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降ってきたゾンビに驚いていると、天井に亀裂が入り崩れて来た。
しかし、それだけではなかった。
部屋ほどある巨大なゾンビまでもが、降ってきたのです。
このままでは、薺君が下敷きになってしまう。
「薺君、逃げて!」
私の叫びで、薺君が巨大ゾンビに気づいた。
しかし、崩壊した天井が一瞬で辺りを覆い尽くした。
「そんな……」
土埃だけが舞う信じがたい光景に、立ち尽くしていると姫立金花が戻って来た。
姫立金花が戻って来てくれたことに、嬉しい気持ちがある反面、薺君をなぜ連れてきてくれなかったのかと複雑な気持ちになった。
「姫立金花、薺君……は?」
「キュ……」
姫立金花も私の気持ちを理解しているようで、ごめんなさいと言って下を向いた。
私は、力が抜けてその場に座り込んだ。
薺君のHPを横目で見ると0になっており、その瞬間私の中で悲しみと自分自身を許せない強い気持ちが沸き起こった。
私はなぜ、遠距離からしか攻撃しなかった?
イベリスの力を使い、薺君と一緒に近接していれば、こんな事にはならなかったかも知れない。
私はなぜ、MPを惜しまずに強力な清水の激流を放たなかった?
もし放っていれば、巨大ゾンビが落ちるのを少しでも防げたはずです。
悲しみと腑甲斐無さが涙と共に、巨大ゾンビに対する怒りとなっていった。
その瞬間、私は両腰に三本の剣を携えていた。
「これは?」
「ニー!」
「キュウ!」
イベリスと姫立金花が驚くように、私を見上げた。
ですが、二匹が変な事を言っています。
角って、何です?
二匹の言っている意味が分からなかったのですが、次の瞬間更に驚くべき光景が土埃が舞う中起こった。
直上の空間が切り裂かれたかと思うと、光りに包まれた薺君が現れ下りてきたのです。
しかも薺君のHPが、0から342に戻っていたのだ。
「薺君!」
名を呼ぶと、私に笑顔を向け何も無かったように地に下りた。
これは一体、何が起こったの?
私は確かに、薺君のHPが0になるのを見た。
ですが、薺君は生きていた。
涙を流し座り込んでいた私に、薺君はそっと手を差し伸べた。
「お守りのお陰で、助かりました。心配をおかけして、すみません」
薺君がそう言った瞬間、再び涙があふれ出した。
お使い様、薺君に枕刀を授けて頂きありがとうございます。
もしも枕刀が無ければ、取り返しの付かない事になっていました。
私は涙を隠すために、薺君に抱きついた。
「姫、そのお姿は?」
すると、薺君が私の頭を触りました。
私は涙を手で拭き、薺君を見上げて小首を傾けた。
言っている意味が、分からなかったのです。
ですが、確かに感じる薺君の体温に何だか安心した。
「これは、角? ですか?」
そう言えば、薺君が触っているのは私の髪?
ですが、位置的に変です。
それに先ほどから、イベリスと姫立金花も角と言っていた。
私の頭に、一体何が?
アクセサリーからエチケット用に入れていた手鏡を取り出し確認すると、頭に金色に光る角が生えていた。
「鬼の角?」
そう言えば先ほどから、上の方に鬼神化というカウントダウンの数字と幾つかのアイコンが見えています。
これは、何でしょう?
もしかして【三明の剣】と【天女の涙】の能力?
それに、五分だったのが今は四分になっています。
ですが、問題が発生しました。
地に伏せていた巨大なゾンビと、押し潰されなかった数十体のゾンビが、立ち上がったのです。
しかも、双頭のゾンビが一体潰されなかったようです。
私がゾンビ達を見ると、ポインターとゾンビの数を表す数字が現れた。
そして氷・火・風・地・雷・光・時のアイコンが、点滅したのです。
懐剣をアクセサリーに収納し、一つの剣を手に持つと氷と風のアイコンが点灯した。
その瞬間、氷と風の技のような名が表示されたのです。
鬼神無双 氷刃――天女の涙のレベルに比例し、自在に動く氷剣を呼び出し敵を攻撃し凍らせる。
鬼神無双 風刃――天女の涙のレベルに比例し、自在に動く風剣を呼び出し竜巻となりて敵を切り刻む。
技の説明を見ていると、座っていた私を薺君が立たせてくれた。
薺君は、再びゾンビの元へ戦いに行く気でしょうか?
