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 小鳥の囀りとカーテンから漏れる心地よい光りで目を覚ますと、メッセージカードの内容が消え、代わりに検診表と書かれて有った。

 そして、その横には向日葵のスタンプが押された健康診断表が有りました。

 確かに今日は健康診断が有る日なのですが、どういう意味なのでしょうか? 



「撫子ん、サイズ知りたいと?」



 今までの趣向とは明らかに違っていたので、思わず呟いていまいました。

 お使い様のお告げだとはいえ、少し恥ずかしいです。

 ですが、お兄ちゃんの為なら私は頑張れます。

 そう思い、鏡の前に立ちました。


 気合を入れても、急には変わりません。

 そこには、いつもの自分がいるだけでした。

 お風呂に入り支度をしてスマホを見ると、ママからの着信が何件か入っていました。



(撫子ちゃん、おはよ)既読。

(今日は、戦いの日ね)既読。


 戦いって、私の知らない何か有るのでしょうか? 

 スポーツテストや試験は、もう少し先です。


(起きたら、白湯を飲んでね)既読。


 朝起きて歯と下を磨いたら、飲みました。

 これは、ママのいつもの習慣ですね。

 私も見習って、飲むようにしています。

 白湯を朝に飲むと、内臓を直接温めて食事の消化吸収が良くなり、ダイエット効果も有るそうです。


(朝の食事は、軽めにね)既読。

(軽い運動をすると、良いわよ)既読。


 毎朝、自宅まで走っています。

 だって、遅いとママの着信が鳴り止まなくなりますからね。


(運動後、自宅でお風呂に入ると良いわ)既読。


 汗をかきすぎた時は、入ります。


(お風呂の後、念入りにお肌を整えてね)既読。


 もう、整えました。


(パパに、リラックス効果の有る花を生けて貰ったわ)既読。


 ママ、今日はどうしたんだろう? 

 お父様まで、巻き込むなんて。


(下着は、ママが用意した物を着てね)既読。


 また新しい下着を、購入したのかな? 


(絶対に、今日は私の車で行くわよ)既読。


 ……それは、お断りさせて頂きます。

 ママ? 以前、理由を言いましたよね? 


(でしたら、今日は自宅に寄らない事にします)送信。

(シクシクシク……なら、車で行かなくても良いわ)既読。


 ママが直ぐに折れてくれて、助かりました。


(でしたら、直ぐに向かいますね)送信。

(撫子ちゃんの成長記録が、楽しみね)既読。



 健康診断の事を伝えていないのに、いつの間に知ったのですか? 

 ママもママですが、お使い様も私の健康診断の何が知りたいのでしょうか? 

 お使い様のお告げを不思議に思いつつ、支度を済ませた私は自宅に向かうことにした。



        ※ ◇ ※



 自宅の玄関を開けると、ママと三人のメイドさん達が待ち受けていた。



「「「撫子お嬢様、おかえりなさいませ」」」



 お出迎えしてくれたお手伝いさん? の人数が、今日はなぜか多いです。

 しかも、なぜか三人とも清楚なメイド服を着ています。

 よく見ると、三人のメイドさん達はママの後輩のお姉様達でした。


 メイド服を着た経緯は知りませんが、もしかするとママに無理矢理着せられたのかもしれません。

 久しぶりに自宅へ来て頂いたのに、後輩のお姉様達が不憫でなりません。

 ですが、挨拶に礼を込めたいと思います。

 私は、まず初めにママへ礼をします。



「お母様、ただいま帰りました」



 そして、メイド服を着たママの後輩のお姉様達には深く礼をしました。

 ママの趣向に付き合って頂き、感謝致しますの意味を込めて……。

 ですが、ママは相変わらずいつもの調子です。



「撫子ちゃん、おかえり」



 挨拶を済ませ靴を脱いで揃えていると、ママに抱きつかれた。

 後輩の方々の前なので、少し控えて欲しいです。



「うん、撫子ちゃん。問題、無しよ」



 ママ? 何が、問題無しなのでしょうか? 

 それに、後輩のお姉様達の前で色々な所を触ってこられても困ります。

 恥ずかしい思いをしていると、後輩のお姉様達はその様子を見ていました。



「「「花楓院先輩、流石です。私達も、見習います」」」



 お姉様達は、見習わなくても良いです。

 恥ずかしさに頬を染めていると、ママに手を引かれ大きな鏡が有る部屋へ連れて行かれた。

 後でお姉様達から、ママの抱きつき行動の意味を教えて頂きました。


 ママは抱きつく事で、その人のサイズを全て把握できるそうです。

 だから、私の下着のサイズがいつもピッタリなんですね。

 大きな鏡が置いてある部屋に行くと、ママが向日葵の袋を持ってきた。


 もしかして、向日葵のお使い様の袋かな? 

