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【薺SIDE】
この世界は、僕らを拒む物ではないのか?
しかし、入ってきて欲しくもない意思も感じられる。
しかも、先ほどまでの鉱山を思わせるトンネル内と雰囲気が、がらりと変わった。
テーブルの上が、紅葉に彩る木々で辺り一面を覆っていたのだ。
まるで、秋の山にでも来たような錯覚にとらわれる。
そう言えば、先ほどは太陽が照りつけ、まるで夏を思わせる状況だった。
このリビングは、夏と秋を現しているのか?
楓の葉を手に取ってみると、紅茶のクッキーだと分かった。
木は、クッキーにチョコレートでコーティングされていた。
周りの木々を分析をしていると、ブルーローズが顎に手をやった。
「やはりこの奇々怪々な幻想の次元世界は、石楠花のミステリアス ワールド テリトリーかもしれん」
「石楠花の?」
「うむ。ただ、我の能力すらも低下させる世界を作り出すには、潜在能力を解放しなければ無理だ」
しかし石楠花は、まだ潜在能力の覚醒には至っていない筈だと言っていた。
ただ、意図的に解放する事は可能らしい。
石楠花は酒に滅法弱く、酔うと潜在能力が解放され制御不能となるが、いつもとは比べものにならない神通力を使用出来る様になるそうだ。
以前、洋酒入りのお菓子を食べて酔っ払い、ミステリアス ワールド テリトリーを発動。
天地を逆転し、人や動物などあらゆる物が空に向かって引き寄せられ、その地域を大混乱に陥れた。
その時は、先代の八天狗が来て神通力を使用し取り押さえ、先代の水神が清水を使用し、石楠花の酔いを覚まし清め、事を治めたらしい。
今の石楠花の状態は不明だが、もし酔っていたならば、契約者の姫に取り押さえてもらい、ブルーローズの清水を飲ませて清めるしか方法はないようだ。
因みに契約者である姫は、石楠花の神通力による直接攻撃は無効化されるようだ。
但しミステリアス ワールド テリトリーの条件によっては、姫にも不都合が生じる恐れが有る。
今の条件は不明だが、僕達が少女化している事を考えると、もし男女逆転という条件で有れば、姫は少年化していると言うことだ。
「ブルーローズ? もしこの不可思議な世界に、花ちゃん達が巻き込まれていたら?」
「……欲望の魔物が、現れているかもしれん」
「それは、不味い! 【騎士団!】」
僕は、慌てて騎士団を発動した。
※ ◇ ※
【朝熊SIDE】
一方朝熊達は、露天風呂で寛いでいた。
しかし、急に騎士団の能力が発動した事で湯船から立ち上がった。
「これは、騎士団の能力」
まさか、こんな所で?
嘘だろ?
姫は?
花達は?
「おい、桂樹!」
「温泉に、浸かっている場合ではないようだね」
騎士団の能力が発動したという事は、薺は既に向かったはず。
クソッ! 出遅れた。
「別邸に、向かうぞ」
「朝熊、こんな事も有ろうかと既に準備は整っている」
「流石、桂樹」
俺達は服を着て能力を使用し、一気に別邸までやって来た。
そして、結界が張られている事に気がついた。
「これは、水の結界か?」
「ブルーローズ様の、結界だね」
この結界、何とかならないか?
