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「君達、なかなかやるね。下僕共が、一瞬で倒されたよ」
男の子が私達を見下ろすと、腕を組んだ。
すると、私が付けていた眼鏡と髪留めが外れて宙に浮くと女の子が現れたのです。
「――君、お願い。もう、誰も傷つけないで」
「――さん、僕はあいつが許せない。その仲間も、同罪だ。そして、ここに来る輩もね」
男の子が、私達を睨みつけた。
二人の名にノイズが入り、彼の主張と彼女の主張、それに彼の怒りも分からなかったのですが、学校の七不思議にあった花恋さんと流花君の名、それにストーリーを当てはめると不思議に理解できた気がします。
「彼女達は、敵では無いわ。その証拠に私の願いを聞き入れてくれて、ここまで連れてきてくれたの」
「だとしても、下僕達に示しが付かない」
男の子が鎖を握りしめると、まるでその通りだと言うように男の子の身体を鎖が締め付けました。
彼は魔物を支配しているのではなく、魔物達によって支配者として祭り上げられただけなのかもしれません。
「薺君、今は彼女でも彼を止める事が出来ないようです。ですが、彼を縛る鎖を断ち切れば彼女の言葉を聞けるようになるかも知れません」
私は小声でそう伝えると、薺君は頷いて木刀と脇差しを握りしめました。
「君達も、話は済んだようだね」
男の子はそれだけ言うと、水を操って剣を作り出し襲いかかってきました。
薺君と打ち合いになると、辺りに水が飛び散りました。
これだけ辺りに水が飛び散っていると、雷を放つ事ができません。
雷は水を伝達する性質が有ると、聞いたことが有るからです。
「姫立金花、今回は見ていて下さいね」
そう言って姫立金花に胸元から出るように伝えると、しょんぼりした様に俯き服を伝って下へおりました。
「キュウ」
可哀相だったので撫でてあげると、分かったと言うように鳴いて女の子の近くに座りました。
薺君の方を見るとイベリスと連携していましたが、少しずつ男の子に押されてきているようです。
本当は、男の子同士で決着をつけようと考え、薺君が先に飛び出したのだと思います。
ですが、私達は出来る事なら男の子に傷を負わせず鎖を断ち切りたい。
そこがハンデとなり、薺君は思うように打ち込めないのだと思います。
私も一緒に連携すれば良いのですが、このまま連携しても足を引っ張ってしまうだけ。
ですので、肖像画の時の様にイベリスとリンクする事にしました。
懐剣を構えイベリスとリンクすると、眼を瞑っていた時とは違い、自身の早さと瞬発力に驚きました。
「イベリス、後方へ!」
「ミャウ!」
イベリスが爪を水の剣で受けられた瞬間、薺君の指示で後方回転すると、透かさず薺君が鎖を切りに行きます。
ですが、男の子にそれを躱されました。
その瞬間、私がイベリスの様に下から潜り込み懐剣で鎖を切りに行くと、鎖にひびが入りました。
「くっ!」
男の子が苦しい表情をすると、後方へバク転し下がりました。
すると、鎖の闇が揺らぎました。
他の鎖もひびが入れば、男の子は解放される筈。
「薺君、私も一緒に戦います」
「姫……」
「これは、協力して成し遂げる必要がある試練だと思うのです」
そう伝えると、薺君が頷きました。
私やイベリスと協力して、男の子の鎖を断ち切ると決めたようです。
そこからは先ほどとは打って変わって、男の子が押されはじめ、全ての鎖にひびが入りました。
すると、今度は男の子が鎖を庇いだしたのです。
私達が手を止めると、女の子が男の子の元へ行き強く抱きしめました。
「もうこれ以上、力を使わないで!」
「うっ……」
女の子の暖かさに包まれると、男の子に巻き付いていた鎖の闇が消えました。
「――君、私と一緒に――してお願い」
パリーン!