 袋の中身を確認しようとすると、メイド服を着たお姉様達が私の制服を手早く脱がした。

 モデルのお姉様達なので、手慣れているようです。

 ママはその間、少し離れた位置からその様子を眺めています。


 お姉様達の行動と、私の姿を見ているようです。

 お仕事モードのママの顔は、凜としています。

 なので、こういう時は私も恥ずかしくありません。

 気がつくと、お姉様達に下着を替えられていました。



「うん、私の見立て通りね」



 ママのチェックが済んだようで、制服もお姉様達が着させてくれました。

 先ほど鏡に映った私の下着に、小さな向日葵の柄がワンポイント付いていたので、ママに確認すると、やっぱり向日葵のお使い様から頂いた下着のようです。



「貴女達も、人に下着や服を着させる事で学べる事が有ったでしょ?」

「「「はい」」」



 この後、ママがお姉様達に講義するようなので、私は食事をして学校へ行くことにしました。

 お使い様から頂いた下着は、健康診断の時にでも確認しようと思います。

 学校に向かっていると、花ちゃんを見つけました。


 花ちゃんは、本を読みながら歩いています。

 ながら歩きは危険なのですが、花ちゃんは信号でちゃんと止まり、前から来る自転車も器用に避けています。

 周りが、見えているのでしょうか? 


 それとも、音を聞き分ける聴力が優れているのでしょうか? 

 私は走らず、少し歩幅を大きくして花ちゃんに近づく事にしました。

 走ると、足音で気づいてしまうと思ったからです。


 そしてそっと後ろから近づき声をかけようとすると、私が声をかけるより先に花ちゃんがこちらを振り向きました。

 私は驚きのあまり、声を上げそうになり両手を口に持っていきました。



「撫子ちゃん、おはよ?」



 すると、花ちゃんが不思議そうにその手を見つめていました。

 私はその手を、そっと後ろに隠して笑顔で誤魔化す事にしました。



「おはようございます」



 笑顔で挨拶をすると、花ちゃんは本を鞄にしまい私を見上げました。

 花ちゃんの方が、私よりも背が低いのです。



「今日は、健康診断だよね……はぁー」



 小さな溜め息をつく花ちゃんに、何か悩み事が有るのでしょうか? 

 私が力になれる事でしたら、お手伝いしたいです。

 だって、お使い様との切っ掛けになった本を教えてくれたのは花ちゃんですからね。

 お使い様のお告げの意味はよく理解出来ませんが、きっとお兄ちゃんに繋がる何かだと思います。

 お兄ちゃんに早く会いたい私は、どんな困難なお告げでも従うつもりですし。



「花ね、心配なの」

「何が、心配なのですか?」

「花ね、大きくなれるか心配なの」



 見下ろす事が出来る花ちゃんは、恐らく私よりも10cm以上背が低いと思います。

 ですが、私達は成長期真っ只中です。

 きっと、今より背は伸びる筈。



「安心して下さい、私達は成長期です。きっと花ちゃんは、今よりも大きくなれる筈ですよ」

「そっかー……撫子ちゃん、ありがと。花、牛乳を毎日飲んで頑張るね」

「はい」



 花ちゃんの視線が、顔ではないような気がしますが些細な事です。

 それに学校までもう直ぐですし、短期間では成長しないので次に期待するしかありません。

 私達が学校の正門に着くと、親衛隊を自称している男の子達が待ち構えていました。

 今日は車で来ていないのに、なぜ私が来る時間が分かったのでしょうか? 



「姫、ここからは危険です。僕達が守りますので、教室までどうぞ」



 私は、花ちゃんと顔を見合わせました。

 そして、校舎前を見て気がつきました。

 確かに、親衛隊を自称している男の子達の話は分かります。


 なぜなら、別のクラスにいる大手下着メーカーの社長令嬢と、その下着を出店している百貨店の娘達が、下着を持って私達を待ち構えていたからです。

 なぜ私を待ち構えていると分かったのかと言うと、私が表紙に載ったティーン雑誌を持った女の子達が一緒に居て、雑誌の表紙を指さしていたからです。

 私は花ちゃんと、正門の入口で隠れました。



「撫子ちゃん、もしかして花も穿かないといけないのかな? あの人達、同じ色の下着を二つずつ持っているよ?」



 最近、話している事が多いからと言って花ちゃんを巻き込まないでほしいです。

 それに、花ちゃん? 

