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今回の遠足のコンセプトは足腰を鍛えるという事で、私達のクラスは30分かけて自然溢れる道を歩き美しい滝を見た後に、整備された森の中でアクティビティーを楽しめる施設に行くことになった。
体操服に着替えリュックを持って学校のバスに乗り込み、花ちゃんと楽しく話していると上り坂が続く山の中に入った。
そのまま綺麗な森林を眺めて山中を進むと、私達は駐車場に着いた。
バスを降りて舗装された道を進み、ダムを眺めて歩いていると自然溢れる道の看板が見えた。
そこからは舗装された道では無く、木の階段や土で出来た山道になっているようだ。
「薺君、ここが滝に行くまでのお勧めコースですね」
滝を見るためのウォーキングコースとして、この道はお勧めらしい。
「その通りです。姫、鞄をお持ちしましょう」
薺君が、なぜか私の鞄を持ってくれると言ってきた。
「薺君、気を遣わなくても良いですよ?」
私は小首を傾け、そう言った。
「ですが、後ろの藤野さんが……」
薺君の言葉に後ろを振り返ると、疲れた表情をしている花ちゃんがいた。
「……ですね」
花ちゃんが遠慮しそうでしたので、薺君はその事を考え私の鞄を持つと言ってきたようです。
周りを見ると、親衛隊の子達も女子の鞄を持っている子がいた。
舗装されていても、傾斜が少し有ると体力の無い子は疲れるようだ。
薺君が鞄を持ってくれたので、花ちゃんは少し元気になった。
ですが、山道を見ると溜め息をついていた。
自然溢れる山道に入ると、土の薫りや水の薫り、それに耳を澄ませば小さな滝の音や鳥の囀りが聞こえてくる心地よい道でした。
木漏れ日が漏れる木々の中を抜けて、木の階段を上がって行くと滝が見えた。
「大きな、滝だ」
先頭を歩いていた薺君が、大きな滝を見上げていた。
「涼しくて、気持ちが良いですね」
私も、少し遅れて滝を見上げると滝の涼しさに気分が良かった。
実は、花ちゃんが遅れていたので待ちながら山道を上がってきたのです。
少しすると、花ちゃんが到着した。
今でも薺君が私と花ちゃんの鞄を持ってくれているのですが、それでも花ちゃんは歩き疲れたようです。
「撫子ちゃん、花もう疲れたからここで終わりでも良いよ?」
「くすっ」
花ちゃんの愚痴に、思わず笑ってしまった。
ここで終わりと言われても、バスに乗り込めば次は森の施設に行く事になっている。
それに、次は遊べるアクティビティーな施設だ。
遊ぶことが好きな子なら、ここより楽しいと思う。
「藤野さん、まだ次のアクティビティーな施設が有るよ?」
花ちゃんの体力の無さに、薺君が少し呆れてそう言った。
「えー……春野君、花の分まで遊んできて良いよ?」
花ちゃんと違って全く疲れないのは、私のレベルが30有るからかもしれない。
私のレベル1相当の体力を花ちゃんの体力だと考えると、私の今の体力は13倍ですからね。
そこで暫く休憩していると、別のクラスの子達がバスで到着した。
別のクラスの子達が来たと言うことは、今度は私達がそのバスに乗り込むという事。
細い道でしたので、一回り小さいバスに乗り込むと再び山道を上っていった。
そしてバスを降りて整備された森に入ると、自生している石楠花が辺り一面に咲いていた。
「……綺麗」
その美しい光景を見て、自然と言葉が漏れた。
暫くその美しい光景に目を奪われていると、先生が手を叩いた。
「はーい。では、皆各班で集まって下さいね」
各班で集まり、施設を管理しているお兄さんやお姉さんからの施設での注意事項と説明を受けた。
その際、登山などで使われるプーリーと呼ばれる物とカラビナが付いたハーネスを着用するよう言われた。
どうやら特殊なハーネスは、命綱として高所に有るスリル満点のアクティビティーで楽しむ為に必要な物らしい。
お兄さんとお姉さんの説明を聞き、ハーネスを装着していると男性職員が血相を変え走って来た。
走って来た男性職員は、周りを確認すると事務所に駆け込んだ。
何か、事故でも有ったのでしょうか?
ですが先ほどから、イベリスと姫立金花がなぜか召喚して欲しそうに、二匹で私の胸元を擽ってきます。
「イベリス、姫立金花、来なさい」
二匹を召喚すると、辺りを警戒しだしました。
「ニーニー、ミャウミュウ」
「ギューグゥー、キュウキュウ」
そして二匹で私の周りをウロウロしながら、頻りに気をつけてと私に言ってきた。
何が居るのかは不明のようですが、不審な気配を感じ取ったようです。
「姫、何かいます」
薺君も気づいたようで親衛隊の男の子達に、女子を守るよう指示していた。
ですが、親衛隊と言っても十一歳か十二歳の子共。
熊や猪が現れたら、一溜まりも有りません。
「だから、何度も言っているだろ! 俺は、この眼で見たんだ!」
すると先ほど血相を変えて走って来た男性職員が、事務所の中で叫び扉を開けて出て来ました。
そして倉庫から斧を取り出すと、森の中へ走って行った。
一体、何を見たのでしょうか?
それになぜ斧を持って、また森に?
