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残り一つの魔法陣が有る南に向かっていると、花のHPが急に減った事に撫子は動揺していた。
「イヤァァァー! 花ちゃんが、花ちゃんが」
「撫子、落ち着け」
ブルーローズが空で動きを停止させ、水で私を取り囲んだ。
「ブルーローズ、私を近くに降ろして下さい。お願いします」
「むう、これ撫子落ち着くのじゃ」
そして、今度は石楠花が私に抱きついて来た。
「石楠花、離して下さい。外套の能力を使用して、拠点に直ぐ飛びます」
「ギュウ」
「クウゥーーン」
あやかしの皆が落ち着くように言ってきますが、私はパニックを起こしていた。
大親友の危機的な状況に、居ても立ってもいられなくなったのだ。
私が花ちゃんの元に行けば、HPが風前の灯火だとしても元に戻せる。
頭に有るのは、それしかなかった。
すると、ブルーローズに頭から水を浴びせられた。
「撫子、我の目をよく見よ! 【ウォーター ティアラ!】」
ブルーローズの優しげな瞳を見つめると、私は少しずつ心が落ち着いていった。
先ほどの水は、心を落ち着かせる効果が有る清水だったそうです。
そして私の頭に付いた水のティアラは、心を常に平常心にさせる効果と水の加護が有るそうです。
水の加護は、魔法防御力を向上させ、炎を無効化し、水や氷の攻撃を吸収してMPに還元する能力が有るそうです。
「撫子、レベルを見よ!」
先ほど73に上がった事から、ヘイズスターバースト達が強力なオーガを倒したと言うのです。
しかも、私が拠点に戻ったとしても間に合わない。
拠点に戻ったとして、花の所へどうやって移動するつもりだと言われました。
「そして心の声に耳を傾け、ヘイズスターバースト達に任せよ」
水のティアラのお陰で落ち着いてきた私は、ブルーローズに言われ心の声を聞いた。
すると、「撫子姫、我らが花の元へ今向かっている。薺も、直に着くはずだ。心を、落ち着かせるのだ」とヘイズスターバースト達の声が聞こえた。
そして「ミャウミャウ、ミュウ」と、イベリスの声も聞こえてきた。
レベルが72になったことで、離れていてもあやかし達と心で話す事が出来るようになったのを忘れていました。
そして花ちゃん達と一緒に居るイベリスが「花ちゃんは、助かったよ」と言っていたのです。
「ブルーローズの、言うとおりじゃ。それに、撫子よく見よ。朝熊とやらが、介入したのであろう。花のHPが、安全区域に戻っておる。つまりじゃ、撫子のように花にも守ってくれる者がおるのじゃ」
石楠花に言われてHPを見ると、花ちゃんのHPが7から207に戻っている事に気がついた。
これは、HPを分け与える盾特化型スキル。
朝熊君が、花ちゃんを守ってくれたようです。
「ですが、石楠花。花ちゃんは、私の一番大切な親友なの」
花ちゃんの側に、行ってあげたい。
「うむぅ……」
「石楠花よ、撫子を任せて良いか? 我だけなら、瞬時に花の元へ行ける」
すると、ブルーローズが私に提案してきた。
契りを交わした、我に任せろと。
MPを300使用し空気中の水の中を伝って移動すれば、ブルーローズだけ瞬間移動できるというのです。
しかも、海や大量の水が有る場所ではMPも必要ないそうです。
「なんじゃ、ブルーローズ? お主は、撫子に甘いのぉ」
「フッ、石楠花よ。我のことを、言えるのか? 我が申し出さねば、其方が密かに行こうとしていたであろう」
「……水神は、いらぬ事を申すな」
石楠花が、照れくさそうにそっぽを向いた。
石楠花も羽団扇と神通力を併用しMPを100使用する事で、自身だけなら暴風の力を利用し瞬時に移動出来るそうです。
「石楠花、姫立金花、インカルナタ、撫子を頼む」
ブルーローズがそう言うと、石楠花が神通力を使用して私を宙に浮かせた。
「撫子、どうじゃ? 神通力で、空を飛ぶのは?」
「ブルーローズに乗っているのと違って、不思議な感覚です」
「カッカッカ! 慣れると、良いものじゃぞ」
「そうですね」
そしてブルーローズが私達に笑みを向けると、蒸気のように消えた。
花ちゃんの元へ、向かってくれたようです。
水のティアラで平常心を取り戻せた私は、再び南の魔法陣へ石楠花の神通力を使用し、向かう事にしました。
一刻も早く南の魔法陣を破壊し、花ちゃん達と合流したかったからです。
南の魔法陣の上空にやって来ると、禍々しいオーラを纏うオークが居た。
「むっ! あのオーク、同胞を吸収しておる。何て魔力と覇気を、持っておるのじゃ」
石楠花に言われてそのオークを見ると、魔法陣から普通のオークが現れる度に、吸収し取り込んでいた。
「オークオーバーロードなど、わしは初めて見たぞ」
オークオーバーロード……意味は、オークの魔王でしょうか?