「でも、僕達は通る事ができるよ」
「本当か? 助かった」
「朝熊? ブルーローズ様の、仰っていた事聞いていなかったのかい?」
「えっ?」
ブルーローズ兄貴は情報を共有している俺達だけに、水の結界の入り方を教えてくれていたようだ。
朝熊が手を翳して合い言葉を言うと、結界の門が開かれた。
流石、ブルーローズ兄貴。
石楠花嬢とは、違うな。
「花ちゃんと、いちゃついている時に言っていたよ」
桂樹に、痛いところを指摘された。
……花を撫でて触れ合っている、あの時か。
だが、桂樹がいて助かった。
「……とっ、取り敢えず、中に入るぞ」
桂樹と共に中へ入ると、玄関に別の結界が張られていることに気がついた。
これは、ブルーローズ兄貴の水の結界では無い。
玄関だと思われる扉が、歪んで見える。
まるで、別の次元世界のように……。
無理矢理入ろうと、木刀で切りつけたが、一切傷が入らない。
何て、強固な結界なんだ。
そして何度も木刀で切りつけていると、桂樹が裏からやって来た。
「朝熊、結界の隙間を見つけたよ。だけど……」
「分かった!」
「朝熊、ちょっと待って!」
桂樹に待てと言われたが、俺は姫と花の事が心配でならない。
一刻も早く、姫と花の元へ行かなくては……。
能力を使用し一気に塀を駆け上ると、楽園が見えた。
「「「「キャー!」」」」
「エッチな朝熊君を、ぶっ飛ばせ!」
楽園が見えたのも束の間、花達の悲鳴と花の無慈悲な声が聞こえて来た。
「ちょっと、待て!」
そして助けを求める様に花を見たが、矢が一斉に放たれ全身の衝撃と共に、俺は意識を失った。
※ ◇ ※
【花SIDE】
一方花達は、下着を着るか、湯冷めしないよう温泉で待つか話し合っている所だった。
そんな時、騎士の能力が急に発動した。
「皆、薺君が気づいてくれたみたいだよ」
連絡していないのに、薺君気づいてくれたんだ。
皆に伝えると、助かったと喜んでいた。
騎士の能力が有れば、花達も撫子ちゃんを助ける事が出来る。
それに薺君が来れば、頼りになる朝熊君と桂樹君も来てくれる。
桂樹君がいれば、ここが露天風呂だと気づいてくれるので安心も出来る。
朝熊君は花と同じで、気づく前に突っ走る事が有るから心配だけどね。
「花ちゃん、美桜達はどうしたら良いの?」
「先ずは、薺君達と合流するよ」
「えっ? では、薺君をぶっ飛ばすのですか? 椿来は、出来ませんよ?」
「あはは。そんなの、冗談だよ」
冗談だったのに、美桜ちゃんと椿来ちゃんは本気にしてたんだ。
助けに来てくれた人に、花だってそんな酷いことするわけが無いよ。
「それに、桂樹君がいるんだよ。ここが温泉だと分かると、対策してくれる筈だからね」
「「確かに」」
美桜ちゃんと椿来ちゃんが、納得してくれた。
「百合愛は、別に気にしませんよ?」
普段から新作の下着と言って、男子の目の前で下着を見せる百合愛ちゃんは、例外だけどね。
「欄音も、桂樹君なら」
欄音ちゃん、自信の気持ちに気づいていないのかな?
朝熊君の事が気になると言っていても、眼でいつも桂樹君を追っているよね。
花、女官近衛騎士長の能力で色々皆の事を見ているんだよ?
美桜ちゃんと椿来ちゃんは、本当は別の子が好きだよね?
百合愛ちゃんは、女の子も見ているから分からないけど……。
「「はい、はい。そこの二人は、聞いていないです」」
美桜ちゃんと椿来ちゃんが、二人に愚痴を言った。
湯船を出て身体を拭き、下着を着てイベリスちゃんを乾かしていると、イベリスちゃんが匂いを嗅ぎ出した。
因みに姫立金花ちゃんは、欄音ちゃんが乾かしてくれている。
「イベリスちゃん、どうしたの?」
「ミュウ、ミャウミャウ」
何かを伝えようとしてくれているけれど、撫子ちゃんと違って私では言葉が分からない。
「ギュー、ギューギュー」
「えっと、欄音は分からないよ? 花ちゃん?」
姫立金花ちゃんも、欄音ちゃんに何かを伝えようと腕の中で「ギューギュー」と言って話しているけれど意味が分からないみたい。
二人で首を傾げ、二匹の様子を見ていると、壁を駆け上る足音が聞こえた。
そして次の瞬間、朝熊君が見えた。
周りには、皆の下着姿。
そして、それを見る朝熊君のエッチな顔。
花だけなら許せるけれど、他の皆は駄目!
「「「「キャー!」」」」
皆の悲鳴が聞こえると、朝熊君が私を見た。
ごめんね、朝熊君。
スキルを使って優しく気絶させ、皆の下着姿を花達が消してあげるね。
「エッチな朝熊君を、ぶっ飛ばせ!」
私の号令と共に矢が放たれ、朝熊君は気絶して露天風呂に落ち、空から男物の服が降ってきた。
「一足、遅かったか……」
そして、壁の向こうから桂樹君の声が聞こえてきた。
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