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ブルーローズに乗って一番西の魔法陣近くに来ると、鎧を着た毛並みが赤いオークとオーク達が何者かと戦っていた。
「ブルーローズ、角が生えた毛並みが赤い魔物がいます」
毛並みが赤い魔物は、地に手をついて耐えていましたが、オークの群れは暴風に当てられ、波のように吹き飛ばされていた。
「撫子、あれはレッドホーンオークだ。それと……ほう、こんな所に珍しい。なぜ、英彦山にいる奴がここに居る? だが、ここは奴に任せても問題なかろう」
「ブルーローズ、その方は味方なのですか?」
「奴は、八大天狗の一人だ」
ブルーローズがそう言うと、急に強風が起こった。
インカルナタのお陰で私達は無事でしたが、近くを飛んでいた鳥さん達が巻き込まれていた。
大丈夫で、しょうか?
そして急に、姫立金花とインカルナタが私の胸元に逃げ込んだ。
二匹が心配でしたが、鳥さんも心配だったので、その様子を見ていると持ち直したようです。
その様子に、ほっとしているとブルーローズが怒りだした。
「挨拶がてらに、我に強風を向けてきおった。我一人なら挨拶として許せるが、撫子を傷つけたら許せんぞ!」
すると、ブルーローズが異常なまでの水を空中に集め出した。
こんな量の水が地上に落ちると、大水害になってしまいます。
私は、ブルーローズを抱きしめた。
「ブルーローズ、お願い止めて」
するとブルーローズが、水を集めるのを止め蒸気として拡散させた。
そして、今度は小さな水竜巻を作り出そうとした。
「ブルーローズ?」
「むう……今のは奴に対する挨拶なのだが、撫子が止めるなら仕方がない」
ブルーローズがそう言って私を見ると、下の方で轟音がした。
驚いて下を見ると竜巻が起こっており、赤い石と魔法陣が消失していた。
オークの殆どが地面に叩きつけられ倒されていたが、レッドホーンオークだけが大木にしがみ付いて耐えていた。
そしていつの間にかブルーローズの鼻先に、天狗の面を付け羽団扇を持った人が来ていた。
「おい、水神! 久しぶりに会ったのに、わしを無視するな! 挨拶がてらに、なぜ水竜巻を放ってこない! つまらんでは無いか!」
どうやら、強風と水竜巻を放つのが彼ら流の挨拶のようです。
ブルーローズが大天狗に対し、呆れたような溜め息をつくと、私の方を見た。
「英彦山の大天狗よ、分からぬのか?」
「何がじゃ?」
「我の後ろを、見よ!」
ブルーローズに言われて、大天狗が私と目を合わせた。
「ムムッ! この娘……なぜ、わしら天狗の加護を持っておる?」
大天狗が私の方を見ると、なぜか動揺していました。
もしかして、ネックレスに収納している羽団扇の事でしょうか?
私が羽団扇を取り出すと、大天狗の目つきが変わった。
「おい娘、それをどこで手に入れた?」
「向日葵様から、頂きました」
「向日葵様……。つまり、この娘に従えと言うのか」
「英彦山の大天狗、やっと分かったか。我は、既に契約しておる。お主も、我が父のように、試練を与えるのか?」
「いや、わしは古風な試練とやらが好かん。だから、その娘と仮契約をする。そうじゃな、下に居るオークを倒せば正式に契りを交わしてやろう。それに、他の八大天狗にも話を通してやる。どうじゃ?」
「よろしくお願いします。えっと……」
「わしのことは、好きに呼ぶが良い」
天狗の面を被った大天狗は、先ほどとは違って、可愛らしい声をしていた。
どうやら私は、無意識に大天狗の声に意識を集中していたようです。
もしかすると、大天狗は女の子なのかもしれません。
「確か英彦山には、美しい石楠花が咲くと聞きます」
「ほう! 英彦山の石楠花を、知っておるのか。あの花は、実に美しい。わしが、好きな花じゃ」
「はい。ですので、石楠花とお呼びしても良いですか?」
私が花の名を告げた瞬間、嬉しそうに石楠花は、ブルーローズの上で跳びはねた。
「撫子、こ奴には勿体ないぞ」
石楠花に鼻先で跳びはねられたせいか、ブルーローズが小声で呟いた。
「水神よ、戯けた事を申すな!」
そう言って、石楠花がブルーローズの鼻先を踏みつけた。
私はブルーローズが怒り出す前に、釘を刺す。
「ブルーローズ、喧嘩をしないで下さいね」
「撫子、我は奴と喧嘩をするつもりは無いぞ?」
「そうなのです?」
私が二人のやり取りに首を傾けていると、石楠花が座った。
「ブルーローズ……水神よ、お主も良いなを貰ったのじゃな」
「うむ。我はこの名を、痛く気に入っておる」
どうやら、この二人は仲が良いようです。
二人の会話に耳を傾けていると、それが分かってきました。
