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少し先に進むと、薺君が姿勢を低くするように言ってきた。
「薺君、どうしたの?」
「姫、瘴気のようです」
薺君の指さす方向を見ると、紫色の霧のような物が辺りに立ち込めていた。
紫の霧は、更に奥から出てきているようです。
「姫、ここからは慎重に行きましょう」
確かに、何が出て来るか分かりませんからね。
「はい、分かりました」
紫の霧に包まれた中、私達の周り約50cmだけ空気が澄んでいました。
これが、瘴気無効化の効果のようです。
瘴気と言うものは良く知りませんが、この外套が無ければ、恐らくこの先へ進む事は困難だったと思う。
「クシュン! クシュン! クシュン!」
水を避け、壁伝いを歩いていたイベリスが、急にクシャミをしだした。
心配になり抱き上げると、イベリスのクシャミが治まった。
「ニーニー、ミュウ」
瘴気の濃度が濃すぎて、鼻が良いイベリスは拒絶反応を起こしたようです。
そして外套の身体異常無効化の範囲に入った事で、イベリスのクシャミが治まったと言っていました。
ですが、地下水が流れる10cm上辺りまでは空気の層が常に流れているせいなのか、瘴気が薄いようです。
「ミャウ! ニーニー!」
その地下水が流れる近くに降ろそうとすると、「冷たいの嫌い」と言ってイベリスが必死に抱きついて来ました。
どうやら、冷たい水が苦手のようです。
ですが、イベリスを抱いた状態では私の両手が使えません。
姫立金花のように存在が有っても重さが感じられなければ、胸元に入れても問題は無いのですが、イベリスは子猫のように小さく凄く軽いと言っても、キャミソール水着に入れてしまうと流石に水着が耐えられません。
こんな時は水着よりも丈夫な生地で作られている、内ポケット付きパーカーの出番です。
薺君に言って瘴気が無い所まで一旦戻り、アクセサリーからパーカーを取り出し、キャミソール水着の上に着てその上に外套を羽織りました。
これでしたら、イベリスをパーカーに入れた状態でも移動できます。
因みに、外装を取ると震え上がる寒さでした。
この水の冷たさは、お姉さんがお腹をこわすのも仕方がないと思う。
先ほど戻った時も、まだトイレに籠もっていたので、当分出てこられない筈。
鍾乳洞から離れていますが、念の為ブルーローズに水の障壁をキャンピングカーの周りに張ってもらうよう伝えておきました。
「イベリス、お待たせ」
準備をしてイベリスの元へ行くと、私のパーカーに潜り込み、胸元から顔を出した。
内ポケットの大きさと高さが、イベリスには丁度良いようです。
「ミュウ」
イベリスが、私に「ありがとう」とお礼を言ってきました。
薺君と合流し奥へ進んで行くと、俯せになって倒れている人がいた。
また怪我をして倒れているのかと思い、助けに行こうとすると薺君に制された。
「薺君、どうしたの?」
「姫、様子が変です」
眼を凝らしてよく見てみると、生命活動を停止している遺体でした。
しかし、服の所々が破れており私達の知る服装では有りません。
少し様子を見ていると、呻き声が聞こえ動きだした。
「姫、ゾンビのようです」
薺君はそう言うと、ゾンビに肉薄し瞬時に切り裂いた。
その瞬間、ゾンビは塵となり消え去った。
ゾンビは、聖属性にかなり弱いようです。
更に奥へ進むと、狭い通路にゾンビが天井近くまで溢れかえっていた。
「撫子、聖なる力を凝縮した清水を使用し、地下水を浄化するのだ」
ブルーローズの内に響く声に従って、地下水に手を浸し清水を使用すると、地下水に浸っていたゾンビが浄化され崩れていき、その上に群がっていたゾンビも浄化され崩れていった。
「姫、お見事です」
その瞬間、薺君が力を緩め足を止めた。
ブルーローズ曰く、あのままだと薺君が木刀と脇差しを持って突撃していたそうです。
この狭い空間では、流石に長い武器は不向き。
薺君が突撃しなくて、本当に良かったです。
ですが、上に有る瘴気は浄化できませんでした。
「撫子、手を上に翳し我を地上に召喚するのだ」
すると、ブルーローズの内なる声が聞こえてきた。
ブルーローズによると、上に有る鍾乳石に瘴気がしみ込み、ゴーストが地上の一部で大量発生しているそうです。
幸いお使い様の結界で出られないようですが、このままにはしておけません。
「ブルーローズ、地上に蔓延るゴーストを浄化せよ!」
私は言われたとおり手を上に翳し、ブルーローズを地上に召喚した。
すると、悲鳴のような奇妙な音が上の方で幾つも聞こえて来た。
そして、上に有った瘴気が少しずつ薄れていった。
地上はブルーローズに任せ、私達は先を急ぐべく狭い道を進んでいく事にしました。
暫く進むと、岩の壁が見えてきた。
「薺君、入洞券が沢山張ってありますよ?」
「姫、ここが鍾乳洞の最終地点のようです」
ですが、どう見ても入洞券が張られた岩の壁にしか見えません。
ここが本当に、異界の鍾乳洞へ続く結界が張られていた場所なのでしょうか?
