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次の日、心地の良い小鳥の囀りに目を覚まし、シャワーを浴びようと洗面所に入って寝間着を脱いで下着に手をかけていると、隙間から不思議な光りが見えた。
「何で、撫子がパソの前に居ない時に?」
私は慌てて、パソの前まで走った。
すると、光りは消えていた。
ここで、お兄ちゃんがいたら「撫子、何て格好をしているんだ! 出てくるのは、服を着てからにしてくれ。……と言うか、せめて下着を着けてくれ!」と叱られているところです。
私はお兄ちゃんに見られても全然平気なのですが、変なお兄ちゃんです。
それにそう言われるとかえって、成長した姿を大好きなお兄ちゃんに見せたくなるのです。
私って、変なのでしょうか?
だけど大好きな相手には、裸を見られても平気だと思うのです。
なので、私は考えました。
お兄ちゃんがお風呂に入っている時に、そっと入れば裸同士なので叱られないと……。
ですが、叱られました。
でも、私は諦めずに毎日のように繰り返していました。
時には、ベットに潜り込んだりもしましたが叱られました。
お兄ちゃんとの日々を思い出していると、透明ケースに入れていたフィギュアの隣に、ラッピングされた綺麗な箱がメッセージカードを添えて置かれている事に気がついた。
そしてそのメッセージカードの名前に、シュミーロと記載が有った事も。
「えっ? 本の、著者さんだ。でも、何で?」
私は不思議に思い、その著者さんの薄い本を手にした。
なぜかは不明ですが、薄い本の白紙のページが気になったのです。
すると、無かったはずの白紙のページに続きが書かれていた。
「これって……」
私が、その本を読もうとするとスマホのSNSを示す音が鳴った。
絶対に、ママだ。
シャワーを浴びている時は、いつもママのSNSの相手を、お兄ちゃんがしてくれていた。
「あんちゃん、会いたいと」
お兄ちゃんの事を考えている間に、SNSの着信音が鳴り止まなくなってきた。
スマホを開けて見ると、やっぱりママからのSNSでした。
(撫子ちゃん、おはよ)既読。
文字と共に、おはようのスタンプも送ってきた。
(撫子ちゃんの、ご飯出来ているわよ)既読。
お手伝いさん、朝早くから私の為に朝食作ってくれてありがとうございます。
凄く、助かります。
お兄ちゃんに朝食を作るときは、お手伝いさんに直接SNSを送っていたので、お手伝いさんから昨日SNSが来ていました。
なので、昨日お願いしていたのです。
(ママの朝食は、ヨーグルトです)既読。
ママの朝食は体型を維持するため、朝はヨーグルトが多いです。
ですが朝からお仕事の時は、ヨーグルトにフルーツを追加します。
今日は、朝からお仕事ではないようです。
(写メ、送ったわ)既読。
ヨーグルトの写メを送ってこられても、変わるのは容器と食器と敷いてあるマットだけですよね?
(撫子ちゃん、いつ来るの?)既読。
早く送らないと、ママがこちらに来てしまいます。
(ママ、おはよ。シャワーを浴びてから、撫子来るよ)送信。
(ママ、玄関で待っているわね)既読。
玄関で待たれても、シャワーをそんなに早く浴びられません。
私は、困り顔のスタンプを送りました。
(冗談よ)既読。
冗談って、この前ママ来ましたよね?
(シャワーを浴びるので、ママ寛いでいて下さいね)送信。
念のために、寛ぐように伝えておきました。
(ママの為に、綺麗にして来るのね)既読。
綺麗って、いつものシャワーだけですよ。
私は、照れ隠しのスタンプを送りました。
すると、ワクワク顔のスタンプが送られてきました。
どうしましょう。
このワクワク顔のスタンプは、危険です。
シャワーを浴びて肌も丁寧にお手入れして行かないと、ママの指導が入る。
そうすると、学校にママの専用車で行くことになってしまう。
あの車はにはママ専用のパウダールームが有り、長くて変に目立つので私は避けたい。
それにあの車で行くと、親衛隊がなぜか絨毯を敷いて出迎える。
なので、かなり恥ずかしいのです。
お兄ちゃんの手がかりになるかもしれない、本や箱を今すぐ調べる時間もなくなってしまった。
私は大急ぎでシャワーを浴び、肌のお手入れをして自宅に向かうことにした。
気になる箱と本の続きは、学校が終わってからになりそうです。
※ ◇ ※
「キャッ!」
自宅の玄関を開けて靴を揃えていると、急に後ろから抱きつかれた。
一瞬吃驚しましたが、何も言わずに抱きついてくる人は、自宅の中でママしかいません。
それに、香水を付けていると言うことは急なお仕事かな?
