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駐車場にやって来た私達は、現状を見て言葉を失った。
女子の一部が悲鳴を上げそうになっていましたが、親衛隊の子が優しく抱き寄せ止めていた。
恐らく悲鳴を上げられる事で、まだ潜んでいる可能性があるゴブリンの注目を、浴びないようにしたのだと思う。
バスを見るとガラスが所々割られており、駐車場の至る所で無数の緑色血痕が点在していた。
人の血痕も有ったので、恐らく激しい攻防戦が有ったのだと思われる。
そして駐車場の一角に、肌が緑色の生物が十数体横たわり、気の弱い女子に見えないよう上半身にシートがかけられていた。
親衛隊の子達が、身を挺してバスに乗っている子達を守ってくれたのだろう。
この施設職員の車も同様に、ガラスが割られていた。
ただバスとは違い、タイヤに穴が開いているようで、走らせられないと言っていた。
スマホで警察に電話しているようですが、電話や電波が一切通じないようです。
恐らく、お使い様が結界を張ったからだと思います。
確かに、このような惨状を起こすゴブリンは野放しには出来ませんからね。
ですので、仕方がなかったのだと思う。
施設職員の方が親衛隊と共に施設から戻ってきましたが、事務所の固定電話も繋がらないと言っていました。
「姫、思っていたより酷い状況ですね」
「そうですね……」
花ちゃんを含めた女子の大半が震えており、施設の人と一緒に早くバスへ避難させた方が良さそうです。
私の場合は擬似的とは言え、鍛錬の間で何度も危険な眼に有ったので、このような惨状を見ても、皆を守らなければならないと言う気持ちの方が強かったですけどね。
薺君が言うには、倒したゴブリンは斥候部隊だと言っていました。
斥候部隊と言われても意味が分からなかったので聞き直すと、本隊とは違い比較的弱い部類のゴブリンだと教えてくれました。
薺君と話しをしていると、四組のクラス委員長が走って来た。
あの子も、親衛隊だったのですね。
親衛隊の子が持つ木刀を見ると、緑色の液体が剣先に付いていた。
恐らく、私達が来る直前にも戦闘があったのだと思われます。
「親衛隊長、ご報告致します。
度重なるゴブリンの襲撃を受け、第四騎士団十五名のうち五名が負傷。
バス内にて、応急手当を受けています。
僕の部隊は十体のゴブリン撃退後に追撃したのですが、三十体のゴブリンと大型のゴブリンを一体発見。第四騎士団の事を考え、バスまで撤退致しました」
その判断のお陰で、第四騎士団は五名の負傷者で済んだのだと思う。
恐らく襲ってきたゴブリンは、第四騎士団に近いレベルだと思われます。
つまり、本隊のゴブリン達はレベル6以上。
レベルが一つしか変わらない第三騎士団は、撤退して正解だったと言うことです。
「第三騎士団長、報告ありがとう。引き続き、バスを守護して下さい」
「はい!」
四組のクラス委員長が、安心した顔をしていました。
薺君の部隊と、合流出来たからだと思います。
薺君が近衛騎士達に眼で合図をすると、第三騎士団と第四騎士団と合流し防衛陣形を取った。
「姫、バス内の負傷者の治療をお願い出来ますか?」
「はい、分かりました」
先生方と施設の人達とクラスの子を引き連れてバスの中へ入ると、腕や足に包帯を巻かれた親衛隊の子と気を失って寝かされている運転手がいた。
運転手はお腹にも包帯が巻かれ、背中には血が滲んだ後があった。
眼を凝らして周りを見てみると、包帯を巻かれたその誰もが、汚染された刃物による攻撃を受けたのだと分かった。
他のクラスの女子はバスの後方で固まっていましたが、恐怖で過換気を起こしていた子がいました。
手や足に擦過傷を負っている子も多かったので、恐らく逃げる際に負傷したものだと思われる。
「花楓院さん、貴女達は大丈夫だったの?」
親衛隊の治療をしていた保健の先生が、私の顔を見てそう言った。
ですがこの場では、適切な処置が行えないようで苦しい表情をしていた。
恐らく、一番初めに傷を負った運転手が発熱した事で焦っているのだと思われます。
「はい、私達は大丈夫です」
保健の先生と話をしていると、私達のクラスの女子もバスの奥へ入っていった。
私はクラスの女子に紛れ、運転手の元へ行くと、癒やしの光りを使用する事にしました。
腰背部の、汚染された切創の治癒及び汚染物質の除去を確認。
他の部位にも有った、汚染創の治癒及び汚染物質の除去を確認しました。
痛みで気を失っているようですが、これで炎症による発熱も治まると思います。
「姫、感謝致します」
親衛隊の子達の傷も治していくと、私に小声でそれぞれお礼を言ってきた。
保健の先生は、次に過換気の子や擦過傷の子の治療に当たっていたので、親衛隊の子達を回復させるのには都合が良かったのです。
「ちょっと貴方達、どこ行くの?」
保健の先生が、外に出て行った親衛隊の子をバスの窓から顔を出し引き留めていた。
ですが、治りましたと言って第四騎士団の子は再び防衛についた。
「治ったって、どういう意味よ!」
保健の先生が怒っていたので、第四騎士団の負傷していた子達が包帯を取って傷が有った場所を見せた。