「撫子よ、わしもその名、気に入った。石楠花か、わしの姿に合う名じゃ。仮契約は、やめじゃ。良い名を貰ったわしは、その名に合った事をせねばならん。つまり、撫子と正式な契りをわしも交わすと致そう」
石楠花はそう言うと、天狗の面を取って見せた。
すると、パッと霧が晴れた様に感じられた。
そして、可愛らしい女の子が笑顔で私を見ていた。
その素顔を見た瞬間、私と石楠花との深い繋がりが刻まれた。
そして同時に、石楠花のHP2936とMP4332が表示された。
天狗は、真の姿を見せるのが正式な契りのようです。
そして、手にしていた羽団扇の羽に色が付き【神通力LV3】というスキルが手に入った。
石楠花によると、残り七人の大天狗の信用を得る事で、神通力のレベルが上がり、全ての神通力が使えるようになるそうです。
石楠花が私の元に来ると、ちょこんと座り下を指さした。
「撫子、その羽団扇を使ってあのオークを倒してみるのじゃ」
「石楠花、どうやって使用すれば良いですか?」
「そうじゃな。先ずは、石礫を思い描くのじゃ。次に、石礫を運ぶ旋風じゃ。その二つを合わせた物を、強く思い描く。思い描く力が強ければ強いほど、強力な物が出来る。そして羽団扇にのせ、あのオークに放つのじゃ。何、簡単じゃ。わしが、手取足取り教えてやる。わしは、ブルーローズより親切じゃからの」
石楠花は、私が付けた名が余程気に入ったらしく「わしが、石楠花か。うふふ……可愛いのぉ、可愛いのぉ。ブルーローズよ、其方もそう思わんか?」と言って機嫌良くしていた。
ブルーローズが小声で教えてくれましたが、今まで石楠花は男の名や山の名で呼ばれていたそうです。
しかし石楠花は、大天狗として真の姿を晒す訳にもいかない。
恐らく、人には脅威的な能力を持つ大男に見えていた。
そう言うジレンマの様な不満が、石楠花には有ったのだろうと言っていました。
石楠花の言うとおり思い描き、ブルーローズの上で羽団扇も持って舞うように仰いだ。
「【塵旋風羽団扇の舞!】」
すると轟音を奏でた石礫を巻き込む旋風が幾つも現れ、レッドホーンオークを切り刻んだ。
「撫子は、飲み込みが早いのぉ」
「石楠花、ありがとうございます」
石楠花にお礼を言うと、私の胸元に隠れていた姫立金花とインカルナタが出てきた。
「何じゃ、お主らは! なぜ、撫子の胸元から現れた」
「キュウ」
「キュウーーン」
「わしが、怖かったじゃと?」
石楠花が首を捻っていると、ブルーローズが振り向いた。
「石楠花、お主が我に強風を放ったからであろう!」
「そうか、済まなんだ。許せ」
すると、石楠花が思い出した様に手を叩いた。
そして「えーと、お前らは?」と言っていたので、私が二匹の名前を教えてあげる事にした。
「石楠花、この子が姫立金花でこの子がインカルナタね」
「うむ。どうやら、ブルーローズへの挨拶が派手すぎたようじゃの。姫立金花、インカルナタ、今度から自粛する」
「キュウ」
「キュウーーン」
どうやら、二匹も分かってくれたようです。
友好の印として、残っていたオークを姫立金花とインカルナタが二匹で倒すと、石楠花が「なかなか、やるのぉー」と言って二匹を褒めていた。
友好関係を築いた私達は、北東の魔法陣を目指すことにした。
※ ◇ ※
【花SIDE】
青い隻眼のオーガのいる場所を目指していると、行く手を阻むようにオーガの群れが私達を襲ってきた。
でもイベリスちゃんが直ぐに出現場所を教えてくれるので、スケルトンナイトに守護してもらわなくても、私達が矢を射るだけで事足りた。
しかも以前より撫子ちゃんのレベルが上がった事で、私のレベルが36に上昇、欄音ちゃん、椿来ちゃん、美桜ちゃん、百合愛ちゃん達はレベルが24に上昇した。
そして、姫の聖域により能力が1.32倍に増加。
女傑レベル4の恩恵により、HPを+30、MPを+20、与えるダメージが1.2倍に増加。
親友女官近衛騎士長LV2のレベル取得に伴い、遠距離武器攻撃力2倍に加算される攻撃威力10%向上と貫通力10%向上を取得。
同様に、遠距離武器攻撃飛距離2倍に加算される飛距離10%向上と推進力10%向上を取得。
友侍女騎士LV1も、遠距離武器攻撃力1.5倍に加算される攻撃威力5%向上と貫通力5%向上を取得。
同様に、遠距離武器攻撃飛距離1.5倍に加算される飛距離5%向上と推進力5%向上を取得。
更に驚かされたのが、MPを使用したスキル。
私の場合はMPを20使用し、狙った相手を中心に半径2mに聖属性によるダメージ効果を齎す【光の矢】、狙った相手を中心に半径2mに雷属性によるダメージ効果を齎す【雷の矢】、狙った相手を中心に半径2mに風属性によるダメージ効果を齎す【風の矢】、狙った相手を中心に半径2mに水属性によるダメージ効果を齎す【水の矢】を射る事が出来るようになった事。