ママは、お仕事のとき以外は普段香水を付けない。
そう言う私も、ママに指導されお仕事の時、ほんのりした薫りのする香水を付けるようにしている。
ただ、ママがどこかで購入している香水らしくブランド名が無い無地の容器なので、どこのブランドなのか知らないのですけれどね。
「撫子ちゃん、ごめんね。パパとママね、昨日のお客様に呼ばれて今から出かけることになったの。だから、もう少しギュッとさせてね」
「……はい」
自宅にいると、ママはお仕事へ行く前に必ずギュッとして抱きついてきます。
ママ曰く、抱きつくと若返り成分とパワーが貰えるらしい。
「じゃー、パパとママ行ってくるわね。あなた」
「うむ」
「お父様、お母様、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
私はお父様とママを見送ると、広間に向かい食事を終え、お手伝いさんにお礼を伝え学校に向かった。
通学路を歩いていると、花ちゃんが走って来た。
「撫子ちゃん、おはよー!」
「おはようございます」
挨拶を済ませると、花ちゃんが本の噂を教えてくれた。
その噂と言うのが、教えてくれた著者さんの本の噂だったのです。
噂を教えてもうと、本の中に隠された文字あるという事でした。
その文字は、一冊の本では分からないそうです。
だた文字を見つけたとしても、三分の一の文字しか無いらしい。
完全な一つの文字へするには、別の本と本を組み合わせなければならないそうです。
そしてなぜか、全ての本を持っている人は存在せず、今だに謎に包まれている噂だそうです。
ですが、全ての本を持っている人を私は知っている。
私は、学校が終わってからお姉さんの自宅に行くことにした。
※ ◇ ※
お姉さんの自宅へ向かっていると、お姉さんの自宅から女性が出てきた。
お客様が、来ていたんだ。
そして、何気なくその女性の靴を見ると向日葵のハイヒールだった。
あの靴は……私は急いで、その女性の後を追った。
「撫子ちゃん、どないしたん?」
「お姉さん、こんにちは。何でも、ないです」
走って追いかけていると、お姉さんの自宅を通り過ぎる時に、お姉さんから声をかけられ、振り向いた時には、既にその女性の姿は見えなくなっていた。
私は突き当たりまで一気に走り、左右を確認し、次の角を確認し、左右を確認し、もう片方の角を確認し、左右も確認して、何度も何度もその周辺を確認した。
ですが結局、向日葵のハイヒールの女性は見つかりませんでした。
私は学校でも指折りの足の速さなので、あの距離で見失うとは思ってもいませんでした。
一番重要な手がかりの相手を見失った私は、かなり落ち込みました。
そしてトボトボとお姉さんの自宅前にたどり着くと、お姉さんがお茶の入れ物を持って立っていた。
お姉さん、私を待っていてくれたんだ。
「撫子ちゃん、麦茶いらんか?」
思わず、涙が出そうになった。
ですが、事情の知らないお姉さんにそんな顔は見せられません。
「……頂きます」
私は、気力を振り絞って声を出した。
すると、お姉さんは私を手招きした。
「ほな、上がっていき。序でに、風呂もな。撫子ちゃん雨で濡れたんかってみたいに、えらい事になってるで。制服も、洗って乾かさなあかんな……。よっしゃ、お姉さんにまかせとき」
私は知らず知らすのうちに、涙を流していたようです。
そして、走り回ったせいで制服も汗だくになっていたようです。
「済みません……」
私は、お姉さんのお風呂を使用させて頂くことにした。
※ ◇ ※
シャワーを浴びて上がってくると、制服と下着が無くなっていた。
洗濯機が回っているので、お姉さんが洗濯してくれているようです。
ですが、籠には大きなバスタオルしかありません。
水滴を拭いて髪をドライヤーで素早く乾かし、胸元までバスタオルを巻きましたが、この姿でお姉さんの前に行くのは少し恥ずかしいです。
ですが、そんなことを言ってもここから出られなくなるだけ。
私は覚悟を決め、バスタオル一枚でお姉さんの元へ向かう事にした。
浴室の扉を開け外に出ると、一匹の猫さんが顔を覗かせた。
覗いたその顔は可愛らしいのですが、何か嫌な予感がする。
なぜなら、二匹三匹と次第に覗いてくる子が増えたからです。
そして目線は私では無く、大きなバスタオルに向いていた。
私がお姉さんの部屋に行こうとすると、少しずつ猫さんが足下に集まって来た。
いつもは座って撫でようとするのですが、流石にこの姿では撫でられません。
なぜかというと、ヒラヒラしているバスタオルが気になるようで、猫さんが頻りにジャンプしてくるからです。
でも、小さな猫さんなので届かないようです。
少し、安心しました。
ですが、もう少し先へ行くと大きな猫さん達が集まる部屋に行くことになる。
なので私は立ち止まり、その場でお姉さんに声をかけることにした。
「お姉さん、お風呂ありがとうございます!」
「撫子ちゃん、もう上がったん? ゆっくりしたら、ええのに」
すると、右奥の部屋からゴソゴソという音と共にお姉さんの声が聞こえて来た。
一体、何をされているのでしょう?
