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「花に続けて、矢を射ってね!」
花ちゃんが真剣な眼差しを四人へ向けると、欄音ちゃん、椿来ちゃん、美桜ちゃん、百合愛ちゃん達が頷いた。
統制が取れていないかと思われましたが、以外と取れているようです。
花ちゃんがアーチェリーを構えると、四人も左右に分かれ配置についた。
「行っけぇー!」
花ちゃんが放った矢は、巨大ゴブリンの振り回す鉈をすり抜け、頭部に突き刺さるかと思われた。
しかし、寸前の所でゴブリンが自身の左腕で防いだ。
「グガァー!」
分厚い左腕の奥まで矢が突き刺さると、巨大ゴブリンは大きな叫び声を上げ少し後退した。
恐らく、予想できない変則な動きをする矢と威力に一瞬怯んだのだと思う。
「欄音ちゃん、百合愛ちゃん、構え! 放て!」
花ちゃんがそれを見て、欄音ちゃんと百合愛ちゃんに指示を出した。
二人が放った矢は、巨大ゴブリンの左太股に直撃。
直撃した衝撃で、巨大ゴブリンは左膝をついた。
そして身体を支えるように、右手に持っていた鉈で水面下につき、信じられないという顔でこちらを向いた。
恐らく、矢の攻撃がここまで威力が有るとは思わなかったのでしょうね。
「美桜ちゃん、椿来ちゃん、構え! 少し下側に、放て!」
それを見て花ちゃんは、追い打ちをかけるように、美桜ちゃんと椿来ちゃんに指示を出した。
二人が放った矢を防ごうと、巨大ゴブリンは鉈で顔面を守った。
ですがそれは、花ちゃん達も織り込み済み。
二人の矢が、ガラ空きの胸部に直撃した。
衝撃を受けた巨大ゴブリンの顔が歪み、そのまま後方へ倒れた。
当然と言えば当然ですが、花ちゃん達の矢にも姫立金花の麻痺が付与されています。
つまり、麻痺、攻撃速度低下、吹き飛ばしによるノックバックで、無駄に耐久力が有る巨大ゴブリンは動けなくなったのだ。
巨大ゴブリンが倒れ込んだ事で辺りに水飛沫が舞い散ると、滝の奥で私達を待ち構えていた弓持ちゴブリンやナイフ持ちゴブリンが堪らず出てきた。
そして、弓持ちゴブリン二十体が同時に矢を放ってきた。
ですがそこから放っても、私達の所までは距離が有りすぎて届きません。
「姫、打って出ます」
薺君がそう言ったので、私も一緒に向かおうとすると薺君に止められた。
「姫は不測の事態に備えて、藤野さん達とここに居て下さい」
薺君はそう言うと、駆け出した。
水の中を走り、巨大ゴブリンを足場として四十体のゴブリンの前に立った。
そしてゴブリン達の攻撃を木刀や脇差しで防ぎ、次々と麻痺させ滝の中へ入った。
しかしその瞬間巨大ゴーレムが咆哮し、倒れている状態で鉈を投げてきた。
すると、麻痺させたゴブリン達を鉈で薙ぎ倒した。
薙ぎ倒されたゴブリンは、魔法陣から再び現れ薺君に襲いかかってきた。
そのゴブリンを麻痺させながら、魔法陣の赤い石を破壊しようとすると、魔法陣から棍棒持ち大型ゴブリン一体と十体の弓持ちゴブリンが現れたのです。
不意に現れた大型ゴブリンは、棍棒を振り回した。
薺君は、それをバックステップで回避。
すると、大型ゴブリンは棍棒を投げた。
その棍棒を、薺君が回避すると倒れていた巨大ゴブリンの頭に直撃。
巨大ゴブリンは息絶え、魔法陣から新たな巨大ゴブリンが現れ振り出しに戻ってしまったのです。
「薺君!」
私が薺君の名前を叫ぶと、ゴブリン達が私の方に振り返った。
その一瞬の隙をつき、薺君が弓持ちゴブリンを倒しながら四方の赤い石を破壊しに走った。
しかし、大型ゴブリンンと巨大ゴブリンに加えた弓持ちゴブリン達に苦戦。
薺君のHPは300から、200まで減った。
ですが、自然回復向上の助けが有ります。
HPは、250を境に上下し耐えた。
しかし、花ちゃん率いるアーチェリー部隊が矢を射って応戦するも、滝に阻まれ花ちゃん以外の矢が届かない。
しかも、大型ゴブリンが武器のようにゴブリン達を振り回し花ちゃんの矢をゴブリンで盾にした。
これでは、必中の恩恵が意味をなしません。
更に、弓持ちゴブリンが外で麻痺していた残りのゴブリンを攻撃。
同士討ちで倒されたゴブリンが再び魔法陣から現れ、多勢に無勢となり薺君は私達の元へ後退する他に選択肢は有りませんでした。
ゴブリン達の猛攻で傷つきながらも薺君は、私達の補助攻撃とイベリスの自然回復向上のお陰で、HPを30残し私達の元へ戻ってくる事ができた。
「薺君!」
出血し倒れそうになった薺君を私が支えると、薺君は私に笑みを向けてきた。
「姫が、傷つかなくて良かった……」
涙をこらえ、癒やしの光りを使用していると第三騎士団の一人が店側から走って来た。
今度は、一体何が?