ですが、上から落ちてきた一体のゾンビは、あまりにも大きすぎる。
二体いた、スケルトングラディエーターよりも大きいのです。
出来れば、薺君をあのゾンビの元へ行かせたくはありません。
すると薺君は私の気持ちに気づいてくれたようで、デコイを使用すると言いました。
「【デコイ発動!】」
スキルを発動した瞬間、薺君にうり二つのデコイが出現した。
その瞬間、ゾンビ達がこちらを向いた。
デコイの両手にも木刀と脇差しが持たれており、簡単な指示なら攻撃と防御も出来るそうです。
「デコイよ、右奥へ行け!」
薺君の姿をしたデコイが走り出すと、ゾンビ達が一斉に動き出した。
その姿はまるで、餌に食いつこうとする飢えた獣。
異常とも言える光景に、目を奪われていた。
「姫、その力を試されますか?」
すると、薺君が構えを解きこちらを振り向いた。
力と言われ、鬼神化のカウントダウンを見ると残り二分となっていた。
私は頷き、アイコンに表示されている技の名を叫ぶことにした。
「【鬼神無双 氷刃!】」
すると持っていた剣から十本の氷剣が出現し、私の周りに浮いた。
そして、示すとおりに動いたのです。
透き通る剣先が、まるでガラスのようでした。
ゾンビを指し示すと、十本の氷剣はゾンビを次々と貫き全身を一気に凍り付かせた。
そして双頭のゾンビを貫き凍らせると、巨大なゾンビに突き刺さった。
巨大なゾンビが凍り付いていくと、薺君が駆け出し次々と凍り付いたゾンビを破壊し浄化。
どうやら凍ると、瘴気も発生しないようです。
そしてジャンプすると、巨大ゾンビの顔面に肉薄。
「【二刀流残像四閃 流星雨!】」
次の瞬間、残像が現れたかと思うと薺君は一気に下までおりた。
刹那、巨大なゾンビは無数に切り裂かれ、粉々に砕け散り浄化された。
全てのゾンビを破壊して浄化し終わると、同時に私の鬼神化が解けた。
鬼神化の発動条件は、パートナーが危機に瀕した時と書いてありました。
ですが、私の悲しみと怒りにも強く作用し発動するようです。
先ほどは、薺君のお守りが先に発動した事で発動しなかった。
薺君が危機に瀕したとしても、条件によって異なるようですし、恐らくお使い様は今回のような事が起こりうると考え、薺君に枕刀を授けたのだと思う。
黄色い瘴気が、少しずつ晴れてきた。
一体、魔法陣は何処に?
魔法陣を探していると、奥に狭い下り坂の通路が見えた。
どうやら、まだ先が有るようです。
私達は、魔法陣を目指し奥の通路へ向かう事にしました。
通路に入った瞬間、何かの意思を感じた。
「姫、どうされました?」
「いえ、何でもありません」
ですが、何かの意思を感じる。
その意思を受け入れた瞬間、私は多くの民が笑顔で見上げる光景を見ていた。
民のことをを大切にする、若き王と優しい王妃。
その王妃に抱かれ、大切に育てられていた日々。
それが、一転した光景に変わった。
侵略者が現れ、民を無差別に襲いだした。
若き王が騎士を率いて対抗するも、侵略者の圧倒的な力によって国は滅んだ。
これって、この異界にあった国の王子の記憶?