「嘘……でしょ?」
すると、信じられないと言う顔をして椅子に座った。
先生、ごめんなさい。
ですが話して説明するよりも、癒やしの光りを使用した方が早いと思ったのです。
それに、もし薺君が言うゴブリンの本隊が来た場合、少しでも人数が多くなければ危険だと判断したからです。
「「「「「「キャー!」」」」」」
バスの後方で女子の悲鳴が起きると、十体のゴブリンが騎士団に攻撃を仕掛けている所でした。
そして直ぐに、悲鳴が歓喜の悲鳴に変わった。
どうやら、一瞬でゴブリンを倒したようです。
やはり、レベル18の近衛騎士達がいると倒すのも早いようです。
襲撃が終わり落ち着いたので、薺君へ報告するためバスを降りようとすると、花ちゃんに腕を掴まれた。
「撫子ちゃん、どこへ行くの? 外は、危ないよ? 花と一緒に、ここにいようよ?」
花ちゃんを見ると、右手に擦過傷を負っていました。
イベリスに確認すると、慌てた拍子に転倒したようです。
「花ちゃん、ごめんね。私も、薺君や親衛隊のような能力が有るの」
花ちゃんには嘘をつきたくなかったので、右手の擦過傷を癒やしの光りで回復させると驚いていました。
ですが、まだ私の手を離してくれません。
どうやら、回復させる力しか持ち合わせていないと思っているようです。
困っていると、姫立金花が私の胸元から顔を出した。
「鼬? ハクビシン? フェレット? 何この子、凄く可愛い」
「えっ?」
何で、花ちゃんが見えるの?
不思議に思っていると、姫立金花が教えてくれました。
どうやら私が秘密を教えても良いと感じ、あやかしも同様に感じると見えるようになるそうです。
イベリスも、私の足下に来ました。
「ニャン子ちゃん?」
花ちゃんは、イベリスも見えるようになったようです。
ですが、二匹の尻尾が三つ有ったので不思議そうな顔をしていました。
「花ちゃん、私にはこの子達が居ます。ですので、心配しないで下さい」
「コッコッコ」
「ミャウミャウ」
すると、二匹は嬉しそうに鳴いた。
私がこの子達の強さを花ちゃんに語っていると、気を失っていた運転手が眼を覚ました。
薺君にその事を知らせると、近衛騎士団、第三騎士団、第四騎士団でバスを守護し、滝の近くまで戻ることになった。
滝へ行くには、どうしてもゴブリンに封鎖されている道を通らなければならない。
山道の中を行く事も考えましたが、親衛隊の子とは違い、十一、十二歳の女子には山道はかなり厳しいと思う。
しかも、守りながらでは奇襲された時に対応するのが難しいと言っていた。
ですので倉庫に置いて有った合板や金網などを組み合わせ補強し、バスの側面や天井部分それにガラス面やタイヤ周りに貼り付けて滝まで行く事になった。
幸い森なので、補強するための木は沢山有りましたからね。
施設職員の方々は、武器として斧、チェーンソー、ボウガン、エアコンプレッサーと高圧釘打ち機と釘のセット等武器になりそうな物、そして予備の合板や金網などを持ってきた。
私は合板で補強されたバスの屋根に乗り込み、護衛として近衛騎士が二名付いた。
薺君が先頭で、残りの騎士達が周りを守護して行く布陣です。
この布陣にしたのには、訳があります。
それは倒すのが困難だと判断した時、いったん引く事を考えたからです。
騎士達は薺君の【騎士団】の恩恵を受け、身体能力がかなり向上しているので、バスがスピードを上げても直ぐに追いつく事が出来る。
そして皆が乗り込んだことを確認し、雷を放ちつつ一気に距離を開ければ、対策をねる時間が稼げると言うわけです。
それに雷の豪雨は、これだけ木が多い場所で使用すると、周りの被害が計り知れないので使用出来ませんしね。
「姫、準備は宜しいですか?」
「はい」
薺君が声をかけてきたので返事をすると、バスのエンジンがかかった。
「イベリス、薺君をお願い」
今回は近衛騎士の子が二人いるので、イベリスには薺君と行動するようにお願いした。
「ミャウミュウ」
イベリスが、分かったと返事はしてくれた。
ですが、私の胸元にいる姫立金花を羨ましそうに見ていた。
後で、ちゃんと撫でてあげるからお願い。
私がお願いのポーズをすると、イベリスが薺君の所に行ってくれた。
「では、これより滝へ向けて出立する。全騎士団、抜剣!」
薺君の声で騎士団が構えると、バスが動き出した。
「イベリス、宜しくね」
「ミャウ!」
薺君とイベリスが前を向き駐車状を出た瞬間、森の方で動く物が見えた。
「前方に、三体発見! いえ、六体発見しました!」
「右に、二体発見! いえ、五体発見しました!」
「左に、一体発見! いえ、五体発見しました!」
「後方に、二体発見! いえ、四体発見しました!」
私の護衛の二人の他に、前方と後方に二人ずつ、そして左右にも二人ずつ見張りとして第四騎士団の人達が居るのですが、その人達全てからゴブリンを発見したと知らせがあった。
ゴブリンは木を上手く利用し、隠れながらこちらに向かって来ているようです。
第四騎士団の子達が、間違うのも無理はありません。
「近衛騎士に従い、撃破せよ!」
薺君の指示に従い、多数のゴブリンを騎士達が倒しだしました。
ですが、どこからこんなにもゴブリンが出てきているのでしょうか?