砕け散る音がしたかと思うと、男の子に巻き付いていた鎖が粉砕しました。
彼の名と彼女の言葉にノイズが入っていましたが、恐らく成仏して欲しいと言ったのだと思います。
「――さん?」
「私はただ、――君に会いたかったの」
男の子は女の子の顔を見ると、穏やかな顔になっていきました。
恐らく、あの鎖は魔物達の呪縛だったのだと思います。
そして天上から光りが差し込むと、二人は光りと共に消えていったのです。
その瞬間、依頼書に向日葵の判子が花丸に押され掲示板が現れました。
どうやら、依頼を無事達成できたようです。
達成した依頼を報酬精算機に入れると、私達の名前が書いた袋とメッセージカードが入っていました。
メッセージカードには「鍛錬の間での、特別な依頼達成おめでとう。鍛錬の間での修行はまだ有りますが、来たる日に貴方達は困難に立ち向かうことになる。だがそれは、鍛錬では無い」そう書かれてあったのです。
メッセージカードに書かれて有った言葉を読むと、外に出るための魔法陣が現れた。
外に出る前に、袋の中を確認しようと思う。
なぜなら、鍛錬の中で使用する事に意味が有る報酬が有るからだ。
私の袋を確認すると、あやかしの卵が入っていた。
説明書によると、この卵は私のMPを毎朝一割吸収し成長する。
そして卵が成長しきった時、私の状態やその時の場によって、あやかしが生まれる。
ただ、何のあやかしが生まれるかは不明。
薺君の袋には、枕刀という戦闘には使用しない木で作られた小さな刀が入っていた。
説明書によると、その小さな刀は災いから一度だけ守ってくれるお守りのようだ。
説明書を読み終えると、どちらも自然とアクセサリーの中に収納された。
魔法陣を使用して外に出て来ると、教室の前の廊下に私達は立っていた。
「薺君、今日は助けてくれてありがとう」
「僕の方こそ、姫に助けられました」
二人で顔を見合わすと、自然と笑みが零れてきた。
今回は守られるだけでなく、私自身でも戦いきった充実感が有る。
先ほどの鍛錬で私はレベル30となり、HPとMPも157と151に増え【姫の加護】はLV10へ上がりパートナーの能力を常に1.2倍にする事ができるようになった。
そして、あやかし召喚士の能力を手に入れた事で仲間が増えた。
イベリスと姫立金花も、レベルが上がり尻尾が三本になったと喜んでいる。
「ミュウミュウミュウ!」
「コッコッコ!」
二匹が戯れ合い、私にすり寄って来た。
因みに二匹は、普通の人には見えないようだ。
薺君はレベル36となり、HPとMPも276と70に増え【剣豪】はLV7へ上がり与えるダメージが1.7倍に増加したと言っていた。
ただ、気になるお使い様の書かれていたお言葉。
「来たる日に、困難に立ち向かうことになる」
預言と思えるこの言葉、これは一体どういう意味だろう?
しかも、鍛錬では無いと書かれてあった。
これまでのお使い様の鍛錬は、私達以外に被害が出ないよう気遣いをされていた。
来たる日の困難は、それが出来ないという意味なのか?
私には、分からない。
薺君曰く、そうで有ったとしても被害を抑える措置をされる筈だと言っていた。
意味深なメッセージカードの内容に、二人で話しをしていると下校を知らせるチャイムがなった。
こんなにも長い時間、薺君と二人で話したのは何年ぶりだろう?
もっと話しかけてくれても、良いのに……。
恐らく私の名で無く姫と呼ぶ事と、彼の誓いに、何か深い関わりが有るのかもしれない。
「姫、ご家族が心配されていると思うので帰りましょう」
「はい」
私達は、それぞれの自宅に帰ることにした。
今日は自宅へ直接行き、ママの相手をしてからマンションへ戻ってくるとメッセージカードが置いてあった。
そこにはキーワードとして「愛玩動物の愛玩を英語で?」と書かれていた。
愛玩動物の愛玩は、ペットで英語で表すとPET。
つまり、今回のキーワードは「PET」のようだ。
いつもより、キーワードの文字が多い。
気になったので、今までのキーワードを全て並べると「GNMIKPET」そして数字の「3」だった。
これらは、何か意味が有るのだろうか?