 晒し者にされている下着なんて、穿く必要はありません。

 下着なら、せめて見えない袋に入れてほしいです。


 貴女達が見慣れているからといって、少しデリカシーがなさ過ぎです。

 隣のクラスなのですから、教室で声をかけて頂けば済むことですのに……。

 ですが、今日はお使い様から頂いた下着なので、変える気は有りませんけれどね。


 親衛隊を自称している男の子達は、その下着に顔を背けてくれてはいますが、もうあの店では下着を買えなくなりました。

 それに、健康診断だからと言って下着姿のまま全ての項目をするわけではありません。


 下着姿になるのは、内科検診で聴診器をあてる時と、身体測定の胸囲測定と体重測定ぐらいです。

 体重測定は、少しでも脱いで重さを減らしたいと考えている人達の視線が突き刺さる様に痛いので、仕方なくなのですけれどね。


 後は、胸部レントゲンと心電図検査の時ぐらいです。

 心電図は4年生の時にしたので、今回はしないと先生が言っていました。

 なので、上を全て脱ぐ必要もないのです。



「撫子ちゃん? 少し、顔が怖いよ?」



 私は考えている内に、少し怒っていたようです。

 それに、私が居ない所で花ちゃんに迷惑がかかっていたかもしれません。



「いつもごめんね。ご迷惑を、お掛けします」

「花は、気にしないよ? それに、あの高そうな下着どうするの? 撫子ちゃん、穿くの? 穿くなら、花も付き合うよ?」

「穿きません。ですが、今日は親衛隊の皆様のお言葉に甘えて教室に向かいませんか?」

「良いよ」



 私達がそう言うと、親衛隊を自称している男の子達は、周りを守護するように配置につきました。

 そして二人の男の子が手を前に向けると、両側に男の子達の壁が出来ました。

 私達が男の子達に守られ校舎に入ろうとすると、下着を持った女の子達が下着を掲げて走って来ました。

 男の子達の壁で中に入れないので、女の子達の姿は見えず掲げた下着だけが見えています。



「撫子ちゃん、これ発表前の新作なの。春の新作も、あるよ」



 なぜ、発表前の新作下着を見せるのですか? 

 お父様に、叱られますよ? 

 もしかして、私の名前を伝え宣伝しているつもりでしょうか? 

 ですが、私が着て売れている物は洋服だけですよ? 



「撫子ちゃんの好きな、清楚系もあるわ。それに、可愛い系や大人っぽいのも。お気に入りも、持ってきているわ。お友達の分も有るので、良かったら健康診断の時に穿いて下さい」



 いい加減に、してほしいです。

 周りは、女の子だけでなく男の子達の目もあるのですよ? 

 ですが、なぜか宣伝効果が有るようで「買おうかな?」と言っている女の子達が沢山いました。

 もしかするとあの子達は、大人に良いように利用されているのかもしれません。

 ですが、騒ぎを聞きつけた先生方がソロソロ来そうな雰囲気です。



「ごめんなさい。今度、見に行きますので失礼しますね」



 私は、大手下着メーカーの社長令嬢と百貨店の娘達にお断りを入れました。

 そうしないと、女の子達が集まってきたからです。

 下着に興味がある年齢なので仕方がないですが、流石に集まりすぎです。



「撫子ちゃんのお気に入り、花も買おうかな?」



 花ちゃんまで……。



「花ちゃん、行きましょ。親衛隊の皆様、お手数をお掛け致します」

「「「「「「姫、参りましょう」」」」」」



 私達は、親衛隊を自称する男の子達に守られ教室に向かうことにした。

 ただ先生が、引きつった笑顔で私を見ていたので、私が事情を話さなければならないと思います。

 私が悪いわけではないので、学校の行事の度に呼び出しを受けるのは、正直許してほしいです。


 健康診断が始まり、身長、体重、胸囲、体格指数(BMI)、視力測定、色盲検査、聴力測定、血圧測定等と進めていく中、不思議な事が有りました。

 視力検査で順番待ちをしていると、後ろの方なのに最前列で検査を受けていた方の、先生が指し示すランドルト環(Cマーク)が見えた。


 不思議に思いつつ目を擦って、目を凝らすようにしてもう一度見てみると、今度は視力検査表のランドルト環(Cマーク)が全て分かったのです。

 驚いて目を反らし下を見ると、下着の向日葵のマークが薄く青白い光りを発していました。


 思わず胸元を隠しましたが、誰もその光りは見えていないようです。

 他にも、分かった事が有ります。

 耳を澄ますと、周りの音が聞こえるようになました。

 どうやら、集中した場所の身体能力が上がるようです。


 この下着は、向日葵のお使い様から頂いた物です。

 なので、何か有るかもしれないとは思っていましたが、集中する事で身体能力が向上する特別な下着だとは思いもしませんでした。

 ですが、向日葵のお使い様は一体私に何を求めているのでしょうか? 

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

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