃った。
「っと言うお主らは、何という格好をしておる!」
確かにブルーローズの言われたとおり、二人とも一糸まとわぬ姿である。
「花は、イベリスちゃんで隠しているもん」
いや、色々はみ出しているから。
「いや花、俺と同じで隠れてないぞ!」
その通りなのだが……ってこの言い種と態度。
「まさか、朝熊なのか?」
「当然だ! 筋肉は無くなったが、女になろうと、この磨かれたボディー。俺の、隠さねえ所を見ろよ!」
「いや朝熊、悪いが隠してくれ」
少女となっても堂々としている朝熊に注意していると、ブルーローズが僕の膝に座ったまま、水の衣を作り出した。
「仕方がない。我の水の衣を、着せてやる。薺、悪いがミネラルウォーターをくれぬか?」
「はい」
ブルーローズのMPを見ると、またほぼ無くなっていた。
どうやら、ここでも負担をかけたようだ。
朝熊と花ちゃん達の水の衣、それにブルーローズのMPを全回復させたので、残りのミネラルウォーターの数は残り七本となった。
だけど、これだけ仲間が揃えば心強い。
こうして僕達は朝熊達と合流し、暴風吹き荒れる中心地を目指すことにした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