騎士は、薺君の血だらけの服に驚いていましたが、薺君が立ち上がった事で落ち着きを取り戻した。
「僕は、無事だ。問題は、無い。話して、くれるかい?」
「はっ! 親衛隊長、ご報告致します。
棍棒持ちゴブリンと弓持ちゴブリンが自らの命と引き換えに、倉庫と檻を破壊。
五十体のゴブリンが、脱走しました。
現在騎士達が手分けしてゴブリンを捕縛している所です」
まさか、そんなことになっているとは……捕縛した事が、裏目に出てしまった。
薺君は作戦行動を変更し、ゴブリンは捕縛せず見つけ次第倒す事となった。
そして、アーチェリー部隊として近衛騎士団を呼び寄せる事となったのです。
胸元で「ピシッ」と、また何かにヒビが入る音が聞こえた。
もしかして、あやかしの卵でしょうか?
私はアクセサリーから、あやかしの卵を取り出す事にしました。
すると、あやかしの卵にヒビが入っていたのです。
あやかしの卵は、私の状態やその時の場によって何が生まれるかは不明。
水が多く有る、この美しい滝の近くで生まれる子はどんな子でしょう?
この子はきっと、私達の運命を変える。そんな、気がします。
そう言えば、奇跡と言われた花が有りました。
その花の名は、ブルーローズ。
花言葉は、夢が叶う、神の祝福です。
この壮大で美しい滝で、生まれて来るあやかしとして、相応しい名だと私は思う。
あやかしの卵を掲げると、私には滝の流れが止まり辺りに静けさが訪れたように感じられた。
これって、この子の能力?
もしかして、水を操れるの?
この卵は報酬と言う形でしたが、お使い様から授かった特別な卵。
イベリス達とは、呼び出し方が違うと感じた。
その心のままに、言葉を発してみる。
「祝福されし聖なる滝よ、水神の化身との契りを手助けして下さい」
私がそう発した瞬間、身体が水に溶け込んだ。
※ ◇ ※
気がつくと、私は巨大な宮殿にいた。
そして目の前に巨大な玉座があり、龍が鎮座していた。
龍を前にして動けずにいると、龍が立ち上がり私の前まで歩いて来た。
「娘よ、助けが必要か?」
「はい」
私は心のまま、龍に返事をした。
すると、龍は爪で自信の左腕を傷つけた。
「我が血を一滴飲み、耐えて見せよ」
そして、血を器に入れて差し出してきた。
私は覚悟を決め、その血を飲み干した。
すると、全身に激痛が起こった。
HPは207から一気に50まで下がり、目眩がしてきた。
しかも、HPが1ずつ減っていったのだ。
しかし私は、癒やしの光りを使用しなかった。
これは、試練だと思ったからです。
気を失いそうになり座りこむと、龍が自身の右腕を爪で傷つけ再び血を器に入れた。
そして、美男となると私にその血を飲ませてきた。
「癒やしの光りを使わぬとは、大した娘だ。我は、そなたを気に入った」
美男の龍がそう言うと、痛みが消え去りHPが残り1で止まった。
「ありがとうございます」
そう言って見上げると、美男の龍は玉座に座り私に笑みを見せ、右手を翳してきた。
すると、私のHPが全快した。
「我が子を、そなたの元へ行かせる。ブルーローズか、良い名だ」
美男の龍がそう言うと、私は急に光りに包まれた。
※ ◇ ※
気がつくと、元の場所にいて割れたあやかしの卵を抱えていた。
どうやら、契りは成功したみたいです。
そして胸の奥に、新たなあやかしの存在を感じた。
私は割れた卵の殻をアクセサリーにしまい、早速召喚する事にしました。