目を凝らして岩を見てみると、岩の壁が透けてきた。
「キュウ!」
すると、後ろで姫立金花の声がした。
後ろを振り向くと、壁を伝って姫立金花が跳びはね私の胸元を目指して飛んで来た。
「ミャウミャウ、ミュウ」
「キュ……」
ですが先客が居たので、姫立金花は途中で反転し左肩に乗った。
イベリスはイベリスで、いつも姫立金花に占領されていたので、どうやら私の胸元に来たかったようです。
あやかしと通じ合う時はいつも私の胸元ですので、もしかすると一番落ち着く場所が私の胸元なのかもしれません。
因みに救助した男女は、姫立金花の分身体に守らせたようです。
ですので、心配はいらないと言っていました。
入洞券が張られた岩に手を触れると、何の抵抗もなく手が中に入って行った。
「薺君、岩に手が入りました」
「姫、やはり結界が……」
薺君曰く、外套の能力のように、入れる許可を持つ物が有ったとしても、入る時に必ず結界の効力が働き、外套が光りを帯びて入る事が出来るようになるそうです。
鍛錬の間で何度か結界内に入る経験をしているので、それは間違いないそうです。
それが、何の反応も示さずに入れるのは明らかにおかしいと言っていました。
つまり、今は鍵のかかっていない結界を自由に出入りする事が出来ると言うことです。
だから、あれだけゾンビがこの鍾乳洞に居たのですね。
薺君と武器を構えて一緒に異界の鍾乳洞へ入ると、こちらとは違い水が流れていませんでした。
しかし、瘴気が充満しておりランタンの光を当てても3m先が殆ど見えませんでした。
「姫、ここから先は未知の異界。レベルとスキルを確認し、準備していきましょう」
「はい」
レベルを確認すると45から46になっており、今し方47に増えました。
何もしていないのに増えたことで驚き、薺君と二人で顔を見合わせるとブルーローズの事を思い出しました。
「「ブルーローズ!」」
そう言えば、地上に現れたゴーストを倒し続けてくれているのでした。
姫立金花と違って、ブルーローズは自信でMPを持っており、その最大MPは私のMPに比例し十倍になる。
ブルーローズによると、そのMPが無くなってしまうと力を失い、私の中へ強制的に戻されるそうです。
それまでは自身のMPを使用し、攻撃や防御などあらゆる事を行使出来るそうです。
幸い周りには水が豊富に有るので、大きな力を使用してもMP消費量が5割軽減される。
しかもMP自然回復も加速するので、ブルーローズに地上の事を任せたと言うわけです。
私のMPを共有する姫立金花やイベリスも、レベル50になると自身でMPを持ち、そのMPを使用して攻撃や防御などあらゆる事を行使出来るようになるそうです。
「姫、ブルーローズはまだ戦い続けているようですね」
「ですね」
ブルーローズのMPは、2200以上有るので余裕が有りそうです。
ただ、地下水を浄化した事で鍾乳洞の下に瘴気が溜まらなくなりました。
ですが、上には溜まってしまいます。
しかも異界より瘴気が漏れ出続けている以上、地上で何が起こるか分かりません。
私は、結界代わりに入口へ水の障壁を張ってみることにしました。
しかし、どうしても隙間から瘴気が漏れ出てしまう。
やはり、大本となる魔法陣を絶たないと……ブルーローズには申し訳ないですが、それまでは戦い続けてもらうしか無いようです。
瘴気が立ち込める異界の鍾乳洞を、少しずつ進んで行くと天井まで高さが有る広い場所に出てきた。
ここは瘴気が上に溜まり、下は薄いようです。
しかも、所々に巨大な松明が灯されていた。
そして、ゾンビが頭を砕かれ山のようになっていたのです。
このゾンビも、瘴気の発生源の一つ。
浄化しなければ、瘴気は発生する一方です。
すると、奥から何かを引きずる音が聞こえてきた。
「姫、お手を」
薺君に言われ手を差し出すと、急に抱き寄せられ、上から鍾乳石が幾つも出ている隙間に身を潜めた。
すると、鎧を着た二体の大型スケルトンが現れたのです。
しかも、両手に頭を砕かれたゾンビを持ち引きずっていた。
どうやら、この二体の大型スケルトンが犯人のようです。
ゾンビの山に、持っていたゾンビを放り投げると、二体の大型スケルトンは互いに剣を持ち構え戦いだした。
この二体は、一体何を考えているのでしょうか?
よく見ると、鎧が傷だらけでした。
しかも、二体は剣を交える動きが力強く歴戦の戦士に見えます。
「スケルトングラディエーター?」
薺君がその光景を見て、そう呟きました。
ですが、戦っている意味が分かりません。
本来の剣闘士なら、何か意味を持って戦っていた筈です。
ですが、スケルトンとなった今は戦う事に意味が有るのかもしれません。
二体のうち一体の首が撥ねられると、倒された大型スケルトンのコアを、もう一体が持ってゾンビの山に入れた。
すると、ゾンビの山が大型スケルトンとなったのです。
その瞬間、多量の瘴気が発生しました。
大型スケルトンとなった一体が鎧を着ると、二体の大型スケルトンは再び奥へ行ったのです。
隠れて二体に付いていくと、道が二手に分かれていました。
その二体が行った上り坂を見ると、ゾンビとスケルトンが群がっていました。
もう一方の下り坂は、紫の瘴気が渦巻いていた。
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