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ケープを着るために栴檀の板と鳩尾の板と草摺を外していると、雛菊が私の太股を軽く叩いてきた。
「撫子おねぇたん、ピィと同じでいーの?」
雛菊が着ているケープは、太股の少し上まで隠れていたので、見えるか見えないかの境目ですが、女性どうしですし然程気にする事でも有りません。
ですので、同じ物を頼む事にした。
「はい。それと、メイドさんの分も一緒にお願いしますね」
恥ずかしがる様子のないメイドさんですが、可愛らしいケープには興味が有るようで、雛菊にお願いすると嬉しそうにしていた。
ですが、迂闊でした。
まさか、雛菊と同じ大きさのケープだとは思いもしなかったのです。
メイドさんは嬉しそうにしていましたが、この大きさは流石に恥ずかしい。
雛菊が笑顔を向けてくるので、一応合わせてみましたが襟巻きのようでした。
「えっと……」
「なーに、撫子おねぇたん?」
「ごめんね、雛菊。二度手間になるけれど、私達のサイズにしてもらっても良いかな?」
「いーよ。撫子おねぇたん、時間かかちゃうけどいーい?」
「うん」
私が返事をすると、ケープの大きさを調整しながら雛菊はこれまでの事を話してくれた。
実は話している時に、下着も作れるか聞いてみた。
ですが、作る事が出来ないそうです。
どうやら今の状態では繊細な物は、能力で作り出すことが困難で、このケープは唯一覚えていて、能力で作り出す事が出来たのだそうです。
初めに着ていた服は、百年前に大切な友人から頂いた物だったそうです。
ある日の事、雛菊はその友人に会い行くため雪山を降りて来た。
ですが、急に天地が逆転し次元世界の渦に巻き込まれた。
しかも現実世界と逸脱された次元世界は、能力を使用しても脱出する事が出来なかった。
当てもなく時の不明な次元世界を彷徨っていると、少しずつ能力が衰えていった。
そして能力を完全に失いかけたその時、急に次元世界が豹変しお菓子の世界となった。
そこで、雛菊は私と出会ったというわけです。
「撫子おねぇたん、出来たよ」
「雛菊、ありがとう」
作ってくれたケープは、付けてみると肌触りがよく、防具の役割である栴檀の板と鳩尾の板と草摺よりも凄く安心感が有った。
ただ短いので、前に屈むと後ろが見えてしまう。
ですので少しでもと思い、ケープの上に栴檀の板と鳩尾の板と草摺を付けた。
チグハグに見えますが、先ほどの破廉恥な姿よりも良いです。
雛菊から色々と話を聞けたので、今度雛菊に似合う服を買いに行こうと思います。
召喚時に消えてしまった、服の代わりになるかは分かりませんけれどね。
「撫子娘娘、先ほどよりも可愛さが増しましたね」
「そうですね」
私より大柄なメイドさんを見てみると、足が凄く長く見えた。
ケープは上にボリュームが有る分、足長効果は高いようです。
「娘娘は何を着ても、お似合いですね。私も、可愛らしくなったでしょうか?」
メイドさんの場合、可愛さと言うよりセクシーさが増した気がします。
ですが嬉しそうにしている姿は、可愛くて良いと思う。
「はい」
森の奥へ進むにつれ、深雪のように綿菓子が積もっていた。
そして綿菓子が、フワフワと降ってきた。
寒くはありませんが、不思議な光景です。
風に靡く綿菓子は、綿菓子を作る機械の中のように糸を引いていた。
初めは幻想的な光景でしたが、綿菓子が雪のように吹雪いてきた。
「撫子娘娘、綿菓子の吹雪が少し落ち着くまで木の陰に隠れませんか?」
「そうですね……雛菊も、良いかな?」
「うん」
子供の頃夢見た綿菓子は、フワフワした軽い物でしたが現実は違いました。
纏わり付く綿菓子が視界を奪い、身体に絡みついて身動きが取れなくなるのです。
私達は木と木の間に水の結界を張り、テントのようにして綿菓子の吹雪が収まるのを待つことにした。
※ ◇ ※
【朝熊SIDE】
後頭部と背中に、心地よい温もりと至高の柔らかさを感じる。
これは、花に膝枕をしてもらっている夢か?
先ほどは酷い仕打ちをされたが、気まぐれで起こすいつもの照れ隠しだろ?
何だかんだ言っても、花は俺の事を心配してくれているんだ。
頬に伝わる息と、柔らかい髪。
そして、俺の唇に感じる暖かさは花の……エッ? 何で、ザラッとしているんだ?
花、唇が荒れているのか?
俺は、初めてのキスなんだぞ。
花、ちゃんと唇くらいケアしろよ。
「ミャウミャウ、ミュウ?」
ミャウミャウ、ミュウ? って、猫の真似か?
でも花は、犬派だろ?
そうか、姫の真似をしているんだ。
「……エッ? ウッ、ウワァー!」
目をゆっくり開けると、イベリスが俺の口を舐めていた。
俺のファーストキスが、猫に奪われた……。
「あっ! 朝熊君が、起きた」
声がする方を見ると、花達が露天風呂の入口から顔を出していた。
花、ちょっと酷くないか?
俺はイベリスの尻尾じゃなくて、花の膝枕で目覚めたかった……。
溜め息をつくと、イベリスが肉球で俺の頭を優しく撫でてきた。
「ミュウ」
俺を、慰めてくれたのか?
