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薺君が走って行くのを見守っていると、ブルーローズが私の方へ顔を近づけた。
「撫子、薺は水上を走れぬのか?」
「はい」
ブルーローズは、水の上を走る人を見たことが有るのでしょうか?
忍者は、忍術を使用し水の上を歩いたというお話は聞いたことが有ります。
ですが、書面によるお話なので実際に見た事は有りません。
「不便よな。我なら、水をいかようにも出来る。空気中の水を利用し、空も自由に飛べるぞ?」
「ブルーローズ、私達人は地の上でしか歩けません。況してや、空なんて無理です」
私は正直に答えると、ブルーローズは薺君に手を翳した。
「そうか。ならば薺に一時、我が水の力を貸そう」
ブルーローズがそう言うと、水飛沫を上げて走っていた薺君が、水上を素早く走り出した。
薺君が自身の足場が軽くなった事に驚き、こちらを振り返ると私達に礼をしてきた。
大型ゴブリンは、薺君のその動きを危険と判断したようで、棍棒を置き水中にある大きな石を投げてきた。
その大きな石を、薺君は木刀と脇差しを使用して切り裂き突き進む。
すると、巨大ゴブリンが大岩を抱え投げてきた。
薺君はその大岩を十字に切り裂くと、切り裂かれた岩が水に落ち巨大な水飛沫が上がった。
そして水飛沫が私達に降りかかると思われたが、私達やブルーローズを避けるように豪雨となって降り注いだ。
「薺は、律儀よな。我が主の、番いに相応しいかもしれぬ」
ブルーローズが何か言っていましたが、水が多量に降り注ぐ音でかき消された。
「撫子ちゃん、大型の棍棒持ちゴブリンが巨大ゴブリンから距離を取ったよ?」
降り注ぐ水を眺めていると、花ちゃんが滝の右側を指さした。
どうやらゴブリンは、二手に分かれこちらも襲ってくるつもりのようです。
棍棒持ち大型ゴブリンは、巨大ゴブリンよりも身が軽い。
その身の軽さで、滝の壁伝いを駆け上がって私達を見下ろした。
ああして脇道から降りて来るので、どのゴブリン達よりも早く移動できたのですね。
しかも、こちらに来るつもりのようです。
「姫!」
薺君がその事に気づき、巨大ゴブリンの攻撃を避けながら振り返りました。
巨大ゴブリンは鉈から手を離し、尚も辺りの岩を薺君に投げ続けている。
ですが、薺君は木刀と脇差しで切り裂きつつこちらを気にしていました。
その時、花ちゃん達がアーチェリーを構えた。
「薺君、こっちは花達がいるよ。だから、先に鉈持ちゴブリンを倒してね」
欄音ちゃんと百合愛ちゃんが矢を放つと、棍棒持ち大型ゴブリンが木々に身を隠した。
矢は木々で防がれたが、木にヒビが入った。
続けて美桜ちゃんと椿来ちゃんも矢を放つと、矢の特殊効果に耐えきれず、木々が弾け飛んだ。
すると再び、棍棒持ちゴブリンは木々に身を隠した。
店の近くに来た時、棍棒持ちゴブリンの動きが遅く感じられましたが、木々を使うとあそこまで素早く動けるようです。
木々の扱い方が、上手い。
棍棒持ちゴブリンは、初めから独自の動きをしていた。
頭が良いと感じた弓持ちゴブリンに指示を与えていたのは、もしかするとこのゴブリンなのかもしれません。
「薺よ、撫子の事は心配いらぬ。ゴブリン共に、借りを返す事だけを考えれば良い」
ブルーローズがそう言って木々の周りに有る水分を水弾にし、木々に隠れ潜んでいた棍棒持ちゴブリンを滝壺へ追いやった。
棍棒持ちゴブリンが滝壺に落ちると、そのまま水で滝の大穴へ押し込み、滝で檻のようにして綴じ込めた。
すると、花ちゃんが引こうとしていたアーチェリーをおろした。
「花だけ、ブルーローズちゃんに出番取られちゃった……」
「花よ、あのゴブリン共は薺に譲ってやってくれ」
花ちゃんは愚痴を言っていましたが、ブルーローズの言葉を聞いて納得してくれた。
そして、ブルーローズを撫でた。
「ブルーローズちゃん、良い子」
ブルーローズは照れ隠しするように、私に顔を寄せて来た。
ですがお陰で、薺君の舞台は整いました。
薺君は再び私達に礼をすると、岩を躱しながら巨大ゴブリンに近づいていく。
すると、巨大ゴブリンは鉈を持って水を何度も叩いた。
水柱で、薺君が近づくのを妨害するつもりのようです。
ですが、それでは薺君は止まりません。
幾つもの水柱が出来ると、その水柱を足場にして薺君が上に飛んだ。
巨大ゴブリンはその事に気づかず、薺君を探している。
「グギャー!」
次の瞬間、絶叫と共に巨大ゴブリンは真っ二つに切り裂かれた。
その光景を見ていた大型ゴブリンの目が、赤色に染まった。
すると、滝の檻に何度も体当たりをしだした。
「薺、準備は良いか?」
「ブルーローズ、いつでも良いよ」
薺君の返事を聞いたブルーローズは、滝の檻を水に戻した。
赤目の大型ゴブリンが滝の奥から姿を現すと、両腕と両足が赤黒く肥大化していた。
恐らくあの赤目は、大型ゴブリンの切り札だと思う。
一瞬で薺君の元へ行くと、棍棒で殴りにかかった。
それを薺君は、木刀で切り裂く。
すると赤目の大型ゴブリンは、薺君の攻撃を素早い動きで躱しながら隙を見て薺君を攻撃してくる。
どちらも、一つ一つの攻撃が致命傷になる攻撃。
その攻撃を、薺君と大型ゴブリンは躱し続けた。
拮抗していた攻防戦でしたが、薺君が技を使用した事で崩れた。