確かに、今まで倒してきたどの魔物よりも禍々しいオーラが立ち上るように覆っていた。
「撫子、心せよ」
石楠花に言われて懐剣を和弓にすると、オークオーバーロードが巨大な火炎弾を放ってきた。
※ ◇ ※
【朝熊SIDE】
このオーガ、角が四本有るな。
花達との戦いから、何度か透明な壁が見えた。
まるでその壁は、俺が持つ大盾のようだ。
他のオーガと区別するため、このオーガはシールドホーンオーガとしよう。
「来い、シールドホーンオーガ! 【アロウズ ハスティラティ!】」
シールドホーンオーガを所定の場所へ引いていると、通常のオーガが二十体現れた。
不味いな。
これは、まだ現れる確率が高い。
「スケルトンナイト、通常オーガを警戒! 花達が対処しきれない場合に備え、四体を警護に回せ」
「ガシャ、ガシャ!」
四体のスケルトンナイトが警護につくと、通常オーガが増えてきた。
このシールドホーンオーガは、俺と同じで防御に特化している。
しかもスケルトンナイト達のレベル差でも補えないほどの、高い物理攻撃耐性。
元々攻撃力が高いオーガが物理攻撃耐性を持つと、レベルが低かろうが強力なオーガとなるようだ。
つまり、花のように弱点を確実に狙える能力がなければダメージを受けにくいのだ。
このオーガに加え、通常オーガまで現れるとは俺達の人数を考えると流石に手に余る。
花の攻撃に頼れない今、俺が出来るのは花の友達のサポートと、スケルトンナイト達と協力する事。
しかも定期的に敵対心を煽るスキルを、シールドホーンオーガに使用しなければ、花達の方を向いてしまう。
「シールドホーンオーガ、こっちを向け! 【アロウズ ハスティラティ!】」
イベリスのHP自然回復力とHP自然回復速度向上のお陰で、121だったHPは200まで回復した。
盾越しに受ける今の奴のダメージを考えると、俺が倒されることはまず無い。
しかし、肩の角を真っ赤にさせたレッドショルダーチャージが危険だ。
恐らく【シールド ファイティング スピリット】を使用しなければ、強烈なダメージを喰らう可能性が有る。
このスキルは、MPを10使用して闘志を燃やし、自身の防御力を15%向上するだけで無く、物理攻撃耐性・魔法防御耐性を15%向上し、盾防御力・盾防御確率・盾回避力を15%向上させ、相手を押し返す力を15%向上させる事が出来る。
但し、2分しか持たない。
姫の聖域のお陰で、MPが5秒に1ずつ回復するようになったとは言え、1分間に6回【アロウズ ハスティラティ】を使用するとMPを6使用する事となる。
通常オーガの近くまでシールドホーンオーガを引き使用する事で、通常オーガも巻き込むことが出来る。
そして【ライトニング シールド リベンジ リフレクション】を使用すると、確率で強制麻痺させ皆の攻撃をサポートする事が出来る。
皆の攻撃をサポートする事で、少しでも弱点を攻撃出来る確率が上がれば、他の皆もシールドホーンオーガにダメージを与える事が出来ると思うのだ。
但しこのスキルは、MPを5使用し10秒間だけ相手の攻撃を受けた際に1/2の確率で、相手に攻撃を返し相手を強制麻痺させるスキルなので連続で使用すると一気にMPを使用する事になるので注意が必要だ。
ただこれらのスキルは全て、守る相手への思いによって能力が向上する。
それに何かあった時のために、30秒間だけ足の速さを向上する事が出来る【ウインド シールド アクセラレーター】はMPを2使用するので、最低限使用出来るようにしなければならない。
つまり、俺のMPが持つかが問題なんだ。
残りMP10では、攻撃サポートを節約しなくてはならなくなってきた。
「薺、頼む。早く、来てくれ」
ここまで倒す事が困難な、オーガだとは思いもしなかった。
「花、撤退準備をしろ!」
「ミャウミャウ!」
「イベリスちゃん?」
花に指示を出していると、イベリスが鳴いた。
すると花がバスから顔を出し、地響きが聞こえ地面が揺れだした。
地響きがする方を見ると、巨大な鎧が走って来ている姿が見え、トラックのクラクションの音が聞こえた。
薺達と、ヘイズスターバースト達が来てくれたのか。
そう思っていると、空中で水が集まりだし龍の姿へと形を変えた。
「姫が、ブルーローズを救援として送ってくれたのか。有り難い」
ブルーローズが、オーガの群れを水のブレスで薙ぎ払うと、シールドホーンオーガを眼で威圧した。
眼で威圧されたオーガが警戒するように、俺から離れていく。
俺の敵対心向上スキルを、上回る威圧のようだ。
威圧を向けられていない俺でも感じる、圧倒的な力の差。
これが、本来の水神の姿なのか。
「朝熊よ、花はどこだ? 撫子が、心配しておる。我は、花を回復させ守護する為に来たのだ」
そして、俺に向ける優しい瞳。
まるで、よく頑張ったと言ってくれているようだった。
「ブルーローズちゃん、こっちだよ」
花がバスから手を振ると、シールドホーンオーガを無視する様に小さくなってバスに入って行った。
これで、花の回復しきれない出血ダメージもブルーローズなら回復してくれるだろう。
安心したのも束の間、再びシールドホーンオーガが動き出した。
こっちは、俺が何とかしないといけないようだ。
「クッ! スケルトンナイト、背後から攻撃だ!」
スケルトンナイトに指示を出した瞬間、巨大な拳がシールドホーンオーガを吹き飛ばした。
「朝熊どの、我らはヘイズスターバーストだ」
「えっ?」
その巨大な鎧のヘイズスターバーストに驚いているのも束の間、上空に吹き飛んだシールドホーンオーガが一瞬で十字に切り裂かれた。
そして太陽の光から人影が見えると、大地に降り立った。
まさか、薺か?
「済まない、朝熊。遅くなった」
撤退する寸前で、来てくれた仲間達。
それを見て、俺は一気に力が抜けた。
そして、後方からトラックに乗った近衛騎士達の姿が見えた。
「いや、良い経験になった。薺、ありがとう」
そして俺は、花を一人にさせてはいけないと改めて思った。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