報告が有った、ゴブリンの数とは明らかに違います。
多数のゴブリンと戦いながらバスを少しずつ進め、封鎖されている場所までやって来ると、三十体のゴブリンの後ろに大きなゴブリンが控えており、その後ろに魔法陣が有った。
そして、先ほど倒した数のゴブリンが魔法陣から出てきて三十体のゴブリンの前に立った。
それにより、五十体のゴブリンと大型のゴブリン一体となった。
「薺君、先制攻撃しますね」
「お願いします」
「姫立金花、お願い」
「キュ。シャー!」
薺君の了承を得たので、姫立金花にお願いすると中心に雷を放った。
その瞬間、ゴブリンが十体倒れた。
あまりにも倒れたゴブリンの量が多かったので姫立金花に確認すると、雷の攻撃範囲が広がったそうです。
「「「「「「おおー!」」」」」」
その光景を見て、騎士達から歓声が起こった。
しかし仲間を補充するように、魔法陣からゴブリンが出てきて再び同じ場所に立った。
私は連続で姫立金花にお願いし、雷を五十体のゴブリンに放たせたのですが、その度に魔法陣からゴブリンが補充された。
「姫、やはりあの魔法陣を破壊しなければならないようです」
「みたいですね」
魔法陣の周りには、重ねられた石の上に、赤い石が置かれていた。
恐らく、あの赤い石が魔法陣の要だと思う。
「姫、赤い石を狙って頂けますか?」
薺君も、私と同じ様に考えたようです。
「はい、姫立金花お願い」
姫立金花にお願いし、雷を赤い石に落とそうとすると、大きなゴブリンが武器を振り上げその身に雷を誘導した。
連続で雷を喰らわせたのですが、三度とも自身に雷を誘導した所で倒れた。
ですが、二度耐えた所で魔法陣から同じ大きなゴブリンが現れた。
姫立金花の雷は、連続で三度まで放つ事が出来るのですが、少しの再使用時間が必要になる。
その再使用時間の間に、魔法陣から補充のゴブリンが現れると振り出しに戻ってしまうのだ。
「薺君、ごめんなさい。タイミングをズラしても、上手くいかないです」
タイミングをズラし雷を放ってみましたが、悉く大きなゴブリンに阻止された。
つまり、間違いなくあの石が魔法陣の要であるということです。
「姫、お気になさらないで下さい。物量で一気に攻め立てれば、問題は有りません」
そう言って頂けるのは有りがたいですが、薺君を筆頭に私の護衛を除くと、近衛騎士が十二名、第三騎士団が十五名、見張りを覗くと第四騎士団が七名の計三十五名です。
数で言うと、実はこちらが不利。
ですが大きなゴブリン以外は恐らく、レベルが高いものでも7程度だと思う。
先ほど五十体のうち三十五体が襲いかかってきたのですが、応戦時に第四騎士団の子達が一対一になっても、怪我をすること無く倒せていたからです。
つまり奇襲など不意打ちをされなければ、怪我をすることも無く倒せる相手なのです。
「前進!」
薺君がゴブリンと騎士達の戦いを見ながら、騎士達と共にバスを前進させた。
近づくにつれて、大きなゴブリンの大きさが大凡2mだと分かった。
騎士達とゴブリンの戦闘が始まると、大きなゴブリンには目もくれず、押しては引き押しては引きを繰り返し、タイミングを合わせ同時に五十体のゴブリンを倒した。
「騎士団、後退!」
薺君の号令で、騎士達を下がらせると丁度魔法陣から一気にゴブリンが出てこようとしている所でした。
この騎士達を後退させた号令は、雷を放って欲しい合図です。
「姫立金花、お願い」
実は、倒したゴブリンが再び魔法陣から一気に現れるのを待っていたのです。
ゴブリンが魔法陣から現れるタイミングも、バッチリです。
これだけ一気に現れると、大きなゴブリンが赤い石を守ろうとする妨げになる。
つまりこの時に連続で雷を放てば、最低でも一つは赤い石を雷で撃ち抜くことが出来る。
その作戦が見事に成功し、雷により赤い石が破壊され魔法陣は消失した。
「グギィィィ!」
大きなゴブリンが雄叫びを上げたが、時既に遅し。
「今だ!」
薺君の号令で、大きなゴブリンと再度現れたゴブリンは畳み掛けるように一気に倒す事が出来た。
ですが、これで終わりではありません。
なぜなら、お使い様が張ったと思われる結界が解除されないからです。
見張りの子が指をさしたので、そちらを見ると三組の親衛隊の子が傷だらけで走って来た。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