お姉さんの行動は分かりませんが、猫さんがなぜか集まって来た。
お風呂に引き返そうかと考えましたが、後ろにも猫さん達が沢山いて足場が無い。
心許ないバスタオル一枚で、周りはバスタオルに興味津々な猫さん達。
これは、ピンチかもしれません。
「今、撫子ちゃんの服探してんねん。確か、姪の服が有ったはずやねん。それとな、大声出すとうちの子らが集まって来るで。風呂場にいた方が、ええんちゃう?」
お姉さん、そんな大事な事は早く言ってほしかったです。
もう既に、大きい猫さんが来て私のバスタオルにぶら下がっています。
重くて、今にも手を離しそうです。
「あっ、そや。撫子ちゃん、フィギュアの題材にしていた衣装でもええか? それなら、うちの部屋にあるで」
もう、この際どんな服でも構いません。
それより猫さん達を何とかしてくれないと、私は人様の廊下で肌を晒すことになってしまう。
周りは猫さんしかいませんが、恥ずかしいです。
「何でも良いので、それをお願いします!」
そう答えると、お姉さんが右奥の部屋から出てきた。
そして、こちらを見て考える仕草をされた。
「……うちの子ら、撫子ちゃんのバスタオル余っ程気に入ったんやな。うちより、バスタオルに釣れとるやん。もう手え離して、衣装があるこっちに来いや」
「はい!」
バスタオルを離すと、猫さん達がバスタオルに群がった。
私はその隙に、お姉さんの部屋に駆け込むことが出来た。
「撫子ちゃん、ごめんなー。うちの子ら、バスタオルがめっちゃ好きやねん。爪で、引っかかれんかったか?」
何もつけていなかったので、引っ掻き傷が無いことは直ぐに分かりました。
ですが、知り合いのお姉さんだとはいえ恥ずかしさで顔が熱いです。
「はい、引っかかれてなさそうです」
お姉さんに傷が無いことを伝えると、猫さんが隣の部屋に戻って来た音が聞こえてきた。
もう、私のバスタオルに飽きたようです。
お姉さんは、タンスからタオルを二枚出してくれた。
「衣装出すから、顔赤くせんとタオル巻いとき」
「はい」
私は、タオルで上と下を隠した。
少し落ちつくことが出来ましたが、一着で良いのにお姉さんが沢山衣装を出してきた。
そしてこの後、可愛らしい衣装を着せられお姉さんに写真まで撮られた。
ですが、向日葵のハイヒールの人が長年フィギュアを発注している事と、入手不可能な作者さんの本をくれた人だという事が分かった。
隠された文字については、お姉さんも知らないそうです。
ですが、少しずつお兄ちゃんの手がかりがつかめてきている気がします。
それに、お姉さんの色々な題材衣装の写真を撮られる代わりに、残り全ての本を借りる事が出来た。
何だか私の方が不利な条件ですが、お兄ちゃんに関する情報の方が優先です。
ピィーピィーピィー!
暫くお姉さんからお願いされた衣装を着替えていると、乾燥機の終了した音が聞こえてきた。
私はお姉さんにお礼を伝え、乾いた下着と制服を着て、借りた台車に本を乗せマンションに帰ることにした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。