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メイドスケルトンは女性の集合体なので、高く飛べるか分かりませんが、いつものヘイズスターバースト達であれば、重い武王剣を持った状態でもこれ位の高さは余裕でとどく。
私は応援することしか出来ませんが、メイドスケルトンにダイニングテーブルの天板まで、ジャンプしてもらうことにした。
「私共は給仕能力と人へ擬態する能力は高いのですが、撫子娘娘の為に力を尽くしてジャンプします」
給仕は分かりますが、人へ擬態する能力?
今でもメイドスケルトンですので人なのですが、一体どういう意味でしょうか?
ですが、今は応援するしか有りません。
「メイドさん、頑張って下さい」
「撫子娘娘、応援感謝致します」
私がエールを送ると、メイドスケルトンが礼をした。
そしてジャンプをする為に走り出すと、私は必死に左手で胸を隠し、右手で鳩尾の板にしがみ付いた。
しかし、メイドスケルトンはギリギリの所で天板には届かなかった。
何度も挑戦してくれましたが、身体能力が高い武王とは違うようです。
「撫子娘娘、申し訳ありません。私共の身体能力では、届きませんでした。ですが、一つだけ方法が有ります。能力を使用して暫くすると、私共の代表だけとなりますが宜しいですか?」
方法が有るのでしたら、是非お願いしたい。
そうでなくては、恥ずかしい思いをして必死にしがみ付いた意味が無いからです。
「お願いします」
私がお願いをすると、メイドスケルトンの集合体がバラバラとなり、一体一体がチアリーディングで言うピラミッドの形に組んでいった。
確かにこれなら、集合体となった時よりも高くなる。
ピラミッドの高さが最大値となると、その頂上にいるメイドスケルトンが、勢いよく持ち上げられた。
そしてその勢いのままジャンプすると、トータッチジャンプをして見せた。
「撫子娘娘、この技でしたら確実に手か足が届きます」
「……えっ?」
私が、それをするの?
「無理です!」
「いえ、娘娘の身体能力でしたら可能な筈です」
違います。
技が出来ても、この姿では無理と言っているのです。
せめて、フロントハードルジャンプにして下さい。
「撫子娘娘、申し訳ありません。この姿では、やはり……」
メイドスケルトンさん、分かってくれましたか。
隠す物が有っても、その技をすると隠せませんからね。
「承知、致しました。私、一人だけでしたら擬態可能です。ですので、もう一度お見せ致しますね」
私、一人?
擬態?
メイドスケルトンさん、どういう意味ですか?
意味が分からなくて混乱していると、骨だけだったメイドスケルトンの身体が、二十歳前後の肉体へと変化した。
「では、参ります。撫子娘娘、見ていて下さい」
「メイドさん、待って! 止まって! ストップ! ダメ!」
私は止める言葉を連呼しながら、メイドスケルトンのピラミッドを駆け上がった。
「えっ? 撫子娘娘、肉体が有る方が分かりやすいのでは?」
「違います! 私が見本を見せるので、メイドさんもお願いします」
私はそう言ってピラミッドの頂上に立ち、タックジャンプをして見せた後、抱え込み宙返りをしてダイニングテーブルに降り立った。
「撫子娘娘、お見事です」
そう言ってメイドさんは、ユニバーサルジャンプをしてダイニングテーブルに降り立った。
「……」
なぜ、足を開けるの?
恥ずかしがる素振りも見せずに、私に見せたいのですか?
メイドさんの様子を見ていると、自信でも分かっていない様子でした。
「娘娘、なぜでしょう? 足を、閉じられませんでした」
もしかすると肉体を得たために、生前の記憶として、チアリーディングのような技の癖が出てきてしまったのかも知れません。
なぜなら、形がチアリーディングのジャンプとは少し違っていたからです。
女性同士なのでもう注意しませんが、出来れば控えて欲しいです。
「ですが、久しぶりの肉体。撫子娘娘、暫くこのままでも良いですか?」
メイドさんは頬に手を当て、嬉しそうに微笑んだ。
「はい、良いですよ」
メイドさんに返事をしていると、下に居た他のメイドスケルトン達が、私の腕輪へと吸収されていった。
どうやら一人の肉体を構成するのに、ほぼMPを使い切ってしまったようで、肉体を得た一体のメイドスケルトンに、私の事を託したようです。
ダイニングテーブルを見渡すと、辺り一面が銀世界のような景色になっていた。
足下の雪は綿飴とマシュマロで出来ており、周りの木は抹茶チョコとクッキーで出来ていた。
そしてお菓子の森の奥にまで、似付かわしくないビニールの残骸が沢山落ちていた。
このビニールの残骸もお菓子ですが、この景色とマッチしません。
「お土産の袋?」
この残骸の袋には、特徴的なロゴが有るので、恐らくパウダールームに有ったお土産の袋だと思う。
メイドさんに尋ねると、袋に残っていたケーキの薫りを嗅ぎ出した。
袋自体もお菓子となっているのに、薫りで分かるのでしょうか?