パソで調べてみようと考え、座ってキーボードを見てみるとキーボードの英字とひらがな文字が気になった。
キーワード英字を、かな文字に当てはめてみると「きみもにのせいか」と「あ」だった。
「これって、言葉になるかも」
色々と組み合わせてみると、一番違和感がない言葉は「君も兄の世界」だと分かった。
この後に続く文字はまだ分かりませんが、願いを叶えて頂けるのでしたら私はお兄ちゃんが居る世界へ行きたい。
ですがまだ、来たる日の困難が訪れていない。
それに今までの鍛錬の事を考えると、その世界は危険な世界だと判断できる。
恐らくお使い様は、私達にその世界で立ち向かえる力を手にさせてから送り出そうと考えているのだと思う。
そう考えると、来たる日の困難を乗り越える事で、お兄ちゃんの世界に行くための礎になるのかもしれない。
「あんちゃん、うちもっと強うなって来るけん」
私自身の中で強くなると誓いを立て、鍛錬の間に再び入れば積極的に挑もうと気を張っていた。
※ ◇ ※
しかし鍛錬の間に行く事も無く、あれから数十日が過ぎた。
明日は、学校の遠足です。
ホームルームの時間に、遠足で班分けをする事になったのですが、男女2人ずつ合わせて4人で1班となる班分けをする事になった。
私達のクラスは、男子15名と女子16名の計31名のクラスです。
つまり、8班に分かれる事になる。
しかし、彼女達がまた揉め始めたのだ。
因みにITチームの代表は欄音ちゃんで、デザイナーチームの代表は椿来ちゃんで、体操服チームの代表は美桜ちゃんで、下着メーカーチームの代表は百合愛ちゃんである。
しかも、代表者同士で私とペアになると言って言い争っているのだ。
いつもの調子で揉められると、また先生に決められてしまう恐れが有る。
流石に遠足まで決められるのは、私としては避けたい。
そして今更ですが、彼女達の名前で何となく争う理由が分かった気がします。
春夏秋冬の花の名で、チームが分かれていたのだ。
「はー、また貴女達? じゃー、先生が……」
先生が言い切る前に、私は動いた。
こんな事に能力を使いたくなかったのですが、背に腹は代えられません。
揉めている彼女達の間を素早くすり抜け、花ちゃんと薺君の手を取り先生の前に一緒に行って私達の班決めは終了した。
三人一組の班決めは、早い者勝ちでしたからね。
「「「「あーっ!」」」」
四人の代表が口を開けていましたが、今回は先生が動く前でしたので私達は別れずに済んだ。
因みに、私が早く決めた事で代表者の子達はその後それ以上争わなかった。
序でに言うと、代表者の欄音ちゃんと椿来ちゃんがペアを組み、美桜ちゃんと百合愛ちゃんがペアを組むと問題なく班分けが出来た。
私がらみでなければ、このメンバーで組むと意外と仲が良いようだ。
「撫子ちゃん、花で良かったの?」
花ちゃんが私の顔を見上げると、そんなことを言い出した。
そう言えば彼女達四人が口を開けて叫んだ時、花ちゃんが一瞬睨まれましたからね。
「はい。私は、花ちゃんと一緒が良いです」
二人で笑顔になっていると、薺君が親衛隊の子達にどの女の子達と組むか密かに指示を行っていた。
「姫、宜しくお願いします。藤野さんも、明日は宜しくお願いします」
薺君は初めから、あぶれる子が出ないよう気遣っていたようだ。
親衛隊の子達も、嫌な顔はしていないし寧ろ喜んでいる。
恐らく、女の子達の性格も考え男の子達に指示したのだと思う。
「薺君、こちらこそ宜しくお願いします」
「薺君、明日は宜しくね」
役割分担を決めると、三人で一緒に帰ることにした。
帰る方向が違うので、途中で別れることになりましたが明日が待ち遠しいです。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