ですが、まだ続きが有るようです。
その王子の意思を再び受け入れると、景色が変わった。
王子が侵略者の王に戦いを挑むため、剣闘士として何度も戦いを繰り返し、ついに闘技場の王者となった。
王者となった王子は、褒美として侵略者の王に一騎打ちを挑んだ。
しかし侵略者達の策略に嵌まり、戦うことなく息絶えた。
王子はその時、死んでいった若き王と王妃、それに全ての民達の魂に包まれ、一つの光りとなった。
しかし王子は諦めきれず、皆の思いと共に自身を石英に宿した。
侵略者の王に戦いを挑むため、意思を酌んでくれた者に付いていき、侵略者の王を倒す事が出来れば、自身を含めた皆の力を全て授けると誓ったのだ。
「姫?」
「キャッ」
薺君の、顔が近い。
私が驚くと、薺君は「すみません」と言って前を向いた。
「ニーニー、ミュウミュウミュウ」
「そう、だったのですね」
イベリスが、先ほどまでの私の行動を教えてくれました。
どうやら私は、細い通路に入った瞬間、目を瞑ってしまったようです。
イベリスと姫立金花が心配して、前を歩いていた薺君に声をかけ戻って来てもらい、薺君が私の顔を覗き込んでいた時に、私が気がついたらしいのです。
それにしても、先ほどの光景は何だったの?
姫立金花が、急に肩から私の左手に来た。
どうしたの?
小首を傾け左手を顔の前に持って来ると、姫立金花が私を見上げた。
「ギュー」
「腕輪?」
姫立金花に言われて、左手を見ると腕輪を付けていた。
腕輪は丸く透明な石が沢山付いていて、石の中には金色に輝く細い糸状の鉱物が幾つも入っていた。
この石、宝石店で見た事がある。
確か、ルチルクォーツ。
一つだけ太いルチルが幾つか有るので、恐らくこれはタイチンルチルクォーツ。
先ほどの現実離れした夢のような物は、これのせい?
だけど、なぜ私は腕輪を付けているの?
怖くなって、腕輪を外そうとすると「外さないでくれ。我らは、貴女に協力する」と言ったのです。
首を傾げていると、イベリスと姫立金花が両肩に戻って来ました。
「ミャウミャウ」
イベリスが、危険は無いよと言って来た。
「グゥーグゥー」
姫立金花が、同じあやかしだよと言って来た。
こんな特殊な例は初めてですが、二匹がそう言うのでしたら、そうなのでしょう。
「姫、大丈夫ですか?」
「あっ、はい。大丈夫です」
薺君に返事をして事情を話すと、私のあやかしなら信用出来ると言ったのです。
確かにそうなのですが、今はまだ仮契約の様な状態。
イベリス達の様な、出会い方をしていないので心配なのです。
心配しつつ、細い通路を下りていくと通路が徐々に広くなってきた。
広くなった通路を進んで行くと、再びゾンビが現れた。
そのゾンビを倒し更に進んでいくと、巨大なT字通路と繋がった。
T字通路は右が上り坂で左が下り坂になっており、左側からゾンビの唸り声が聞こえて来た。
しかし、右側からもガシャガシャという音が聞こえた。
どちらに進むべきか悩んでいると、腕輪から「左だ」という声が聞こえてきた。
「薺君、腕輪が左と言っていますがどうします?」
「では、左に進みましょう」
薺君がそう言って、左の坂を下りだしたので付いていくことにした。
進むほどにゾンビが増えて来たのですが、それと共に後ろでガシャガシャと言う音が増えてきた。
ですが、私が振り返ると音が止むのです。
何度も振り返っていると「我らの事は、気にするな」と腕輪から声が聞こえてきた。
このガシャガシャという音の持ち主達が、腕輪の協力者なのか?
不安に思いつつ、薺君と共に先に進むことにした。
先に進んで行くと、朽ちて崩れかけた城が有った。
すると腕輪から「これが我らの敵、黒衣の王の城だ」と言った。
薺君にその事を伝えると、城を目指し歩き出した。
辺りの土から、ゾンビが十数体這い出ると襲いかかって来た。
そのゾンビを協力して倒していると、倒すよりも早くゾンビが這いだし、あっと言う間に周りを取り囲まれた。
すると、朽ちかけた杖を持ちボロボロの黒いローブを羽織っているゾンビが城の門から現れた。
どうやら、あのゾンビが黒衣の王のようです。
黒衣の王の後ろを見ると、私達が探していた魔法陣が有った。
「我が居城と知っての、狼藉か」
黒衣の王がそう言うと、杖を掲げた。
すると魔法陣が赤く光り、巨大なゾンビと双頭のゾンビが混合された怪物が這い出てきたのです。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