姫のあやかしは、優しいな。
あれ? でも、姫は? 薺は、どこだ?
問題は、解決したのか?
でもその前に、介抱してくれていたイベリスにお礼を言わないとな。
「ありがと、イベリス」
イベリスにお礼を伝えていると、桂樹がやって来た。
桂樹が来ると、イベリスは露天風呂から出口へと向かった。
姫は、奥に居るのか。
「朝熊、助けに来たのに散々な目にあったね」
桂樹を見ると、俺同様トランクス一枚になっていた。
どうやら、桂樹が念の為にと準備していた物だけでは足りなかったようだ。
なぜ、俺の鞄まで持って行くんだと思っていたが……。
もし持っていかなかったら、トランクスも奪われていたかもしれない。
「桂樹、今回は計算外だったな」
「あははは、まーね」
桂樹にこれまでの事を聞くと、石楠花が居なくなった事で、姫が突然出来た結界内へ探しに向かった事が分かった。
薺は恐らく、ブルーローズの力を借り玄関側から結界内に侵入して、姫を助けに向かったと思われる。
騎士団が発動したのは、姫が入ってから少し経ってから。
なので、中で何か有った。
若しくは、俺達の助けが必要になったのかは不明らしい。
「朝熊、話し合った結果だけど決まったよ」
俺抜きで、話を進めたのか?
まあでも、俺が気絶していたので桂樹が気を利かせたのかもな。
「どうなったんだ?」
「姫の応援部隊は、君と花ちゃんだ。勿論、イベリスと姫立金花も同行する。理由は、簡単。二人のレベルが、一番高いからだ」
俺も話し合っていたら、同様の意見だっただろう。
流石桂樹、話し合いも早くて的確だ。
「それと来る時、全親衛隊から着信があった。僕は、親衛隊達に説明をしなくてはならない。恐らく周辺の親衛隊は既に、この温泉宿の前に集結しているはず」
そう言えば俺のスマホにも、沢山の着信が入っていた。
「だろうな。桂樹、悪いがそちらの事は任せる」
説明は、俺より桂樹の方が得意だしな。
「任せてよ。だから朝熊、詳しい事情は花ちゃんから聞いてくれるかい?」
詳しいって、主要な所は分かったのに何が有るんだ?
まあ、良いけれど。
「ああ、分かった」
ただ緊急事態だと分かるが、桂樹が姫の為に自ら行動せず、俺へ簡単に譲った事が気になった。
いや……俺の、考えすぎか。
露天風呂から桂樹と共に出て来ると、花が裸でイベリスと姫立金花を抱いていた。
大事なところは二匹で見えていないが、これは一体どういう状況だ?
それよりも、桂樹。
「お前は、見るな!」
振り返って桂樹を蹴り飛ばそうとすると、桂樹の背中を誰かが思いっきり叩いて目隠しした。
「ガハッ! 裸なのに、平手打ちは痛すぎるよ。欄音、僕は見ていないから止めてよ」
欄音か……相変わらず、桂樹の事になると激しい愛情表現だな。
「秘技! 下着奪取、ですわ」
そう思っていると、後ろからトランクスを百合愛ちゃんに奪われた。
「ちょっ……」
俺は股間を、素早く手で隠した。
と言うか花、これ説明しろよ。
俺には、意味が分からない。
……まさか桂樹、図ったな。
「朝熊君、行くよ!」
桂樹を蹴りに行こうとすると、有無を言わせず花に右手を引っ張られた。
「おい、花! 手を、引っ張るな!」
そしてそのまま、歪んだ空間の中に引きずり込まれた。
中に入ると、甘い香りが漂い異常な世界だと直ぐに分かった。
なぜなら、遠くに見えるダイニングテーブルが巨大なビルのように聳え立っていたからだ。
しかも、後ろに見えていた露天風呂の入口が白い壁になった。
何なんだ、ここは?
不思議な光景を見ていると、花が俺を見て驚いていた。
「あなた、朝熊君? だよね?」
あなたって、そんなの決まっているだろ。
「花、何を言って……」
何だ、この声?
俺の、声なのか?
えっ? 花との、目線の位置がおかしい。
しかも、何て華奢な手だ。
俺の、手なのか?
腕の筋肉は、どこへ行った?
胸? ……俺の、分厚い胸板が膨らんでいる?
「なっ、何じゃこりゃー!」
「キャハハハ! 朝熊君、女の子になっちゃったんだ」
ハッ! それよりも、能力はどうなった?
嘘だろ? 剣士が、女傑になっている。
何かあった時、姫や花を守れる盾特化にはなれるのか?
……どうやら、女傑になっても使える様だ。
なら、安心した。
盾を背に背負って安心していると、花が姫立金花を渡してきた。
「朝熊ちゃん、はい」
「ギュー」
姫立金花が小さな手を出して、俺を見上げていた。
確かに、可愛いけれど……
「何で、姫立金花?」
花は、何をしたいんだ?
「えっと、花の方が大きいから朝熊ちゃんは姫立金花ちゃんで胸を隠してね」
胸って? 俺が隠すなら、胸より股間だろ?
股間を手で隠そうとすると、無い事に気がついた。
……そう言えば、女になっていたんだ。
「だけど、花。せめて、ちゃん付けは止めてくれ」
「エー……可愛いのにぃ?」
いつもの様なやり取りを花としたが、ここは不思議な場所だ。
気を引き締めないと、何が起こるか分からない。
俺は頭を切り替え、花とイベリス達に指示を行うことにした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