赤目の大型ゴブリンは、ギリギリの所で薺君の技を躱した。
しかし、この技は躱したつもりが躱せない技なのです。
なぜなら、その残像の刃も切れるのですからね。
「【二刀流残像四閃 鏡花水月!】」
薺君がその技を放った瞬間、勝負はついた。
何が起こったか分からない赤目の大型ゴブリンは、崩れるように滝壺に沈んでいった。
その瞬間空から光りが降り注ぎ、倒されたゴブリンが消え去った。
同時に、破壊された物が全て元に戻っていった。
不思議な光景を見ていると、薺君が私達の元へ歩いて来た。
「薺君、お疲れ様」
「皆、ありがとう」
皆で喜び合っていると、近衛騎士が残りのゴブリンを討伐したと連絡してきた。
店にまで戻ると、破壊されていた物や武装改造していたバスが元に戻っていた。
そして私と薺君と騎士と名が付く者以外、全ての人達の記憶から今日起こった事が消え、予定通り遠足が行われたと記憶が改竄されていたのです。
「薺君、お使い様は辛い記憶を変更されたみたいですね」
「そのようですね」
薺君曰く、恐らく明日には騎士達の記憶も操作されると言っていました。
ですが、騎士団のスキルをしようすると記憶が蘇るそうです。
出来ればもう二度と、このような事が起きないことを祈りたいです。
遠足からバスで学校へ戻るとき、二人でレベルを確認すると、どちらもレベルが45になっていました。
因みに私のHPは、207から232になりMPは201から226になりました。
薺君のHPは300から330になり、MPは78から88となって【剣豪】がLV8からLV10に上り、与えるダメージが2倍に増加していたそうです。
学校から自宅に戻ってくると、ママが後ろから抱きついて来ました。
「撫子ちゃん、お帰り。遠足、楽しかった?」
「はい、凄く楽しかったです」
ママに嘘を言うのは心苦しかったですが、真実を伝えても仕方がありません。
ですので、遠足の内容は周りの子達が話していた内容を伝えました。
するとお客様から頂いた物が有ると言って、ママが袋を持って来たのです。
どうしたのか話を聞いてみると、お客様から私にと頂いたそうです。
袋を触るとフワフワしていたので、手触りの良い縫いぐるみかと思い、袋の中を覗いてみると向日葵のメッセージカードが添えてあったのです。
お使い様の、メッセージカードだ。
ママとお父様達にお土産を渡し、お稽古と食事を終わらせ、袋の中は後で確認しようとマンションへ向かうことにした。
マンションに向かっていると、今度はお姉さんに会いました。
お姉さんにもお土産を買っていたので、丁度良かったです。
「お姉さん、こんばんは」
「撫子ちゃん、こんばんは」
「これ、遠足のお土産です」
「うちに? いや、嬉しいわー。おおきにー。せや、ちと待っててな」
お姉さんにお土産を渡し、マンションへ向かおうとすると引き留められ、代わりに紙袋をくました。
「これお得意さんに、貰ってん」
紙袋の中を覗いてみると、お守りとスキル書とメッセージカードが入っていました。
また、お使い様のメッセージカード。
私はお姉さんにお礼を言って、足早にマンションへ向かいました。
実は、中身が気になったのです。
マンションに着いたので、二つの袋の中身を確認する事にした。
袋に入っていたのは【あやかしの毛玉】とメッセージカード。
そしてもう一つの袋には、お守り【三明の剣】とスキル【天女の涙LV1】とメッセージカードが入っていました。
あやかしの毛玉は、あやかしの卵と同じような物のようです。
お守りとスキル書はセットで、パートナーが危機に瀕した時発動するそうです。
メッセージカードを見てみると、魔の者の暗躍で各地に突如として魔法陣が出現したと書かれていました。
その魔法陣の出現は予想不可能で、出現次第対処しているそうです。
ですが、私達の近くで出現した時は対処してほしいと記載されていました。
もう一つのメッセージカードを読もうとすると、アプリで薺君から連絡が有りました。
話を聞いていると、薺君もお使い様から二つ賜った物が有るそうです。
一つは、スキル【デコイLV1】です。
薺君に似ている囮を作り出し、攻撃をそちらに向けるスキルのようです。
もう一つは、陞爵して頂き男爵から子爵になったそうです。
それにより、騎士団のスキルが強化され学校にいる同年代の親衛隊は近衛騎士となり、学年が下がる度にレベルが下がっていくようになったそうです。
ただもっと驚かされることが、有ったそうです。
それは子爵になった事で、市内に有る他校も適用されると書いてあった事だそうです。
私は思わず「薺君、今何言うたと?」と聞いてしまいました。
つまり、他校にも親衛隊が居るようなのです。
私は、そちらの方が驚かされました。
薺君との連絡を終え、メッセージカードを見てみると「洞窟」と書かれてありました。
そう言えばお姉さんが帰り際、休日に鍾乳洞へ取材に行くと言っていました。
これって、私と薺君も行くようにと言うお使い様の指示でしょうか?
もしもそうで有るのなら、薺君と共に行かなくてはなりません。
私は、薺君に相談することにしました。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