周りのお菓子の薫りで、私では区別がつきません。
「クンクン、クンクン。……ああー、良い薫りが致します。これは、オレンジピールにオレンジリキュールの薫りですね。ですので、娘娘の仰る通り間違いないかと存じます」
肉体を得たことで、メイドさんの嗅覚が鋭くなっているようです。
私達はお土産の袋が転々と落ちている、お菓子の森の奥へ進むことにした。
※ ◇ ※
【薺SIDE】
ブルーローズが激流を放ってくれたお陰で助かったが、ブルーローズの水の衣が消えてしまった。
どうやら、水の衣を消費して激流を放ったようだ。
「ブルーローズ、大丈夫ですか?」
「うむ。だが、ちと消耗しすぎた。薺、ミネラルウォーターを貰えるか?」
「はい」
ブルーローズにミネラルウォーターを渡すと、一気に一本飲み干した。
すると、4しかなかったMPが84まで全快した。
更にミネラルウォーターを二本渡した事で、水の衣を再度作り出すことが出来た。
ミネラルウォーターの残りは、十八本。
これだけ有れば、何か有っても六回は耐えることが出来る。
箱買いをして、正解だった。
姫に、お礼しないといけないな。
でもその前に、元凶を倒してこの世界を脱出しないと。
「キュウーーン!」
皆で上り階段を探していると、インカルナタが何かを見つけたようで大きく鳴いた。
声がした方へ行くと、細い隙間の奥にインカルナタがいた。
どうやらこの奥に、上り階段が有るようだ。
「インカルナタ、でかした。薺、行くぞ」
「えっ?」
この隙間を、行くのか?
ブルーローズは行けるだろうけど、僕は無理だ。
胸とお尻が、入らない。
ブルーローズが横になって、僕の腕を引いてきた。
「待って下さ……うっ」
身体を横にしてみたが、やはり胸と尻が引っかかってしまった。
「薺、なぜ止まる? んっ? ……済まぬ、引っかかっておったか」
壁が柔らかいケーキなら、無理矢理にでも移動する事は可能だ。
しかしこの壁は、クッキーで出来ている。
しかも、かなり硬い。
ただ、脇差しで削れば進む事は可能だろう。
但しクッキーなので、こんな場所を削りながら進むと、先ほどの様に崩壊する可能性が高い。
「ブルーローズ、僕は別の道を探します。インカルナタと、先に進んで下さい」
そういってお願いしていると、インカルナタが足下から顔を出した。
「キュウーーン、キュウーーン、キュウーーン」
そして、ブルーローズと話しだした。
「何? それは、まことか?」
インカルナタの話を聞いたブルーローズが、急に腹這いになった。
そして細い隙間を少し進むと、反対を向いて戻って来た。
「薺、喜べ。這っていくと、少し先が開けておる」
詳しく話を聞くと、約3m進んだ足下から先が広くなっているそうだ。
3mであれば、恐らく掘り進めても問題はないだろう。
脇差しを使って通れる大きさにして進むと、3m辺りからギリギリ僕が通れる大きさになっていた。
そこから腹這いになって進むと、階段までたどり着いた。
そして階段を上りきると、目の前に巨大なティーカップが有った。
ティーカップを避けて進むと、一面が白い水溜まりのようになっており、バニラビーンズの甘い香りがした。
バニラアイスの様な薫りだが、ドロドロした水溜まりになっていた。
「これは、何の水溜まりでしょうか?」
すると、インカルナタが舐めた。
「キュウーーン」
「甘くて、冷たいだと? ふむ……成る程の。恐らくこの形は、巨大な徳用バニラアイスだ」
ブルーローズがそう言って、太陽を見上げた。
そうか。
先ほどの様に、窓から差し込む日差しで溶けたのか。
前をよく見ると、溶けたバニラアイスの先に階段が有った。
溶けていなければ渡れたのに、一難去ってはまた一難。
そしてあの階段の行き先は、肘掛けまで通じているようだ。
「キュウーーン、キュウーーン、キュウーーン」
僕達が先に有る階段を見つめていると、インカルナタが後ろで鳴いた。
姫に早く会いたいのか、今日のインカルナタはよく動く。
そのお陰で色々と助かっているのだが、今回はなぜか嫌な予感がする。
「何だ、インカルナタ? んっ? ティーカップ?」
インカルナタの言葉は分からないが、ブルーローズとのやり取りを聞いて分かってきた。
まさか……ここに有る物は、全てお菓子で出来ている。
つまり、このティーカップも例外なくお菓子だ。
「おおー! 薺よ、このティーカップを船として階段まで行くぞ!」
やはり、そうなりましたか。
「……はい」
ブルーローズの、名案とでも言いたげそうな顔が「はい」としか僕に選択肢を与えてくれそうに無かった。
ティーカップを押してアイスの上に浮かべると、早速下が溶け始めた。
「不味い。薺、早く乗るのだ」
ブルーローズが手間取っていたので、インカルナタと一緒に抱き上げ、ティーカップに飛び乗ると「ミシッ」っと嫌な音がした。
「不味いぞ! インカルナタ、急いで追い風を起こせ! 薺、足下を押さえるのだ!」
「キュウーーン!」
「はい!」
インカルナタの風でティーカップは進み始めたが、ティーカップは丸いので、どうしても回ってしまい真っ直ぐ進まない。
なので、沈むのが早いか穴が開くのが早いかのどちらかで有る。
「薺、回転が止まらんぞ! インカルナタ、目を回すな!」
「ブルーローズ、真っ直ぐ向かう為に重心を前にして下さい!」
「何を、言っておる! 穴が、塞げぬではないか!」
「キュウーーン!」
「インカルナタ、我に飲めと申すか? こんなに、甘ったるい物は飲めん! 断固、拒否する!」
皆が混乱する中で必死に穴を押さえたが、くるくる回るティーカップがどんどん沈んでいく。
そして階段前に着いた時には、皆アイスでズブ濡れになっていた。
ブルーローズの水で洗い流したが、ミネラルウォーターの残りは十五本となった。
このペースで使い続けると、何かあった時の対処が心配になってきた。
僕達は改めて気を引き締め、肘掛けに有る階段を上ることにした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