「……現実に、居るわけがない! ここは、アニメの世界ではないのだからな」
リーダーと思われる男性が事務所から出て来ると、呟くようにそう言った。
ですが念の為にと言って、他の男性職員に警戒するよう呼びかけた。
すると、先ほど叫んでいた男性職員が右手に斧を持ち、女性職員を背負って森の奥から歩いて来たのが見えた。
女性を見ると、ズボンが切り裂かれ左足から血を流していた。
目を凝らして女性の足を見てみると、汚染された刃物による切創だと分かった。
その傷は、左下腿の真皮にまで達していて感染症……いえ、破傷風になる恐れが有ります。
私が、癒やしの光りで回復した方が良さそうですね。
「どっ、どうした? 熊に、襲われたのか? 誰か、直ぐに応急手当を。そして、病院へ連れて行ってくれるか!」
リーダーが他の女性職員に指示を出すと、事務所から救急箱を持ってきた。
叫んでいた男性職員が傷を負った女性職員を背負って救急箱の前まで来るとリーダーを睨んだ。
「俺の、言ったとおりだろ!」
男性職員はリーダーにそう言うと、救急箱から沢山のガーゼを取り出し、女性の傷口を押さえていた。
傷口を直接押さえる、圧迫止血。
この人は、リーダーよりも医療知識が有るようです。
ですが、汚染された切創ですので先に水道水で洗い流した方が良いかもしれません。
「ありがとう。だけど手当よりも、この子達と先生方に早くバスで逃げるように言った方が良いわ」
傷ついた女性職員が、私達を見てそう言った。
「一体、何に襲われたんだ。熊か猪か?」
リーダーは何を迷っているのか、直ぐに行動しようとはしなかった。
熊避けなど、対策する物が有るのでしょうか?
ですが一度人を襲った熊の場合、再び襲ってくる可能性の方が高いです。
「違います。緑色の、子共のような生き物です」
女性の言葉に、リーダーが後ずさりをした。
緑色の子共とは、一体何でしょう?
疑問に思っていると、イベリスと姫立金花が更に警戒を強めた。
「【近衛騎士団、戦闘準備!】」
すると、薺君が親衛隊の子達に指示を出した。
親衛隊の子達が、リュックを開けると、そこから何本かの木の棒を取り出した。
そして繋ぎ合わせて木刀を作ると、私達の周りを守るように取り囲んだ。
すると、駐車場の方から誰かの悲鳴と甲高い奇妙な声が聞こえてきた。
薺君はその声を聞き、アクセサリーから木刀と木の脇差しを取り出した。
「【抜剣!】」
そして、親衛隊の子達に木刀を構えるよう指示を行った。
薺君に話を聞くと、お使い様に五年前初めて授かった能力。
それが【騎士団】と言う能力らしいです。
騎士団の能力は、薺君のレベルに比例する能力の一部を親衛隊の子達が使用出来るようになるそうです。
しかも繋ぎ合わせた木刀は、白っぽかった木刀に匹敵する能力を持っているそうです。
能力の一部とは、近衛騎士団の場合で言うと、薺君の1/2のレベルなのだそうです。
そして、第一、第二、第三、第四騎士団となっていくる度に、1/3、1/4、1/5、1/6とレベルが下がっていくそうです。
それは、親衛隊と呼ばれている全ての子達が持ち合わせている能力のようです。
但し、薺君がスキルを発動しない限り使用出来ないのだそうです。
今回は嫌な予感が働き、学校を出る時に発動したそうです。
それに他の4クラスにも親衛隊がいるので、ここのように先生や女生徒達を守っている筈だと言っていました。
施設職員の人達が親衛隊達の行動に驚いていましたが、私はイベリスに花ちゃんを守るように指示し傷ついた女性の元へ行きました。
そして、女性に脹ら脛に手を翳し癒やしの光りを使用した。
すると、左下腿部の汚染創が塞がり汚染された分泌物や濁った血液が浮かんできた。
それを押さえていたガーゼで拭き取ると、傷が塞がっていました。
傷痕は少し残りましたが、汚染された刃物による感染も無さそうです。
「……ありがとう」
女性はそう言うと、不思議そうな顔で私の手を見ていた。
「今の、回復魔法だよな?」
女性を支えていた男性職員が小声でそう言ったので、私は人差し指を口に当てた。
すると、二人は頷いた。
どうやら、黙っていてくれるようです。
「貴方達、職員さん達の話を聞いたでしょ? 危ないから、私達の後ろに下がりなさい!」
先生達が、親衛隊の一人を無理矢理後ろへ下がらそうとしていた。
しかし親衛隊の子は、大人二人の力でもビクともしません。
当然と言えば当然ですが、レベル18有る親衛隊の子にレベル1の大人が力で勝てるはずがないのです。
「先生、危険です! 僕の後ろに、下がってください!」
親衛隊の子に強く言われた先生が迫力に負け黙り込むと、別のクラスの親衛隊の子が薺君の元へ走って来た。
「親衛隊長、ご報告致します。
十体のゴブリンの襲撃を受け、第三騎士団十五名が応戦し撃退。
第四騎士団十五名は、先生と女子をバスへ避難させ守護陣形でバスを守っている所です。
ですが、運転手が負傷してしまいました。
それに、三十体のゴブリンにより道を封鎖されています。如何、致しましょう?」
その報告が上がった瞬間、空に魔法陣が現れ光りが全体を覆った。
恐らく、お使い様が結界を張ったのだと思います。
なぜなら、イベリスや姫立金花がその魔法陣や光りについて触れなかったからです。
「分かった、僕達も今からそちらへ合流する。姫、傷ついた方をお願い出来ますか?」
「はい、こちらの方は済みました」
薺君は頷くと先頭に立ち、皆で駐車場の方へ行くよう指示をした。
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