そして、先ほど急に加わったスキルが【火の矢】と【土の矢】です。
欄音ちゃん、椿来ちゃん、美桜ちゃん、百合愛ちゃん達も、MPを10使用する事で狙った相手を中心に、特殊攻撃する範囲が半径1mに広がり、ダメージを与えられる様になった事。
これらのスキルを使用することで、矢の使用数を減らせる事ができ、大量に現れたオーガに対しても対応出来る。
但し、これらの攻撃はパーティーメンバーにダメージを与えない。
私達は遠距離において、薺君の近衛騎士達よりも少数精鋭部隊となっていた。
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姫の親友女官近衛騎士長
花 :HP 217
:MP 201
姫の友侍女騎士
欄音 :HP 157
:MP 141
椿来 :HP 157
:MP 141
美桜 :HP 157
:MP 141
百合愛 :HP 157
:MP 141
姫のあやかし
イベリス :HP 1101
:MP 722
スケルトンナイト :HP 734
:MP 90
備考:スケルトンナイト 剣と盾以外に、花部隊専用:弓 装備可能
: :
戦闘に巻き込まれた人々
運転手D :HP16:MP0
補助運転手D :HP16:MP0
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「花ちゃん? この様子ですと、欄音達だけで青い隻眼のオーガを倒せるのではないかしら?」
「駄目だよ! さっき薺君から連絡が有って、それ以上進むなー! って、花だけ凄く怒られたんだよ。だよね、イベリスちゃん」
「ミュウ」
「そう言えば美桜達もいつのまにか、イベリスちゃんが見えるようになりましたわね」
「ですわね。百合愛は初めてこの子を見た時、あまりの可愛さに一目惚れしましたもの」
「それ、椿来も分かります。この尻尾が、フワフワなのが良いですの」
「ミャウミャウ」
薺君の本隊を待つために、マイクロバスを停車してもらい、イベリスちゃんを抱きしめて、皆でたわいも無い話をしていると、バスの窓をノックする音が聞こえた。
「藤野さん、悪い。ここを、開けてもらって良いか?」
バスの後部にある梯子に、朝熊君が疲れた表情でつかまっていました。
「朝熊君、そんなところで何してるの?」
「いや、ちょっとな」
朝熊君が、ばつが悪そうな表情で頭を掻くと苦笑いをした。
「それより、握力がもう限界なんだ。中に、入れてくれないか?」
朝熊君を中に入れると、ふらついた。
支えようとして手を差し伸べると、イベリスちゃんが服の中で頭と尻尾を入れ変えた。
慌てて尻尾を手で避けると、朝熊君が私の胸に倒れ込んできた。
どうやら長時間、梯子につかまっていた事で足にも力が入らなくなっていたようです。
早く教えてくれたら、中に入れたのに朝熊君は頑張り屋さんなのかもしれません。
幸いイベリスちゃんの尻尾がクッションになったので、直ぐに手で支えられた。
「ふ、ふ、藤野さん、ごめん」
慌てて顔を上げた朝熊君の顔と耳が、真っ赤になっていた。
「大丈夫、イベリスちゃんの尻尾だよ?」
「ミュウ?」
イベリスちゃんが私の胸元から顔を出すと、朝熊君は驚いていた。
もしかすると、花の胸と勘違いしたのかもしれません。
朝熊君に、なぜあんな所に居たのか話を聞いていると、イベリスちゃんが外の匂いをしきりに嗅ぎ出した。
この反応は、先ほどまでとは違う反応。
もしかすると、新手のオーガ?
「欄音ちゃんと百合愛ちゃんは、右に。椿来ちゃんと美桜ちゃんは左を警戒して下さい。運転手さん達は、姿勢を低くして下さい。スケルトンナイトさん達は、バスを取り囲む様にツーマンセルで陣形を取って下さい」
「「「「はい」」」」
「「分かりました」」
「「「「「「「「「「ガシャ! ガシャ!」」」」」」」」」」
皆に指示を出すと、それぞれが配置についた。
私もアーチェリーを手にすると、配置につく。
「藤野さん、オーガか?」
朝熊君が手と足を振って、感覚を取り戻そうとしていた。
「イベリスちゃんの反応が、今までとは違うの。もしかすると、普通のオーガでは無いかも。だけど、朝熊君は花が良いと言うまで休んでいてね」
「もう、大丈夫だ」
「無茶したら、駄目だよ? それに、ここは花の部隊なの。だから朝熊君は、暫く休んでいてね」
「……分かった」
納得してくれた朝熊君を座席に座らせ配置につくと、両手の甲と両肩に角が生えた大きなオーガが一体現れた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