「顕現せよ、ブルーローズ!」
私がそう言葉にすると、水が集まりだし渦となり、大きな水龍が後方に現れた。
薺君と花ちゃん達が驚いていましたが、私の側に来て頭を擦り付けて来たので、敵では無いと分かってくれたようです。
「姫、新たなあやかしですか?」
「はい、この子はブルーローズ。水に関する全てを、操れるそうです」
「撫子ちゃん、この子大きいけど可愛いね」
花ちゃんが撫でると、ブルーローズが私の方へ顔を向けてきた。
でも、撫でられるのは嫌じゃないようです。
それに、私と親しい花ちゃんや薺君は友として認めてくれているようだ。
薺君がブルーローズに話しかけると、協力的に接してくれていた。
「撫子、あのゴブリン共を倒せば良いのか?」
ブルーローズが、ゴブリン達に殺気を送った。
すると、弓持ちゴブリン達が滝の奥へ退避した。
しかし、巨大ゴブリンと大型ゴブリンが奥から出てきて滝の前で武器を構えた。
恐らく、奥で戦うのは不味いと感じたのでしょう。
姫立金花を見ると、ブルーローズが怖くて胸元の奥に入っていった。
殺気は、姫立金花に放ったのでは無いのですけどね。
イベリスも花ちゃんの胸元の奥に、逃げ込んだようです。
「龍が、喋りましたわ……」
美桜ちゃんがそう言うと、ブルーローズが少し美桜ちゃんを睨んだ。
「ブルーローズ? はい、こっち向いて」
私がブルーローズの顔をこちらに向けると、鼻を鳴らした。
「撫子、侍女の仕付けはした方が良い。我のように寛大でなかったら、殺されるぞ?」
本心では無さそうですが、ブルーローズは少し脅しをかけたようだ。
すると、姫立金花が震えた。
私は、姫立金花を撫でて落ち着かせた。
「ひぃー!」
美桜ちゃんも脅えだしたので、花ちゃんにフォローしてもらった。
薺君が私の側に来ると、ブルーローズを見上げた。
「ブルーローズ、魔法陣の赤い石を破壊してもらっても良いかな?」
「薺、我にかかれば造作も無いことだ」
ブルーローズはそう言うと、滝の流れを全て洞窟内に差し向けた。
その瞬間、滝の流れが水の刃となり赤い石と弓持ちゴブリン達を襲った。
「グキィ!」
「グガァ!」
奥にいたゴブリンが全て倒され、魔法陣が破壊されると、巨大ゴブリンと大型ゴブリンが咆哮を上げた。
「ゴブリン共が、怒っておる。しかも、仲間を呼び寄せたぞ」
「ブルーローズ、ゴブリン達の言葉が分かるの?」
「撫子、あれは言葉ではない。感情を乗せた、ゴブリン共の叫びだ」
そう言ってブルーローズが大きな水弾を頭上に作ると、薺君が待ったをかけた。
「ブルーローズ、巨大ゴブリンと大型ゴブリンには借りがある。だから、僕にやらせて欲しい」
「成る程、そういう事か。良いだろう、薺に譲る。撫子、皆を背に乗せよ」
そう言うと、私達に背へ乗るように言って地面に伏せた。
恐らくブルーローズは、私達を守れる様にしたのだと思う。
「ブルーローズ、感謝する」
薺君がそう言って前に出ようとすると、ブルーローズが薺君の木刀と脇差しに水の力を付与した。
「薺、木刀と脇差しにウォータージェットカッターを付与した。超加圧された糸のような水が、常に木刀の刃を往復しておる。これで、切れない物は無いだろう。存分に、戦ってくるが良い」
「ブルーローズ、ありがとう」
薺君はお礼を言うと、巨大ゴブリンと大型ゴブリンに向かって走り出した。




